【ポケモンエメラルド】失ったポケモンは二度と戻らない。【ポケモン視点】 作:null cedar
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今日の挑戦者は……数日前に来た中年のような若造のようだな。
プリム殿がワシらに余計な情報を与えたせいで前回はついつい手を抜いてしまったんだったな。
まさか、相手方は負けたらそのままポケモンが死ぬとは……この戦いの最高峰である四天王戦でそんな成約を入れたまま挑むものがいるとはな。
流石に興行的な側面の強いポケモンバトルで殺生までしてしまうのは躊躇った。
その躊躇いはワシの奥義である絶対零度に鈍りを見せたんだったな。
当たれば死ぬ。その事実は覚悟を鈍らせた。殺すという行為を生きる目的以外に行使してしまったらそれはもう快楽的な殺しを楽しんでいることに他ならないか?
だが、それは杞憂だった。
彼らは以前ワシらを倒して、ゲンジも倒し、チャンピオンミクリに挑んだ。
惜しくもそこで破れはしたが、そこでの命の煌きは見るものに確実に何かを与えた。ある者にとっては歓び、ある者にとっては悲しみ、ある者にとっては勇気。なんにしろ心を動かした。まさに感動である。
ワシもあのような、まさに命を賭けたぶつかりに甚く感動した。
そして、その命がけの戦いを受け取った身として、一度は手を抜いた事を酷く恥じた。
今目の前にいるポケモンはケッキング。その実力はグラードン、カイオーガにも並ぶと言われている。
そんな強大な存在が命を賭けた戦いを挑んでくる。モノノフとしての血が騒ぐ。
だが……本当にこのような鍛え上げた存在を屠ってしまって良いのか?
この場に来てまだ悩んでいるのか……最後の一歩を踏み切れずに冷凍ビームやなみのりでギリギリ死なない攻撃を仕掛けてしまう。
しかし、そんな攻撃を意に介さない反撃がワシを襲う。
その目には一点の曇りも無い。
ただただ自分の、そしてトレーナーの勝利だけを視ている目だ。
あまりにも純粋なその気持と力は、他の一切を孕むことが無い。
美しい。そう思ってしまった。
そう、煩雑さの一切ない、唯一つを目的とした存在というのは例外なく美しく、そして応援したくなる。
だからこそ、決心が付く。ここまで本気のものに、本気以外の何をぶつけるのか。
部屋の熱量を吸収していく。
原子の電子運動がどんどんと緩やかになっていくのを感じる。
この時ばかりはいつも相手のポケモンを心配する。
たとえ治療ができるとしてもこの技が危険すぎるからだ。後遺症が残ったポケモン、未だ目を覚まさないポケモン、枚挙にいとまがない。
しかし今だけは例外だ。命を賭けた全力に応える。
これは戦いというコミュニケーションに対する返事なのだ。
あぁ、ケッキング。今はお前を抱きしめたいよ。
ケッキングの熱量がどんどんと失われていくのを感じる。
ぜったいれいどと呼ばれるこの技。これはワシが冷気を出しているように思われているが、実際はワシを中心として半径数メートルの空間に熱を吸い取る事をさせている。その熱をワシに還元することでワシだけは冷気を失う事を逃れている。今、ケッキングの肉体は恐ろしい勢いで熱量が吸われていることだろう。
温度が下がるというのは、肉体においては器官、組織、細胞の活動の低下を示す。
それは更にミクロの世界での、すべてのものを構築する粒、分子・原子の結合を司る電子の動きの低下により起きる。
今ケッキング内の細胞原子の電子はほぼゼロの状態になっている。
この電子が完全に動かなくなる状態を真の絶対零度と呼ぶ。本来の絶対零度に至るには無限のエネルギーが必要とされ、もしそれが成された場合は宇宙の死が始まると呼ばれている。
そこまでのもので無いにしろ、今ケッキング内で起きている温度低下はケッキングという存在を死に至らしめるには十分だった。
ケッキング内の臓器はその活動を停止し、細胞の結合は緩慢となり崩壊を起こしていく。ケッキング内の生命活動は既に停止していることだろう。が、ワシは戦慄した。
命が終わっている肉体のはずの目は、そこにはまるで命の火が灯っているかのようにこちらを見つめてくる。
たとえ肉体がなくとも、魂だけで攻撃されている気分だ。
まさか勝利が確定したこの状況で恐怖するとは……。美しい。その魂の信念がとてつもなく美しいと感じた。
できることならその魂をも凍らせ永遠のものとしておきたい。
そう考えている間にも、空間は更にケッキングから執拗にエネルギーを吸い取る。
肉体は細胞を維持できず崩壊していく。空間には命だった結晶がダイヤモンドダストとなり輝きを見せていく。
ここまでの本気でこのぜったいれいどという技を使ったのは始めてだ。
ケッキング、お前という存在を未来永劫忘れることは無いだろう。
そしてゆるすぎと呼ばれるトレーナーよ。できればお前をチャンピオンにさせてやりたい。
だがな、ワシも切り札としての誇りはある。悪いが手を抜いてやることはできない。
さぁ、次の手を見せてみるが良い。