田舎の喫茶店   作:紳爾零士

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嗜む程度

ジャガイモ、人参、玉ねぎなど各種野菜を切り刻む。鍋の中で潰したニンニクと油を入れ、肉を炒める。

 

「ぐすっ…ヤブ兄〜。あんま辛くしないでよね?」

 

「大丈夫だ。」

 

甘えたような声でそう言ってくるゼイユにそう言う。少し涙目なのはさっきまで玉ねぎを切っていたからだ。今は米の仕込みをしている。

 

野菜を入れて、軽く炒めてから水を入れる。そこにローリエを入れる。軽く煮立たせてから、スパイスを入れて隠し味として擦りリンゴと蜂蜜…そして、一煮立ちさせる。煮立たせたら、ローリエを取り除き、白く光るご飯に盛り、そこにかければ完成。

 

「ほら、出来上がりだ。」

 

いつものカウンター…ではなく、今回は俺も食べるのでテーブル席に置いておく。

 

「…んな劇薬でも入ってるんじゃねえかみたいな顔で見てんじゃないよ。」

 

「…辛かったら許さないからね。」

 

「辛いの好きだろ。」

 

「辛すぎるのは嫌いなんだってばッ!!…頂きます。」

 

当然のように俺の前に陣取るゼイユが恐る恐る、スプーンを立てる。無論、辛くないようにはしてある。そのまま口へと運び、一口…。

 

「…あ、美味しい。」

 

「だろ。」

 

人の作った飯を劇薬扱いしたのは、その美味しいって言葉だけで許してやろう。多少、ゼイユ…いや、スグリの方に合わせたはずだ。だから、甘めのカレー。俺はもう少し辛いほうが好きなんだがな。

 

「…うーむ。」

 

物足りない。まぁ、普通にいつもの味と変えてあるからというのもある。…体には悪いけど、少し塩気を足しておくか。と、ソースを手にし、カレーに垂らす。これで味は変わる。多少だけどね。

 

「…むー。」

 

「あ?どうした、ゼイユ。」

 

「いやぁ、やけに美味しそうに食べるなぁって。そんな美味しいの?カロリー高そうだから一口だけくれない?」

 

そう言うと口をんあっと開けてこちらを見るゼイユ。…まぁ、いいが。自分のにソースを垂らせばいいと思う。

 

一口スプーンの上に小さなカレーライスを作り、ふぅふぅしてからゼイユの口の中に放り込む。

 

「あむっ。…あら、まぁまぁね。普通の方が美味しいわ。」

 

「さいですか。」

 

憎まれ口も叩かれつつ、自身のものを食べ進める。

ふと、前を向けばゼイユの隣に座るスグリがやけにこちらを凝視していることに気づいた。

 

「どうした?」

 

辛かったのだろうか。ちゃんと配慮はしたつもりではあるけれど。

 

「はぁ…。姉ちゃんもヤブ兄ちゃんも…さっきのなんも思わないの?」

 

と、ため息混じりに呆れた様子で言われた。ゼイユと顔を見合わせるが…特に何も思うことはない。ゼイユの一口頂戴は今に始まったことじゃないし。

 

「「何が?」」

 

「…はぁ。ご馳走様。」

 

と、なぜか呆れた様子だった。ゼイユと顔を見合わせるものの彼女も首を傾げていた。まぁ、姉の様子に何か思うことがあるのだろうと自己完結しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふぅ。」

 

…言い忘れていたが、うちの店には縁側がある。無論、関係者以外外に出れないようにしているが、テラス席もどうかとお客さんからも言われている。そこまで繁盛してしまえば、ゼイユ達にかまけている暇はないが。

 

そろそろあの2人…特にゼイユにはバイト代でもやらなくちゃならない。うちも金銭的に余裕があるわけじゃないのでご飯を食べさせる代わりに働かせるという一見、Win-Winに見えるような見えないようなことですませているが、ゼイユもそろそろお金が入りようになる歳だ。いや、薬買ってポケモンにドーピングまではさせないとは思うが…。

 

「ヤブ兄?なにやってんの?…って、お酒?」

 

「大人の嗜みってやつかな。」

 

盆の上のお猪口に日本酒を注ぎ、一口飲む。この農村の景色を見ながら飲む酒は格別だ。耳をすませば、虫ポケモンの鳴き声と共に川のせせらぎとバルビート、イルミーゼの光があちらこちらで輝く。…清流ならではの楽しみ方だ。

 

「よっと。」

 

隣に座るゼイユは風呂上がり。少し紅潮した肌とブカブカの俺のパジャマのせいで見てはいけないような感覚を覚える。触れ合う肩から伝わる熱は風呂上がりのせいだろうか。

 

「ヤブ兄がお酒飲むなんて意外。爺ちゃんが飲んでたり、集まりの大人が飲んでたりするけど、ヤブ兄飲まないじゃん。」

 

「子どもがいる前で飲めるかよ。」

 

「なによっ。子ども扱いしちゃって。…私も飲んでいい?」

 

「良いわけないだろう。」

 

いつの間にか膝の上に座り、丸まっているキュウコンの頭を撫でそう返す。

 

「大人ばっかずるいわよ。私も飲んじゃお。」

 

「あっ、こらっ。…はぁ。」

 

お猪口、取られてしまった。

このままじゃ爺ちゃんに叱られちまうな。あの人、怒ると怖いんだよなぁ。

 

「おい、一杯だけにしとけよ。俺だって嗜む程度なんだから。…っておいおい。」

 

「…えへへ〜。なぁにぃ…?」

 

少し目を離しただけなのに、ニコニコと満面の笑みのゼイユにため息が溢れる。そこまで強い酒じゃ無いはずなのに、一杯だけで酔ってしまっていた。

 

「お前、そんなに弱かったのかよ。」

 

「んぁあ?なによぉ?私、ぜぇんぜん酔ってないわよ?」

 

「顔真っ赤だぞ。」

 

オクタンみたいな顔になっている…とは、口が裂けても言えないな。

 

「とりあえず水持ってきてやるからそこに座ってな。…っておい。」

 

立ちあがろうとした。が、俺の腕はゼイユに抱かれ、動けずじまいだ。あれだ。なんか色々当たっている。特段、意識したことはないが、ここまで引っ付いてると意識するなと言う方が難しい。

 

「アンタばっか、いっつも私の気なんて知らずにさ。全く馬鹿なんじゃないの。ヤブ兄、私よりちょっと年上なだけなのに、なんでそんな鈍いのよっ。バカっ。」

 

「お、おう。」

 

捲し立てるようにそう言うゼイユ。聞いているのみだった。キュウコンも驚いているかのようで、尻尾をピンっと立てている。

 

「…とりあえず、水でも飲んで落ち着け。」

 

「…そうやって逃げる気でしょ。ニブ兄。」

 

「ヤブ兄ですぅ。…逃げねえから。明日、頭ガンガンでも知らねえぞ。…あ。」

 

…そういや、スグリのやつは先帰るって帰ってったっけな。ゼイユは兎も角、スグリは爺ちゃん婆ちゃんがちと心配するって帰っちゃったから、ロコンの面倒を見る人がいない。今は眠ってるからいいけど。

 

ゼイユの酔いを少し醒ましてから、ロコンの身体でも拭いてやらないと…。

 

「良いから離してくれ。」

 

「やぁよ。ヤブ兄、絶対逃げるもん。」

 

「…はぁ。」

 

別にそのまま抱き上げてやっても良いが、此方も少し酔ってる為、危ない。場を読んだのか、キュウコンは膝上から飛び降りていた。いっても夜風に当たっている為、多少は此方は醒めている。

 

「ほら、酒は終わ…「私ね。」…ん?」

 

取り敢えず水でも持ってこようかとゼイユの手を退けようと優しく掴む。…が、その俺の手をゼイユは…両手で優しく掴み返してきた。ふとゼイユを見ると柔和な笑みを浮かべていた。

 

「…私ね。好き。ヤブ兄のこと…好き。」

 

…頭が真っ白になる。その顔はその言葉が本当であり、俺に向けられたものだと言うことを深く理解させるものだった。…だが、今の彼女は酔っている。何か、最近の漫画だのなんだので見たことを俺を相手にやっているだけだろう。

 

…酔った子どもの言葉ほどマジにしてはいけない。

 

「はぁ…。そういう言葉はな。」

 

頬が紅潮するゼイユの頭を優しく撫でる。ゼイユはどこか、物悲しそうにこちらを見ていた。

 

「素面で伝えるのが、大人ってもんだよ。」

 

「…。」

 

そう言うとゼイユはコックリと頷いた。

…まぁ、酔って出ただけの言葉だろう。そう思っていることが見透かされたようにキュウコンが呆れた目を向けていた。

 

…勘違いするだけゼイユに悪い。




果たして素面で言えるのか。
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