ハイスペックウマ娘になったけどこれでもまだ足りないらしい 作:フタバ ハクシ
11月第三週。より寒さが本格的になってきた頃、東京レース場で迎えたこのレース。G2、東スポ杯ジュニアステークス。
レースグレードも2番目に高いと言うだけあってか、出走メンバーも私が経験した中で最もレベルが高い。
しかし、私もここに向けて準備を進めていたので、仕上がりは過去最高のものになっている。相棒と一緒に試行錯誤してきた結果だ。
私は控え室で出走表を見ていた。
1枠1番サークルトーク、6番人気。
2枠2番カーストライド、10番人気。
3枠3番ライゼンデ、4番人気。
4枠4番マーズオリオン、9番人気。
5枠5番アストックリーズ、7番人気。
5枠6番ライトアップ、3番人気。
6枠7番トゥルーザワールド、5番人気。
6枠8番キングヘイロー、1番人気。
7枠9番シャーベットスカイ、12番人気。
7枠10番カスターリュ、8番人気。
8枠11番ミュージカルサン、11番人気。
8枠12番シュヴァルツミーティア、2番人気。
「大外枠、か。」
相棒が呟く。
「うん。でも私、勝つよ。相棒のために。」
もう絶対に負けられない。これ以上は、絶対に。
私は絶大な覚悟を胸に秘め、レースへと向かっていた。
「心強いな。」
「確かにキングちゃんは強い。でも、強いからって勝ちを譲れるほど、私は弱くない。」
「ああ。その調子で行け。ミーティア。」
「任せて!もう私から目を離せなくなっちゃうかもね!今のうちに他の子見ておいた方がいいかもよ〜?」
「はは、うるせーよ。さっさと行け。」
相棒はそう言いながらも笑っていた。
「うん!行ってくる!」
「おう。頑張ってこい。」
ここで勝って、みんなに相棒と私の存在を知らしめてやる。
そう思いながら私は控え室のドアを開けた。
「今日は数々の大物ウマ娘が揃いましたが、それらを抑え、1番人気!ここで王は覚醒するか?6枠8番、キングヘイローです!」
パドックの外から歓声が響き渡る。私はそれを後ろから見ていた。いやー流石キング。仕上がりは本当に綺麗だ。他の子なんて比にならないだろう。私以外は、ね。
おそらく今の私でも単純なパワー勝負になれば勝ち目はない。小柄だから押し負けてしまう。なら、
パワー勝負にならないほど、ぶっちぎればいい。
この作戦だと400メートル地点で先頭に立つ必要がある。1800というこれまでで1番距離の長いレースで、私はそこまでのスタミナを持っているのか?やれるのか?
いや、やるんだ。それしか道はない。大丈夫。相棒がここまで私を完全に仕上げてきてくれた。相棒を信じろ。
っと、もう私の出番か。
「8枠11番、ミュージカルサンでした。...さあ、流星はここで光り輝くか!?こちらも期待がかかる新星、8枠12番、シュヴァルツミーティアです!」
パドックの真ん中に立ち、私は軽くお辞儀をした。周りからは歓声があがる。
あ、そういえば決めポーズとか考えてなかった。何かやった方が良いのかな.....!?どうしよう!?とにかくなんでもいいからやらなきゃ!うーん....まあ、あれでいいや....
私は指を口元に持っていき、指先に軽くキスをしてから、指を空へと突き立てた。歓声がより一層大きくなる。良かった。気に入ってもらえたようだ。一応私のオリジナル....のつもりだ。他にやってる子いたらごめん。
「仕上がりはもう100点満点ですね。文句のつけようがないです。このレースを勝つのは、この子かもしれませんね。」
「以上、東京第11レース、東京スポーツ杯ジュニアステークスのパドックでした。」
お、そう言ってもらえるとは。嬉しいな。初めて黄金世代と戦うけど、これは良い結果になりそう。
私はパドックから近場へと向かい、決戦の舞台へと足を進めた。
私は静かに近場を通る。まあ集中できるほどまだ落ち着いてないので本当に静かに通ってるだけだけど。
「ちょっと、あなた!」
後ろから何度もゲームで聞いた声が聞こえる。振り向くと、そこにはキングヘイローが立っていた。
「は、はい。どうかしましたか....?」
あれなんか気に触るようなことしたっけ!?覚えてないけど.....
「確か、ミーティアさんよね?」
「あ、はい。シュヴァルツミーティアです.....」
「あなたは、何か他の子とは違う感じがするわ。スペシャルウィークさんや、グラスワンダーさんにも似ているけれど、少し違う。」
「あなたとは来年のクラシックでも戦うことになりそうね。でも、それでも勝つのはこの私、キングよ!」
あ、よかった。怒られるんじゃなくて宣戦布告に来ただけか。
あれ?宣戦布告ってことは....私キングヘイローに認められたってこと!?あのキングに!?う、嬉しい.......やったあ......
....でも、
「....私だって、譲る気はありません。今回のレース、勝つのは私です。」
「いいでしょう!このキングに挑む権利をあげる!かかってきなさい!」
「ええ!ではレースで!」
そう言って私は先を急いだ。
絶対に負けられない。
私の脚を、相棒を信じるだけ。
今はただ、勝利を。
「己の才能を、努力を証明する舞台!さあ、いよいよ東スポ杯ジュニアステークスの発走です!!」
東京の重賞ファンファーレが鳴り響く。それと共に観客の興奮も最高潮に達したようだ。怒号とも取れる大きな音をよそに、私たちはゲートへと向かう。
奇数番号の子たちが続々と入っていく。中には少しためらう子もいたが、それでも嫌がることはなく、すんなりとゲートの中へ入っていた。
「さあ、少しづつ偶数番号のウマ娘たちも入っていきます!1番人気、8番キングヘイローも今、収まりました!」
「10番のカスターリュもゲートの中へ、残すは2番人気、12番シュヴァルツミーティアのみです!!」
さあ、いよいよ始まるぞ。
「ふぅ〜....よし。」
空気を入れ替えて、私はゲートへ向かう。
ここが正念場だぞ。シュヴァルツミーティア。
頂点を、勝利を掴みに行こう。
「シュヴァルツミーティアが収まり、全ウマ娘枠入り完了しました!」
ーーよそ見しちゃだめだよ?相棒。ーー
「スタートしました!!ほぼ揃ったスタート!」
よし、出遅れはなし!相変わらずダッシュはつかないけど...とりあえず後ろについて内に寄ろう。
「相変わらずシュヴァルツミーティアはダッシュがつかないか!」
今日は後方から2番手を追走して、前についていくことを心がけた。
「まずは先行争いです!!4番マーズオリオンが飛び出していってハナに立ちました!その2バ身ほど後ろにライトアップ!」
よし、良いところにつけることができた。このまま仕掛けるタイミングを伺おう。
「さらにその後ろ、3番手にシャーベットスカイ!並びかけるようにしてカスターリュ!その外、じわりじわりと上がってきたのがアストックリーズ!向こう正面を通過しました!」
ペースも悪くない。仕掛けるのは直線へ出た時で良さそうだ。
「サークルトークが6番手を追走、ここまでで先頭集団を形成しています!そしてここにいた!1番人気のキングヘイロー!現在7番手と言ったところ!後ろにはミュージカルサン!」
うん、ちゃんとついていけてる。勝てる。行けるぞ!
その時、私の顔になにかが向かってきた。
なんだあれ?布?服?
.........いや違う!!芝だ!!
「はっ.....!?」
っぶな!!
私は芝の塊を間一髪で避けた。がしかし少しだけ体制を崩してしまい、外に大きく膨れ上がってしまう。
「カーストライドが内で脚をためている!その横にピッタリとライゼンデが張り付いて、その後ろ、1バ身離れてトゥルーザワールド!2番人気シュヴァルツミーティアは位置を下げて最後方からのレースとなりました!!」
結局最後方からになっちゃった......まあでも、ここからでも巻き返しは全然効く!落ち着いて直線まで待とう。そして直線で......ぶち抜く!
「さあ各ウマ娘第3コーナーを回っていきます!キングヘイローが5番手まで上がったか!?マーズオリオンは余裕がなくなってきている!」
落ち着け、まだ800メートルもある。そんな前から仕掛けて最後に差されるのはごめんだ。
「さあライトアップが先頭に変わって4コーナーを通過していきます!まだ最高峰で抑えたままだシュヴァルツミーティア!ここから間に合うのか!?」
あと少し。抑えろ。まだだ。
「さあ4コーナーを通過して直線へ向いた!最初に仕掛けるのは誰か!?」
今だ!!飛び出せ!!
私は外に持ち出して思いっきり地面を蹴り込んだ。
「はぁぁっ....!!」
もっと速く脚を蹴り出せ。もっと速く腕を振れ。痛みも置き去りにしろ。
「ここで上がってきたのはシュヴァルツミーティア!!シュヴァルツミーティア速い!!あっという間に先団に取りついた!!」
「っ.......!」
痛い。でも、私は痛みよりも大事なものを背負って走っている。その期待を、相棒の意思を無駄にさせるわけにはいかない!!
「坂を登る!!シュヴァルツミーティアが先頭に変わった!!2番手はライトアップ!!このまま押し切るかシュヴァルツミーティア!!」
東京の坂は恐ろしいと言われる理由は、残り400メートル地点から始まるからとされている。スタミナが尽きかけているときに2メートルの坂を登るんだ。楽なわけがない。
だからなんだ。私を止めたいのならもっと大きな坂でも登らせろ。
坂を登り切ったら、そこからは私の独壇場。誰にも邪魔させない。
「シュヴァルツミーティア速い速い!!一気に差を広げた!!残り300!!坂を登り切って、以前シュヴァルツミーティアが先頭だ!!強い強い!!差は4バ身、5バ身!!どんどんと広がる!!」
差を縮ませるものか。絶対に追い抜かさせない。このまま振り切ってやる。
「ようやくキングヘイローが追い込んできた!!しかし、先頭は変わらない!シュヴァルツミーティアだ!シュヴァルツミーティア圧勝ゴールイン!!!」
気づけば私はゴール板を通過していた。
「はあっ.....はあっ....あれ?レース終わった?」
膝に手をついて、えずきながら呼吸を整える。
私は走ることに無茶になりすぎて、勝ったのか負けたのかすらわかっていなかった。
「東スポ杯ジュニアステークスを制したのはシュヴァルツミーティア!!他の追随を許さず完封勝ちを収めました!!」
私は実況が言っていることが本当なのか確かめるために電光掲示板を見た。電光掲示板には、1着表示に12という文字が輝いていた。2着にはキングヘイローの枠番である8の文字が。着差を表示する部分には7という文字が映っていた。
勝ったのだ。
目標であった、キングヘイローに。
しかも7バ身差の快勝で。
「っっしゃあああああああ!!!」
私は女の子らしくない雄叫びを上げ、右手を強く突き上げる。
私が勝者だ。キングヘイローでも、他の子でもない。私が。シュヴァルツミーティアが。
「はあっ、はあっ......嘘でしょ...このキングが...」
横には、しゃがみ込みながら電光掲示板を眺めて唖然としているキングヘイローが立っていた。
負けて悔しいのだろう。そりゃそうだ。この日のために練習を積んだだろう。努力も惜しまずにやっただろう。なのに、現実はこれだ。私もその気持ちは痛いほどわかる。あんな気持ちは二度と味わいたくない。だから、私ができることは、
「キングヘイローさん!」
「っ...どうしたの?笑いにでもきたの?あんな大口叩いて、こんな負け方をした私を。」
あぁ、やっぱり似てる。あの時の私に。だから、今度は私が。
「今日のレース、すっっごく楽しかったです!あんな全力で走ったのは初めてでした!なので!」
「また一緒に走りましょう!」
私は手を差し伸べ、ニッと思いっきり笑顔を見せつける。
キングヘイローはぽかんとしているようだったが、
「....ふっ、仕方がないわね!このキングのライバルになる権利をあげる!今度は負けないわよ!」
と言って私の手をとってくれた。
「はい!!私も譲りませんよ〜?」
「あと、あなた。敬語を使うのはやめなさい。私達は同い年なんだから。」
「...っうん!ありがとうキングちゃん!!」
「ええ!これからもよろしくね!ミーティアさん!」
私はキングちゃんと堅い握手を交わし、お互いを称え合った。
またいつか、こんなレースができるように。
「お〜い。ミーティア〜。」
後ろを振り向くと、そこには手を振りながら笑顔で出迎えてくれている相棒の姿があった。
「あいぼー!!見ててくれた!?私が勝つの!!」
私は相棒のところへ駆け寄って、興奮気味に話しかけた。
「ああ、しっかりと見てたよ。」
「どうだった!?」
「最高だったよ。流石俺の愛バ。」
「でしょー!!相棒のトレーニングのお陰だよ!!」
「はいはい。ほら行くぞ。インタビューもウイニングライブも待ってる。」
「まってまってー!まだ色々聞きたいことが....」
「あとでな。ついてこい。」
「むー...後でちゃんと聞かせてもらうからね?」
「はいはい。」
私は尻尾を横にぶんぶんと振らせながら、相棒の後をついていった。
私は相棒と共にインタビューを受けた。
「それでは、勝利ウマ娘インタビューです。東スポ杯ジュニアステークスを勝利しました、シュヴァルツミーティアさんと一ノ瀬トレーナーです。まず、今の率直な感想をお願いします。」
「はい!もう最高です!!」
「そうですか...!ではレースを振り返っていただきます。まずスタートから。」
「そうですね、私、いつもスタート苦手で出遅れてしまうんですけど...でも今日は遅れなかったので最後尾からではなく後方2番手からレースを進めました。」
「しかし第3コーナーに回る前、順位を最後尾に戻しましたよね?あれは作戦だったんですか?」
「いやぁ〜、あれは前走ってたら芝の塊が飛んできたので慌てて避けて順位を落としたって感じですね....お恥ずかしい....」
「そうだったんですか!?大丈夫ですか!?」
「いや、当たりはしなかったので大丈夫です....」
「いや〜しかし、最後の直線の脚は見事でしたね!」
「はい!外が空いていたのでもう一気にまくってやろうと思って...この状態まで持っていってくれた相棒にはもう感謝しかないです!!」
「では、最後に一ノ瀬トレーナーにも一言。」
「はい。この子はこれでもまだ成長半ばなので、もっともっと強くなります。なので、よければ応援よろしくお願いします。」
「では、東スポ杯ジュニアステークスを勝ちました、シュヴァルツミーティアさん、一ノ瀬トレーナーでした。ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
「ありがとうございました!」
「いや〜インタビューってあんな感じなんだね!初めてだったからちょっと緊張しちゃった!」
私と相棒はインタビューを終えて控え室で休憩していた。
「そのうち慣れるよ。とりあえず今はお疲れ様。」
「ありがと!あ、そうだ。あいぼー。」
「ん?どうした?」
私は頭を下げて、相棒の前に差し出す。耳も撫でやすいようにぺたんと倒した。
「はい。」
「えっ、何?」
「ほら、いつもやってるじゃん。」
気づけ気づけ〜。
いつも撫でてくれるからちょっと癖になっちゃったんだぞー。
「いつもやってること.....?」
「その、さ......頑張ったから.......... 撫でて...」
ちょっとだけ顔が赤くなるのを感じる。
「.....よしよし。よく頑張ったな。」
相棒がいつものようにわしゃわしゃと無造作に私の頭を撫でる。
「んへへ.....」
私はつい声が漏れてしまう。尻尾も喜びを隠しきれないようだった。
「ほら、ウイニングライブの準備を始める。今日はちゃんとセンターで踊ってもらうぞ。」
「うん!!ちゃんと見ててね!」
「わかってるよ。」
そうして私はウイニングライブの準備を始めた。
真っ暗なダンスステージ。
そこに一つの照明が灯り、曲が始まる。
「響けファンファーレ 届けゴールまで」
「輝く未来を 君と見たいから」
振り付けをこなし、私は完璧に歌い切ることができた。
「お疲れ。もう眠たいか?」
「いや、そんなことはないよ。まだまだ大丈夫〜って感じ!!」
「なら、ちょっとだけ聞きたいことがある。」
「なに〜?」
「次のレースのことなんだが....このまま皐月賞トライアル、弥生賞に向かうか、来月の暮れにある、朝日杯フューチュリティステークス、もしくはホープフルステークスに向かうという選択肢がある。ミーティアは、どうしたい?」
「...私はもっと強くなりたい。だから、行くよ。G1、ホープフルステークスに。」
「分かった。じゃあそれでスケジュールを組んでおく。出るからには、勝つぞ。」
「うん!任せてて。」
次の目標は、G1に出ること。G1に出て、誰よりも早く、ゴール版を駆け抜ける。
ジュニア級最後のレース、ホープフルステークスへ。
ここからもっと、大きく羽ばたけるように。
相棒と一緒なら、どこへでも飛べる。
だから、これからもよろしくね。
相棒。