ハイスペックウマ娘になったけどこれでもまだ足りないらしい   作:フタバ ハクシ

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ラストチャンスを掴み取れ

「だ〜か〜ら〜!ついてこないでください!」

 

私はあの日からずっとあの男、一ノ瀬碧郁に付き纏われていた。色々と指示してくるし、言い方が腹立つし...なんとか振り切ろう思い、カフェテリア逃げ込んだはいいが...

 

「だからもう少しストライドをだな....」

 

駄目だ変わらない!ストーカー気質が過ぎないか!?流石にこんな可愛い子が嫌がってたらやめるだろ!?

 

「っもう!あなたは私のトレーナーじゃないでしょ!?余計なお世話です!」

 

「選抜レースまで時間もないんだろ?これは単なるアドバイスだ。受け入れてもそっちに損はないはずだぞ?」

 

「そう言う問題じゃないです!やめてください!!」

 

私はイラッときて、スカートを握り締めながら思いっきり言い放ってやった。これ以上ついてこられると本当にめんどくさいしうざったいので、これ以上来ないで欲しいが。っていうかほんとにやめてくれ。

 

「...ぷっ、小動物みたいな威嚇をしても、ただ面白いだけだぞ?」

 

「ね、見て見て!ミーティアちゃんかわいい〜。」

 

「ねー!背がちっちゃくてまるで兄妹みたい!」

 

周りからはただのじゃれあいだと思われているようだ。

 

「なっ......!?」

 

やばい、急に恥ずかしくなってきた。顔熱い....!今すぐここから逃げ出したい....!でも、それはコイツから逃げたみたいになるし....

 

「ははっ、やっぱ面白いな。」

 

「と、とにかく!もうついてこないでください!」

 

「はいはい。今日のところは帰るよ。じゃあな〜。」

 

「明日もこないでください!!絶対ですよ!!」

 

「気分による〜。」

 

あーもう、まったく.....調子狂うなぁ.....今絶対変な顔してるし....

 

「はぁ〜....ご飯食べて練習しよ。」

 

私はそそくさとうどんを注文して、端の席に座った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん....」

 

私は選抜レースの前日、自室の机で、うーんうーんと唸っていた。痛みを我慢しながら走るにはやっぱりこれ以上のタイムは限界か...?いやでも....

 

「ミーティアちゃん、どうしたの?そんなにスマホと睨めっこして。」

 

「あっ、スマイルちゃん。いやーそれがね....なかなかタイムが伸びなくて...」

 

スマイルちゃんに足の痛みのことは話していない。特に何もなかったと誤魔化しておいた。余計な心配をスマイルちゃんにかけさせるわけにはいかない。彼女だって私と同じウマ娘なのだ。レースのことも考えないといけないのに。これ以上考え事を増やすことはしたくない。

 

「うーん、でも私より全然早いよ?」

 

「それでも私はスマイルちゃんみたいに継続して速度を出せないし....」

 

私の400メートル最速タイムは22.6。しかし脚の負担もひどく、一度走っただけでもしばらくは動けなくなるほどだった。

 

「そう言っても、私と並走して勝ってるじゃん!きっと大丈夫だよ!」

 

「だといいんだけど....」

 

正直、もう少し伸ばしたいところではある。3ハロンのタイムになると35.3まで落ちこんでしまう。脚質が追い込み、差しの脚だとは思えないほどタイムが悪い。だからもう少し速さと持久力が欲しいのだが....

私の脚はそうさせてくれない。まったく厄介な才能だ。

 

「でも、スマイルちゃんが応援してくれるなら、私、勝つよ。」

 

もう二度期待を裏切ってたまるものか。

 

「うんうん!勝つためにはメンタルが大事だからね!」

 

「ありがとうね、スマイルちゃん。」

 

私は日頃の感謝を込めて、スマイルちゃんに言葉を贈った。

 

「どういたしまして!!レース頑張ってね!」

 

私は並々ならぬ意志を胸に抱き、一日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー.....」

 

私は深呼吸をして気持ちを落ち着かせていた。

 

「ミーティアちゃん、頑張って!」

 

スマイルちゃんがぽんぽんと肩を叩きながら奨励してくれる。

 

「スマイルちゃん!ありがとう!!絶対勝つね!!」

 

もう絶対に負けないから。見ててね。スマイルちゃん。

 

「がんばれよ。」

 

うわ、聞きたくなかったコイツの声。

 

「なんであなたもいるんですか....」

 

私は不機嫌そうな顔で返事をした。だってコイツのこと好きじゃないもん。ストーカーだし。

 

「いちゃ悪いかよ。仮にもトレーナーだぞ。」

 

「いや本当にストーカーみたいで....」

 

「うるせえ。さっさとゲートに行きな。」

 

彼は手でしっしっ、と払いながら言った。

いやお前が止めたんやろがい!!

私はそう叫びそうになったが必死に気持ちを抑え、そのままゲートへ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

「さあ、いよいよ今日の選抜レース!芝1600メートルの発走です!」

 

さあ、私はこのレースで勝たなければトレセン学園ここから出ていくことになる。そんなことにはさせない。絶対に。

 

「おっと、少しゲート入りを嫌がっている子がいるが....大丈夫ですね、収まりました。」

 

今回のわたしの枠は大外18番。枠入りで言うなら一番最後に入る。ゲートに入っている時間が少ない分、出遅れは起きにくい。

 

「さあ、枠入り進んで最後、18番シュヴァルツミーティアのみとなりました!」

 

私はふぅ、と一呼吸ついてからゲートへ向かった。

もう、負けられない。

絶対に勝つ!!

 

「さあ、全ウマ娘ゲートの中!......スタートしました!」

 

勢いよくゲートから飛び出た私は、出遅れることはなく静かに最後方につけた。

 

「まずは先行争いです!5番......」

 

前半はまず離されないことを意識してペースを見る。うん。ここならレース全体を見れるだろう。

アイツに言われたのだけは腹立つけど、確かに私は差し、追い込みの方が向いている。前でレースをすると、ただでさえ背の小さい私はバ群に飲み込まれて最後の直線で上がることが難しいから。あと単純にゲートの出が下手。今日は過去一綺麗に出れた方。

 

「最後方にこの子、シュヴァルツミーティアです!」

 

「前回は前目のレースでしたが、今回は違う様ですね。どう言うレースをするのか楽しみです。」

 

「さあ各ウマ娘第三コーナーへと差し掛かる!先頭は変わらず5番の...」

 

第一コーナーはなるべくロスなく回る様に内に入った。うげ、やっぱり芝がボコボコしてて走りづらい...でも、負けたくない!!勝つんだ!!勝ってメイクデビューに向かうんだ!!

 

「1000メートルのタイムは.....1分2秒8!!かなりスローペースです!」

 

「後ろの子たちは間に合うでしょうか。少し心配です。」

 

「第四コーナーを抜けて直線へと向いた!先頭は変わらず5番!...」

 

第四コーナーでコースの外側へと持ち出した。誰も前にいない。

ここなら、いける!!

私はの残っているすべての力で、地面を叩いた。

 

「先頭で粘っている5番!!横から7番ムーンライターが上がってこれは変わりそうだ!」

 

「ぐぅっ......はああぁぁ!!!」

 

脚が激痛で悲鳴を上げている。

痛い!!

 

 

でも、

 

 

 

 

それでも、止まる理由にはならない!!

 

「残り200を切った!先頭は7番ムーンライター!!差は2バ身!!しかし大外からシュヴァルツミーティアが飛んできた!!」

 

絶対に捉え切る。私は追いつくんだ!!あの世代に!!みんなに!!

 

「っああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ムーンライター!!シュヴァルツミーティア!!ムーンライター!!まーったく並んでゴールイン!!!」

 

「内のムーンライターか!?それとも大外シュヴァルツミーティアか!?」

 

「内も外も際どい差の決戦となりました今日の選抜レース!!」

 

「はあっ.....はあっ......」

 

私はゴール後倒れるように地面に転がり込んだ。肺が凍った様に冷たい。喉も乾いて息をするたびに痛い。それでもレースの結果だけは聞こうと、耳だけはすましていた。

 

「審議の結果......ハナ差で勝利を勝ち取ったのは7番ムーンライター!!選抜レースを勝って、メイクデビューへの出走権を手に入れました!!2着は惜しくもシュヴァルツミーティア!!やはりスローペースが響いたか!!」

 

「えっ.......」

 

私は結果を聞き、絶望した。

ラストチャンスだったこの選抜レースで、私は負けたのだ。

それもハナ差で。

あと少し早く仕掛けていれば。

あと少し脚が持っていれば。

そんな考えが私の頭の中をよぎる。

でも、起きてしまったことは変わらない。

ここにはもう、私が負けたと言う結果しか残っていなかった。

無駄にしたのだ。最後のチャンスを。

踏みにじったのだ。支えてくれた友達の気持ちを。

 

「.....はは、諦めるいい理由にはなったか。」

 

私は静かにそう呟き、ターフを後にした。

キングヘイローを追い越すなどとほざいて、結局は選抜レースすら勝てなかった。

 

「ミ、ミーティアちゃん.....」

 

すごく悲しそうな顔をしたスマイルちゃんが、そこには立っていた。

ああ、ごめんね。私、ここにはいられないみたい。

 

「あ.....スマイルちゃん.....悪いけど、今は一人にしてくれないかな.....」

 

「ま、待って.....ミーティアちゃん........」

 

私はスマイルちゃんの声に耳を傾けず、そのまま一人で彷徨っていた。

 

「ははっ、やっぱやるじゃないか....でも、面倒事が一つ増えたな...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば外は夜になっていた。

私は静かに学園のベンチに腰掛けていた。

もうここにはいられない。ウマ娘としてレースに出ることはできない。

 

「うっ........ううっ.....」

 

私は自分が情けなくて、悔しくて嗚咽を漏らして泣いていた。

この世界は、脚の痛みというハンデを背負って戦えるほど甘くはなかったのだ。

もうじきここから出ていくことになるだろう。

シュヴァルツミーティアは、もうみんなの心には残らないのだ。

誰にも知られず、私のレース人生は幕を閉じた。

 

「はぁ....やっと見つけた。」

 

「!?...あなたは....」

 

そこにはあの男、一ノ瀬碧郁トレーナーがいた。急いで私は涙を拭き取った。

 

「なんでここにいるんだ?もう寮の門限はとっくに過ぎてるだろ。」

 

「ほっといてください。あなたには関係のないことです。」

 

「さっさと帰らないと、寮長に怒られるぞ?いいのか?」

 

「....何ですか?馬鹿にしにきたんですか?あなたのアドバイスを聞かずに負けた私を。笑いにきたんですか?」

 

「....でも、いいレースだった。将来性は今年の子でトップじゃないか?」

 

「あなたも知ってるでしょ。私はもうここには残らない。今日のレースが最後のチャンスだったのに、私はそれにすら負けた。将来なんてないんです。私には。」

 

笑うなら笑え。その方がレースを嫌いになれる。もう二度とここにいれないなら、レースを嫌いになった方が幾分かマシだ。

 

「あぁ、その話だが....」

 

「シュヴァルツミーティア、君は地元ドイツの選抜レースに出てたよな?それも全国レベルの。」

 

そういえばそんなこともあったっけ。今はもうどうでもいいけど。

 

「芝1800メートルを1着。それも大差勝ちだって?流石じゃないか。」

 

「それがどうか?今はもう関係ないじゃないですか。」

 

「いや、そんなことはない。言ったよな?"選抜レース"って。」

 

「国がどうであれ、君は選抜レースに勝ってる。だからそれを生徒会に言ってきたんだよ。」

 

「....まさか....」

 

「会長曰く、「データを入手するのに苦労したが、確認はとれた。シュヴァルツミーティアは、選抜レースを通過したものとする。」だってさ。」

 

「まあ、要約すると、君はここに残れる。おめでとう。」

 

私は驚きでしばらく固まってしまった。

 

「なんで....私の為にそこまでして....」

 

目が熱くなって、視界がぼやけている私に、彼はこう答えた。

 

「言っただろ?才能があるのにここを出ていくなんて勿体無いって。」

 

「まったく、感謝してくれよなー?だいぶ無理言ったせいでURAのお偉いさん達に結構怒られたんだから。」

 

「それと、今日のレースの上がり3ハロンは、ジュニア級1600メートルの上りだとレコード。32.9だった。頑張ったな。すごかったよ。」

 

私はその時ようやく自分の努力が報われたような気がした。

 

「まあ色々言ったが、俺はこれで失礼する。今後とも頑張れよ。」

 

そう言って彼は後ろを向き、トレーナー寮のある方へと帰ろうとしていた。

 

「ま、待って!」

 

私は考えるより早くそう叫んでいた。

 

「ん?どうした?」

 

「その.....あなたってまだ担当はいないですよね.....」

 

「ああ、そうだな。」

 

「なら......」

 

頑張れ私、あとちょっと。

 

「なら....!私のトレーナーになってくれませんか....!」

 

言った。言っちゃった。告白みたいで胸がドキドキしてる。後先考えずに言うもんじゃなかった!!

 

「そうだな、俺もそろそろ担当をつけなきゃと思っていたところなんだ。」

 

「じゃ、じゃあ....」

 

「これからよろしく。ミーティア。」

 

そうして私、シュヴァルツミーティアには、天才という異名のついたトレーナー、一ノ瀬碧郁がつくこととなった。

 

「まあ、今日はもう遅いし帰ろう?明日書類持ってくるし。」

 

「...うん、分かった。これからよろしく。い、一ノ瀬トレーナー?」

 

「....何で疑問形?」

 

「なーんかしっくりこなくて...碧郁トレーナーも違うし....」

 

「何でもいいよ。」

 

「じゃあ、相棒。よろしく。相棒。」

 

「!!....ああ、明日から頑張ろうな。」

 

「うん!!」

 

そうして私はご機嫌に寮へと戻った。

 

....帰宅後、フジ寮長にどやされたのは言うまでもない。

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