【ポケモンエメラルド】失ったポケモンは二度と戻らない。【ポケモン視点】 作:null cedar
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キンセツタウンにあるジム。ここは電気ポケモンを得意とするトレーナーにより運営されていた。
ここに挑むのは
コノハナのくりのすけ
ハスブレロのはすべえ
ラクライのサムライ
グラエナのポチ
ラルトスのR・T
ヤミラミのジャック
の6匹である。
このジムでは控えのポケモンをボールに入れる必要が無く、戦闘エリアに入らなければ出しておいてもよい形式となっている。
その為、上記の6匹は今並んで歩を進めていた。
ジムリーダーテッセンも戦闘に備え一匹ずつモンスターボールから手持ちの相棒を解き放っていく。
ビリリダマ
ラクライ
レアコイル
一匹ずつ解き放たれる度に、空気が帯電していく。ポチは全身の毛が静電気により引っ張られて行くのを感じていた。
ジムリーダー戦、ポチにとっては良い思い出は無いと言っても過言ではない。
無二の親友、愛すべき家族たちその全てを刈り取ったこのジムリーダー戦という名の戦。恨まなかったことは無いと言えば嘘になる。しかし、戦わなければ生き残れない、戦わずにはいられないというDNAもまた皆の中には刻まれていた。
(俺がこの場に立つ意味。大丈夫、ソラシド、リンリン、ひよりさん、皆……見ていてください)
テッセンの持つ最後のボール。それが宙に投げられ、今まで帯電していた空気が全てそのボールに集まっていく。
電気としての格、弱者同士が群れを為し強者に群がる、その動きを電子が体現したかのようにその一点の電流・電圧・磁束密度・誘電率全ての数値が異様であっただろう。
ボールの中から現れたのは青い体毛の四足ポケモン。金色の鬣(たてがみ)は己が放つ電気により大きく逆立ち、さながら雷を思わせる。
「ライボルトォオオオ!」
突如としてサムライが吠える。
「テメェ!こんなところに居やがったのか!道理で……道理で探しても見つからない……」
「誰だ?貴様?初対面の奴にそんな事言われる筋合いは無いが?」
「初対面……だと……。テメェは……私の家族を、親友を私の目の前で訓練代わりだと惨殺したろうが!」
「そうか……すまん、全く覚えがない。特に弱者との戦いなんて全く覚える価値がないのでな。お前がその生き残りと言うなら、戦う価値が無いほど弱かったのだろう?野良だといつもトドメはさしてやってるからな」
サムライは我を忘れ金切声のように吠えるが、ポケモンの声は人間には鳴き声としてしか認識されない。
ゆるすぎもまた、サムライは相手のボス格であるライボルトに興奮したものだと思いなだめていた。
「私が必ずお前を殺してやるからな……」
「はっはっは、それは楽しみだ。俺たちはビリリダマ、ラクライ、レアコイル、そして俺の順番で相手をしてやる。途中で交換などという小賢しい真似はせん。お前ら弱者は思う存分しろ、そうでもしなければ楽しめないからな」
「貴様ぁ!どこまで私たちを!言われるまでもない今すぐ私が」
「くりのすけ!行け!」
戦闘エリアにはくりのすけが進んでいた。
「落ち着けサムライ、そんなんじゃ勝てるものも勝てなくなる。熱くなるのは構わんが、頭だけは冷静でいろ。今は相手の雷を半減できるあいつで出方をうかがうのが得策だ。ゆるすぎの判断は間違ってない」
相手側は既にビリリダマが出ており、二匹のポケモンが揃ったことで戦闘エリアの周りには透明なアクリル樹脂による防護壁で覆われた。
下から飛び出てきた防護壁は厚さは充分で電機以外の衝撃にも充分耐えることができそうであった。1分に1回防護壁は開く構造をしており、ポケモン交換をする際はその数秒を利用する事になっている。
「いやぁ、電気ねぇ。俺、電気は得意なんだけどさ。今のうちに降参してくんね?」
「……」
「だんまりかい。ま、しょうがねっか。弱い物いじめはあんま好きじゃないんだけど」
くりのすけとビリリダマは同時に動き始める。だがその速度はビリリダマの方が幾分か速い。全身から放たれる電気を加速力に変換し加速しているようだ。
その加速により発生したスパークがくりのすけを襲う。
「だから……俺は電気得意だって言っただろうが。聞こえてなかったのか」
スパークを意に介さず口に含んでいた種を勢いよく発射する。高速で移動するビリリダマにただの一発を当てるのは難しいと判断したためか、タネマシンガンは後半に放たれる。バースト火力は落ちるが確実にビリリダマの勢いを止めていく。
口の中の残弾が無くなり、その隙に放たれるスパークもくりのすけは避けようとすらしなかった。
「悪いな、何もタネマシンガンだけが俺の技じゃないんだ。こういうのもあるぜ」
いつの間にか地面から石を拾っていた石を両手で包み込む。
「俺の腕は今、お前さんのスパークで帯電してるからな。この帯電した両腕でローレンツ力による推力で石を発射させてもらうぜ。ありがとよ、はすべえ!お前から教えてもらった知識が役だった。即席のスピードスターだ!」
手から放たれる石は、目視が不可能なほどの速さでビリリダマを狙い撃つ。いわゆるレールガンを小型化した原理であるその石は生物が避けるにはあまりにも速すぎた。
ビリリダマがそれが攻撃だと感じたのは、衝撃の後に石が空を斬る音と自分に反射した石を確認したためだ。
「さ、分かったろ?これ以上の戦いはもう無駄だ。おとなしく降参しときなよ」
「おい、ビリリダマぁ!相手のメンツ的に俺たちの雷をまともに受けきれるのはそいつ位だ。つまりそいつがあいつらの屋台骨だ。そんなわけで、いつもの頼む」
ビリリダマの目がスッと細まる。
くりのすけは既に相手に有効打が無いと分かったためか戦闘状態を解いて相手に歩み寄っていた。
ビリリダマが目を開いたと同時に周囲の空気がビリリダマを中心に押される。続いて閃光、そして熱。
とてもポケモン一匹から放たれる技とは思えないほどのエネルギーがビリリダマより発せられた。
その空気の圧力はくりのすけの肋骨・胸骨を押し砕き、閃光は視神経を焼き、熱は全身の皮膚をケロイド状にした。
一部のポケモンのみが覚えることができる自爆。野生のポケモンがこれを使うのは外敵に襲われた際に仲間を逃がす為である。
なぜなら、この技を使う事で自らは瀕死の重傷を負い、適切な処置をしなければ絶命は逃れられない。
だが、一部のポケモントレーナーはこの技を有用に使う。治療ができる為である。自分のポケモンを傷つけてまで使う技は人道に反する、という活動家は後を絶たないが現在の時点でこの技は違反行為ではない。
理由はどうであれ目の前で仲間の命が散った。
その事を即座に認識したのはポチだった。その顔は険しく、噛みしめた奥歯には血が伝わっていた。
「次の相手が来る……。R・T、行けるか」
どちらにしろトレーナーの指示に反することはできない。
R・Tは次鋒のラクライと対峙する事となった。
ラクライの放つでんげきは。縦横無尽に電気による衝撃が発生、そして目標に向け進軍する。生物の持つ電気量を感知した瞬間にに吸い付くかのようにターゲットを雷で焼き切る技である。
本来R・Tは相手の思考を読むことで攻撃を回避するのだが、思考も何も関係なく、自動で相手を補足するこの技とは相性が悪かった。
また、元より打たれ強い種族で無い為か、一撃を喰らっただけで腕の皮膚はズタズタに引き裂かれ、一部は炭化しているほどだった。
「これはちょっと、二発目は耐えられそうにないかな……」
二発目どころではない、今立っているのもやっとだろう、と誰もが思った。
「ゆるすぎ殿!私だ!私を出してくれ!あいつの一撃を受けるとしたら私以外にはいない。大丈夫だ、もう落ち着いた」
ゆるすぎに向かって必死に叫ぶサムライの声はただの鳴き声にしか聞こえない。しかし、その思いは或いは何かを通して伝わるのだろう。
委細承知。そう言わんばかりにサムライは戦場におりたつ。
R・Tを仕留めるはずであった追撃のでんげきはを全身で受け止め、無傷ではないにしろ五分の状態へと持って行ったのである。
(私にはあんな火力の技を放つことはできない。もしかしたら同じ種類のポケモンだからできるのかもしれないが、なんにしろ今試す時じゃない。私ができることは……)
サムライは帯電している相手の電気を操作し、筋繊維にまとわりつかせる。
「オイオイオイ!威勢よく啖呵きった割にはやる事しょっぱいなぁ?ウチの方のラクライはこれっぽっちもダメージ喰らってなさそうだぞおい」
「私は、一人で戦ってるわけじゃなないんでね!ゆるすぎ殿頼む!」
ゆるすぎの撤退指示により戦場からさっと身を引くサムライ。ラクライは追撃を撃とうとしたが先ほどのでんじはにより上手く体が動かせなかった。
「勝てないと分かって撤退か。お利口さんじゃねぇか。で?次のポケモンはどいつだ?それとももう降参かい?それがいいよなぁ」
ライボルトの言うようにまだ戦場には次のポケモンの姿が見えない。
ポケモンバトルにおいてバトルフィールドに一定時間以上ポケモンを出さない事は違反行為により反則負けとなる。
「我が友くりのすけの遺志、サムライの願い、R・Tさんを傷つけた事への怒り。その全てをこの手に乗せ」
戦場に一匹残されたラクライの影が喋り始める。影は膨らみ質量を得て、その影の発生者たるラクライを斬りつける。
「俺は貴様を討つ。」
影からの奇襲。ねこだまし、と呼ばれる技である。影に隠れる下準備が必要なため、対面で成功させることは不可能な技だが、このポケモンバトルに置いては唯一それを為し得るタイミングがある。交換時である。
ねこだましによる奇襲は意識外からの攻撃であるために反撃はできない。完全なる先手を打てるのである。
「私には、あんたを倒すことはできない、だけど私には頼れる仲間がいる!頼んだよジャック」
ジャックのナイトヘッドによりラクライは戦闘不能となった。
「なかなか楽しませてくれる。余興としては充分だ。ところでな、俺らのジムは一応4匹という体裁は取ってるが、実際は2匹で十分なんだよ。でも、あんまり力の差を見せつけすぎると挑戦者がいなくなるからな。ま、最初の二匹は前座ってやつだ」
戦場には副将のレアコイル。そしてポチが既に臨戦態勢を取っていた。
「ゆるすぎ、ナイス判断だ。俺のいわくだきなら、アイツの鋼の装甲を打ち抜くことができるだろう」
ポチの新しく覚えた技、いわくだきはその名の通り岩のように硬い物に対して特に強い衝撃を与える事が出来る技であり、鋼すらその例外ではない。
はずであった。
確かにポチの放ったいわくだきは手ごたえは十分であり普段の、血肉の詰まった生身に撃つよりも大きな効果を得ていただろう。しかし、レアコイルにそれが響いている様子は一切なかった。
「お前……化け物か……」
その問いに答えることなく、返しのでんげきはがポチを襲う。如何に俊敏なポチであっても電気よりは速く動くことはできず、着実にダメージが積み重なっていく。
いわくだきによるダメージが薄い為、数々の策を弄しレアコイルに十分なダメージが通る細工をしていったが、それを上回る火力がポチを傷つけていく。
足は既に十分に動かず次の一撃を喰らえば確実に絶命する事を感じていた。
そしてその命を刈り取る雷がポチをめがけて走る。
「ちっ、ここまでかよ、まぁ……あいつの装甲にクラッシャブルポイントは作っておいたから後は頼んだぞ。ソラシド……俺もそっちに……」
目を瞑るポチの脳裏にはかつての友、ソラシドが映っていた。
「おめえはさ。ホント良い仲間を持ったよな。誇って良いんじゃねぇのか」
「あぁ、俺はさ……タイプ相性があるのは解ってたけど、トウキのジムに行けなかったのが悔しかった。今こうして、みんなの為に戦って護れて、嬉しいんだ」
「ダメだ!ポチさぁん!あんたが倒れたら誰がオイラたちを導くんだ」
ポチは抱きかかえられ戦場から放り投げられた。交換時間の一瞬ではすべえが戦場に駆け込み、ポチを退場させた。
「R・Tさんの人間の精神に干渉する能力を使って半ば無理やり交換させてもらっだ。悪いなポチさ。あんたが、仲間を傷つけたくないのはわかっけど、でもな、どう考えてもこれしか手が無がったんだ」
本来ポチの息の根を止めるはずだったでんげきはは、はすべえを捉えその全身を焼いた。
「はすべえ!何してんだ!やめろ!やめてくれ!ゆるすぎ今すぐ俺とはすべえを交代してくれ!!」
「無駄だ。ゆるすぎは精神干渉されてっから今は声は届かね。オイラを交換した後は、今傷ついてるやつを治療してもらうよう指示してる」
「ゆるすぎ!あたしの治療より先にはすべえを!やめて!あいつ死んじゃうよぉ!」
「勝つためには……犠牲を減らすための犠牲ってのが必要な時もあるんだ。あ~あ、次生まれる時は戦わなくても良くなりたいな。」
追撃に放たれたでんげきはは、はすべえの心音を現世から停止させた。
バトンを受け取ったサムライはでんじはによりレアコイルを絡め取り、ポチとの交換戦によりレアコイルを降した。
勝利を手にしたサムライとポチは勝利に似つかわしくない悲しみと怒りの感情に支配されていた。
肉体のダメージにしてもそうだ、サムライのでんじはでレアコイルの攻撃が止まるその一瞬を反撃のチャンスとする戦い。
聞こえとしては確実にダメージを取ることのできる良い戦法だが、相手の攻撃を無限に耐え続ける程の忍耐が必要となる。
外的負傷は傷薬により一時的に治癒はできるがそのダメージは決して浅い物ではない、臓器、血管に至るまで既にズタズタとなっているポチの体は、果たして次のライボルトとの勝負に勝ったとしても今後まともに生活するのは不可能なほどであった。
「だからと言って、ここで引くわけにはいかねぇよな。なんせ俺はこいつらの兄貴分だからな」
戦場に居座るポチの目の前に、一筋の稲光が落ちる。あまりの速さでポチはまばたきすらできていない。
稲光は砂埃を巻き起こし戦場の視界を奪い去る。段々と光が差し込むことを許すようになった空間には相手の大将ライボルトが立っていた。
「っとすまねぇ、こうしてジムで戦うのは久しぶりだからな。ついつい奇襲で殺しちまうところだった」
ライボルトの毛は電気を纏い先ほどまでより、一層天を衝くフォルムとなっている。
周囲の空気がパチパチと音をたて、砂埃に混じる小石がはじけていく。
「せっかくの戦いだ。あんまり速く壊れんじゃねぇぞ」
ライボルトの周りに轟雷が轟く。技としては先ほどまでのでんげきはと同じものなのだろうが
(馬鹿みてぇにでけぇ雷。練度が違うとかそういう次元じゃねェ。)
今まででんげきははその速度故に避けることはできなかったが、今目の前に放たれているそれは避けると言う選択肢がそもそも存在しないほどの圧倒的存在感を見せている。
雷の束はポチを包み込み全身のありとあらゆる部位を焼く。
あまりの電圧により周りからは直視できないほどの明かりを放つその攻撃は、視界を取り戻した者たちに絶望を与えていた。
「へぇ、耐えたか。ん?耐えてんのか?生きてるようには見えないが?」
ライボルトの言う通りであった。心臓はまだ動いており、確かに生命としてはまだ生きているという事になるだろう。だが、その目の水晶体は既に焼け真っ白となっており口からは焦げた内臓の煙が吐きだされている。
何故立つことができているのか、と言ったほどである。
「ま、前座が俺の一撃を耐えた事には褒めてやる、んじゃ次の相手に来てもらおうか。さっさと逝けや」
電気を放つことでなく、足元に溜め爆発的な瞬発力を得ることで如何なる相手よりも速く先手を取る攻撃。でんこうせっか。
ポチがどんな策を用意していたとしても、先の先を取ることで全てを蹂躙する腹づもりである。
だがしかし、その攻撃の刃が突き刺さったのはポチでは無かった。
「ゆるすぎ!はやくポチを回収して!ごめんね皆、せめてこいつにでんじは当てて麻痺らせてあげるからさ」
「何言ってんだ?お前は俺が戦う価値すらないと判断したゴミだろ。粋がってんじゃねぇぞ?」
電光石火の動きはサムライに突き刺さり、すかさずライボルトの牙はラクライの首元を捕縛する。
その顎はしっかりとラクライを持ち上げ
「俺たちの種族はな。この第三頚骨と第四頚骨がな」
持ち上げたサムライを力任せに地面にたたきつけ、そのまま顎を全力で噛みしめる。
辺りにはゴキンと、古くなった金属を折ったような音が響き渡った」
「外れやすいから、〆る時に良く使うんだよなぁ」
首を振りながら口を離す。サムライの体はズタ袋のように地面にドサリと倒れ込む。
「俺に攻撃当てるなんて生意気言うからついつい本気でやっちまったよ。けどこの骨を折る音を聞かせてくれたからお前の罪は不問にしておいてやろう」
「そうやって……勝ちに浸ってると足元をすくわれるぞ。こうやってな」
膨れ上がった影が鋭利なはもとなり斬りつけてくる。
「なるほど、ねこだまし。こうして喰らってみるとわかるが確かに虚を付かれるな。お前たちの攻撃の中で一番驚かされたぞ。だが一撃で倒せないのはまずかったな」
ライボルトは隠し持っていたオボンの実を取り出し齧る。
「応急処置としては充分だ。これでお前の攻撃もまだ数発は耐えられる。もっとも、数発も当てる前にお前はこの世から退場することになるけどなぁ!」
自らを傷つけられたことにより多少イラついている様子で、先ほどよりも荒々しいでんげきはが放たれる。
他の技であれば荒れた時であれば避けやすくもなるが、この技はその特性上技そのものがホーミングで相手を捉える。
相手の目の前に現れたヤミラミにとってはもはや影に潜む隙はなく、ジャックはこの攻撃を喰らう選択肢以外は既に存在していなかった。
激しい砂埃が巻き起こるほどの電撃。今までに受けたこと無いほど大きなダメージを食らったが、しかしジャックは立っていた。
「もしかしたらダメかと思ったけど。って、そうじゃない。フッ、どうやらお前の牙は俺の心臓に届かなかったな」
フラフラになりながらも放った反撃のナイトヘッドは、これも雷のごとき速さを持ったとしても場に作用する攻撃の為避けようがない。
互いに痛み分け、ではあるのだが、火力・速度共にライボルトが上回っており、ジャックが次の一手を打つことができないのは肌で感じていた。
「いやぁ惜しかったなヤミラミよぉ。あと2~3発も攻撃できたら俺を仕留められたかもな。あ、俺はあと一撃でお前を殺せるけどな」
空気が帯電していく。
「んじゃさっさとおっちんじまいな」
紫電一閃という言葉をそのまま体現したかのような一撃がジャックを目がけて放たれる。
その雷がジャックの体を貫いた。かのように見えたのは、ライボルトだけでは無かった。
当事者のジャックでさえ、自分が貫かれたのを見た。ような気がしたのである。
しかし、その場に横たわっていたのはR・Tであった。
「サイコキネシスの……ちょっとした応用。ちょっと他人の認知を変えて、私の姿をジャックさんと見間違えるようにしました。あのライボルトにはちょっと強めにかけたから、今頃は二匹のジャックさんに困惑してるかもですね」
「R・Tさん……なんで……」
「そうですよね、トレーナーの意思を無視してこんなことしたら、反則負けになっちゃうかもしれませんよね」
「違う!そうじゃなくって」
「でも大丈夫、今そこの防壁アクリル板は光を屈折して中を見えないように捻じ曲げてますから」
「違うよ!そんなことじゃない!どうして俺を助けたんだよ!」
「今のジャックさんは、飾っていない本当のジャックさんなんですね。素直な純粋な透き通った綺麗な……色。私その色好きです」
弱々しく震える手をジャックの脇から背中に通す様に回す。
ジャックの背中に回された手はぬるりとしていた。
「私、誰かに触れると相手の感情が流れてきて……それが怖くて誰とも距離を取っていた。知りたくない事を知るのってすごく怖くて」
背中にもう一方の腕が回される。
「でも、こんなにも嬉しくなれることもあるのなら、もっと素直になっとけばよかったな、って今になって思う」
「R・Tさん何……言ってるんだよ」
「ごめんなさいジャックさん。あなたが私に好意を向けてくれてるの、知ってたよ。私がのんきなせいで、日和見主義すぎたね。ごめんなさい」
「どうしてそんなこといきなり……」
「団長さんの頭の中を覗いた事があってね。私、したことはないけどエッチな事もたくさん知ってるんだ。ジャックさんと、してみたかったな。なんてね。あのね……ジャックさん。最後のお願い。私の事、ぎゅってして。そしたらすぐにライボルトにねこだましして」
口では疑問を投げかけていたジャックだが、目の前の命が消えかかっていることは理解できていた。
ヤミラミは先ほどまで敵を斬り割いていた手を、武器であった手を愛を掬う道具に替えR・Tの体を抱きしめた。
「あった……かぁい」
21グラムだけ軽くなる体を腕に感じ、ジャックは瞬きの間ほどしかなかった相思相愛の時と、R・Tを手放し、その手を再び闇を割く武器へと変えた。
ライボルトが認知を取り戻した時には既に異変に気づいていた。
倒したはずのヤミラミがラルトスであり、当のヤミラミは姿を消していたのである。
だが、気づいたところで影に隠れたヤミラミを補足するのは不可能であり、次のねこだましは無条件でライボルトを斬り割くこととなる。
「なるほどな、どんな小細工かは知らねェが……だが惜しかったな。あとたった一撃で俺は倒れただろうよ。だが、こうしてまだ元気に立っていられる。悔しいか?」
既にでんげきはのチャージは完了し放たれている。
「悔しいよなぁ!勝利に手がかかったところで届かねぇんだから!」
種々の雷が津波のように襲ってくる。
時は少し遡る。
既に目は見えておらず、戦闘能力は既に皆無のポチは、それでも音を聞き戦闘の空気を肌で感じていた。
ジャックが戦っている。闇からの奇襲は幾度となく成功し、それでも奴はまだ倒れていない。
どうやったかは分からないが、R・Tが犠牲となることで今一度のねこだましを当てることができたようだ。
だが、それでも奴は倒れていない。空気が帯電してく。次の一撃はジャックの残り体力では耐えることはできない。
(だとすれば俺が出来ることは。幸い今は交換ができるタイミングだ。ゆるすぎの意見を待っている余裕はない)
ポチは運動能力のほとんど失った手足を、動かすだけで激痛が走る中、全神経に命令した。
ぴょんとゆるすぎの腕に乗りそのままジャックの元へ飛び込む。
傍から見ればゆるすぎが交換の為に投げ込んだと理解されるはずだ。と判断した。
当の本人はなにしてんねん、と言わんばかりの表情をしている。
「すまんなゆるすぎ、最後のわがままを聞いてくれ。それとジャック!蹴っ飛ばすけど勘弁しろよ!」
弾丸のように飛び出たポチは宣言通りジャックをライボルトの視界から外れるように蹴り飛ばす。
ジャックを襲うはずであったでんげきははポチを襲い、もはや必要ないほどのダメージを余剰に与える。
(後は頼んだぞ、ジャック。ごめんな、皆。俺がもう少ししっかりしてたら助かってたのか)
既に見えていなかったはずの目が、今はしっかりと見えていた。
眼下には戦場で倒れているR・Tと影に潜るジャック。
そして、ポチ自身の体。
(ここから先の景色は、俺は見ることはできないんだろうな)
(そうだね、せめて勝敗くらいは知りたかったかい?でもお察しの通り君の時間はここまで)
声のした方を向くと、かつての友、ソラシドが居た。
(ソラシド……迎えに来たのか……?)
(何その口調!お前しょいこみ過ぎだろ。もう良いんだよ。昔と同じようにしゃべりなよ)
(そうは言うけど……うっ、えっ、うわぁあああん!馬鹿ぁ皆が居なくてボクは、ボクは寂しかったんだよ!)
(そうだね、ごめんごめん。俺が逝く時もお前にだけ全部背負わせちゃったもんな)
(そうだよ!馬鹿っ!だからボクは、ボクは皆みたいに強くないからどうしたら良いのかってずっと悩んで悩んで!)
(……幸せだったかい?)
(分からない。こうしてみんなを死なせちゃって、守れなかったのはとても悔しいし後悔してる。でも、後輩たちを先導し育てて、それに感謝され、愛に囲まれたのは、これ以上ないくらいに嬉しい)
(俺たちもさ、後悔は沢山あったさ。でもさ、死んでから気づいたんだ。後悔なく死ねるわけないじゃん。誰だってやり残しはあるし、後悔は決して消えることは無い。だから、それを打ち消すくらいの幸せを手にしたなら、差し引きプラスで幸せだよ)
ソラシドはポチを背中に乗せて大きく羽ばたく。
(んじゃ、行くよ!あんまり、止まった時の中に居たら地縛霊になっちゃうから)
久しぶりに駆けるソラシドとの空。ポチの体はかつての彼の姿ポチエナになっており、昔日の日を再現していた。
(四十九日経ったら次の行先が決まっちゃうからさ、あんまり長くは一緒に居られないけど、でもまた逢えて良かった)
(んだよぉ~、ボクが早く死んで喜んでんのか?)
ボクが見てるのが幻覚だったとしても……ありがとう神様。最後に素敵な思い出を。
時は再び現世へ。
虚無の瞳で空を見つめながら、既に体を起こすことのできないジャックはR・Tの手を握っていた。
「このくそボケが!最後の小細工で俺は危うく倒れる所だったぞ。俺をここまで追い詰めたのはお前が初めてだよ。仲間を二匹も犠牲にしてよぉ」
その声は既にジャックには聞こえていない。
ジャックが最後に放ったねこだましは確かにライボルトを捉えた。しかし、実践の経験の差か、とっさに反応したライボルトはほんの少し身を躱し、それがまさに文字通り紙一重の差で致命傷を避けた。
或いは天が少し味方をすればジャックが勝者になっていただろう。だが、現実として今のこの場に立っているのはライボルトだった。