「晩はカレーだぞ。」
「「えぇー!?」」
ジョーイさんに連絡後、ゼイユらにそう伝えた。ジョーイさんによるとまだ混乱が続いており、もう少しかかるとか…なんとか。それまでロコンに関してはこちらで責任を持って保護するつもりだ。
「なんでそんなに不服なんだよ。」
「だってヤブ兄のカレー辛いじゃん。」
…そんなに辛い気はしていない。味覚が麻痺してるのかな。市販のスパイスぶっ込んで、あとは煮るだけ。だが、ゼイユだけでなくスグリも頷いてるからマジなんだろうな。少し改善せねば。
「そんなに言うんだったら味付け変えてみるかなぁ。」
「私、辛いの好きだけど辛すぎるのは嫌いなのよね。」
「知らん。」
辛すぎるは誤差だ。なんて言ったら本当に辛いのが苦手なスグリが泣いてしまう。…となれば、林檎の隠し味をもう少し入れてみるか。スパイスも少なめに。
「…てか、私、お化粧するの忘れてた。」
と、ナチュラルに隣で皿洗いをするゼイユが声を出す。
「化粧しなくても十分だ。」
「そうもいかないわよ。ニキビも出来ちゃうしさ。ヤブ兄もあんまり無頓着だと婚期逃すわよ。どうしてもってんなら、私が貰ってあげてもいいけど。」
「アホ言ってないで手ェ動かせ。」
ドヤ顔のゼイユにそっけなく言ってやる。ゼイユと俺の歳は親子ほど…というには離れてないが、片手ぶんは離れてる。
「あんまりそんな冗談言ってると、お前、本当に婚期逃すぞ。」
ゼイユはいい意味でも悪い意味でも素直だ。思ったことは口に出るし、そのせいで本当に優しいのに怖がられてると思う。…小さい頃から知ってる分、友達ができてるかスグリ同様、心配なのだ。
「俺ばっかり構ってて、学校で友達とか出来てないんじゃないか?」
「はぁ?バリバリいますけど?ヤブ兄みたいに、友達いないからって自分より年下とばかりいるようなそんなあれじゃないですけど?」
「おいおい…。」
…友達ぐらい…。
「…あれ。なぁに?珍しく落ち込んでるの?」
「うっせ。」
考えたけどやっぱり1人も思い浮かばなかったな。
一番喋ってるのがコイツらで、一番一緒にいるのがキュウコン達だ。そりゃ、一箇所にいる時間が短いんだから仕方ない。
「あんまり、軽口叩いてると今日のカレー激辛にするぞ。」
「何よっ!?それッ!?ひどっ!!食べれないじゃないッ!!」
「声デカ…。大丈夫だ。食べれる辛さにはするさ。」
“感謝してる”なんて酔ってなきゃ言えないだろう。目をかっぴらいてプルプルしているゼイユをよそにそんなことを思い、自然と口元が緩む。
「友達いるならいいさ。そのうち、良い人でも見つかるだろ。」
年頃の女の子ならこんな話題なんて好きだろう。田舎娘でも、誰が付き合っただの、誰が好きだの気になるもんだ。学生なんてうちは。
「…はぁ?」
「友達とそんな話しないか?」
「しないわよ。私らのとこはポケモン勝負に力入れてて、そんなことよりポケモン育てなきゃってのが鉄則。…で?ヤブ兄は私がもし居るよって言ったら寂しいの?」
…イタズラな笑みを浮かべてそう言うゼイユ。
…考えたことも無かった。勿論、ゼイユは俺にとって友達で、ゼイユにとっての俺も友達程度ではないだろうか。どうせそんな関係はすぐに破綻するし、キタカミでずっと俺が店をやるなんてことがなけりゃ、会えることなんてこれから何回もあるかどうか。
「まぁ、会えなくなるわけじゃないし。」
「わかんないじゃない。ポケモンの世話にも恋にも忙しくなったら、ヤブ兄やスグリなんて二の次よ。…絶対ヤだけど。」
…まぁ、そうだよな。
日常は突然終わりを告げるもので。ゼイユもスグリもいつしか大人になって。ここに帰ってくることもなくて。
俺は静かに1人ここで店を開いて。キュウコンと毎日、一緒にいて。…その店の扉を元気よく開ける音も、スグリの笑顔もゼイユの悔し顔も見れない。…いつか来るとしても。
「…寂しいよな。」
「え?」
「考えてみたらさ。親も居ないし、友達もいないし。チリとかはまた違うしさ。…ゼイユとスグリは特別だよなぁ…って。」
…なんか恥ずかしい。本人を目の前にして言う言葉じゃなかったよな。
「な、なんてな。まぁ、兄妹みたいなもんだし。」
「…。」
「ぜ?ゼイユ…?」
「…私も…特別だから。ヤブ兄のご飯、いつも微妙とか言うけど…本当は美味しい…し。」
…髪を人差し指に絡めながらそう言うゼイユ。少し顔が赤い気がした。既に終わっているのか、現れた皿は食器棚に光り輝き並んでいる。
「いつも…あり…がと。ヤブ兄。」
「お、おぉう。…別に飯ぐらいいつだって…。」
顔が近い。
婆ちゃんから注意されてるであろう特徴的な前髪から上向きの金色の目が覗く。狭い場所に2人でいるから余計に。
「いつでも好きな時に来て良いから。」
「えっと、あっと…そ、そうするッ!!」
笑いかけてやれば、ゼイユが顔を真っ赤にして後ろを向いてしまった。髪で隠れているが、耳の先まで真っ赤だ。
「…は、話変わるけどさッ!!」
…と、上擦った声が聞こえてくる。ゼイユのそんな声に耳を傾けながら、後少しの皿を拭いていく。
「ロコンの親って…どこにいるんだろう。あの子、みた感じ…まだ。」
「…だろうな。」
不気味なものだ。ゴザの上に眠るロコンと彼女を抱き抱えて眠るスグリを見てふと考えてしまう。ロコンはまだ幼い。子どもだ。野生なら普通、親が騒ぎながら、報復に来るはず。だが、嵐の前の静けさだろうか。そんな様子は微塵もない。
山のポケモンなら尚更だ。小さな田舎村だから、キレたキュウコンが現れたなんて話はすぐに駆け回る。なら、なぜそんな話が出ないのか。ロコンの親はもう居ないのか、はたまたトレーナーに捨てられたのか。…どちらにせよ、少し待つのみ。
「…ふぅ。」
皿洗いも終わり、本日の業務は終了だ。カレーを作るにしても晩飯までまだ時間あるし、スグリもまだまだ起きやしないだろう。
「ちょっとだけ休憩しようか。」
スグリには悪いが、少し贅沢させてもらう。…まぁ、スーパーで買った特売のバニラアイスだけれど。冷蔵庫から取り出したバニラアイスをスプーンで削り、透明な皿に盛り、そこにくし切りにしたりんごとミツハニーのはちみつを垂らして完成。面倒な時ほどシンプルなものの方がいい。
「いっちょあがりっと。」
「おっ、ラッキー。」
前に置いた瞬間、嬉々としてそのアイスクリームを食べるゼイユ。俺もその隣に腰をかけて、アイスを食べる。…程よく冷たいアイスが夏の暑さを忘れさせてくれる。
「おっ、キュウコン、お前も食べたいか〜?」
隣を見れば、ゼイユのアイスを狙ってか、キュウコンが尻尾をたなびかせ、ゼイユを見ている。ゼイユは微笑みながら、キュウコンの頭をわしゃわしゃと撫でていた。おそらく撫でて欲しかっただけだろう。
「でも、だ〜めっ。私の為にヤブ兄が用意してくれたものだものっ!!」
…などと、テンションの高い声を上げて笑っていた。スグリが見れば機嫌がいいと一蹴するだろうか。だが、この様子を見ると自然と笑みが溢れてしまう。自分にとってかけがえのない景色だ…なんてキザったらしい言葉は言いたくない。でも…。
「…好きだなぁ。見てるの。」
「え?なんか言った?」
「なんでもない。溶けるぞ。」
そう言うとゼイユは慌ててアイスを食べ進めた。
特性鈍感主人公、威嚇にもメロメロボディにも屈しませぬ。基本はこう。ゼイユが苦労するなぁ。
お気に入り500人突破!!ありがとうございます!!
作者『つい最近100人超えたよなぁ…今はっと。…500。…えッ!?ごひゃ、500人ッ!?』
じみーにこれからも続けますな。