田舎の喫茶店   作:紳爾零士

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まいど

夏は夕暮れでもとにかく暑い。

遠方からのお客は、かなり応えているだろう。いや、あそこからなら涼しい方か。

 

キタカミが田舎とはいえ、年々じりつくような暑さが身体中を突き刺す。焼けるような…そんな暑さ。そんな暑さにも負けじと人々は料理を開発した。

 

絹のように柔らかな素麺は氷の上で眠る。漬けダレは醤油ベースのものと、胡麻ベースのもの。出来合いなので詳細は省く。お好みで醤油の方にはレモンをかけるとよりさっぱりする。今日は4人想定なので結構茹でてある。

 

「まいど!!チリちゃん来たでっ!!」

 

…と、元気な声での来訪。夏の暑さなんか感じさせないくらいキラキラとした笑みは男も女も虜にするほど整ったもの。スレンダーな姿は縦に引き伸ばされたのではないかと思うほど。

 

「…おいっ。今、チリちゃんの悪口言うたやろ。」

 

「言ってない。」

 

なにも言ってないのに、カウンターへと座るチリ。ジト目は俺には刺さらない。俺の後ろでは何故かチリを睨むゼイユとその後ろで萎縮しているスグリ。そりゃあそうだ。

 

「ほら、望みのもんだ。」

 

「うっしゃっ!!ようわかっとるやんけ。ヤブちゃん、ヤブサの素麺、好きやわーっ!ほな、頂きまーす。」

 

そう言ってちゅるちゅると食べ始めるチリ。なんだかんだ、付き合いは短くとも俺にとっては初めての友達で、時々、連絡を取り合っている。

 

「何よッ!!あのよそ者、ヤブ兄と馴れ馴れしくしちゃって…!!ヤブ兄もヤブ兄よ!!デレデレしちゃってさッ!!」

 

「こうやって飯食うん、何年振りや?」

 

「あ?あぁ…随分前だな。」

 

母親は物心ついた頃にはいなかったし、ジョウトが地元だといってもすぐに親父に連れられて旅立ったし。1年…いや、同じスクールには多くて2年ほどしかいなかったかな。

 

「しっかし、ヤブちゃんが四天王に選ばれるくらい強なっとるとは。」

 

「ならねえよ。俺はもうここにずっと居るんだよ。」

 

「まぁ、ちとトップも御執心やな…。なんや、若い頃にトップに対してワンサイドゲームにしたんやって?」

 

悪戯に笑うチリ。そういや、そんなことあったなぁ。

 

ゼイユと歳も変わらないぐらいの頃に、パルデアリーグを制覇したことがある。テラスタル現象について親父が興味を持ったから。俺はなにしようでリーグ制覇に乗り出しただけであって、そういうことがしたかったわけではない。

 

「…別に、そんなことないよ。オモダカさんも強かったし。」

 

「まぁ、それで目ぇつけられとるって話やな。」

 

「そうかい。」

 

我ながら不憫な立ち位置だ。

俺は別にポケモン勝負で強くなりたいとも、歴史に名を残したいとも思わない。ただ自然豊かな場所でコイツらとのびのび暮らしたいだけ。そこで四天王になれだなんて誘われても…迷惑な話だ。

 

「とにかく、キタカミから出るつもりはないからな。」

 

「そう言うと思ったわ。あの人強引なんよなぁ…。」

 

オモダカさんとは違い、チリは融通が効く。なんの成果も得られず、パルデアに帰る彼女を思えば、少し不憫ではあるが。

 

「んで?そっちのお子さんは?…もしや、ヤブちゃん…未成年に手ぇ出したんか?」

 

「んなわけねえだろ。」

 

「冗談、冗談や。誰と付き合うてもチリちゃん、文句言わんさかい。」

 

と、ケラケラと笑いながら言うチリ。頭が痛い。これで素面だ。

 

「お前と違って、俺はモテねえんだよ。」

 

「…今時、鈍感系はモテへんねんで?」

 

そう言ってジトーとした目を向けてくるチリ。…なんだ。鈍感系って。

 

毎度よろしく皿を洗いながら、聞き流す。今回はゼイユとスグリも手伝ってくれている。簡単な仕事しかやらせていないが。というか、ゼイユの顔がさっきから怖い。

 

「ね、姉ちゃん…。」

 

「ほーん。へぇ…。なるほどねぇ?いやぁ、良かった良かった。ヤブちゃんにもついに春が。」

 

「…ッ!?」

 

…なんの話だ。ニヤニヤ笑うチリがなんか鬱陶しい。悪いやつではないんだが、良くも悪くも話に飢えているのがたまにキズか。そしてその目線の先には顔を赤くしたゼイユの姿が。…俺にはなんの話かさっぱりわからん。

 

「春?…今夏だろ?」

 

「…お前、マジかぁ…。」

 

と、ため息を吐くチリ。

 

「ヤブちゃん、天然もそこまで来たら病気やで?もうちょっと回り見てみぃ。お前気づかんとかよっぽどのアホだけやぞ?」

 

「何がだよ。」

 

「…あかん…これ以上言うても意味ないわ。」

 

呆れられてしまった。その目線の先にはゼイユとスグリ。ゼイユの方を向くとゼイユは顔を赤らめつつ、プイッと横を向いた。そういえば、サザレさんやオモダカさんと話してる時もこんな感じの反応されたな。

 

「そういや、これからどうするんだ。チリ。空港にはそこそこ時間かかるだろ?」

 

「ん?カントーのホテルに泊まる予定やで?チェックインも済ませたし。」

 

「そうか。うちに客間がある。泊まってくか?」

 

「「はぁ?」」

 

…チリとゼイユの声がハモる。いや、そんなに仲良くなかっただろう。どころか、今会ったばかりで喋ったところなんて見ていない。ゼイユに関してはよそ者よそ者と嫌悪感を出していたはずだ。

 

「あんなぁ…。よく、さっきの会話で誘えたもんやわ。」

 

「うぐっ…。だがなぁ。四天王とは言え、知らねえ仲じゃねえ女をほっぽり出すわけには…。」

 

「アホかッ!!チリちゃん、そんな弱ないし。…言うとくけど、そういうとこ直した方がええで。ヤブちゃん。刺されても知らんよ?」

 

…なんだ。刺されるって。

ゼイユもさっきからものすごい目でこっちを睨んでいるし…。

 

「もっと回りを見てみぃ言うたやろ。アンタ、これに気づかんとかアホ通り越しすぎやで。アホの世界チャンピオンや。」

 

「…これ?」

 

「…うっ…。」

 

ジト目のチリが指差した先には顔をそっぽに向けるゼイユとそのゼイユを居た堪れない顔で見るスグリの姿。俺の肩に乗るファイアローも何故か呆れてしまっている。

 

「よそ者のくせに…余計なこと言わないでよ…。」

 

「ん?んー?」

 

「ひゃうっ!?ど、どうしたの?ヤブ兄っ!?近い近い近いっ!?

 

何か変わったところはないかとゼイユの顔を覗き見るが、なにも変わったところはない。だんだんと赤く染まっていくだけ。

 

「…ヤブちゃん、やっぱなんもわかってないやろ。」

 

「なんだってんだよ。」

 

「まぁいいわ。ヤブちゃん、そのお嬢ちゃん見てなんて思う?」

 

「は、はぁ!?」

 

チリがニヤリと笑いながら問う。ゼイユは声を上げて抗議するがそんなことはどうでもいい。…なんて思う?か。再び凝視するとゼイユが手で顔を少し隠しながら指の間からチラチラとコチラを見ている。

 

「…顔がいい。」

 

「…だいぶ考えてそれか…。」

 

ため息混じりのチリの声が後ろから聞こえてくる。緊張の糸が切れたのか、ゼイユは地面にゆっくりと尻をつける。

 

「もっと他にあるやろっ!!ほらっ!!」

 

「あん?…美人。」

 

「んえっ!?」

 

「生意気なところも案外可愛い。」

 

「にゃっ!?」

 

「口でなんと言っても心の根は優しい…。そんなもんか?」

 

指折りながら数えていく。他に言えって言われたら少し困るが、まぁこんなところだろう。チリの方をどうだと見ると少しチリは苦笑いしていた。

 

「…お、おう。い、意外と見とるんやな…。」

 

そりゃあ、ゼイユとも長い付き合いだ。図らずとも全部が全部見えてくる。好きなところも嫌いなところも、良いところも悪いところも。特に第一印象がお互い最悪だった分だけ、良いところは特別輝いて見える。

 

「あんまり、人のことに首突っ込むなよ?嫌われても知らねえぞ。」

 

「うぐっ…。ご、ごめん。こういう話久々やったから、ちょっとエスカレートしてまってな。ご、ご馳走さん。…じゃあ、チリちゃん、もう行くでな。」

 

「ん。また。」

 

そう言うとチリはにっと笑い、おうっと応えてくれた。小さなキャリーバッグを引く彼女の姿は…街灯なんて出来合いの光に照らされず、月明かりに照らされたその背中は、やはりスマートに見えた。…久々に同年代と会話できたな。

 

「ん?ゼイユ…?」

 

「…も、もう…やめてぇ…。」

 

…腰が抜けたのか立てなくなりつつ、顔を真っ赤に染めるゼイユ。スグリとファイアロー、キュウコンの目がお前のせいだぞと言っているようで。ゼイユは顔を指で隠しながら、しゅーっと湯気でもあげているかのように見えた。

 

「…時間ももう遅い。お前ら、今日は泊まってけ。」

 

そう言って氷水に冷やしておいた素麺を盛る。色々なことがあって腹が減った。黙ってコックリと頷く2人の分も用意しておく。

 

「なんなのよ…バカァ…。」

 

ボソリと何か、ゼイユが言った気がしたが…気にしないでおこう。

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