【ポケモンエメラルド】失ったポケモンは二度と戻らない。【ポケモン視点】 作:null cedar
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俺の目の前に現れた敵はかつて見たアイツに似ている。
確かツツジって奴が使ってたよな。岩のような見た目、岩のように硬い体、岩のように強固な腕。アイツは強かった。
そう、確かノズパスか。
仲間たちからはまおって呼ばれているようだ。
アイツのトレーナー、つまりゆるすぎってやつは、きんたまおって呼んでるからそれがフルネームってところか。
ニックネーム……良いよな。俺達もさ、お前らの前ではハルカは恥ずかしがって呼ばないけど、あるんだぜ。キャンプの時とかでは読んでくれるんだよ。良いよな、自分だけの名前ってのは。良いよな、こうしてトレーナーの為に戦えるってのは。
いや……俺は強いやつと戦う、ただそれが楽しい。
ノズパスは……間違いなく強敵だ。ツツジのとやり合ったときは俺の攻撃が当たってるのにも関わらずそれを無視して、アイツは俺の足を掴んでぶん投げてきたよな。あんなに脳が揺れたのは初めてだったよ。
だけどおかげで学べたんだよな。攻撃するときは一撃だ。チャンスは一回と思え。
その攻撃の為にありとあらゆる準備をしろ。
そしてそのための準備を俺は……トウキのマクノシタから学んだんだっけな。
アイツから盗んだ技「ビルドアップ」。心臓の動きを活性化させ、血液を体中に巡らせることで筋肉の稼働率をあげる技。
最初に見たときは、攻撃もしてこない技で隙だらけと思って喜び勇んで殴りかかったっけかな。
俺の攻撃はアイツの脂肪に包まれた、パンプアップした筋肉に弾かれほとんどダメージが入らなかった。能力をフルに発揮した筋肉というのはまさに鎧であり、そして棍棒のようだった。
俺の攻撃はアイツの肉体に弾かれそのままカウンターの一撃を食らったんだよな。
壁まで吹き飛んで、無様なもんだったよ。俺はそこで瀕死の重傷を負ったようで、残りはペリッパー、当時はキャモメか。あとはハスブレロが協力してなんとか倒したらしい。
それを知ったのは、ポケセンで治療されてからだったな。
そう言えばコイツラは瀕死の重傷を負ったらそのまま死んじまうらしい。
負けたら死ぬ。当たり前のことだ。
俺達は……どんな傷を負っても治療される。人間の科学力って奴の賜物らしい。
いつまでも戦える反面、死によって開放されるお前たちが羨ましいぜ。
どんなひどい怪我を負っても、どんな激痛でも無理やり治療されてまた前線復帰。また、痛みの恐怖と向き合いながら戦う。それはそれでなかなかタフな心が必要なんだぜ。
ま、どんだけ言っても栓は無いがな。
だから、俺はお前たちを殺すことになっている今も躊躇はしない。
お互い様だよ。
俺だって何度も死ぬほどの痛みをお前たちに与えられたんだ。
最初は、キモリだったな。アイツとは研究所でよく本を読んでたよな。
次はエネコか?確か魅了されまくったよな。今思えば恥ずかしい。雌ってのを知らなかったせいで、ハニートラップってやつだよな。
それから……影のようなやつとも戦ったな。
毎回、俺は勝てなかった。毎回俺は死ぬほどのダメージを負った。
肉体にも、精神にも。
知ってるかい?負けたやつとまたやる時の恐怖。体の傷だけ癒やされて、心はベッキベキのまま戦うんだぜ?でもな、そうやって負けたやつに勝たないと心ってのは復活しねぇ。
だから……今俺はお前達に勝たせてもらうよ。
ノズパスはでんじはで俺の体を絡め取り運動性を殺してから、10まんボルトで着実にダメージを与えてきた。
電気で搦めて避けられない攻撃をしてくる。確かテッセンのおっさんのところのジムでも電気で苦しめられたっけな。
こういうときは焦っちゃ駄目なんだよ。あの時も焦って攻撃して仕留めきれなかったビリリダマに手痛い攻撃を食らった。
だから今俺はこうして落ち着いていられる。
呼吸を整え、気を集中しビルドアップを行う。体の隅々まで神経が繋がっていくのを感じる。
帯電した空気の皮膚が敏感に感じ取る。アイツから発せられる電気の道筋が感じ取れる。
電気の流れとは即ちアイツまでの最速距離だ。最短ではない。電子が選んだ、最も抵抗の少ない、エネルギーを殺さない道筋。
それが今俺には感じ取れている。
そのノズパスから引かれた道を俺は今、疾走る。
俺の体は十分「成った」。今こそ反撃の時だ。
最速の道を駆け抜け俺の右足はノズパスの左側頭部目掛けて振り下ろされる。
ノズパスは左手を上げその蹴りを受け止める。スネに激痛が走る。石のような硬さの腕で防がれたのだからそりゃこっちにもダメージは来る。
でも、俺がこれだけ痛いんだからアイツだって同じくらい痛い。だから俺はこの痛みが嬉しい。
だから俺はこの足を引かずにそのまま撃ち抜く方向に力をいれ、ガードしている腕を押し込む。
腕は顔の横まで押し込まれる。
そこで俺は伸ばしていた右足首を起こしノズパスの左目の上のでっぱりを爪で掴む。
俺の足の握力は手よりも強い。そしてその俺の右足を振り払おうとノズパスの腕が外方向に動く。狙い通りのビンゴだ。
おかげで今この瞬間ノズパスの正中線はがら空きだ。
普通なら蹴りを放った直後の右足をまた降ろさないと次の攻撃は出せない。それが常識だ。
だが今俺の右足はノズパスの右目の上を掴んでいる。
言い換えるか。右目の上に着地している。
右足の握力を最大限に高める。左足に力をいれ大地を蹴り上げる。
右足はしっかりと相手を掴んだまま自分の体を引き込むように力を入れる。
左足は曲げられ膝蹴りの形を取る。
正中線ががら空きの今、この速度の攻撃を受けることは不可能だ。
相手を掴んだ状態から出しているので避けることも当然不可能だ。
俺の左足はノズパスのど真ん中に当たった。
膝に伝わってくる感触は右足で受けた痛みとは違い、岩を砕いた確かな感触が伝わってくる。
にどげり。
幾百の勝利と幾千の負け、仲間との協力で生み出した俺の技だ。
見ていてくれたか、ハルカ……。俺達は強くなったよ。
でもゴメンな、今はここまでだ。
悔しいよな。今まではまったく歯が立たなかった。
でもさ、今……こうして手が届くと思ったら、俺達でも勝つことができる可能性を知ったら、泣きたくなるよな。
分かるよ。お前は笑っては居るけど、今心で何を感じてるかなんて手にとるように分かるよ。
俺は誰よりもお前と一緒に居たもんな。
次こそは……勝ってみせるよ。だから今日は、今日だけはこのノズパスだけで許してくれ。