田舎の喫茶店   作:紳爾零士

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皿洗い

「うぐぅ〜…!!また負けたっ!!悔しいッ!!」

 

今日も今日とて、嵐のようなゼイユを撃退し、店員を確保。ぷるぷると震えるゼイユをよそに、いつものエプロン…ではなく、汚れても良いツナギを渡す。

 

「な、な、な…なによっ!?これっ!?」

 

「今日は林檎の収穫と野菜の収穫。汚れるから、これ着てろ。」

 

「嫌よッ!!こんな変なのッ!!」

 

年頃の娘から見れば、確かにダサい。

だが、ツナギを着ないとかぶれるし、汚れるしでそっちの方が無理なんじゃないかと思う。

 

「いいから着てろ。何着ても似合うんだろ?自慢の美貌とやらで。」

 

「うぐっ!?…そ、そうねっ!!き、着替えてくるわ…!!」

 

葛藤やら何やらで声が上擦っているゼイユ。そのままツナギの上下セットをもって、店の中に入っていく。まぁ、ここまで自由にできるのはあまり客が来ないだけ。都市部の喫茶店に比べると客足は少ない。とはいえ、ゼイユやスグリなどの飯の分やネットに流す分等々、野菜は確保しておかなくちゃならない。

 

とはいえ、超がつくほどの負けず嫌いゼイユが来るまでにある程度は終わらせてある。ジャガイモの掘り出しくらい。それも先行して、エテボースが行っている。いくら、ゼイユだからとはいえ、危ないことは俺の目が届かないところでさせない。

 

「ど、どうかしら。私の美貌半減してない?」

 

荷物を納屋から出す俺の背後からそんな言葉が聞こえる。納屋は家の横、ここを一部、食事処と解放する話も出てたし、広いっちゃ広いのだが、埃くさくてかなわず。

 

後ろを振り向けばいつものように自信ありげ…とは言えないほどやけにしおらしいゼイユが立っていた。まぁ、古いツナギだし。俺のだし。

 

「…顔は変わらん。」

 

「あ゛?」

 

「可愛い可愛い。」

 

ちらっと見て、すぐに元通り。刃物とかあるからよそ見はできない。そんな俺の態度が気に食わなかったのか、後ろからドスの聞いた声が聞こえてくる。大抵、体良く褒めておけば機嫌が良くなるから割と扱いやすい。どこでキレるか、わからんが。

 

「ふふんっ。そうね!私の美貌はこんなものでなくなるもんじゃないものっ!!」

 

「はいはい。ほら、行くぞ。」

 

「あっ、ちょっ!?…待ちなさいよっ!!」

 

畑は店から内地に入り数分、歩いた程度の場所。リンゴ園を抜けて少し下に降りる。そこまで広くないものの、茶色の大地に生える野菜はかなり色鮮やかだ。

 

「久しぶりに来たけど、こんなだっけ?」

 

「…いつの話してる。お前入れて畑仕事なんざ、久々だ。ほら、軍手。」

 

「はいはい。…全く、お芋掘ると腰が痛くなるから嫌なのよねぇ〜。」

 

ゼイユの忌みごとをBGMに、俺は隣のエテボースと共にジャガイモを掘り出す。芋は傷つけると痛みが早くなるので、周りを20センチほど掘り下げて、根元を持ち、少しずつ引き抜く。小さくなってきたら終了の合図だ。そこらで掘るのを終了し、再び土を被せる。

 

収穫した芋はエテボースの持っているカゴに積む。

 

「ありがとう。エテボース。」

 

ゼイユの方を見ると、少し顔を汗ばませながらなんだかんだ言いつつ、いい感じに採取している。割と根は真面目だ。弟に対してはもう少し優しさを見せてやってもいい気もするが。

 

数分、先ほどの作業を続ける。

終わった頃には腰に鈍痛が響き渡っていた。ゼイユなんかは体力あるくせにひぃーひぃー言いながら、後半は文句を言いながら掘り出していた。ご褒美くらいはあげよう。汗だくだし。

 

「少し休憩しよう。」

 

「さ、さんせぇ〜…。なんか作ってぇ〜…。お腹すいたぁ〜…!!」

 

「先、店戻って風呂入ってろ。沸かしてあっから。」

 

その言葉にゼイユは一つ肯定。

勿論、俺も泥だらけなので後で風呂に入らなくちゃならないが。畑の見回りぐらいは終わらせておこう。時々、ムックルやらホーホーやら、マンキーやらが食べちゃってるのを見るからな。

 

「あっ、ヤブ兄。一緒に入る?」

 

「早く行け。」

 

「はぁい。」

 

…これが正解。

おちょくるようにニヤリと笑いながら言ってくる時はしどろもどろになっても煽られるだけ。へんたーいなんて言ってな。

 

さて、こちらはこちらの仕事を終わらそう。

エテボースと共に畑の周りを見渡す。朝方からエテボースに張り込ませていたし、普段はアップリューも飛び回ってくれる。

 

つまりは、特に問題はない。

家を出る時に持ってきていたポケモン用の餌を皿に入れてエテボースに渡す。エテボースは満足げにそれを手で取り、むしゃむしゃと食べていた。昼間はエテボースによる監視、夜はヨルノズクが見てくれている。いずれも父からの預かりポケモンだ。すなわち、ものすごく強いし、勝手がわかってる。

 

「じゃあ、戻るから。あとは頼むよ。」

 

そう言って、俺はカゴを背に、店へと入る。前から入ると玄関が汚れるので勝手口から。

 

「あ、おかえりー。」

 

「…また、冷蔵庫漁ったな。」

 

「いいでしょ?手伝ったことへの対価よ。た・い・かっ。」

 

…1人アイスキャンディーを口にするゼイユに恨み言を呟く。店用の冷蔵庫からではなく、俺の冷蔵庫から出したのだろう。りんごで作ったアイスを口に咥える風呂上がりなゼイユ。小さい頃からの付き合いだからか、色っぽいなどという感情はない。

 

「まぁ、いい。店の冷蔵庫には手ェ出すなよ。」

 

「わかってるって。」

 

「シャワー浴びてくるから。ちょっと休んでろ。そのあと昼飯作ってやる。」

 

「はぁい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャワーを浴びて戻ってくる。

ゼイユのために風呂沸かしただけだし、節水の為に入ってもいいが、こっちの方が個人的には好きだ。そんなことはさておき。

 

キッチンへ行くとすでにアイスを食べ終えたゼイユがカウンター席に座っている。首にかけてるタオルもうちのもの。アイツにとってはうちも婆ちゃん家も変わらないんだろう。

 

「ん?キュウコン、どうした?」

 

ゼイユの足元に寄ってくるキュウコン。なんだかんだ言ってゼイユもロコンを持っているからか、キュウコンは懐いている。ゼイユはそんなキュウコンのために膝をつき、頭を撫でていた。弟にもそれぐらいしてやればいい…なんて軽率なことは部外者である俺には言えない。

 

さてと。真夏の日の畑仕事の後はちゅるっと冷たいうどんでも食べたいところ。2人分のうどんを湯掻き、ある程度待つ。中火で菜箸を使って14分ほど。吹きこぼれないように注意しながら。

 

ある程度時間が経ったら氷水に入れて締める。器の上に、うどん、刻み葱、鰹節と半熟卵を乗せ、麺つゆを別皿に入れる。…で、完成。

 

「はいよ。」

 

「へぇ〜…。わかってるじゃない。ありがと。」

 

ゼイユはそう言うとカウンター席に座り直し、自分の髪を耳にかけ、箸でうどんを掴み、つゆに絡め、ちゅるっと吸う。俺も食べるとしよう。

 

うん。美味い。刻み葱と一緒に食べるとネギの風味がプラスされて、鰹節なら鰹節の香りがプラスされる。卵黄を絡めて食べれば、つゆがなくても滑らかな卵の味がうどんに絡みつく。ここに醤油をかければ、つゆの味に飽きた時にかなり味変になる。…まぁ、なんだ。口下手だから許してくれ。

 

ちなみにゼイユの方は。

 

「まぁ、いいんじゃないの?私をここまでこきつかったんだからもっと良いもん、食べさせてくれてもいいんだけどね。」

 

「…食わせねえぞ?」

 

「残念でしたぁ!!全部食べたもんねっ!!」

 

と、勝ち誇った顔のゼイユ。その額にぶち込んでやろうかとも思うが…。

 

「そういえば、林間学校…大丈夫なのか?」

 

「…なにが?」

 

皿を洗いながら…もとい、ゼイユにも自分の食った分の皿を洗わせながら、言葉を交わす。ゼイユは半分、機嫌を損ねたようにぶっきらぼうに言い放った。

 

「また、よそ者だなんだってまた吹っかけるんじゃねえだろうな。」

 

「仕方ないわよ。私、このキタカミによそ者が入るの嫌いだし。」

 

「キタカミを大事にしているのはわかる。いいとこだよ。ここは。だけど、人がいなきゃ人が来なきゃ、村も街もリンゴ園も腐っちまうから。」

 

「なにそれ。どういうこと?」

 

ため息混じりにそういうゼイユ。

 

「ウチが繁盛するように、協力してくれよ。」

 

「い・や・よっ!!ただでさえタダ働きさせられてんのに。」

 

プイッと横を向いて、こちらを見ないゼイユ。その見返りとして勝負してやってんだが。

 

「次こそ、私が勝ってやるんだから。」

 

小さく胸の前でガッツポーズをするゼイユ。

…どうせ、また負けるんだろうなぁと考えつつ、止まっている手を動かし、皿洗いを再度始めた。




なんか楽しくなってきたよ。日常系。
因みにヤブサの元ネタはヤバサンザシ、スグリ科の植物です。
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