田舎の喫茶店   作:紳爾零士

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誤解

…イテテテ…。

頭が割れるように痛い。昨日何したのかすら思い出せない。わかるのはここはどこかの天井で、布団に私が入っているってことだけ。少し香る薔薇の香りはよく知った洗剤の匂い。…ていうか、ここ、ヤブ兄の部屋…。

 

「…あ、え、うぇっ?」

 

…服着てない。

 

いやいやいやいや!?え、ちょっ…なにっ!?

 

私、朝起きたら下着なんだけど…!?これってそういう…?いや、あの鈍いヤブ兄が手を出すわけないけれど…。そういうのはまだ早いでしょっ!?

 

「キュウコン!?何か知ってるっ!?」

 

隣で丸くなってこちらを見るキュウコンを見る。あぁ、顔が熱い。キュウコンもただ優美に笑うだけ。ほんと、この子、上品…って違うっ!?

 

「あ、え、ちょっ…え!?」

 

「何してんだ。下着姿で。」

 

「はうっ!?」

 

バッと身体を布団で隠す。そりゃそうだ。好きな男の部屋で下着姿になってるんだから、頭がこんがらがりもする。中に入ってきたのはヤブ兄。黒いタンクトップに身を包み、私の方を向いている。身体から湯気が立っているから、シャワーでも浴びてきたのだろう。

 

「あ、ああぁ…アンタっ!?一体、私に何しっ…!?」

 

「んぁ?…安心しろ。俺は全く手を出しちゃいない。」

 

ヤブ兄はそう言うと私の方を向かずに、衣装箪笥の方へと向かう。…なぁんだ。ちょっと安心したような残念なような……って、何が残念なのよ。でも、ちょっと待って。じゃあ何で…。

 

「酔ってお前が脱ぎ出した。素っ裸になりそうだったんで下着で止めたら、眠っちまった。それだけだ。」

 

「…あ、あ、そうっ…。」

 

わかっててもそっぽ向く。身体が燃えそうなぐらい熱い。何も着てないのに。…と、ヤブ兄が私の方へバサっと服を投げてきた。

 

「ちょっと!?もうちょっと丁寧に…って。」

 

「…んだよ。早く着ろ。」

 

…よく見たらヤブ兄、こっち向いてない。どころか、耳の先まで赤くなっている。あぁ、そっか。ヤブ兄、女の子の裸、見慣れてないんだ。お母さんも居ないって言ってたし、友達も居ないって言ってたし。

 

「ヤブ兄?」

 

「…あん?…おい。」

 

恥ずかしいのを噛み締めながら、私は布団を剥ぐ。着たと思ったのか、ヤブ兄はこちらを向くも、すぐに私の方を睨んできた。

 

「なによ。私の美貌に見惚れちゃっても良いのよ?」

 

「早く服着ろ。夏だからって風邪は引くぞ。」

 

…は?何で見ないの?

私に魅力がないって言いたいのかしら。だめ、考えたら頭沸騰しそう。早く着よっと。

 

「ふんだっ。後悔しても遅いわよ。バーカ。」

 

…少しブカブカのヤブ兄の服を身につける。薔薇の香りが顔の前にふんわりと香る。

 

「…そういや、洗剤…切れてたなぁ。ロコンの包帯も買わないとだし。」

 

「ジョーイさんには見せたの?」

 

「ん?あぁ。…『この子はアンタに懐いてるみたいだから、もう少し家に置いてやって』だと。暫くは安静にさせてやらないと。」

 

そう言ってヤブ兄は私の寝ていた布団を片付けていた。ていうか、服ブカブカ。ワンピースみたい…にはなっていないが、ミニスカぐらいにはなってしまっている。

 

「…え?な、なによ…。」

 

…ヤブ兄が私の方を難しい顔で凝視している。

なんか、下着姿の時よりも恥ずかしい。顔が熱い感じがして、すぐに顔をそらす。

 

「ん?いや、今日は元々定休日の予定だし、ついでにお前とスグリの服も買っておくかと思ってな。」

 

「あ、うえ?服?ばあちゃん家にいっぱいあるわよ?」

 

「昨日みたいに泊まってった時の。そのままだと色々と困るだろ。」

 

ヤブ兄、甘やかしすぎて後で爺ちゃんに怒られるな…。でも、そういうところがいい。ん?待って?

 

「ヤブ兄、女物わかるの?」

 

「んあ?だから、お前も着いてくんだよ。バイクの後ろ、乗っけてやるから。ちょっと遠出するぞ。」

 

そう言うとヤブ兄は下へと階段を下っていった。…あれ?これって、あれよね。デー…。

 

「…は、へ?…私、お化粧道具持ってきてたっけ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、持ってきてたのは少なくて、ナチュラルになっちゃった。折角のヤブ兄と2人っきりのデートなのにっ!!張り切れない自分に腹が立つ。

 

「ほら、乗れ。」

 

そう言い、ヤブ兄は黒光りするバイクの後ろを叩く。ヘルメットのせいで声が少しこもっている。ヤブ兄は私へもう一つのヘルメットを渡した。ヤブ兄のは赤、私のは白だ。髪が乱れてしまうかもしれないけれど、仕方ないと目を瞑るしかない。

 

ヘルメットを被り、ヤブ兄の後ろへと座る。…てか、背中おっきいわね。そこまで筋肉質じゃないけど、それでも広い。

 

「しっかり捕まってろ。」

 

「わ、わかってるわよ。こんな可愛い私とお出かけできるんだから、光栄に思いなさいよ?」

 

「はいよっ。」

 

そう言って私はヤブ兄の腰に手を回す。発進したその速度は優しいもので、まだ景色は見れた。風に煽られて、私の髪が靡く。少し早くなったから、ヤブ兄にギュッと抱きついた。…当たり前だけど、私とヤブ兄じゃまるで違う。硬くて大きい…ヤブ兄の身体。バイクじゃなけりゃ、ペタペタと触ってただろう。

 

すでに私とヤブ兄の間の空間はゼロ。硬い身体に頬でも擦り付けそうなくらいには近づいていた。もちろん、ヘルメットもあるから無理だけど。

 

車と違ってしゃべれないのも不憫だ。

 

「…好き。」

 

「あ?何か言ったか?」

 

…精一杯の呟きはバイクの風切り音に消し飛ばされる。意気地なしだなんてスグに煽られそうだけど、私はこのままで十分だ。

 

「なんでもないわっ!!さっさと前向いてっ!!危ないでしょッ!!」

 

「へいへいっ。」

 

我ながら、顔がカジッチュみたいになってるだろうな。

 

「…着いたぞ。」

 

無限に続く澄み切った青空を見てたら、聞き心地のいい低い声が耳に聞こえる。周りを見渡せば、そこはキタカミとは違う都会風の場所で、どこか生きづらさを感じる。

 

そこにあったのはポケモンと人間が行き交う大型のショッピングモールだった。

 

「取り敢えず、買うもんだが。洗剤とロコンの包帯、あとはお前らの寝巻きとまぁ、泊まるようの服か。常備しときゃなんとかなるだろ。あとは食材買い出しとくかな。…服は———。」

 

…服。服かー。

ばあちゃん家の私服って何も考えてないのよね。そりゃ、学園の部屋の服はよそ行きのも一つや二つあるけど…。スグリにはセンス疑われてるぐらいだしぃ…てか、姉ちゃんにセンス大丈夫っていうアイツの頭を疑うわっ!!1発引っ叩いてやろうかしら。

 

「2階か。うん。階段で行くか。」

 

「え、ええ。そうね。」

 

…人がごった返してて、エスカレーターもエレベーターも使えない。…て、わけで服屋に着いたけど。若い男女しかいないわね。まぁ、お爺ちゃんお婆ちゃんが着ても困るけど。

 

割とカジュアルなパーカーとかからビジネススーツまで売ってる。

 

「好きなの見繕え。金は出すから。」

 

「え?ヤブ兄が選ぶんじゃないの?」

 

「こういうのはセンスない。」

 

そう言いながら、自分の服を物色するヤブ兄。上下真っ黒の銀腕時計がほっつき歩いてるのはそれはそれで怖い気もするけど…。

 

「ヤブ兄、センスあんじゃん。」

 

「あるもん着ただけだっつの。」

 

「私がヤブ兄の選んだ服着たいのッ!!…さっさと選んでよ。」

 

…ちょっと声おっきかったから、注目されたような気もする…。あぁ、もう、こんな恥ずかしい思いするの、ヤブ兄のせいだからっ!!

 

「何着ても似合んだから、なんでもいいだろ。」

 

「はいはい。何でも似合ってあげるから、早く選びなさいよね。」

 

「はいよ。」




ポケモンらしくないのが色々続く。
次はもっとポケモンらしく書きたいけど。
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