田舎の喫茶店   作:紳爾零士

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ゼイユ可愛いよ、ゼイユ…。


ヤブサ

キタカミ。

綺麗な田園風景の田舎で、風情がある。今の若者なら、スマホロトムを持っていなければ発狂するだろう。独特の方言を持つここの人間に毒されて、いつしか余所者である私はここに暮らすことにした。

 

ホーホーの囀りも、ヤンヤンマの羽音も。

 

父の付き添いで此処に来ていなければ、気にもしなかっただろう。不便を楽しむのが、この田舎の楽しみ方だ。

 

独り立ちした私も父の同意のもと、ここに暮らすことにした。無論、仕事をしていないわけではない。私はここでリンゴ農家を営み、そして、カフェを営んでいる。父のツテでリンゴ農園付き庭付き畑付きの二階建ての古民家を借り、生活も込みで営んでいる。

 

老夫婦だけでなく、若い子供たちにも人気だ。特に蜜入りリンゴの果汁を炭酸水で割ったリンゴソーダは若い子たちにはとても人気で、割と私も楽しんで作っている。

 

りんごだけではなく、近所からは野菜や米、遠方から小麦や卵、牛乳などの乳製品なども仕入れている。最近は遠方の友人からの助言でインターネット商売なるものを始めた。まぁ、要するに遠方の方にも私の商品を楽しんでもらおうというのだが、素人の指遊びがいい値段するわけもなく、赤字も赤字。よくガスや水道を止められないものである。

 

今はリンゴの皮を剥いている。

刃元を皮に当てて、リンゴを指で回していく。そのリンゴを小さいサイコロ上に切り、同じくサイコロ上に切ったオレン、うちの子は甘いのが好きなのでモモンの実を入れて和える。それをいい具合に更に盛り、フローリングの床に置く。

 

「お食べ。」

 

…現れるのは私の相棒であるキュウコンだ。金尾ではなく、荘厳な銀の毛並みを持つ尻尾を揺らしながら、カプカプと果物に齧り付く。満足げに鳴き声をあげるキュウコンを見て、胸の中がポカポカと温かくなる。

 

そんなことをしているうちに扉のベルが鳴る。少し乱暴なベルの鳴る音に聞き覚えと懐かしさを感じる。壁にかけてあるカレンダーを見れば…もうそんな時期か。

 

「…いらっしゃい。」

 

「私が来たわよ。いつもの、さっさと出しなさい。」

 

ぶっきらぼうだが、凛と澄んだ声が響く。

…変わらないななんて思いつつ、冷蔵庫からサンドウィッチに使うパンを取り出す。ギコギコとパンナイフで二つに分け、その切断面に粒マスタードを塗る。

 

うちの畑で採れたレタスをボウルに入った水に晒したもの…こうするとシャキシャキとした食感を味わうことができる。普段以上に。

 

それをパンの上に乗せ、ハムを乗せる。その上からパンを被せる。特に何かをするわけでもない。

 

「ポットデス。頼む。」

 

そう声をかけるとキッチンに立てかけてあった割れたティーポットがカタカタと震え出す。ポットの口から腕のようなものが出て、蓋が取れ、中からは紫色の身体が露わとなる。まるでスライムのようなその身体の持ち主…ポットデスは紅茶の茶葉を持ってくる。こいつは適切な温度、量で紅茶を入れる天才なのである。更に、常連の好みぐらいならばすぐに持って来れるいい子だ。

 

それと食べやすいように切ったサンドウィッチを客の前へと置く。金色の瞳がそれを凝視する。

 

「どうぞ。」

 

「頂くわ。」

 

その直後、かぶりとそのサンドウィッチに噛み付く彼女。特徴的な前髪を忘れるわけはない。…まるでホシガリスのように頬を膨らまし、頬張る彼女。その瞬間、蛇のような目が大きく開かれる。

 

「…普通ね。でも、安いからいいわ。」

 

「何しに来た。ゼイユ。」

 

「なにって。戦いに来たのよ。ヤブ兄。」

 

…またその話しかとため息を吐きながら、皿を洗う。キョトンとした顔から一ミリも自分が迷惑をかけているとは思っていない。まぁ、俺とゼイユの間柄だから言えることなのだろうが。

 

「もう林間学校か。その鬱憤バラシに付き合うつもりはないぞ。」

 

「うぐっ!?…チッ。違うわよ。…別によそ者が来るからとかじゃないわよ。ヤブ兄の腕が鈍ってないか、私が試してやるってわけ。」

 

ない胸を張ってそう笑うゼイユ。自信満々なところを見るに、ただ私を煽っている…わけではなく、勝負したいだけなのだろう。…3枚目の皿を拭き終わり、キッチンの収納に差しておく。

 

「そう言って俺に勝てた試しがないだろう?」

 

…諦めて欲しいから、そう言った。

しかし、ゼイユはカウンター席をダンっと叩く。目を見開き、ハイライトのない縦長の金の目をこちらに見せ、プルプルと震えていた。

 

「上等じゃない…!!やってやるわッ!!」

 

「…はぁ…。」

 

どうも、いつもこういう流れになる。

一足飛びで、古民家の扉をガラガラと引き、庭へと出ていくゼイユをよそに、エプロンを畳んで外へと出る。こうなったら帰ってはくれない。

 

下駄に履き替え、庭へとゆっくり歩いていく。外は日差しが強く、暑い。田舎だからまだ涼しい方だが、都会の方は死ぬほど暑いだろう。ポケットからボールを一個取り出す。

 

「一対一だ。それ以上はできん。」

 

「ふんっ!!勝ちは勝ちだかんねっ!!」

 

そう言ってにっと笑うゼイユ。その顔を見ればクールビューティーだなんて人もいるが、その実はただのメスガキだろう。車という車の通らない車道へと私は出る。我が店…兼我が家は道に面しているのだ。

 

「行くわよッ!!チャデスッ!!」

 

「であえ、アップリュー。」

 

勢いよくボールを投げるゼイユに対し、私はやや直上に投げる。地面に当たる前に、アップリューが姿を現す。向こうもチャデスが露わとなる。家の庭には植木鉢もあるからあまり激しくはしてほしくないが。

 

「お前、負けたら店手伝えよ。」

 

「うっさいっ!!ばーかっ!!絶対負けないんだからっ!!」

 

そう言って火蓋は落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…姉ちゃん。また…やったの…?」

 

ベルの音が客の到来を教える。前を見れば、これはまた変わったお客様だ。ゼイユによく似た…いや、ほぼ同じ金色の目に少し変わった髪の少年が現れる。キョトンとした顔はゼイユに向けられているものだろう。ゼイユのことは彼の方がよく知っているだろう。姉弟だから。

 

「…悔しい〜っ!!なんで私がこんな…っ!!」

 

「口より手を動かせ。」

 

紺色のエプロンを着て、先ほどからりんごジュースの仕込みをしているゼイユをカウンター席より哀れみの目で見る弟…スグリ。ゼイユに関しては何かとこうなるので、彼女の体格に合わせてエプロンを作る始末。先ほどから恨み言を口走っているものの、真面目に仕込みをするだけ反省しているのだろう。

 

手際だけはよくなるし、顔もいいから、もし、キタカミ以外で店をやるとしたら頻繁的に来てもらおうか。どうせ、よそ者と反りが合わず喧嘩沙汰になるだろうが。

 

「…ヤブ兄ちゃん。…やっぱ強いんだなぁ…。」

 

「そうかい?…ほら。」

 

ゼイユに出したものと同じサンドウィッチを前に出す。スグリは紅茶が飲めないため、リンゴソーダと共に。愉快なリンゴの甘みと舌を少し刺す微炭酸がスグリは好みらしい。ゼイユには子どもっぽいと酷評されたが。

 

「にへへ〜…。ヤブ兄ちゃんの…サンドウィッチさ…好き…。」

 

「嬉しいこと言ってくれんじゃん?どっかの姉ちゃんとは全く持って別だなぁ。」

 

「あぁ!?ちょっと待ってなさいっ!!今、火、扱ってんだからッ!!終わったからコテンパンにしてやるんだからっ!!」

 

わざと聞こえるように言うと後方から横から抗議の声。ゼイユはローストポークの仕込みを頼んでいる。なんだかんだ、小さい頃からこんなことを続けているため、手腕はいい。フライパンで肉塊の周りを焼き付ける。隣から香る豚肉…何の豚肉かは言わないでおくが、その肉の香りが食欲を増させる。

 

「でも、姉ちゃん…学校で、ヤブ兄ちゃんの、話ばっか…するよ?」

 

「ほお?」

 

「スグッ!!五月蝿いッ!!」

 

姉が火の番で動けないのを良いことに、スグリは姉の暴露話をする。これを肴に紅茶を飲むのが彼女らと一緒にいる時の楽しみだ。ハイライトがなくなった目でフライパンを見るゼイユをよそにスグリを見る。

 

「…今年は行くか。オモテ祭り。」

 

「えっ!?」

 

「…ほんと?」

 

林間学校でというより、夏だから帰ってきたわけで。だから、勝負した結果、ずっと店を付き合えとはいえない。家の奥から甚平でも出して、久方ぶりに参るかな。それはそうと。

 

「フライパンから目を切らない。」

 

「いっ!?…いったぁぁ…。なにし!?わぁぁっ!?焦げたっ!?」

 

ゼイユの頭を叩いて、注意したものの、フライパンから黒煙が。…今日のご飯が焼き豚丼になった。そんな日がな一日。




ヤブサ
黒の髪に銀髪の混じっている頭をしている。癖っ毛。目は黒。ゼイユやスグリとは浅くない仲。ゼイユの扱い方を知ってるし、スグリは懐いている。カエデさんと友達。



…連載にしてるけど好評だったらって感じかな。続くかもしれないし続かないかも。基本は日常系目指してます。料理案はそのうち尽きる。
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