田舎の喫茶店   作:紳爾零士

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体験留学その5

「すみませんね。サザレさん。」

 

「いやいや。スグリくんもアオイちゃんも楽しんでたよ。私も色々撮っちゃった。まぁ、インスピレーションが湧くものは撮れなかったけど…。それじゃあ。また食べに来るよ。」

 

今朝方、泊まって行ったサザレさんと別れた。勿論、宿泊の件はゼイユの了承を得てである。じゃなきゃ、早々修羅場だ。できるだけ避けたいところ…と言っているのも束の間。今日もアオイちゃんとゼイユがウチに来る。先にゼイユん家の爺ちゃん…ユキノシタさんのところに行ってから来るとのこと。例のお面の…おそらくポケモンに関してだ。

 

…確か、親父がこのキタカミで探していたのもキタカミの鬼伝説だったはずだ。祭りのポケモンはどう見ても鬼というには小さすぎやしないだろうか。

 

「…これか。」

 

2階の物置に隠されていた古びた本を見つける。キタカミの鬼伝説…と書かれた親父の研究書物だ。

 

…カウンター席に座り、よく冷えた麦茶を飲みながら書物を漁る。足元にはキュウコンとその隣で丸くなって眠るロコンの姿があった。すっかりうちのキュウコンに懐いちまって山に帰ろうとしない。…まぁ、いつまでもいればいい。

 

「…ともっこ、男…そして、鬼。」

 

…俺もここに住んで長いから少しは聞いたことがある。単純な話、村を襲った鬼をともっこがその命をかけて守った。だからこそ、今も鬼は恐れられ、ともっこは英雄視されている。

 

…あの子がその『鬼』だったとして村人を襲う理由はなんだろうか。男と鬼は相棒のような存在だったようだと書物には書かれている。…村人に男が嫌われたことが襲った原因だろうか。ひょんなことから男がいなくなった。それを村人のせいだと考えた鬼が暴れ出し、村の守り人だったともっこがそれを守った。

 

いや、書物には『ともっこは元々はキタカミに居なかった』とも書かれている。たまたま居合わせたともっこが鬼の暴走を食い止めた…ってことか。

 

何らおかしい話ではないが…どこか引っかかる。そもそも生態系の離れた…所謂、陣地ではない場所の悲劇を野生のポケモンが守るだろうか。そして、書物にあるどこを探しても出てこなかった鬼の相棒の男の寓話。…男は何かが原因で…ということか。

 

…一つ。考えられるとするならばこの、ともっこを鬼が襲撃し、それを村人がともっこ様が村を守ったと勘違いした…ということもあり得るのではないだろうか。

 

何らかの理由で…それが弱肉強食なのか、どうかは知らないが…何らかの理由で鬼がともっこと戦った。それを村人が勘違いした。…あり得ない話ではない。

 

「ヤブ兄〜?来たわよぉ〜。」

 

…思考を巡らせていた頭はその声によって現実に戻される。埃まみれの本を畳み、玄関の扉を開けるとそこには甚平姿のゼイユとアオイちゃんが立っていた。

 

「いらっしゃい。」

 

手を差し出すとゼイユはその手を取る。

…このぐらいはさせてもらいたい。スキンシップは大事だ。

 

「なによ。一日も経ってないのにもう寂しかったの?」

 

「…さぁね。」

 

くすくすと笑うゼイユを他所に麦茶を二つ用意する。ゼイユはヤバソチャのせいでお茶に関しては少し五月蝿いが…文句を言ったら如何様にもしてやる。

 

「お邪魔します。」

 

「いいわよ。私が許可してあげる。」

 

「ゼイユの家じゃないよね?」

 

「私の家みたいなもんよ。一応。」

 

まぁ…それもそうか。

自信満々に言うから肯定しちまうのはただの病気かな。

 

「んで、そっちは何かわかったか?」

 

アオイちゃんと隣にいるゼイユはその言葉に目をキリッとさせた。

 

「オーガポン、何にも悪く無かったのっ!!」

 

…あれ、オーガポンっていうのか。なるほど。

 

「ともっこが悪いってわけか。」

 

「うん。…お面を狙って男を襲った…って。」

 

だったらあの憶測は正しかったということか。

元々、異端だった鬼ことオーガポンがともっこを襲撃。それを昔の村人はオーガポンが村を襲撃した、ともっこはそれから村を守ったと語り継いだ…ということか。

 

「このこと、スグリには?」

 

「…あの子には言えないわよ。」

 

「だろうな。」

 

ゼイユの顔は浮かない。

…病的なまでにスグリは鬼が好きだ。男の子だから伝説とかそういうものに憧れを抱くのは仕方のないことだろう。現に俺だってホウオウを探している。疲れちまった俺とは違い、スグリはまだまだ元気旺盛。周りから邪険にされていた鬼が本当は可哀想なヒーローだったって知れば…。

 

「暴走するだろうな。…だけど、言い方は考えなきゃいけないぞ。」

 

「なによ?言い方って。」

 

「スグリが心配なのはわかるが、躱すんじゃなくて追い出すような言い方したら…そのうち暴走し始めるぞ。思春期だからっていうよりも人は脆いんだ。だから、攻撃しまくればいずれは溜めてたものが飛び出す。…言い方は考えなきゃいけない。」

 

説教垂れちゃいるが、ゼイユがスグリのことを大事にしてるのは理解しているつもりだ。彼女なりの優しさであれ、なんであれ。空回りして二人が衝突しては元も子もない。

 

「手ェ出してないんだからいいでしょ?」

 

…最もその考えは今、水泡に帰したが。

悪気がないように真顔で言うからなおたちが悪い。この顔に惚れたやつも相当な好きものだ。…顔がいいからなんでも許されると思ったら大間違いだ。と言える立場でもなしに。

 

「はぁ…。」

 

「取り敢えずオーガポンのお面を直してあげなきゃね。今、爺ちゃんに渡してるからあとはてらす池の水晶とってくればいいわ。」

 

「だね。」

 

ゼイユとアオイちゃんの中ではそういう手筈になっているらしい。目配せして段取りを決める様子を見るにゼイユにも友達ができたんだなとしみじみ思う。親心的なあれだ。目頭が熱くなってくるのは決して歳なんかじゃない。

 

「何泣きかけてんのよ。あれ?私があんまりアオイと仲良いもんだから嫉妬してんの?」

 

…そんな気持ちは知らずに、ゼイユはニヤリと笑ってそう言った。眉間は押さえたが、別に涙ぐんでるわけじゃない。

 

「…アオイちゃん。こんな顔だけのバカだけど仲良くしてやってくれ。」

 

「はぁ!?誰が顔だけのバカですって!?」

 

半諦め状態でそう言うと案の定、ゼイユがぷるぷるし出した。顔はいいんだよ。顔は。綺麗な薔薇には棘がある…どころの騒ぎじゃないからな。

 

「顔はいいんだから。顔は。」

 

「確かに?私はちょーぜつ美人だけど?頭もいいんですけどッ!!これでもブルベリ上から数えた方が早いわッ!!」

 

「教えてんのは俺ですが?」

 

「ぐぬぬぬ…!!」

 

「…ゼイユが手玉に取られてる…。」

 

ニヤリと笑ってやればゼイユの顔は真っ赤に染まっている。テレじゃなくて怒りの真っ赤だ。…アオイちゃんよ。そして、これは手玉じゃなくて。薬と同じで用法容量を守ればゼイユは怖くないのよ。

 

「こりゃ、未来のお婿さんは大変だねぇ。」

 

「は?アンタでしょ。」

 

「俺だけど?」

 

「「…。」」

 

「…二人とも自分で言ってて照れないで。」

 

…いつもの調子で喋ってたら顔が熱い。

アオイちゃんからの辛辣で幼気な目が大人の汚れた胸に突き刺さる…。ゼイユの方も照れてるし。こりゃ、話を変えなきゃいけないな…。

 

「こほん。で、てらす池。行かなくていいのか?」

 

「あっ、そうだ。ヤブ兄も一緒に行こうよ。」

 

「そう言うと思った。」

 

作戦会議だけで終わるわけじゃない。

歩くの面倒だから送れぐらいは考慮してたし。ウインディには少し無理させるけど今度ご飯でも豪勢にしてやろ。

 

「それにねー。てらす池、すっごい綺麗だし。空気も美味しいから、ピクニックなんかしたら楽しそうだなぁって。」

 

「…あ、そういうことね。大丈夫だよ。私の方でゼイユのお爺ちゃんには渡しとくし。」

 

ん?ピクニックなら大勢でやった方が良くないか?

アオイちゃんもまだ会ったばかりなのに阿吽の呼吸ばりにゼイユの言いたいこと、理解してるし。ゼイユも何期待してるかわからないけど、こっちチラチラ見てくるし…。

 

「弁当、用意しろって?」

 

「それもあるけど。ほら、せっかくさ。…その…これぐらいはいいじゃない?ちょっとぐらい。」

 

歯切れの悪いそんな言葉を言いながらモジモジするゼイユ。らしくないと言ったららしくない。アオイちゃんもこっちを何か期待したような目で見てくるし。

 

「…あぁ。そういうことか。」

 

「そ!よくわかったわね。ニブサのくせに。」

 

…悪口言われてるのはわかった。

今回のは流石の俺でもわかる。

 

「だが、もっと言葉にしてくれてもいいんだぞ?デートしたいって。」

 

「で、ででで!?デートじゃないわよ!?」

 

「違うのか?」

 

「……デートです…。」

 

ゼイユの顔が真っ赤に染まる。今度は照れの真っ赤だ。しゅ〜という音と共に湯気が出ているような気がした。キュウコンよ。なんだその、よくやったみたいな目は。

 

「はぁ…。」

 

「え?なんでため息?」

 

「いや、どっちもどっちだなって。」

 

…アオイちゃんにもこんなこと言われた。

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