ハイスペックウマ娘になったけどこれでもまだ足りないらしい   作:フタバ ハクシ

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初勝利をあなたに

7月も最終週となり、暑さも本番になってきた。

私は今、相棒と共にメイクデビューについて語り合っていた。

 

「今のところ、メイクデビューは芝の1600。レース場でのレースは初めてだし、長距離の遠征は避けたい。だから札幌じゃなく、新潟のメイクデビューに出走したい。それでいいか?」

 

流石だ。そこまで考えているとは。

 

「さんせーい!」

 

「よし、じゃあそれで出走登録済ましておく。それでいいか?」

 

「あのね、相棒.....」

 

私はあのことを相棒に話す決意をした。

 

「ん?どうした?」

 

「相棒にはこのこと、話しておこうと思って。」

 

「?何のこと?」

 

「実はね...」

 

相棒は真剣な顔で、全てを聞いてくれた。

 

 

 

「そうだったのか....」

 

「選抜レースで逃げたのは、ただ意味なく逃げたんじゃなくて、痛みが怖くて....ね。」

 

「ごめん。知らずにあんな酷いこと言ってしまって。」

 

「気にしないで!相棒の言ってることは間違ってなかったし。」

 

「というか.....相棒はいいの?」

 

「え?何が?」

 

「いや、お医者さんには「走るのをやめた方がいい」って言われたし、相棒も何か言うのかなって....」

 

「....ミーティアは、走りたいんだよな?」

 

「うん。たとえそれで自分を傷つけることになってもね。」

 

「なら、俺はそれを応援する。」

 

「俺はトレーナーとウマ娘は常に公平であるべきと考えているんだ。だから俺はミーティアがやりたいならやるし、やりたくないならやらない。」

 

「相棒らしい答えだね。ありがとう。」

 

「これからジュニア、クラシック、シニアまで一緒に駆け抜けるんだ。それ相応の覚悟はしてるさ。」

 

「そうだね!これからもよろしく!」

 

「うん。よろしく。」

 

私は相棒とハイタッチを交わし、ターフへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか、新潟のマイル戦は1400メートル地点に坂がある。2メートルほどのかなり大きい坂だ。そこを乗り越えるためにはある程度のスタミナがいるぞ。そこは坂路で鍛えていこう。」

 

「りょーかい!!」

 

「まず坂路は足を上げながら走ること。効率よく速度を落とさずに坂を上がれるからだ。目安としては....」

 

しばらく坂での走り方の説明を受けた。

 

「あと、ミーティアは小柄だけど体が硬いからあんまりストライドはこれ以上大きくしないように。怪我につながるから当分は広げるの禁止。体を柔らかくしてからやろうな。」

 

「まああの走り方結構体力使うし今はいいかな...」

 

「じゃあ坂路一本行ってきて。ペースは普通でいいよ。」

 

「はーい!」

 

私は言われたことを意識しながら、坂路を走り抜いた。

 

 

 

 

 

 

「はあっ...はあっ....めっちゃ疲れたぁ......」

 

坂路きっつ!!なに高低差6メートルって!?殺す気か!!

 

「お疲れ様。タイムはまあいい感じ、これから少しずつ慣れればいいよ。メイクデビューだし気楽にいこう。」

 

「でも.....負けたくない、レースに出るんだったら、全部勝ちたい。」

 

「お、なかなかいい志だな。じゃあ負けないようにトレーニング頑張ろうな。」

 

「うん!!」

 

私は大きな夢を胸に秘めながら、もう一度坂路を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新潟開催4日目。この日の新潟の重賞はレパードステークスだ。ダートの重賞ということもあり、物珍しさで今日は客が多い。

そして私、シュヴァルツミーティアは、この日の第6レース、芝1600メートルでデビューする。

 

「ふぅ.....」

 

私は体操服に着替えて、14番のゼッケンをつけて待っていた。さっき相棒に笑われたのは忘れない。絶対にいつかしばく。

 

「初めてレース、緊張するか?」

 

控え室で相棒が呟く。

 

「いや、考えてたほどではないかな。それよりも、今から走るっていう楽しさの方が大きい。ようやくデビュー出来るんだから!」

 

私は選抜レースの怪我で周りの子よりもデビューが遅い。だから早くにデビューした子と差がついてしまっているのだ。でも、それを不安視はしていない。

 

追いつく、いや、追い越せる自信があるから。

 

「ははっ、それだけガッツあるなら大丈夫そうだな。」

 

「任せて!っと、そろそろ行かなきゃ!」

 

「ああ。楽しんでこい。」

 

「相棒に初勝利、プレゼントしちゃうぞ〜!」

 

「余計なお世話だ。ほら、さっさと行ってこい。」

 

そう言いながらも相棒は笑っていた。

 

「うん!」

 

そして私はターフへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ!いよいよ新潟5レース、メイクデビューの発走です!」

 

軽快なファンファーレが鳴り響く。私の気分は有頂天に達していた。ようやくデビューできるのだ。ついにあの世代に、キングヘイローに追いつくための一歩を刻めるのだ。

 

「芝1600メートルのデビュー戦、今回は16頭で争われます!」

 

「芝のコンディションは良。自分の能力を遺憾なく発揮できるでしょう!」

 

「注目の人気ウマ娘を紹介します!7枠14番、ドイツから来た期待の新星、シュヴァルツミーティアです!現在他のウマ娘を引き離して断然の一番人気に選ばれています!」

 

一番人気と言われると俄然やる気が湧いてくる。他の子がどんなレースをしようが関係ない。勝つのは私だ!

 

「さあ枠入りが進んで最後に16番、テセウスノヴァが入ります!」

 

「ふーっ......」

 

深く呼吸をして、前を向く。

 

ーーー見ててね。相棒。ーーー

 

「スタートしました!かなりばらついたスタート!14番のシュヴァルツミーティアは後方からのレースとなりました!」

 

ちょっとだけ出遅れちゃった!!まあでも、後方につけれたことに変わりはないしいっか。

 

スタートして数十秒で最初の鬼門、高低差2メートルの坂へきた。ここでは足を高く上げて、なるべく早く登り切る....!

 

「各ウマ娘坂へ突入します!」

 

うおぉぉきつい....!でも練習でした坂路程じゃない!!これなら.....行ける!

前の子は坂が体にきたのかズルズルと後退していく。坂路やっておいてよかった〜。やらなきゃあの子みたいになってたかも。サンキュー。相棒。

 

「さあ先頭が第三コーナーへ差し掛かる!先ほどよりも隊列はやや縦長か!?」

 

第三コーナーを回り切った頃にはもう下り坂に侵入していた。でも、これで鬼門はくぐり抜けた。あとは、私の独壇場....!

 

「第四コーナーを回り直線へ向いた!新潟の長い長い直線を最初にゴールするのは誰か!?」

 

新潟は直線が長い、それに加えてさっき程じゃないけど坂がある。だからまだ仕掛けない。まだ抑えたまま。

 

「先頭は5番トケサーリュ!トケサーリュこのまま逃げ切るか!?」

 

外に持ち出すか、内を取るか。いや、これは外に持ち出す。外から一気に......差し切る!!

 

「後方組は16番テセウスノヴァとシュヴァルツミーティア!この二人が一気に追い込んでくるか!?」

 

くっ....この子もやるな.....でも、私は負けない!!勝つんだ!!勝ってあの子たちに追いつくんだ!!

 

「はあああっ!!」

 

思いっきり地面を蹴って前に進む。外なら邪魔するものはない。一気にまくって初勝利を掴み取る!!

 

「大外からシュヴァルツミーティア!!大外からシュヴァルツミーティア!!恐るべき末脚で上がってきた!!」

 

「ぐっ....あぁ...!!」

 

いってぇ!!くっそ、ここにきて来るのかよ.....でもあと少しで届くんだ!!なりふり構ってられない!!

 

「シュヴァルツミーティアがトケサーリュに並ぶか!?....いや、並ばずに交わした!!」

 

私は絶対に負けられないんだ!!待ってろ、キングヘイロー!!

 

「シュヴァルツミーティアだ!!シュヴァルツミーティア差し切ってゴールイン!!」

 

「はあっ......はあっ......」

 

走り切った後、すぐに疲れてターフに倒れ込んでしまった。息が苦しい。足が千切れそうだ.....でも、最初にゴール板を通過したのは私だ。

 

「一着はシュヴァルツミーティア!!二着にはトケサーリュ!三着には...」

 

起き上がり、電光掲示板を見ると14、5、8という文字を映し出して確定の赤い文字が点灯した。

 

「勝った.....やった......!!」

 

「一着シュヴァルツミーティア、トレーナーはあの一ノ瀬真一郎の息子、一ノ瀬碧郁トレーナーです!!」

 

やっぱり相棒って人気者なんだなぁ...レース聞いててトレーナーの名前が出ることなんて滅多にないのに。

 

「とりあえず一勝、だな。」

 

観客席を見ると、優しそうに微笑む相棒の姿があった。

 

「相棒!見てくれた!?今のレース!」

 

尻尾をぶんぶんと揺らしながら、私は相棒を見つめた。

 

「ああ、ちゃんと見たよ。おめでとう。」

 

「んへへ....」

 

嬉しすぎて変な声が出てしまう。でも、これで一勝。セイウンスカイ、キングヘイロー、スペシャルウィーク、グラスワンダー、エルコンドルパサーに一歩近づいたのだ。

いつか、絶対に勝ってやる。

私はそんな闘志を持って、ウイニングライブの準備をした。

 

 

 

 

ウイニングライブでは、私がセンターになって踊った。相棒から事前にある程度振り付けは教えられたが、本番になると少し脚が固まってしまった。痛いのもあるけど結構動かしづらかった。あとヘソ出し恥ずかしい。

 

 

 

 

 

「お疲れ様。よく頑張ったよ。」

 

相棒はずっと笑顔でそう言っていた。

 

「疲れたよ〜。坂がきつかった.....」

 

「脚は大丈夫?」

 

「ああ、ちょっとまだ痛むかな....」

 

「見せて。」

 

「ふぇ?いいけど...」

 

私はハイソックスを脱ぎ、相棒に指示されたように見せる。

相棒は私の足を容赦なく手で触った。

 

「ひゃう!?」

 

驚きすぎてほぼ悲鳴のような声が出てしまった。

 

「あ、ごめん。ひと声かければよかった。」

 

「いや.....大丈夫....びっくりしただけ....」

 

相棒は私の足をガラス細工を触るように優しく触れていた。

 

「特に外傷はないけど.....痛むなら駅まで背負おうか?」

 

いやいや!?最近お姫様抱っこされたばっかでそれはやばい!!無理だって!!顔がいいから好きになっちゃう!!

 

「いやいい!!自分で歩く!!」

 

私は食い気味にそう答えた。

 

「でも....」

 

「いや本当に大丈夫だから!!心配しないで!!」

 

「...そうか....」

 

相棒が怒られた犬みたいにシュンとした表情になる。ごめん、ごめんって相棒。そんな顔しないで!!

 

.....でも、走るたびに痛むのは本当に厄介だな。文字通りガラス細工の脚って感じ。付き合い方も考えなきゃな....

 

 

 

 

 

 

帰りの新幹線の中、私は外の景色を眺めていた。

 

「ふぁ〜。今日は疲れた....」

 

相棒があくびをしながら言う。

 

「そうだね。かなり疲れた。」

 

でも、得たものはあった。相棒に初勝利をプレゼントすることができたし、私も目標に一歩近づいた。

 

「相棒はさ、私が勝った時、どうだった?」

 

疲れたのも相まって変な質問をしてしまった。取り消すべきか?

 

「ミーティアが勝った時か.....まあそりゃ、普通に嬉しかったよ。」

 

「それに、親父はいつもこんな景色を見てたんだなって分かった。」

 

こんな景色?

 

「どんな景色だったの?」

 

「言葉で表しづらいけど...すごく特別な雰囲気だった。全部が全部キラキラして見えて、まるで夢のようだった。」

 

「初勝利でそれなら、重賞やG1レースは本当に夢になっちゃうよ?」

 

「ははっ、それもそうだな。」

 

「ミーティア。」

 

「どうしたの?」

 

「ミーティアは、この後どうしたい?今のミーティアなら、可能性は無限大だよ。」

 

私がどうしたいか、そんなのはもう決まっている。

 

「...あの世代に、キングヘイローに勝つ。そのためにはまずジュニア級の重賞を目指したい。」

 

「....その後は?」

 

「一生に一度の舞台、クラシックに向かおうと思う。皐月賞も、ダービーも、菊花賞も、誰にも譲りたくない。」

 

「....君を最初のパートナーにして、よかった。」

 

隠したつもりなのだろうが、私の耳はしっかりと聞き取っていた。パートナーって.....言ってくれた.....

 

「え!?....それって....」

 

「あっ、聞こえてた?」

 

「うん....」

 

「...ちょっと恥ずかしいな...」

 

頬を人差し指で掻きながらバツが悪そうにしている彼は、照れているのか目を逸らしながら言った。

 

顔中に体内の熱が全部集まったみたい....聞いてるこっちが恥ずかしいよ...

 

「でも、本当に君でよかった。ミーティアとなら、俺は何でもできる気がするよ。」

 

爽やかな笑顔で応える相棒は、まるで王子様のようだった。

んもー!!何でそんなに恥ずかしいこと言うかなぁ!?

 

「ソウナノ.....ヨカッタネ.....」

 

顔を隠しながら私はそう答えた。

 

「...え、どうしたの。どっか具合悪い?」

 

「イヤ、ナンデモナイヨ....」

 

「じゃあ何で顔隠してるの?」

 

「いや、それは.....」

 

「....いや、別に見せたくないならいいんだけど....具合悪かったらすぐに言ってね?」

 

「.....はい.....」

 

どこかずれているこのイケメンと、私はレース人生の第一歩を刻んだ。

 

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