田舎の喫茶店   作:紳爾零士

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ナンパ

服を選び始めてから1時間程度。ヤブ兄とは広場のある一階で待ち合わせになっている。

 

「ヤブ兄!!」

 

広場のソファーに腰をかけるヤブ兄の姿が見えた。はしゃぐ子供のようにそこへと走っていく。手に持っている紙袋の重みなんか感じない。

 

「お、ようやく終わったか。」

 

「なにそれ。ヤブ兄、デリカシーなさすぎ。」

 

「そうか?…後はロコンのものと俺のものか。ちょっとぶらっとしておこう。荷物は俺が持つ。」

 

そう言ってひったくるように荷物を持つヤブ兄。

…少し乱暴だ。男の人ってみんなこう。まぁ、うだうだ言わずに持ってくれる分、スグよりは役に立つ…か。

 

「…っ!?」

 

…朝ごはんを抜いたからか、私のお腹からくぅっ…と音が響く。ヤブ兄の目がこっちに刺さる。…なんか、顔が熱い。

 

「…な、なによ…。」

 

「別に?腹減ったな。飯にするか。」

 

ボソリと呟くヤブ兄。私のことを察してくれたのだろうか。まぁ、辱められたんだし、少しはお金、使わせてもバチは当たらないでしょ。

 

「何食いたい?」

 

「お寿司。回るやつで勘弁したげる。」

 

「…お前なぁ…。」

 

呆れ顔にしてやったりと笑ってやる。

 

「私がここまで来たんだから。当然でしょ?」

 

「はいはい。…まぁ、たまには豪勢にでもいいか。スグリには悪いが。」

 

寿司なんて滅多に出ない。

爺ちゃんが甘やかすなとヤブ兄を怒鳴るだろうが、私には関係ないことだ。人の金でたらふく寿司が食えるんだったら儲け物。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…!食べた食べた。」

 

「…容赦なさすぎだろ。」

 

ヤブ兄は財布を見て苦笑いをする。2人で10000円はやりすぎたか。…なんて思いつつも、いつものお返しだなんて思っている。しかし、それでも残ってはいるのだからその財源はどこから来るのか少し疑問に思う部分もある。

 

財布もサダイジャ革だし。なかなかな高級ブランドだ。

 

「ていうか、どう?着替えてみたんだけど。」

 

私はさっきから思っていた疑問を投げつけてみる。白いミニスカワンピースでギリギリまかり通っていたものの、ちょっと間違えば痴女だ。だから、さっきの服屋で試着したまま買ってもらった。

 

「…足をそんなに出してたら変な男が寄ってくるぞ。」

 

「はぁ?それしか言い方ないわけっ!?」

 

「風邪ひかないように注意しな。」

 

そう言うとヤブ兄はスタスタと歩いていく。

…なにそれ。こっちは誰のためにオシャレしてると思ってるの。…いや、自分のためでもあるけど。

 

「あっ。…すまん。ちょっとトイレ行ってくるわ。」

 

「うぇ?…え、えぇ。待ってるけど…。」

 

ヤブ兄はふんわりとした笑顔をこちらに向けるとスタスタと廊下の奥のトイレへと入っていった。

 

…いやはや、鈍すぎる。

 

こんな美人が隣にいるのに、何もしないなんて!!考えられない。

 

「はぁぁ…。」

 

ボフッとソファに座るとため息がついて出る。たまにあんな鈍男にマジになる自分が馬鹿なんじゃないかと思い始めてきた。…いつかの話、本心が付いて出た言葉をヤブ兄は聞いていたのだろうか。

 

「んっ!!」

 

らしくない。

パチンという音と頬のじんわりとした温かみに目が覚める。弱気になってどうするの。ここで引いたら、自分に嘘つくみたいで嫌だ。

 

これはそう、勝負っ!!ヤブ兄が私に惚れたら私の勝ち、他の人に行ったら私の…ま、け…。は?そんなの許せるわけないじゃないッ!!

 

「お姉さん。ちょ、お姉さん!!」

 

「あ゛?」

 

…考えに耽ってると耳に残る嫌な音が響く。ヤブ兄以外の男の人はあんまり好きじゃない。チャラチャラしてる金髪と茶髪、似合ってないピアス…気持ち悪い。

 

「お姉さん美人だねぇ。彼氏待ち?」

 

…ナンパか。しかし、この私を美人というとは見る目は腐ってないみたいね。

 

「そうね。待ってるわ。」

 

「こんなお姉さん待たせる彼氏なんかより俺たちと遊んだ方が楽しくない?ほらほら、絶対楽しいよ。」

 

キモッ。

いや、うん。キモい。絶対的な自信のある感じがとにかく嫌。自分勝手な感じも。アンタらとやって私が楽しめるわけないじゃない。

 

でも、もし、一緒に行ったら…ヤブ兄、心配してくれるかな。考えてくれるかな。…私のこと。

 

…バカ。

 

「アンタらとなんか行くわけないでしょ。鏡見て言ったら?釣り合うわけないじゃない。バーカ。」

 

…ちょっとヤキモキしちゃって言い過ぎちゃった。

 

「は?テメェ、ふざけんじゃねえぞ。…こっちが下手に出てりゃ、いい気になりやがってッ!!」

 

男の1人がそう怒声をあげる。

顔は梅干しみたいに真っ赤で、声はグラエナの遠吠えくらいに大きかったからか、周りの視線を集めていた。

 

手が男に掴まれる。…痛い。

 

多分、手を離したら赤くなっているレベルで掴まれてる。

 

「…ッ。」

 

私なんかよりも太くて筋肉質な腕。

殴られたら、押し倒されたら…抗えない。

 

「こっち来いよッ!!ほらッ!!」

 

「へへ。こんな美人好きに出来んのか。嬉しいなぁ。」

 

「…くっ…やめ…。」

 

…声が出ない。怖い?私が?あり得ない。…でも、声が出ない。上げれば人が来そうなのに。助けてくれそうなのに。何もできない。そのままトイレの方に引っ張られるだけ。抵抗しているけど腕が引きちぎれそうなくらい痛い。

 

…助けて…ヤブ兄…。

 

「…キュウコン。」

 

「「へぶっ!?」」

 

…目を閉じた。真っ暗闇だ。体が何故か後ろへ倒れる。…誰かに支えられた。背中に硬い感触が伝わる。

 

「…大丈夫か。」

 

「…ヤブ…兄…。」

 

無骨な腕で、私の体を抱えてくれるヤブ兄。その時初めて…自分の目が潤み出した。安心したから…ヤブ兄がいてくれて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッテェなぁッ!!ポケモンで人間を殴るのは違法じゃねえのか!?」

 

「…なにを。世の中には人にはかいこうせんを打つ人間だっているって話だ。尻尾で殴られただけなのを感謝しろ。」

 

そうだと言わんばかりにキュウコンは鳴く。

ゆらゆらとゆらめく尻尾は炎のようで、駄犬のようにいつも寝そべって飯を待ってるだけの姿じゃない。

 

不良たちは頭を押さえて、顔を真っ赤にしていた。…もう少し近くに居てやればよかった。怖かったのだろう。いつも勝ち気で、性格のきついゼイユが震えていた。

 

「…燃やされたくなかったら早くどっか行け。」

 

ギロリと睨んでやると男たちは青ざめた顔で逃げていった。キュウコンがどうせ威嚇でもしたんだろう。やる時はやる女…また後でご褒美でも買ってやらなくちゃ。

 

「ゼイユ、大丈夫か。」

 

「…遅いわよ。馬鹿。」

 

「…あぁ。もう1人にはしない。」

 

キュウコンもゼイユの頭を尻尾で撫でている。凶暴姉貴のゼイユも素直になれば可愛いもんだ。ギュッと俺の服を掴んで離さない。

 

「“今度”は私のことほったらかしにしないでよね。」

 

少し鼻声でそう言うゼイユ。今度は…か。

 

「わかってるよ。」

 

そう言って俺はゼイユを優しく下ろす。地面に降りたゼイユは自分の目を擦るとニッと笑ってみせた。ゼイユの手と俺の手が触れ合う。

 

「離れないようにしっかり持ってなくちゃ。」

 

「お前なぁ。」

 

…握られた手。指と指の隙間に細い彼女の指が重なる。これじゃあ離れたくても離れられない。

 

「それじゃあ行くわよ!!」

 

「…へいへい。…あー、あと。」

 

「ん?」

 

横で小首をかしげるゼイユの耳元で一言話す。

聞こえた言葉に目を見開くとゼイユの顔はオクタンのように真っ赤に染まっていく。耳まで真っ赤だ。

 

「アンタねぇッ!!そう言うことは…ッ!!」

 

「お前が服の感想言えって言ったんだろうが。」

 

こちとらトイレで考えてたんだぞ?

 

「だからって…か、かわ…そう言うとこよッ!!アンタッ!!」

 

喜ぶかと思いきや、ギロリとこっちを睨んで指を指された。全く何が正解かわからない。

 

「あぁッもうッ!!行くわよッ!!」

 

「はいはい。」

 

ギュッと握られた手が解かれることは無く、俺たちは2人と1匹の買い物を楽しんだ。




藍の円盤のゼイユ可愛すぎだろぉぉぉ…!!
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