田舎の喫茶店   作:紳爾零士

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写真家

「今日も負けたのか、ゼイユ。」

 

「うっさいわねッ!!おっちゃんッ!!負けてないわ、負けてあげたのよッ!!」

 

小さな田舎町だから、恒例行事ともなれば色んな場所へと噂になる。今、食べに来ている管理人さんはうちの常連で、うちが店を出す際に厄介ごとを諸々引き受けてくれた人だ。本人曰く、ゼイユの手綱を持ってる俺が居てくれることが何よりの救いになっているだとか。…手綱という言い方は気になるのだが。

 

本日のメニューは一風変わった和食。

飯盒で炊いたキタカミの米を中心に、昆布出汁の味噌汁…具はガケガニスティック。そこにうちの野菜のサラダを加え、魚の切り身を焼いたもの。それを管理人さんに出している。手抜きではない…はず。

 

「ゼイユはなんの文句も言わずに皿洗いとか手伝ってくれます。1人もんには助かりますよ。」

 

「ほう、あのお転婆ゼイユが。」

 

「余計なこと言うな。おっちゃんッ!!」

 

「目上のものを労わらんかッ!!…全く。」

 

管理人さんはそう言ってため息を吐く。

田舎だからか、俺も含め全員が全員、まるで家族のような存在だ。ゼイユやスグリが伸び伸び育つのはこういった環境が起因するんだろうなぁ…なんて美談はどうでもいい。…そろそろカフェじゃなくて、食事処に変えようかな…。

 

「いつもご贔屓にありがとうございます。」

 

「なに。ヤブサくんの料理にはいつも心が満たされる。…そうじゃ。オモテ祭りにでも出店してみては如何かな。」

 

「…ふむ。」

 

確かに。オモテ祭りで子ども向けメニューでも開発すれば、集客率アップにも見込めるか。焼きそばがあるのだから、ジョウト名物のたこ焼きでも。

 

「はぁ!?ヤブ兄は私たちと周るんだから余計なこと言わないでくれるッ!?」

 

…と、隣から怒号。

見てみればゼイユがカウンター席を両手で叩き、とんでもない顔で管理人さんを見ているではないか。集客率云々の考えが吹っ飛んだ。

 

「それを決めるのはお前じゃない。ヤブサくんじゃ。…どうかな。ヤブサくん。」

 

その言葉に、ゼイユの視線が俺へと移る。

 

「…折角のお話ですが、お断りさせて頂きます。…すいません。何せ、俺は他所から来た人間、伝統的な祭りには不相応でしょうから。」

 

…本当はゼイユやスグリと回りたいから。

オモテ祭りをただ楽しみたいから、それらしい言葉を取り繕っただけ。ゼイユがまるで安心したかのように微笑んでいるから、合ってはいたのだろう。選択は。こんな時ぐらい自分に正直に生きたい。

 

「そうか。…まぁ、無理強いはしないよ。ご馳走様。」

 

そう言って管理人さんはお代を置いて、店から出て行った。食され空虚となった皿を片付ける。水が少し張られたシンクの上に皿と茶碗を置く。お代はレジ代わりの貯金箱に入れておく。お釣りがないのは、管理人さんの性格を指しているのかなと。あの人、割とキタカミを盛り上げるのに容赦ないから。

 

「チッ。おっちゃん、皿洗いぐらいしてきなさいっての…っ!!」

 

「いやいや、客だぞ。」

 

タダ働きさせてる俺も悪いんだけどな。

額に青筋を立てて、ゼイユは皿洗いに勤しんでいる。俺は店内の清掃。カウンター席の除菌と店内に掃除機をかける。客の目につくところはとにかく、衛生的に。

 

フローリングの木目と睨めっこになっていたその時。後ろの方でガラガラと引き戸の動く音が聞こえる。

 

「いらっしゃ〜い。」

 

「へぇ。こんなところがあるんだ。凄い。」

 

ゼイユの気だるげな声が店内に響く。もう少しちゃんと接客をやって欲しいものだが、後ろを見て理解した。そこに居たのは首からカメラをかけたこの辺りじゃ見慣れない女性だった。よそ者嫌いのゼイユからしたらあまり嬉しくない来客だ。

 

「あれ?若い店主さんだね。」

 

「え、いや、店主は私…じゃなくて…。」

 

「店主は私ですが、何か?」

 

女性はカメラのレンズをこちらに向けてふっと微笑んだ。どこかの記者か何かだろうか。向けられるレンズが外されると、こちらに手を伸ばし握手を要求してくる。

 

「偉く美男な店主さんね。ワタシはサザレ。宜しく。」

 

「え、ええ。…店主のヤブサと申します。」

 

握手を求められたら握手で返すのが礼儀。握手を交わせば、ふんわりと爽やかな香りが鼻を通る。女性…サザレさんは歯を見せて、笑う。…その後ろでゼイユがまたものすごい顔でこちらを見ているが。

 

「さて、飲食店に来た理由は一つだけ。ご飯を食べさせてもらおうか。」

 

そう言って席を進められることもなく、自らカウンター席へと歩いていく。そこには取ってつけられたようなメニュー。いつしか徹夜で仕込んだものだ。

 

「…ほう。どれも美味しそう…。じゃあ、これで。」

 

「承りました。」

 

カメラを置いたサザレさんが指を指したのは、ミートソーススパゲッティだった。それを見た瞬間、ゼイユが店の冷蔵庫を開ける。取り出したのは冷凍し小分けされたミートソースだった。

 

ゼイユがミートソースを解凍している間、此方は此方でパスタを茹でる。鍋肌に引っ付かないように気をつけて。

 

「そう言えば、外のウインディはヤブサくんの?」

 

「…ヤブサ“くん”!?

 

…小声で何か聞こえたような気がする。それはさておき、そう言えば今はウインディは日光浴中だったっけ。雨上がりの晴れやかな空は彼の好きな陽光がとてもよく当たる。特にこの場所は日当たりがいい。夏だったら暑すぎるくらいに。

 

「ええ。…父の旅先で私に懐いてしまいまして。」

 

しかし、随分とフランクな方だ。

机に膝を着き、頬杖をしているその様子はなぜか様になる。不思議な魅力を持っているな。

 

「私の地元がここから近いものですから。」

 

「てなると、シンオウ?」

 

「ええ。父がシンオウのナナカマド博士と知り合いでして。」

 

うちの親父は伝承学者。

シンオウへはヒスイの伝説を掘り下げにやってきた。広大なヒスイの大地…そこに生きるポケモンと伝説。色んな場所に行ってる時に、ふと草むらから見慣れないガーディが現れた。目元まで毛で隠れた彼を親父はヒスイのガーディだと言う。…サバサバとしたロコンと引っ込み思案なガーディは最初は仲良くなかったっけ。

 

「へぇ?面白いなぁ。私はシンオウ出身なんだ。ヤブサ君はここ?」

 

「いえ。私はジョウトの出で。」

 

そうこう言ってる間にパスタが茹で上がる。

隣のフライパンにパルデア原産のオリーブオイルを垂らし、そこにパスタ、ミートソースを入れ、茹で汁で乳化させる。立ちこめるのはトマトの良い香り。

 

あー、やだやだ。なによ。私抜きで楽しく話しちゃって…!!しかも、よそ者…女と…ッ!!

 

「ジョウトっていうとここから少し離れてるな…。」

 

「親父が学者でしてね。伝承だの伝説だの…そういうのが好きなんですよ。それの原因が私の地域に根強く残るホウオウ伝説。」

 

特に俺の地元のエンジュには焼けた塔という塔がある。その塔は子どもの時に見た限りであるが、非常にボロく…なんで立ってるのかよくわからなかった。

 

「へぇ。」

 

「実は一度だけ。ホウオウを見たことがあるんです。…それ以来、炎タイプには目がなくって。見ての通り、燃え滓になるまで探し続けました。」

 

「まだ若いのに何言ってんだ。でもいいね。興味深い話…「はい、ミートソースパスタです。」おっ、来た来た。」

 

パスタは…アルデンテ。

真っ赤なパスタの上に温玉を乗せ、その上からパセリを散らす。最後にお好みで粉チーズをかけてもらって完成。

 

「では早速。」

 

サザレさんは何もつけず、温玉も傷つけず…パスタ部分のみをフォークで絡めとる。天高く絡め取られ上げられたパスタの塊をそのまま口の方へと運び、ちゅるっと一口。

 

「んおっ…美味しい。」

 

「ありがとうございます。」

 

解凍後の水臭さとかそう言うのはなかっただろうか。人目を気にせず、バクバクと食べるサザレさんの豪快っぷりには驚いた。偏見は良くない。

 

「サザレさんは何用でキタカミに?」

 

「ん?あぁ、ワタシはあるポケモンを探しに来たんだ。低迷中だけど。」

 

あるポケモンか。

キタカミに伝わるともっこと鬼…のことだろうか。

 

「ほう?それはまた面白い。」

 

「っと。ご馳走様。」

 

…はや。

出してから5分ほどしか経ってないが、皿の上に残されたものはフォークのみだった。サザレさんは机に備えつけのティッシュで口元を拭き取り、カメラを首にかけてふっと笑う。

 

「これ、お代。」

 

「あぁ。」

 

少し多めのお代を入り口のレジに入れ、中からお釣りを出し、渡す。サザレさんは手を出した為、指と指が触れ合う。しなやかで柔らかい。

 

「ふふっ。おいしかったよ。キミの話も面白いし…また来るよ。」

 

「そうですか。ぜひ、ご贔屓に。」

 

「あぁ、それと…。」

 

サザレさんは俺の背後を見て、口元に微笑を湛える。口を俺の耳元近くにもっていくとゼイユに聞こえないような小声で呟く。…キュウコン、なんだ。その哀れみを帯びた目は。

 

「…彼女との一間を邪魔するわけにはいかないからね。」

 

「…彼女?誰のことです?」

 

「あ、え?…違うの?」

 

サザレさんは咄嗟に後ろへと目を向ける。すると、少し苦笑いをしていた。

 

「…なるほど。…そういうことか。あ〜…ごめん。なるほど、そっか。…うーん。頑張って。」

 

「何がです?」

 

「じゃあ、また来るよ。」

 

一抹の不安と疑問を残して、サザレさんは店から出る。なんだか、不思議な人だった。…このまま常連ゲットでいい感じ〜…とはならないかな。

 

「…ん?」

 

後ろから殺気?何故に。

後ろにいるのはゼイユのはず。…怖いもの見たさに振り向いたら、ゼイユは何故か、怒髪衝天と言ったような顔で此方を見ている。あれだ。なんか、いつものぷるぷるではなく、ガチでキレてる氷のような視線。

 

「…楽しそうだったわねぇ?ヤブ兄?」

 

「なんか、すまん。」

 

「…なにが?」

 

…午後は機嫌取りに使うしかないか。やめろ、キュウコン。そのドンマイみたいな表情でこっちを見るな。




ポケモンらしさがだんだんと無くなってきたような…。
ポケモンの登場人物使ってラブコメしてる感じ。実際そうなんだけどさ。

バトルとかも書いた方がいいかなとか思いつつ、マンネリ化するよなぁ…とか思いつつの今日。昨日出せなかったから今日二つ出すかも(予定は未定)

お気に入り100人超えました!ありがとうございます!どうぞこれからもご贔屓に。と、ヤブサから伝言を預かってます。ありがとう!!これからも頑張ります!では。
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