Blue Archive ─To raven.Welcome to the kivotos.─ 作:タロ芋
偏頭痛が長引いてツラミです。
時はレイヴンが目を覚ます前になる。
『くしゅんっ!』
「あら、風邪?」
『い、いえ少し鼻がムズムズしただけですのでお気になさらず』
「そう。なら、一連の騒動をやらかした弁明を聞こうかしら。もちろん、私が納得できるようなものであることを期待するけれど」
レイヴンが目を覚ますより少し時間は遡り、病院の一角でヒナは壊れた己の携帯ではなく部下のチナツから借りた携帯で件の騒動の下手人たる存在へと連絡をとっていた。
その名はゲヘナ風紀委員のNo.2でもあり普段は頼りになる優秀な副官甘雨アコである。
自治区の外に問題児を捕らえに部隊を動かすのはまだいい。だが、それをトップでもある己に黙って挙句には一応という但し書きがつくとはいえ、連邦生徒会会長が招いたフィクサーの補佐官を害し、一歩間違えれば別の学園と全面戦争に陥りかけたという事態になったのが問題なのだ。
……まぁ、それ以上の出来事で有耶無耶になったのは幸か不幸か。今は割愛とする。
とにかく、ヒナからすれば勝手な行動をして面倒事が出来たと思ったらその面倒事が更に面倒事を運んできて死にかけた。本当に巫山戯るなよお前とヒナは珍しく怒っていたりしている。
通話先の彼女もそんなヒナの内心を察したのか、ダラダラと嫌な汗を流しており、優秀な頭脳を総動員してこの場を切り抜ける言い訳を考えた。
『……当学園とトリニティ総合学園が水面下で推し進めているエデン条約締結において連邦生徒会組織のシャーレ及び先生は無視できない
故に、今回の作戦行動においてきちんとアビドス学園の自治区の境界付近を見極め、違法に侵入せずに先生をトリニティ総合学園に先んじて先生を確保又は保護し当学園の手元に置いておくことで、予め生じるであろうリスクなどを極限まで排し、条約締結における優位性を得るために独断で部隊を動か────』
「そういう腹芸は万魔殿の狸共の領分よ。私たちはあくまでも風紀委員会…………ゲヘナの治安を取り締まる暴力装置よ」
アコの声に被せるようにヒナは言う。有無を言わせぬ迫力にアコは口をつぐみ、ヒナは己の副官に対して優秀は優秀だが独断専行が過ぎる欠点に頭を悩ませる。
「…………はぁ、詳しい話は学園に戻ってからするわ。それまで貴方は学園で謹慎しておき、終えるまで風紀委員の仕事全てに携わることを禁じます」
『─────ッ、わかり、ました……』
「それと、後で正式の場でシャーレ所属の補佐官ワタリに対して正式に謝罪と賠償の用意もしておくように。話は終わりよ」
それだけ告げ、ヒナは通話を切ると携帯をチナツへと渡す。
「では、改めて……」
向き直り、ゲヘナ風紀委員会の長はアビドスの面々へと頭を下げた。
「事前通達無しでの無断兵力運用、そして他校の自治区で騒ぎを起こした挙句連邦生徒会直下の独立機関組織シャーレ所属の補佐官ワタリに大して傷害を与えたこと…………
このことについては現時点で私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の委員長として、アビドス対策委員会及びシャーレに対して正式に謝罪します」
「……私たちからも、申し訳ありませんでした」
「……ごめん」
それに続くようにチナツとイオリも頭を下げ、その謝罪をなんとも言えない顔で見つめるのは至る所に治療の後が見える対策委員会たち。
「……後日改めて正式に謝罪の場を設けるけど、今後はゲヘナの風紀委員会がここに無断で侵入することは無いことを約束する。だから、どうか許してほしい」
対策委員会にとって、
加えて、暴走したレイヴンを止めることに協力してくれた手前もあるためひとまずはその謝罪を受けることにする。
そして、彼女たちが去った後でホシノが合流した。
「うへ、あの子たちはー?」
「あ、先輩。後で改めて謝罪の場を設けるってことともう無断でここには入らないって。
それより、ワタリは?」
「うーむ、こりゃゲヘナからはがっぽり貰わないとねー。
ワタリは……まだ眠ってるよ」
「そう、ですか……ワタリちゃん、無事に目を覚ませばいいのですが……」
あの弾丸を受け、鎮圧されたレイヴンは目を覚ますことはなく、エアが呼びかけるが変わらずに、ずっとエアのロボットが傍から離れなかった。
ノノミが呟き、沈黙が訪れるが不意に、セリカが口を開く。
「はぁ、全くわけわからないことだらけよ! ゲヘナの風紀委員が攻めてきて、柴関ラーメンは物理的に潰れるし、ワタリはなんかやばかったし……!」
「……はい、慌ただしいことだらけです。それなのに、わかってない事だらけで……」
セリカの叫びとアヤネの言葉に無理はない。一日で色々と起きすぎたのだ。
慌ただしく、事だけが大事になっていくが、分からないことだらけ。目まぐるしく変わる状況にまだ幼い少女たちの身には重すぎることが。
「…………そうですね、今日は本当に色んなことがありました。
けど、今は無理をせずに私たちも休みましょう。じゃないと、本当に大事な時に動けなくなっちゃいますし」
「ですね。今日はもう一旦解散して、また明日学校で状況の整理をしましょう」
アヤネの言葉の通り、全員は疲労困憊だ。正直言えば今すぐその場で寝てしまいたい気分だった。
「うん、そうだね。アヤネちゃんの言う通り、今日はもう解散して、明日教室で」
「ん、賛成」
「はぁ、早くシャワー浴びたい……」
「うへー、私はもう1回ワタリをみてくるよ」
ホシノはそう言い、レイヴンの眠る病室へと足を進めるがそんな彼女へ先生な声をかける。
「ホシノ」
「うへ、なぁに先生?」
「……あまり、自分を責めないようにね?」
「あはは、先生ってばいきなり何ー? おじさん、わからないな〜」
おちゃらけたようにホシノは言うが、先生の目には何処か彼女が無理をしているようにも見えた。
「……今回のことは間が悪かっただけだよ」
「……そんなのわかってるよ」
「ホシノ……?」
「うへ、なんでもないよ! 先生も気をつけてねー」
それだけ告げ、ホシノは足早に去っていってしまう。先生はただ、彼女を見送るしかできなかった。
そして、時は進み目を覚まし、一連の話を聞き、レイヴンの脳内が占めるのは困惑だった。
一体全体何がどうしてそうなるんだ、と。
ホシノが嘘をつくようには見えないが、信じられるかと聞かれれば首を縦に振れるかは分からない。
そんなレイヴンの内心を読んだのか、ホシノは今日はもう遅いからと一先ず積もる話は明日にしようと言って病室を後にしてしまった。
「…………エア、あの話は本当?」
ベッドの上で白い天井を見ながらレイヴンは尋ねると、軽い耳鳴りと共に視界が微かに赤く染まる。
長い間が空いた後に、エアの肯定する声が交信により届いた。
『……はい、レイヴン。全て事実です』
「……そう」
短く言うと、レイヴンは徐に目を閉じて呟く。
「……私が、ホシノを傷つけたのか」
胸の内に重くのしかかるソレはなんなのだろうか、レイヴンが記憶している言葉の辞書をめくりあげて正体を探す。
あぁ、嫌だ。なんでこうなったのか。不快な感情が神経を逆撫で、眉根を寄せた。
『いえ! あれはレイヴンが悪いのではありません!! ああなった原因はゲヘナの野蛮人なのですから!
だから、あの、その……レイヴン、気に病むことではありませんよ。私はレイヴンが元に戻ってくれただけで嬉しいですから』
「…………うん、ありがとうエア」
友人からの励ましにレイヴンはほんの僅かに微笑み、感謝の言葉を送る。
レイヴン自身、自分は運がある方だとは思ってないが出会いには恵まれていると改めて思った。
「はぁ……ホシノのお土産新しいの用意しないとな」
『一応、瓦礫からはぬいぐるみは回収してますが破れて中の綿が飛び出てしまってますね……』
「……」
レイヴンはこんなことになった原因へと殺意を募らせながらため息をこぼす。
「それにしても……」
『? どうしましたか、レイヴン』
不意にレイヴンは口を開き、疑問を持った。
「風紀委員ががわざわざアビドスに便利屋なんて言う小物を狙いに来る必要なんであるのか……?」
『…………言われてみれば、零細とはいえひとつの自治区です。ゲヘナでも数いる問題児に過ぎないあの人たちを追いにわざわざ来ますかね?』
「……いや、そもそも柴関ラーメンは自治区内のはずだった。なのにオーナーは何か言ってたはずなんだ」
カチコチと時計の針が進む。レイヴンは暗い病室で思考をめぐらせ、考える。
一連の騒動を点として考えて、関連性の高そうなものをピックしていき少しずつ輪郭を削って整えた。
「……そういえば、オーナーは退去通告で店を畳むとかどうとか」
風紀委員会に砲弾を打ち込まれる前にラーメン屋で柴大将の話のなかで零した内容を思い出し、今度は深い記憶の引き出しを呼び起こす。
「……本来学園の土地の売買は簡単にはできない。退去通告なんて言うまでもない。ただ、でも、アビドスは砂漠化が著しく資金繰りも悪化していた……
そして、止むを得ず闇金に手を出して担保として色々と切り崩したことは予想に固くない……」
「何か、あるはず……なんだっけ、忘れているような……」
「いや、待てよ……」
そういえば、居たはずだ。ろくでもないカス共が。
「カイザーの連中か?」
『……確かに、カイザーは2年前にもここでヘルメット団たちに襲撃をやらせていましたね』
「加えて、風紀委員の行政官は自治区付近と言っていたんだ。ということはつまり……」
『ッ! あそこ周辺の土地の持ち主は既にアビドスの手から離れている……?』
「詳しく……調べる必要があるな」
レイヴンは体を起こし、窓から見える砂漠へと目を向けて呟くのだった。
続きません。
どうでもいいですが、レイヴンを止めるのに使った弾薬の弾頭は結晶化させたらコーラルです。本来はあれをぶち込んで人為的にコーラルの小規模局所爆発を引き起こす爆弾みたいな用途でした。
加えて、『Te-1es』状態の武装が霧散したときレイヴンは素っ裸になってたりしてます。