【ポケモンエメラルド】失ったポケモンは二度と戻らない。【ポケモン視点】 作:null cedar
youtube:https://www.youtube.com/watch?v=vkR86gWdC00
ニコニコ:https://www.nicovideo.jp/watch/sm43258298
四天王カゲツ
どうやらチャンピオンの門番的な存在らしい。
その実力は四天王という名前に相応しい。
先鋒のグラエナはツバサが相手をし、なんとか勝つことができた。
そして今、二体目のポケモンが姿を現した。
そのポケモンを見て俺は思い出す。サイカを。
そりゃあ今までアブソルなんてたくさん見てきたさ。だけど、今回のアブソルは何かこう……違う。
それは戦闘中により感じることになった。
ウチからはハコワレが出て相手をすることになった。
ハコワレはお得意の地震でアブソルにダメージを積んでいくが、アブソルはそれを特殊な歩法で自らへのダメージを緩和しているように見える。
おそらく体のバネが普通のアブソルと比べるとあるのだろう。筋肉がしなやかで、おそらく筋肉と骨をつなぐ健も通常のものと比べると長い。
それを感じさせる優雅とも思える歩法。地震の揺れに対応して自分の中の健と筋肉をショックアブソーバーのように対応させなるべく身中へのダメージ通過を和らげてやがる。これがトップの技か……。
そして、地震が収まったのを確認したその足は止まることなく次の動作に移った。
アブソルはピョンピョンとハコワレの周りを飛び回る。その動きはおそらく攻撃への予備動作……なんだろうが、あまりの優雅さに目を奪われる。まさに舞。飛び回るアブソルの軌道上の残像に光が乱反射し、あたかもアブソルに羽が生えているかのように見える。だが、それと同時にその動きの持つ有り余る殺意は、あまりにも凶悪な刃を想像させる。まさに死への前奏曲を思わせる剣の舞とでも言うべきか。
その舞を続けながらアブソルは口を開いた。
「俺が野生だった頃、俺達は1つの群れを形成していた。自分で言うのも何だが俺はその群れの中で頭2つは抜けていたな。その才覚を見いだされてカゲツに捕獲されたわけだが……」
どうした?いきなり自分語りが始まったぞ。
いきなり自慢話されても楽しくねぇが。
他人の自慢話ほど退屈なもんはねぇからな。
「で、その群れの中には俺の妹的な存在もいた。いつも俺の後をついてきてな。この剣の舞もいつもキラキラした目で見てくれてたよ。いつか俺のように待ってみせる。俺のように翼を生やすってな。実際翼が生えてるわけじゃないのに、アイツにはそう見えてたんだろうな」
語りながらもアブソルはピョンピョンと残像を見せながらその攻撃力を増しているように感じさせる。
跳ね上がる高度が少しずつ低くなっているように見える。攻撃の瞬間が近づいている、ということだろうか。
「ところでジムリーダーの父親に八百長までしてもらってここまで来たあんたらに聞きてぇんだがよ……どうしてアイツを……お前たちの中ではサイカを……殺した?知らねぇとは言わせねぇ、オメェらが祠の封印解いて入っていって、しばらくしてアイツの亡骸を連れ帰ってるのを見たからな……。有名人は顔が割れてて辛いな。すぐ目に止まっちまう。なぁ、八百長リーダーの使い走りさんよ」
殺意のこもった言葉を発しながら、舞の高度はどんどんと低くなっていく。
そこで俺は気づいた。なぜ舞が低くなっているかを。
高い位置からの着地はエネルギーを生むためだ。そのエネルギーを何に使ったのか。
それは、今、舞の高度が低くなっている事から予想できた。
着地の衝撃で筋肉と健を圧縮していたのだ。
つまり全身のバネをどんどんと圧縮していく。圧縮されたバネを開放せずにまた飛ぶことで少しずつ次のジャンプの高度は低くなるが、体のバネはどんどんと圧縮されそのエネルギーを増していく。
そして今それは最高潮に達しようとしている。
ハコワレはその正体に気づいているのだろうか……。
「とんだ災禍だったよな……サイカはよぉ……悔しかったよな、自分の本懐を全うできずに八百長トレーナーのポケモンって汚名を着たまま逝くなんてよぉ!」
ドシュ!
砂埃と共にアブソルが姿を消した。ハコワレは咄嗟にアブソルの方を向いてガードを固めるが、そのガードしている箇所に攻撃は来なかった。
頭に血が登ってはいるようだが判断は冷静、ってことだろう。
まっすぐ突っ込んでくる攻撃ではそのためた攻撃力を十全に活かすことはできない。
だからその攻撃力、バネを活かすためにすることは……。
気づいちまった。多分、俺が仲間の中で一番最初に気づいたんだろう。
それはきっと、アイツを、サイカを一番見て一番会話していたのが俺だから……というのは驕りか。
だが、事実はどうあれ気づいてしまった。だから俺は、ハコワレを守るために動いてしまった。その先に俺の生きている未来が無いことは分かっているのに。
「どけぇハコワレ!上だ!アイツは天井ぶち抜いて瓦礫でいわなだれと同等の事を狙ってやがる」
言いながらハコワレに体当たりをして強制的に退場させる。
俺の予想通りアブソルはためたバネで真上に飛び天井に穴を開けていた。
そこから降り注ぐ瓦礫はハコワレがいた場所、今は俺がいる場所に降ってくる。
最初から戦場に俺が立っていれば気づいて避けられたか。ハコワレに早めに呼びかけていれば助かったか。……何言ってんだよ、こうなること分かって突っ込んだんだろ?
降り注ぐ瓦礫は俺の体を正確無比に打ちつける。コンクリートが顔を打ち、せっかくの立派な牙は折れ、鉄骨は体に突き刺さり、昆虫標本のように俺を地面に打ち付ける。
その瓦礫の上にアブソルは音もなく着地する。
「勇敢なトドゼルガだな。朗報だ、このチャンピオンリーグの試合はエンタメ性もあるため全国放送されている。今の行動で視聴者は大盛りあがりだろう。じゃあな、天国のアイツによろしくな」
アブソルは俺に背を向け次の戦いに向けたポジション取りをしている。
俺にはもう戦闘能力がないと判断したらしい。ま……無いんだがな。畜生。
俺の姿を見てハコワレが急いで駆け寄ってくる。
目には涙を浮かべている。
どうやらアイツの目にも俺がもうダメだって写ってるらしい。余程なんだな。俺の傷は。
「どうして!どうして僕なんかの為に!?」
どうして、って……どうしてなんだろうな。戦力的に冷静に考えたら俺とハコワレはどっこいどっこい、いや進化の都合上俺のほうが少し上か?
じゃあ仲間の死を見過ごせなかったからか。それは……あるかもな。ハコワレが傷つく姿は見たくない。アイツが……サイカが逝った時だって身が割かれる思いだったもんな。
それに、サイカと生活を共にしていたから攻撃の方法に気づけた。そのサイカからの最後の気付きという贈り物を……活かさずにはいられなかった。サイカの思いを無駄にしたくなかった。
そのために自分の命を犠牲にかぁ。冷静に考えたらこのトレードはどうなんだろうな。
俺の命を差し出して、ハコワレの命とサイカの誇りを護った。うん、悪くねぇな。
とは言え、これを答えられるほど肺の酸素は残ってねぇなぁ。
俺は、折れた歯を手に取り、ハコワレの頭に角のように乗せた。
「こうしたら、耳みたいだな。かわいいお前にお似合いだ。向こうでサイカと一緒に見ているぞ」
「うっ……あっ……トドドさん……」
ハコワレの感情が伝わってくる。悔しさ、悲しさ、自分への憤り。
その感情の全てが爆発している。
「……一緒に行きましょう!トドドさん!!」
奇跡、ってやつなのだろうか。俺の牙がハコワレの頭に融着していくようだった。
牙だったそれは段々とハコワレの一部となり、長い触覚のようになっていく。
そしてそのままハコワレは光に包まれ、まるでドラゴンのようなフォルムになっていく。
爆発した感情と、進化したてで、進化のエネルギーがまだ詰まっているであろう俺の牙が化学反応でも起こしたのだろうか。
予想なんてどうでもいいか。俺の力が仲間の役に立った。それが嬉しい。
俺の判断が未来を拓くなら悪くない。
目が霞んでいく。
ハコワレがどんな姿になるかは、見ることはできないようだ。
最後の最後に意地悪だな。神様ってやつは。
でもまぁ良いさ、最後に気づけた。
サイカは俺に託し、俺はハコワレに託した。こうしてバトンを渡し続ける限り俺たちは死なない。
なぁ、サイカ。笑えるだろ。戦闘で全然活躍できなかった俺が、こうして最後の最後にチームが進む力になったんだぜ。
「ったく、笑えないっての。笑ってやれるかよ。最後の最後まであんたってやつは」
「なんだ、迎えに来てくれたのか。ありがと……よ」