ハイスペックウマ娘になったけどこれでもまだ足りないらしい   作:フタバ ハクシ

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観戦ッ!!菊花賞!!

「あいぼー....」

 

トレーナー室の真ん中でパソコンをいじっている相棒を呼ぶ。

 

「ん〜?」

 

私はトレーナー室のソファでだらんとしている。理由はただ一つ。

暇すぎる!!!

 

「暇で溶けちゃう〜....」

 

「暇か〜....確かにな。」

 

今日も明日もトレーニングは休み。なぜならば3日ほど前のトレーニングで私は思いっきりずっこけるというヘマをかましてしまって、怪我をしているからだ。寮にいるのも暇なので、今はこうして相棒に遊び相手になってもらっている。といっても、一方的に話しかけるだけだが。

 

「トレーニングもないし学校もないし....これじゃほんとに溶けちゃう....」

 

「そうだな.....あ、明日菊花賞だし、見に行くか?」

 

その言葉を聞き、私の耳がぴょこっと跳ねる。

 

「ほんと!?いくいく!!」

 

「よし、決まり。」

 

そう言って相棒は立ち上がり、私のいるソファへと近づき、私の前で屈む。

 

「周りからレースを見ないとわからないことだってある。そういうのに気づけばもっと他の子より速くなれる。こんな学びの場は滅多にない。」

 

相棒から話を聞いて俄然いく気が湧いてくる。

 

「もっともっと速くなれるってこと!?」

 

「まぁ、端的に言えばそうだな。」

 

「楽しみだな〜!速く明日にならないかな〜!」

 

「ははっ、まだまだ子供だな。」

 

そう言って相棒は私の頭を撫でてくる。なんか最近スキンシップが多いんだよな....私が相棒を看病したくらいからかな?

わしゃわしゃと無造作に、私より大きい手で撫でられる。

は...はわ.....きもち......じゃなくて!!

 

「むー.....相棒だってまだまだ子供でしょ!」

 

「うるせーよ。」

 

相棒は笑いながらそう答えた。

 

「もー...... ありがと。

 

「ん?なんか言った?」

 

「なんでもなーい。」

 

私は本音の言葉を濁して、相棒に返事を交わした。

明日、楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたー!!京都レース場!!」

 

午後になって、雨は止んだが空は生憎の曇りだった。メインレースはまだだけど、会場はもうすでに大勢の人で賑わっている。

 

「あんまりはしゃぐなよ。あくまでも"学習"なんだからな。」

 

「分かってるってー!はやくはやくー!」

 

私は相棒の袖を掴み、かなりの強さで引っ張る。

 

「まったく....どこが分かったんだよ....」

 

相棒は呆れながらも、ちゃんとついてきてくれていた。

 

 

 

 

 

 

「うーん、さすがクラシックだけあって重賞勝ちの子が多いね...」

 

私と相棒はパドックで出走ウマ娘の表を見ながらいろいろと談義していた。まだ出走メンバーが出てくるまで時間がかかるので、それまでこうして暇を潰そうという魂胆だ。

 

「まあな、そりゃG1だし、精鋭たちが集ってるんだろ。」

 

「確か菊花賞は、『1番強いウマ娘が勝つ』だったっけ?」

 

「ああ。強靭なスタミナとパワー、この二つが要求される。3000メートルという長い距離を、どう走るかも見ものだ。」

 

「....いつか、私もこの舞台に立てるかな。」

 

相棒は静かに私の肩を叩いて、

 

「...立たせてみせるさ。絶対に。」

 

と言ってくれた。

 

「うん、頑張ろうね。相棒。」

 

「もちろんだ。任せろ。」

 

「さあ、いよいよ菊花賞、ウマ娘の出場が始まります!!」

 

「お、始まるぞ。よーく見ておけ。」

 

そう言われて私はパドックの方を向く。

 

「まず、1枠1番......」

 

「2枠4番ジャパンプリンス、4番人気です。」

 

「確かこの子は前哨戦の....」

 

「セントライト記念だな。」

 

ジャパンプリンス、彼女の体は私よりも強靭で、柔らかかった。あれでG2勝利だというのだから驚きだ。相当な力を秘めているだろうに。

 

「あんなに強そうなのにG1を勝ってないのなんて....」

 

「ただ、セントライト記念にはクラシックの中心にいた子が出てないんだ。」

 

私はその言葉に、耳を疑った。

 

「この子よりもさらに強い子がいるってこと....?」

 

「ああ。まあそういうことだ。見てればわかる。」

 

「さあ、いよいよクラシックの最終点!ここで強さを発揮するか?1番人気、3枠7番、トウショウボーイです!」

 

そう言ってパドックに出てきたのは、どこかで見たことがある、背の高い鹿毛のウマ娘だった。端正な見た目に和装の勝負服がよく似合ってあり、私でも少し見惚れてしまった。しかし、

 

「.....っ..」

 

「わかるか?」

 

「うん。嫌でもわかる。」

 

オーラが違う。どこか少しぽけーっとしてるけど他の子との差は一目瞭然だ。それどころか何もかもが違う。どこをどう見てもこのウマ娘が勝つだろうと言えるほどだった。

 

「あれが今年のクラシックの目玉、"天バ"トウショウボーイ。皐月賞を快勝、日本ダービーは敗れるも、それでも他を離しての1番人気。」

 

「なんで?ダービーは負けたんでしょ?」

 

「前哨戦の神戸新聞杯をレコード勝ち、しかも5バ身離した2着の子は今年のダービーウマ娘、クライムカイザーなんだ。」

 

「一度負けた相手に5バ身離したってこと!?すごい.....」

 

「ただ、俺が注目してるのはこの子じゃない。」

 

「この人よりももっと他に強い子がいるってこと!?これよりも!?」

 

信じられない。さっきの子、ジャパンプリンスでさえ私の数倍は強いだろう。それよりも強いのがいるの?嘘でしょ?

 

「確かにトウショウボーイは強い。だけどあの子なら、テンポイントなら、勝てる確率は低くない。」

 

「テンポイント?」

 

「ああ。あ、ちょうど出てきたぞ。」

 

「さあ、流星の貴公子はここで頂点に返り咲くか!?最後の一冠は譲れない!6枠13番、テンポイント!!」

 

パドックに姿を現したのは、こちらも見たことがある、栗毛のウマ娘だった。見ればとても華奢な体型だったが、それでも筋肉はしっかりとついており、先程のトウショウボーイに勝るとも劣らない仕上がりだった。トウショウボーイとは違いこちらは洋服をモチーフとした服装で、右は黒、左は白と対になった手袋を装着している。

やっぱり見たことあるよな...誰だっけ.....絶対見たことあるんだよな.....えーっと.....あ!!

 

「夏合宿の時の人だ!!!」

 

「え、話したことあるの?」

 

「スマイルちゃんとレースしてたら、さっきのトウショウボーイって人と一緒に来たんだよ!綺麗な人だなって思って覚えてたの!」

 

そんな話をしていると、こちらに気付いたのか、優しく微笑み手を振ってくれた。

 

「わっ...!テンポイントさん〜!頑張って〜!」

 

大きな声でそう言うと、彼女は黒い手袋をしている右手を口元まで持っていき.....投げキッスをした。

その瞬間、場内からは大きな歓声が湧いた。

すごい...ファンサービスが完璧すぎる....そりゃファンも多いですわ...

 

「やっぱり人気者だな...さすがテンポイント...」

 

相棒がテンポイントを見て目を輝かせている。

....おっと?おっとおっと?

 

「ちょっと〜?ここにあなたの担当ウマ娘がいますけど〜?」

 

「ははっ、悪い悪い。そうだったな。」

 

そう言いながら相棒は私の頭を乱雑に撫でる。

 

「むぅ.....私だって嫉妬しないわけじゃないんだからね?」

 

「じゃあ....」

 

相棒は私の顎を持ち、自分の顔を近づけ、

 

「よそ見をさせないほどの走りを見せてくれるってことか?」

 

と言ってきた。

 

 

....ちょっと待って....まってまってまって....すぅー.....

顔良すぎでしょ!!!!!!

まつ毛長っ!!鼻高っ!!マジで顔整ってるじゃん!!

 

「は....はひゅ....」

 

耳が垂れて顔を真っ赤にしている私を見て、相棒はハッ、と笑い、

 

初心ウブだな。ちょろすぎ。」

 

と言ってきた。

挑発されたのは理解できたが、私の頭はそれどころではなかった。相棒の顔がずっと頭に残って想像してしまう。

 

「ふぇぇ.............じゃなくて!!もー!!からかわないでよ!!」

 

「反応が面白い方が悪い。」

 

「どんな屁理屈!?」

 

「ほら、そろそろ本バ場入場だ。早くしなきゃ置いてくぞ。」

 

「わわっ!まってまって!!」

 

私は早々と歩く相棒の後ろをついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよ始まります!G1、菊花賞!!薄曇りの空に大きな大輪を咲かせるのは、天バか?流星の貴公子か?はたまた別の意思がこの二つを打ち破るのか!?今、ファンファーレが始まります!!」

 

高らかに鳴るファンファーレを耳に、私と相棒はスタンドで観戦していた。

 

「相棒的にはどう思う?」

 

「前日に降った雨の影響でバ場が悪い。そこをどう切り抜けるかだろうな。」

 

「テンポイントさんやトウショウボーイさんはどう?」

 

「うーん...トウショウボーイは重バ場のれんげ賞、京都新聞杯を勝ってはいるが、正直、重バ場の3000メートルは未知数でしかない。テンポイントも同じだ。朝日杯FSを不良バ場で勝っている。しかしここからわかるのは重バ場に弱いわけではないと言うだけ。この舞台菊花賞で勝つかまでは分からない。」

 

「確かクラシック級で出れるレースの中で1番距離が長いんだっけ?」

 

「その次に長いので2600メートルだったっけ?」

 

「それもオープンクラスな。距離の実績はあっても、メンバーのレベルが違いすぎる。」

 

「でも、出てる子には等しくチャンスがあるんじゃない?」

 

「そこがここレースの面白いところさ。本気で勝ちたい気持ちのぶつかり合い、自分の本性を曝け出す場所。そういうレースはずっと見てたくなるもんだよ。」

 

そう言っていた相棒の目には先程とは違った、少年の頃の憧れのような光が差し込んでいた。

 

「見たくなるレースねぇ.....なるほど...」

 

「ゲート入りが終わった。始まるぞ。」

 

「さあ、3000メートルの長丁場!!菊花賞!!.....今、スタートしました!!」

 

ゲートが開いた瞬間、一斉にみんなが走り出した。

 

「かなりばらついたスタート!トウショウボーイは上手く出ていきました!その外にテンポイント!テンポイントがぴったりとつけています!!」

 

「おー!あれがマークってやつ?」

 

「ああ。1番人気のウマ娘が周りの子にされることが多い。テンポイントはよほどトウショウボーイのことを気にしているようだな。」

 

「さあしかし外からタケノホマレが上がっていた!さらにその外からもミドルグッドが2番手に立つような勢い!最初の下り坂は8枠の2人がペースメーカー!テンポイントインコースで3番手!さあ最初のホームストレッチ!」

 

先頭の子がスタンド前の直線へと差し掛かる。スタンドからは大きな歓声と拍手が巻き起こっていた。

 

「さあこの歓声を聞いても各ウマ娘のペースに乱れはない!少しだけ抑えて4番手にトウショウボーイ!しかしその内にテンポイント!さらにはヤマノルーラー!」

 

「みんな落ち着いてるね〜、これだけの歓声を聞いたら掛かっちゃってもおかしくないと思うけど。」

 

「自分のペースを乱すと負けるって分かってるんだろう。だからみんな自分の世界ゾーンに入って、雑音を消してるんだ。」

 

「自分の世界.....?」

 

何だそのスポーツ漫画みたいな話。

 

「生き物というものは究極の集中状態に入ると周りの音が聞こえにくくなる、または聞こえなくなるんだ。シンボリルドルフやマルゼンスキー、昔にはシンザンなどがその領域に踏みいったことがあるらしい。」

 

「シンザンっていうと....相棒のお父さんの担当ウマ娘?」

 

「そうだ。昔よく親父が話していた。あいつは集中力がすごいって。」

 

「歴史に名を残すウマ娘は、必ずと言っていいほど自分の世界に入れるようになるそうだ。」

 

「つまり、私もその世界に入ることができれば....」

 

「格段に強くなることは間違いない。ただ、ミーティアは足の痛みもあるから使いこなすのは至難の道になるぞ?」

 

「大丈夫!このミーティアさんにまかせなさーい!!」

 

私は胸に手を当ててニコッとしながら返事をした。

 

「それぐらいの自信があるなら大丈夫そうだな。」

 

相棒となら、どこまででも進める気がするよ。

私は次の東スポ杯に向けて強い意志を抱いた。

あれ、でも何か忘れてる気がする....あっ!!

 

「あああ!!レース!!レース見なきゃ!!」

 

「あ、そうだった。」

 

私と相棒はコースを再び見て、トウショウボーイ、テンポイントの位置を確認した。

 

「先頭はタケノホマレ!!そのすぐ後ろ2番手にはトウショウボーイ!いつでもかわせるぞと言った感じか!トウショウボーイ差は2分の1バ身!そしてその後ろ、3番手にはテンポイント!これから各ウマ娘坂を登っていきます!!」

 

「これが名物の淀の坂....こんなに傾斜があるの....!?」

 

京都レース場の坂は、急なのに高低差があるという鬼畜仕様だった。しかし走っている子はこれをものともせずに駆けて行く。

 

「4メートル近くある坂だ。相当なパワーのスタミナがいる。下り切ってから一気に仕掛け始めるぞ。」

 

「さあここから下り!淀の坂を下って行く!!ここでトウショウボーイ下がったか!?いや前に行った!トウショウボーイが先頭に変わる!しかし後ろから食らいつくようにテンポイントも上がって現在2番手の位置だ!」

 

「4コーナーを回って直線へと向かう!!ここでテンポイントが先頭か!テンポイントが先頭か!テンポイントが先頭に立った!」

 

トウショウボーイの後ろにつけていたテンポイントが一気に先頭に立った。懸命に、貪欲に、ただ勝利に向かう様はまさに"流星の貴公子"だった。

 

「テンポイントが先頭だ!それいけテンポイント他を置き去りに!!押せテンポイント!!しかし内からグリーングラス!!グリーングラスだ!!

 

内から抜けたウマ娘は、先程まで先頭だったテンポイントを一瞬で置き去りにして、誰よりも必死にゴールへと向かっていた。

 

「グリーングラスが先頭だ!!トウショウボーイは3着が限界か!!グリーングラス今先頭でゴールイン!!惜しくもテンポイントは2着!!」

 

「す、すごい....一瞬すぎてわかんなかった....」

 

「グリーングラス、か。12番人気での勝利....はは、やっぱりレースは何が起こるか分からないな。」 

 

相棒はにやけながらそう言った。

 

「ここ菊の舞台で勝利を飾ったのは、天バでも、貴公子でもなく、緑の刺客でした!!」

 

やっぱり、人気がどうとか枠がどうとかって言うのは最終的に関係はないのかも。最後には想いと想いのぶつかり合いになるんだし。

私は少し呆気に取られながらも、コースを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

京都レースからの帰り道の途中、私は相棒と一緒に歩いていた。太陽がもう沈みかけているのもあって、辺りは夕暮れ時となっている。

 

「いや〜面白かった!!ちゃんと勉強にもなったし!!」

 

「本当か?」

 

「ほんとだよ!ちゃんと観察もしたし、場合によっては内から仕掛けた方がいいこともわかったし!」

 

「お、ちゃんと見てたんだな。えらいえらい。」

 

また相棒が私の頭を撫でる。

わしゃわしゃきもちい.....じゃなくて!!!

 

「もー!子供扱いしてるでしょ!」

 

「いや、どっちかっていうと犬とか猫に近い。」

 

「まさかのペット!?」

 

「はははっ、嘘だよ。」

 

笑いながら相棒はそう言う。

 

「もう....相棒の嘘は嘘に聞こえないよ...」

 

「...次の東スポ杯、同世代でトップクラスの実力を誇るキングとの対決だけど....自信は?」

 

「あるかないかで言うとあるかな。夏合宿で身につけたあれを上手く使うことができれば、全然勝利のチャンスはあると思う。」

 

「そうか。期待してるぞ。お互い頑張ろうな。」

 

相棒が手を差し出す。

 

「....うん!!」

 

相棒の手にハイタッチを交わし、ニシシッと笑って見せた。

 

 

私が欲しいのは勝利だ。他には何もいらない。

2着も、1番人気も、内枠も。

1着さえあれば私はもう何も望まない。

 

私は夕暮れの空に手を伸ばし、強く握りしめた。

 

ただがむしゃらに駆け抜けていくだけ。

勝利への道を。

 

 

 

 

 

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