田舎の喫茶店   作:紳爾零士

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スグリの口調迷走中…


土砂降り

…しかし、外を見ればとんでもない雨だ。

窓を叩きつける音はまるで小石でも投げられているのではないかと思うし、屋根から流れるのは滝のようなもの。完全なる豪雨だ。

 

「帰れないわね。」

 

そう言うのは風呂に入り、いつも通り、アイスキャンディーを食べるゼイユ。俺のTシャツを我が物顔で着ている。変な気はしない。どうせ、家族みたいなもんだ。

 

「この様子だと夜まで降るな。」

 

…良かった。エテボースとヨルノズクは先にボールの中に入れてある。スグリが来る前にだ。畑には被せ布をしてあるし、リンゴ園にも雨除けを被せてある。…この雨では客足も期待できないだろう。

 

「今日は泊まっていけ。爺ちゃんらも俺の家なら良いだろう。」

 

「何言ってんの?この雨で帰れるわけないじゃない。最初から泊まる気よ?」

 

と、当然といった顔をして返されてしまった。腰に手を当てて、アイスキャンディーを食べるゼイユにスグリはなんとも言えない顔をしている。まぁ、コイツらにとってはここは第二の実家のようなものだから仕方ないだろう。

 

「姉ちゃん…ありがとうぐらい…言えよ…。」

 

「大体誰のせいでこうなったと思ってるのよッ!!もう、今日バトル出来ないじゃない。」

 

「どうせ…負ける…。」

 

「あぁん!?」

 

「喧嘩するな。」

 

目を合わせれば喧嘩ばかりする。

 

「泊まるんだ。当然、2人にも色々と手伝ってもらうぞ?」

 

「え「はぁ!?」…。」

 

…耳が痛い。スグリの声をゼイユの大声がかき消す。耳を塞いでいないのはキュウコンとゼイユのみ。当のゼイユは、口からアイスキャンディーの棒を取り出し、俺の方をギロリと睨んでいる。

 

「なんでよっ!!まだ私負けてないッ!!」

 

「負ける気満々だったのか?」

 

「違うわよッ!!勝つわよッ!!泣かすわよッ!?」

 

…胸ぐらを掴まんがばかりの勢いで、此方を怒鳴りつけるゼイユ。というか、手が出かけている。その上に振り上げた手はなんだ。とはいえ、特権などはない。

 

「働かざる者食うべからず。」

 

「…ぐ…ぐぬぬぬぬ…。」

 

「掃除機やら何やらの場所はゼイユならわかるだろ。」

 

俺はキッチン周りの掃除だ。あとは布団と着替えか。…布団…何枚あったかな。あ、ヒス目でプルプルしているゼイユは無視。放っておいたら多分仕事する。

 

「俺はなにすればいい?ヤブ兄ちゃん。」

 

「スグリはキュウコンのブラッシング。ポケモンの世話も立派な仕事だ。」

 

「わかった…!!俺、けっぱるねっ!!」

 

ブラシを渡すとスタスタとキュウコンの方へと走っていくスグリ。ゼイユは俺をすごい顔で睨んでいる。

 

「…チッ。スグがやるってんなら仕方ないわね。ヤブ兄には世話になってるし、仕方ないから手伝ってやるわよ。」

 

姉の矜持か、持っても捨てるようなプライドか。

諦めた様子で俺の方を見てくる。うちの台所からアイスを泥棒しているというのになんともふざけた話だ。

 

「というか、私もブラシ貸しなさいよ。そりゃあ、キュウコンだって女の子だから仕方ないけれど、私の髪だって酷いし。あと、下着もないんだけど。女物とかないわけ?」

 

「あるわけない。少しは恥じらいを持て。」

 

「はぁ?別にアンタならいいでしょ。なぁに?私の美貌に欲情でもしてるわけ?この変態。」

 

ニヤリと笑ってそう言うゼイユ。

…無論、頭を叩いておいた。

 

「痛っ!!なによっ!!暴力反対っ!!」

 

「愛情だ。ほら、さっさと仕事しろ。ゼイユはとりあえず一階の掃除してくれ。1人じゃきついだろうから俺のポケモンにも手伝わせる。」

 

腰のボールを一つつまみ、上へと投げる。ポットデスはカフェを始めると決めた時にゲットした子で、ヨルノズクとエテボースは父から預かったもの。元々の相棒はキュウコンとあと三体。

 

「であえ、ファイアロー。」

 

炎飛行タイプのファイアロー。

彼の送風でゴミや埃を集めてもらうことにしよう。家の中なので満足には飛べないだろうが。

 

「あと、この女がサボってたら突っついていいからな。」

 

「はぁ!?ちょっと待ってよ!?」

 

まぁ、ファイアローは控えめだから突っつかないだろうが。しかし、コンロ周りは毎日掃除してるから綺麗だ。カウンターから此方を見られるからな。風呂はゼイユの入った後の湯をそのままにしてあるからそこに後でスグリを入れて…と。

 

玄関、土間からそのまま直進するとテーブル席から見えない位置に階段がある。最初は一段一段の幅が狭く、夜間だと落ちてしまいそうになっていたが、少し大きさを広げることでなんとか落ちずに済む程度に済ませられている。一人暮らしだが、ポケモンと住んでる為2階は20畳。ベッドなどはなく、押し入れに色々と突っ込んである。押入れの中に服の入っている箪笥を入れてある。

 

「…つうか。やっぱりか。」

 

押入れを開け、ため息をつく。

布団は一個しかない。掛けも敷きもそこまでデカくないものが一個。最悪、スグリとゼイユだけ寝かせて、俺は下で寝るか。

 

一階とは違い、畳のいぐさの匂いが気に入っているのだが。まぁ、キュウコンとともに寝るのも乙か。まぁ、まだ時間はあるし、その時に考えようか。

 

下に降りると掃除を終えたゼイユがキュウコンとファイアローをブラッシングするスグリを眺めていた。俺がやってきたことをゼイユは知るなり此方へと寄ってくる。

 

「お腹すいたわ。おやつどきでしょ?何か作りなさいよ。食べてあげるから。」

 

「…あのなぁ。」

 

まぁ、おやつどきだからというのは賛成だ。

 

「手伝え…おっと。」

 

「何してんの。早くしなさいよ。」

 

さっきの喧嘩で懲りたのか、ゼイユはすぐにエプロンを身につけて厨房へと入っていた。やる気なら仕方ない。

 

「といってもやることは少ない。」

 

どうせ、コイツらが来ると思って仕込みは済んでいる。

 

林檎をサイコロ上に小さく切り刻み、おいておく。小さいコップなんかでいいのでそこへリンゴジュースとゼラチンを解き合わせたものを入れ、そこに林檎を適当に入れる。それを冷蔵庫で冷やしておく。…林檎ゼリーの完成だ。

 

「固まってるかな。…うんっ。いいね。」

 

「…私にこの格好させた意味は…?」

 

「勝手にしたんだろ。スグリ、おやつにしよう。」

 

そう言うとキュウコンと戯れていたスグリは元気な返事をする。落胆しているゼイユをよそに食器棚から皿、その上にゼリー入り容器とスプーンを渡す。

 

「頂きます。」

 

「じゃ、頂くわね。」

 

スプーンを入れると硬さは…まぁ、ちょっと柔らかいかなぐらい。味はちょっと甘めかな。酸味も若干程度でクセはない。りんごのシャキシャキとした食感が楽しめるので割とありだ。

 

「美味いっ!!」

 

一口食べ、目を輝かせるスグリ。隣にいるゼイユがふふっと笑い、スグリを流し見る。

 

「スグはお子ちゃまねぇ。このぐらいなら私だってできるわ。」

 

「因みにそいつは最初、りんごもまともに切れなかったぞー。」

 

「ヤブ兄…うるさいッ!!」

 

目のハイライトを消して、プルプル震えながら此方を見るゼイユ。看病だなんだの時に不細工な林檎を俺に食わせてきた時に半泣きでうまく切れなかったって謝ってきた時はまだ可愛かったなぁ…。

 

スグリはりんごゼリーを食べながら、にへらと笑っていた。

 

「…そういや、ヤブ兄ちゃんは…なんでそんなに強いの?」

 

…そんな他愛無い会話の中でスグリがそう言い放つ。カウンター越しにりんごゼリーを食べながら、談笑していた俺のスプーンがふと止まる。…なんで強いの…か。

 

「そうよッ!!アンタに負けすぎてこちとらはらわた煮え繰り返ったんだからねッ!!」

 

今にもカウンターを乗り越えて此方へ噛み付かんがばかりのゼイユをよそに俺はおやつ後の茶で一服していた。

 

「…まぁ、あれだな。ゼイユが読みやすいってのもあるけど…。」

 

「はぁ!?なにそれッ!!」

 

「一番は元々俺もお前らと同じかは知らねえけど、ジム巡りとか友達とバトルとかしてたから。好きな時間に好きなように。だから強くなったんじゃねえの?」

 

そう言うと俺はお茶の入ったコップを上に上げ一気に飲み干す。次に視界に映ってきたのはむすっとしているゼイユとキョトンとしているスグリだった。まぁ、そんなことかとでも思っているんだろうな。

 

「つまり、ヤブ兄とバトルし続ければいずれ勝てるってことね!!待ってなさい。何年かかっても勝ってやるから。いつか、負かしてやるからね。」

 

「…どうせ負けるのは姉ちゃ…「スグ、なんか言ったぁ?」…うぅ…。」

 

スグリの言葉が癪に触ったのだろう、スグリを睨むゼイユの目は怒気を孕んでいた。…まぁ、なんだかんだゼイユとのバトルはいい暇つぶしにもなってるし。キュウコンが此方を見て微笑んでいるのが少し気にはなるが。

 

「晩飯まで少し待ってろ。そろそろ林間学校だろ?風邪ひかねえようにな。」

 

…取り敢えず、晩飯の仕込みは済んでるし。俺もゆっくりさせてもらおうか。

 

「てか、室内でバトルできる場所ないの?」

 

「あるか、バカ。」

 

「バカって何よッ!?バカってッ!!」

 

…休めるのか、これ。ゼイユと結婚する奴の顔が見てみてえよ。なんて思いながら、俺はキッチンを出た。

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