【ポケモンエメラルド】失ったポケモンは二度と戻らない。【ポケモン視点】 作:null cedar
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とある町の場末に古くからやっている食堂があった。
食堂の中は4人が座れるテーブルが2つだけという小さなものだった。店主が一人だけなのでこれで手一杯だという。
ここに来る客の多くは独身の男性だという。まれに既婚者や女性も来たりするが、やはりメインの客層は独身の「情熱」を宿した男性が多いという。
その情熱はこの店のシステムと強く関係がある。
この店ではポケモンリーグを店のテレビで流している。それを客同士が見てあーだこーだと言いながら食事をする。所謂スポーツバーなどに近い形式である。
そして、この店独自のシステムがあった。それは挑戦者のポケモンが戦闘不能になった際にそのポケモンの苦労を労うため、そのポケモンを食材としたメニューを無料で提供する、というものだ。
しかし、客側もそれらの無料のメニューをそのまま無料で受け取ることはしないことが多い。あるものはチップを、あるものは店主に向け米や野菜ジュースなど、日頃食べるものを提供したりする。
そんな不思議な関係が店主と店側の間で構築されている。
そして、このポケモン料理提供システムがこの食堂の多くの客に、暗い情熱といっても差し障りない情熱を植え付けた。
それは、挑戦者のポケモンの負けを望む情熱である。
競技の性質上、多くのものは挑戦者を応援する。しかし、ここの店のシステム上、挑戦者が負けると珍しい料理が提供される。それを目的とした客層は挑戦者のポケモンが戦闘不能になるたびに
「メシウマァアアアア!!」
と狂喜乱舞するのである。
同じようにポケモンリーグを見ながら食事をする食堂・バーなどはあるが、大抵は挑戦者を応援する明るい情熱であることが多い。
ここはそういった、他とは一味違う空気を纏っているためこういったコアな客がメインになるという。
そして今日も食卓にはトドゼルガの大和煮とカイロスの素揚げが提供されていた。
「大将!トドゼルガの肉ってのは獣臭さはあるけどなかなか美味いね。醤油で煮込んでるからうまいことその獣臭さが緩和されててうめぇよ」
「そうだね、それにカイロスの素揚げもなかなか独自な味だ。なんだろうなこれ、土臭さは残ってるけど凝縮された野生の味って感じだ。殻ごと食べるのはびっくりしたけどなかなか良いね、エビみたいだ」
各々が感想を漏らす。
テレビには今の挑戦者ゆるすぎが最後の四天王ゲンジと戦っている姿が写っている。
「しかしよ、さっきの戦いなんかおかしくなかったか?プリムさんの絶対零度が3回も外れることなんて今まであったか?」
「そうだよなぁ、それに今のゲンジさんもなんか動きがぎこちないな。いつものゲンジさんのボーマンダなら流石にこんなことないよな」
挑戦者が勝ち進んでしまうと食事が提供されないという形式のため、挑戦者が有利な展開になると必然的にこういったヤジが出始める。
ヤラセだ、運だけジジイが、など普段の生活では口にできないような汚い言葉が飛び交う。そういった言葉を思いっきりしゃべることができるのもここの人気の1つだろう。
「ところで、なんでこの挑戦者は戦闘不能になったポケモンをそのままにしてるんだ?」
「あぁ、ポケモンリーグ挑戦者登録サイトによるとそいつは戦闘不能になったポケモンをそのまま埋葬するらしい。なんでも、保険料の納税料が少ないので満足な治療を受けられないそうだ」
「おいおい、今どきそんなやつがトレーナーになるのか!?」
「俺もおかしいと思ってちょっと調べてみたんだ。そしたら、ソイツの親はあのジムトレーナーのセンリさんらしいんだ」
「あ?上級公務員じゃねぇか?だったらその家族は福利厚生の一環で蘇生サービスも受けられるだろ?」
「そうなんだ。どうやら、この挑戦者は戦闘不能になったポケモンを埋葬するという独自の挑戦しているだけらしい。それを動画サイトにアップすることで小遣い稼ぎでもしてるんだろう」
もちろんこれは半ば酔っ払った客たちの推測に過ぎない。
事実としては、挑戦者は既に扶養を外れており実際納税額が少なかったのだ。
だが民衆の根も葉もない噂というのはいつの時代もある。陰謀論などもその類だ。
悪口は最も安価なエンターテイメントとはよく言ったものである。
「なんかそれって、ペットショップで買ってきた猫を海で拾ったみたいな同情誘ってるチャンネルみたいだな、キッショ」
「それで、話はまだ続くんだが、センリさんの息子ってことで気になって調べてみたんだがどうやらこの挑戦者がノーマルジム、つまりセンリさんに挑んだ時なんだが……ヤラセ疑惑が出ているんだ」
「まぁ息子だもんな、勝たせてやりたいわな」
「そう、息子だからな。んでその息子はヤラセを良しとしているわけだろ?つまり……」
「あ~なるほど四天王の動きが悪いのはそういうことかよぉ。ったくいくら積んだんだろうな」
たとえ事実がどうであれ、こういった場での憶測ではとんでもない憶測というのは飛び交う。大抵は事実と異なる。
「あ、そういえば思い出したぞそのヤラセ疑惑。確か文瞬オンラインで見たわ。確かプラスルとマイナンにたしろくわまんって名付けてたやつだよな?お笑い好きなのか?金もたくさん持ってるみたいだし、こいつも女集めてわいせつこういしてるんだろうな。いっそプラスルマイナンもマツモトオザワにでもすれば良かったのに」
そこまで言った時に隣の席の客が、持っていたコップをドンと音がするほど強くテーブルに叩きつける。
「いいかげんにしろお前ら!そんな事実無根の話で他人を卑下するな!!」
全くそのとおりである。言葉というのは凶器であり、それは投げつけられた相手だけでなく、それが耳に入った他人、自分自身の心にさえ悪いように作用する。
その挑戦者もそのように女性を集めたパーティをやった事実など一切なく、そもそも初対面の女性と喋ることすら苦手という性格であった。
そしてその反論した客は言葉を続けた。
「まっちゃんがそんな事するはず無いだろ!!そんな事しなくても魅力的だから女から言い寄ってくる!そんな金を積まなきゃ女も抱けない、顔もどこぞの山賊と見分けがつかない挑戦者と一緒にするな!」
テレビには挑戦者が四天王を突破しチャンピオンに今挑もうとしていた。