田舎の喫茶店   作:紳爾零士

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体験留学前夜

…オモテ祭りももうすぐか。

人々の話や、キタカミセンターを歩いているとそう確信する。ロコンを保護して数日が経過したが、親の影は愚か…仲間1人も見当たらない。こうやって歩いてみてみるものの、野生のロコンたちも知らぬ存ぜぬの一点張りだ。

 

…残る可能性は“親がいない”ということ。つまり、親と何らかの理由により死別したか、トレーナーに逃がされたか。野生化する理由なんてそんなもの。一番嫌なのは親が死んで村八分にされた…なんてものだ。

 

想像だけで全てを語っては行けないか。

 

日課のブラッシングをしているとキュウコンが私も私もと駆け寄ってくる。マーケットの時はカッコよかったのに…こうなれば駄犬だ。

 

「イテッ…。」

 

…尻尾で殴られた。機嫌を損ねてはいけない。ケツを焼かれる。

 

こうも晴れ晴れとした天気だと何もしたくなくなる。洗濯物を干しながら、そんなことを考える。そろそろ俺やスグリはいいが、ゼイユには自分の下着を持って行ってもらおう。…アイツの家みたいなもんだから別にいいけど。一応、体裁的に。

 

「ヤブ兄〜?」

 

「ん?なんだ。」

 

縁側に座りながらぶらんぶらんと足を動かすゼイユ。朝から少し不貞腐れたような…そんな様子だ。いつもよりも少し幼い印象を与える。

 

…まぁ、明日から彼女の言う余所者が来るのだ。そりゃあ、少し機嫌が悪いのも頷ける。だからといって、付き合ってもない男の家に入り浸るのはどうなのか。

 

「…暇。」

 

「そらまぁなっと。」

 

洗濯物を干し終えて、俺も縁側に座る。

膝を陣取るのはキュウコン。ゼイユは俺の横にピタッとくっつく。小さい頃から…まぁ、心を許してからの癖みたいなもんで俺もとやかくは言わない。頬まで肩にピタッとくっつけるんだから、相当、病んでるな。

 

違うのは、俺の右手をキュウコンの尻尾に隠れてギュッと掴んでいること。まぁ、初めて泊まって行ったときも。なかなか寝付けないゼイユが俺の手を握ってたことがあったんだが。あのモール以来、くっつくことが多くなった。

 

「暑いんですけど。」

 

「そんなもん、私もよ。」

 

「じゃあ離…「いや。」…。」

 

…こりゃあ、今日は一緒にいないとめんどくさい奴だ。スグリが奥の部屋からいたたまれないような目でコチラを見ている。…はぁ。

 

「別によくないか。俺だって元は余所者だろ。」

 

「別にいいわよ。アンタはもう馴染んでるし。…他の場所からすぐに来るってのがムカつくのよ。ずっと住んでる私たちの場所を土足で荒らす余所者が。…それに…。」

 

そう言うと俺の顔を見てゼイユが黙る。

…本当に黙っていれば美人だな。綺麗な花には棘があるを体現したような子だ。まぁ、俺はもう慣れたのでどうでもいいけれど。

 

「…お、女だって来るかもしれないじゃない。」

 

「なんだよ。友達増えていいじゃねえか。」

 

「そう言う意味じゃ…。あぁ、もう良いわ。」

 

などと呆れた様子で、俺の膝に座るキュウコンを投げて、俺の膝に寝っ転がるゼイユ。…結局は美人なだけのガキなんだななんて思いながら、ゼイユの頭をポンポンと軽く叩く。

 

「…んっ。」

 

「全く。」

 

…こうなったゼイユはテコでも動かない。

スグリの目がだんだんとキツくなってくる。姉のこんな姿見たくなかった…とか、そんなところだろうか。そろそろ仕込みをしなくちゃならないのにこれでは不可能だ。

 

「ヤブ兄も笑ってんじゃん。やっぱり私がいるのが嬉しいのね。」

 

「その自信家には敬意を表すよ。…そろそろ退いてくれよ。」

 

「やぁよ。私の気が晴れるまでこれでいいの。」

 

今日は開店できやしないか。

まぁ、明日からは臨時収入も入ってくるし…明日から疲れるゼイユのために一日やるのもいいかもしれない。

 

「そういや、ヤブ兄。林間学校のご飯はヤブ兄が作るんでしょ。1人で大丈夫?」

 

…俺の方…つまり、上を向いてゼイユがそう言った。

 

そう。臨時収入というのは林間学校での調理に対してブルーベリー学園、グレープ学園の両者から支援金としてもらえるお金である。元はキタカミに送られるものだが、その一部が俺に還元される…とかなんとか。

 

「ありがとう。大丈夫だよ。」

 

その優しさをもっと全面に出せれば男の1人ぐらい見つかるだろうに。

 

そう思いながら、俺はゼイユの頭を撫でる。減らず口の一つでも飛んでくるかとでも思ったのだが、ゼイユは少し照れながら目線を逸らしていた。

 

「わ、私が…一緒に手伝ってあげるわよ…。か、感謝しなさいね。」

 

「先ずはちゃんと包丁握れるようになろうな。」

 

「に、握れるもんっ!!」

 

…指が数秒後には飛んでそうで怖いんだよなぁ。ぐぬぬと震えるゼイユには悪いが、危ないことはさせられません。基本的には。

 

「怪我してからじゃ遅いんだよ。…つーか、怪我したら一緒にオモテ祭り行けねえぞ。」

 

「うぐっ…それは…。」

 

「これでも楽しみにしてんだから。やめてくれよ。ゼイユが居なきゃ楽しさ半減だ。」

 

「…っ…。」

 

ジンベエ姿のゼイユと一緒に屋台を回るのは悪くない。その中にスグリとキュウコン。…うん。これがいい。みんなでワイワイガヤガヤ回るのがお祭りの楽しみだ。

 

「…ん?どうしたんだよ。」

 

バッと俺の膝から起き上がったゼイユが髪を指に絡ませながら、足を閉じている。さっきまでのだらしなさとは一変して…だ。

 

「…つ、つまり…ヤブ兄は私とお祭り…回りたいってこと…ね?」

 

「そう言ってるじゃねえか。」

 

「う、嘘じゃない?」

 

「なんで嘘つく必要があるんだ。」

 

「ふーん。…そう。」

 

…どことなくそっけない。

ぷいっと横を見るゼイユ。…どうしたら機嫌を取り繕えるか、わからない。ただ、少し雰囲気が柔らかくなった気がする。

 

…ふと目線をスマホロトムに落とす。

 

「お前…スタンプ送りすぎな。」

 

「なによ。可愛い私の時間を使ってるんだからこれくらい楽させなさいよ。可愛いでしょ?そのスタンプ。」

 

「スタンプだけじゃ話の解答になってない。」

 

次はどこへ行きたい?と聞いているのに、ドオーのスタンプとはこれ如何に。別に悪いとは思わないが、せめて答えを聞きたいもんだ。考える方も楽じゃない。…が、ゼイユもゼイユで化粧に時間がかかるもんだ。不平不満はもらさない。

 

「てか、こういうのは話し合いで決めるのが礼儀じゃない?ほら、毎日のように入り浸ってるし。」

 

「さいですか。」

 

入り浸ってる自覚はあるんだな。

 

「私はヤブ兄の選んだ場所に行きたいんだけど。ヤブ兄と入れればいいし。」

 

「…そうかい。」

 

偉く熱を帯びた目をしている。

あの日言った言葉を若干後悔している自分がいる。酔ってない今、好きだなんて言われたらちゃんとゼイユを認めてあげられるのだろうか。

 

…いや、知らん。

ゼイユがその気になったらいつでも受け入れるし、他の女はどうでもいい。ただ、ゼイユはまだ若い。5以上も離れた俺に初めてを渡して後悔しないだろうか。

 

「はぁ…まったく。」

 

「うぇっ!?ちょっ!?」

 

肩を掴んで此方へと引き寄せる。

ゼイユが顔を真っ赤にして苦言を呈すも、ゼイユの力じゃ逃げられない。だいぶと照れているだろうが、こっちも恥ずかしい。お互い両成敗だ。考えさせたゼイユも、気づいてやれなかった俺も。

 

…でも、皮肉だ。割と心地いい。

 

「ちょっ!?ヤブ兄っ!?」

 

「ん?どうした?」

 

「はなっ!?…え、力強っ!?急になによッ!?ちょっ、はずっ!?え?」

 

「…ふっ。くくっ。あはははっ。」

 

慌ててるこの様子が面白いから、少し待ってやろう。…そして、体験留学は始まる。




ゴールインも近いのかもしれない。
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