原作知識を駆使してシロナさんを釣ろうとする前に全然違うヤツが釣れる話 作:鹿頭
───顔を突かれる様な痛み。
唐突な感覚に、意識は浮上する。
目を開けるとそこにはカモメ……の様な何かが、胸の上に乗っていた。
まんまるとした胴に、ネコのような耳らしきとんがり。
水色の縦線が入った長い羽に、先が黒い嘴。
「キャモメ……だよな」
呆気に取られているとキャモメはひとつ鳴き声をあげて、空へと飛び立っていった。
「えぇ……」
夢かと思い頬をつねるとやっぱり痛い。
怪しげな煙を吸った覚えも無い。
身体を起こすと、どうやらここは海沿いの、港町らしい。
自分は、その町の中にある、岸壁の上に横たわっていた。
「いやいや…」
その、知らない筈の町には見覚えがあった。
自分が知っているそれよりは、遥かに大きいが。
───ミオシティ。
シンオウ地方にある、港町。
それ、即ち。
「ポケモンの世界……ってコト!?」
ふざけてはいたが、内心は平静ではなかった。
異世界に来た。
ポケモンの世界だった。
ここはシンオウ地方だった。
それは良い。
いや、あんまり良くないがひとまず置いておく。
昔、ダイヤモンド・パールやプラチナも当然遊んだ。
時を経た後に発売されたLEGENDも遊んだし、なんならキタカミの里の主人公の事を少年と呼んでくれそうな(呼ばない)カメラマンの存在には、ヒスイ地方での思い出を踏まえてワクワクしていた。
そんな世界に憧れた子どもの頃からの夢。
眼前にはその夢がある。
ライトユーザーだろうが、廃人だろうが、少しでも、あの頃を過ごした思い出があるのならば、興奮しないはずが、無い。
だが、もう子どもではない。
身一つで投げ出される事の恐怖と絶望を知っている。
下手人最有力候補の創造神にはあった覚えはないし、自分のスマホは持ちづらい形に改造されていない。
───もっとも、電波は入らないみたいだが。
自らの記憶は明瞭であるから、ウルトラホールによるものでもないだろう、とあたりをつけられる。
いや、現実世界とポケモン世界を結ぶウルトラホールとかそれはそれで別の問題があると思うが。
確かに、ポケモンというゲームは好きだ。
好きだが、これはないだろうに。
───アルセウスのバカヤロウ!
かつて邪神に拉致られた少年/少女は、ラベン博士という聖人に初手出会したのが大きい。
それに加え、ヒスイ地方が開拓期である事から、労働を対価として生存が許された。
だからこそ、知っている。
《ポケモンはとても恐ろしいものだ》と言うことを。
所持金もここでは役に立たず、モンスターボールも持っていないし、食料もない。
「いや、マジでさぁ…」
岸壁に下りて、改めて町並みを見物する。
ゲームとは違い、シティというだけはある規模の港町だ。
アニメ版がこんな様な広さだったと記憶している。
【ミオシティ】
そう書かれた看板が、改めて──
「読める……」
よく見ればゲームでみた文字。
アンノーン文字なら自力で読めるかも知れないが、解読班でもなければ読める事もないだろうそれが、日本語である様にわかる。
……文字が読めて本当に良かった。
流石にそこまでダメだと本格的にどうしていいのかわからなかっただろうから、ひとまずはよしとする。
邪神からのおくりものとでも思っておこう。
と、なれば、次に取る行動は決まってくる。
───ミオ図書館だ。
◆◆◆
かつてのヒスイ地方からシンオウ地方のすがたに発展していく過程はとても興味深かったし、ぼんぐりと石からモンスターボールを作り出す方法も知れた。
作れるとは言っていないが。
10歳で故郷からさよならバイバイするような世界の教育状況はポケモンに全振りだった。
我々が勉強する様な知識はポケモンとの仲がまだ深まっていなかった頃は兎も角、今では一部の人が好き好んでやる感じになっているらしい。
まぁ、ポケモン居るならなんとかなるもんな、うん。
そのポケモンを捕まえられないのだが。
問、モンスターボールを手に入れるには?
答、ほごしゃのかたからもらいましょう!
………ダメだ、詰んでいる。
10なんかとっくに過ぎているこの容姿だ、どうしようもない。
気を取りなおして、考える。
シンオウ神話に関しては、ゲームで開示された情報より語彙力が高い論文等が多く所蔵されていた。
その中でも一際目を引くのは、やはりなんと言ってもシロナが書いた論文だろう。
尤も、目を引いただけで内容が合ってるのかどうかは原作知識の範囲を越えられると全くわからないのだが。
「そうだシロナ……!」
刊行されている範囲ではあるが、ギラティナの話が一行たりとも出てこない為、原作前と考えられる。
それならばこの知識は
ヒスイの時代を知りアンノーン文字すら読める(たぶん)のだ、数多の地方の神話とその真実を小出しにしていけばシロナさんの助手になんなり収まることが出来るはずだ…!
そうとなれば行動だ!
シロナさんどこにいるんだっけ?
ダメじゃん。
野望は現実の前にあえなく散る。
何処にいるかもわからないし、ポケモンを持っていない以上、ミオシティから動く事は危険だ。
その上一文無し。
今日の飯すら危うい。
「おのれアルセウス……」
ファッキューアルセウス。
メシをよこせこのやろう。
元の世界に返せこのやろう。
ノボリさんも返してやれこのやろう。
どうしようもない現実に、ポケモンセンターで泣き喚いたりすればなんとかなるかな、なんて考え始めていた所───だった。
「神話に興味が?」
「!!!?」
───心臓が止まるかと思った。
背後から突然声を掛けられたのもそうだが、この声の主に一番、驚きを隠せなかった。
「やー、すみません! 驚かせてしまったようで! ジブンは哲学をやっているものでして」
男の言い方はどこか、白々さを感じさせる様な言い方だった。
───哲学者。
プラチナにおいてミオ図書館で出会える妙に神話に詳しい男が、そこに立っていた。
だが、彼は。
「大量に本を読まれていたのが珍しく、つい声をかけてしまいました。ジブンは、哲学の他にも様々な地方の神話を調べたりしていまして。その中でも……アルセウス。シンオウ地方に伝わる絶対的な存在」
彼は────
「世界の創造主、或いはタマゴから産まれた始まりの存在。時間を司る神ディアルガと空間を司る神パルキア………を産み出したともされている、シンオウ神話における主神───この存在を知っている人は研究者にも中々居なくてですねー、アナタ、相当お詳しいとみました!」
「まぁ……そう、ですね。それなりには…」
「やはりそうですか! しかし、どうして何故《おのれアルセウス》などと呟いていたのですか?」
いや、コイツ目が笑っていない。
全然諦めてねーじゃねーかどうすんだよこの状況。
言い方次第では……どうなるんだ?
「───おっと!」
どうしようかと悩んでいると、こちらが口を開く前にいけないいけない、と男は頭をかいてから、申し訳なさそうな素振りを見せた。
「失礼しました。なんでも根掘り葉掘り聞こうとするのはジブンの悪いクセでして」
そう言うと男は自分の背負っている鞄を漁り、あるものを取り出した。
「お詫びにこちらを差し上げましょう!」
モンスターボール を 5コ てにいれた!
えっ、こんな感じで手に入っていいの?
如何にかして入手できないか、と考えていたから、望外の喜びではあるのだが。
「───使い方はわかりますか?」
そんなもの、常識だろう。
この世界では。
わざわざこんな問いを投げかけてくるのは、異なる世界から来たと推測しているからなのか。
それとも、純粋な善意か。
「え、ええ。(本で読んだから)知ってますよ」
「……そうですか! それではこの辺で失礼します! また会えたらその時、神話についてじっくり語り合いましょう!」
そう言うと、自らを哲学者と名乗った男は去っていった。
しゅじんこう
もんなし ポケモン
この後ヒスイ式でポケモン捕まえに行った。
食事はその辺のきのみでなんとかした。
アルセウスが冤罪か有罪かはわからない。
シロナさんのヒモになりたい。
哲学者
例のアイツ。
ミオシティの岸壁に突如現れた一文無しを目撃した。
ボールを渡したのは文無しがポケモン持ってないガチのヨソモンだと文無しが読んでた本から推測したから。
とは言えアルセウスとの一言が無ければ渡していない。
第二ラウンドの予感を感じている。時期は間違っていない。