八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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名目を使う男たち

 

 

翡翠の都 バリアハート

エレボニア帝国が四大名門の一角たるアルバレア公爵家の治める町である。

 

さすがは公爵家のある町なだけはあり、景観は見事であり、様々な建物に立派な意匠が見て取れる。

 

 

その町を治めるのはユーシス・アルバレア。アルバレア家の次男であり、未だ二十歳に満たぬ若人だった。

というのも、前領主だった父親のヘルムート・アルバレアは内戦時に逮捕され、長男のルーファス・アルバレアは現在、鉄血宰相の命令でクロスベルの総督を務めている。

故に、半ば消去法でユーシスがバリアハートの臨時領主として町を治めているのだ。

 

 

 

バリアハートも内戦後の混乱がやっと落ち着いて来た頃と言えども、帝国の四分の一を治める貴族としての政務は多忙を極めていた。

 

 

そんな所に

 

 

 

 

「ユーシスくん!あーそーぼー!」

 

 

 

などと来られては迷惑千万もいい所なのである。

 

 

 

 

「客人が来ると言うから誰かと思えば……まったく。久しいなナギト、2ヶ月ぶりくらいか」

 

 

ユーシスの執務室に現れたのはナギトだ。

サザーラント辺境での依頼を片付けた後、レグラムから帝都に帰る途中でバリアハートに寄ったのだ。

 

 

 

「久しぶり。元気そう……じゃないな、忙殺されてんのがわかるわ」

 

 

 

「そんなひどい顔をしていたか……まあいい。午後のティータイムといこう」

 

 

ユーシスは執事に指示を出して紅茶を用意させる。

そういえばユーシスとマキアスで紅茶党、コーヒー党の諍いがあったなー…なんて思い返すナギトだった。今となってはあれも良い思い出だ。

 

 

「で、来たのは何の用だ?」

 

 

 

「なんだ、友達に会うのに理由がいるのか?」

 

 

 

「フン、柄にもない事を言うな。………まあ、大方の予想はついてるがな」

 

 

 

ユーシス相手におべんちゃらは必要ないとわかり、ナギトは薄く微笑む。

 

 

「話が早いな。……じゃあまずは────」

 

 

 

☆★

 

 

 

 

ナギトは語る。これまでの事、これからの事を。

 

そして、いつかナギトが《緋玉の騎兵》として動く時はクロイツェン領邦軍を動員してでもナギトを止めるとユーシスは約束した。

 

 

 

 

「それにしても、次の標的はあの《火焔魔人》とはな……勝算はあるのか?」

 

 

 

「……ぶっちゃけ五分だな。あの化け物を相手にできるだけの戦力ではある。殺すだけならほぼ確実にいけるんだが、拘束となると難易度はぐっと上がる」

 

 

 

 

「あの化け物を相手にそう言えるのか………。殺すより生かして捕らえる方が難しいと言うしな」

 

 

 

「そうだな。……だがまあ、一瞬の隙さえあれば何とかできる」

 

 

 

「ほう?大した自信だな。何か秘策があると見たが?」

 

 

 

 

「裏技があってな。……こればっかりは誰にも話せないやつだけど」

 

 

 

 

自信を滲ませるナギトに、ユーシスは頼もしさを覚える。

しかしなぜ、裏技という単語を発した時にもの寂しそうな目をしたのか。

 

 

 

「確か、マクバーンが次に現れるのはブリオニア島だという話だったな。いつ現れるかわからない以上、ブリオニア島に張り込んでおくべきじゃないのか?」

 

 

 

ユーシスは疑問を呈する。ブリオニア島に現れると予測されるマクバーンだが、それがいつかまではわかっていない。わかっていない以上はブリオニア島でマクバーンを待つべきという意見については間違いではない。

 

が、それをする必要がない技術がある事をユーシスは失念していた。

 

 

 

「これなーんだ」とナギトは懐から四角の石板のような物を取り出した。

 

 

「内戦の最後に、結社の《十三工房》の一角、《黒の工房》がオズボーンに掌握されたのは覚えてるな?この石板はその《黒の工房》が開発したもので、人の瞬間移動を可能にする装置だ」

 

 

 

「結社の執行者などが使っていたあれか」

 

 

 

「いや、あの転移とはまた違うものらしい。執行者たちが使っている転移は《黒の工房》とは別の所が開発した技術なんだと。それでこの《黒の工房》製の転移装置はまだ試作品でな、一度の使用で内部のクォーツが壊れちまうらしいから、使用回数も一回のみとなる。しかもこれはARCUSを介して、人を転送するものって話だし転移も座標指定ではなく、ARCUSで呼び出した人の所に出るって説明された」

 

 

 

 

「つまり、ブリオニア島で張り込んでいる人物がいて、そいつがマクバーンを見つけ次第、お前を含む《鉄血の子供達》を呼び出すというわけか」

 

 

 

 

「そう。今のかなり説明下手だった自覚あるけどわかってくれたみたいで何より」

 

 

 

石板──ディメンション・コールと名付けられた装置はARCUSと同期し、呼び出す側が操作を行えば呼び出される側が呼び出す側の元に転移するという仕組みだ。

 

しかし、転移という現代科学を超えた領分に踏み入るため、必要になるエネルギーは多量となり、組み込まれたクォーツが過負荷を受けて壊れてしまうデメリットがある。

 

 

ディメンション・コールがあるためにナギトらはブリオニア島でマクバーンの出現を待つ必要もなく、またどこかの土地に縛られるいわれもない。

ディメンション・コールがあるならば、ブリオニア島に呼び出されるという結果は変わらない。呼び出される前にどこにいようと意味はないからだ。

 

それでもナギトが帝都に留まっていたのはオズボーンの命令があったが故。ナギトはオズボーンの命令には基本的には従うが、もしナギトの“大切”を蔑ろにする命令を受けた場合はそれを拒否するつもりだ。それはオズボーンも承知しており、ナギトが命令を受けるか否かのラインは把握していた。

 

 

まず前提として、ナギトはオズボーンの命令を受けるのが業腹だ。

だから、命令された事は実行するが、明確に命令されていない事は実行しない。

今回を例にして言えば、“サザーラントでの依頼を解決した後、帝都に戻れ”と命令を受けているのだが、その中に“寄り道せず”や“すぐに”という文言は含まれておらず、サザーラントから帝都に戻る間に寄り道する事は容認されていると言える。

 

こういった言葉の穴を突くのがナギトは大好きなわけだが、オズボーンがそんなナギトのひねくれた性格を理解していないわけがなく、寄り道は真に許可されているのだ。

 

それも、ディメンション・コールがあるからだが。

 

 

 

 

「まあ、俺の事は心配するな。いざとなれば切札もあるしな」

 

 

 

ナギトは、己と彼との繋がりを確認する。

 

《緋の騎神》テスタ=ロッサ

煌魔城で封印されていたそれに、皇族の血を引くセドリックと同乗した事でアルノールの血が無くして《起動者》となったナギト。

未だ一度たりとも操縦した事はないが、基本的な操作は他の騎神……内戦時にナギトが乗り回していた、オルディーネを模して造られた機甲兵オルディーネ・イミテーションと同じなためにいざ乗るという時になって致命的な隙を晒す事はないだろう。

 

 

 

「切札?裏技とは違うのか?」

 

 

 

 

「そうだな、別物だよ。この切札については宰相殿に口止めされてるから言えねーけど」

 

 

 

 

「《鉄血の子供達》である事をあっさり明かしておいて何を言う」

 

 

 

 

「あれは口止めされてなかったからさ。俺は命令された事は実行するが、命令されてない事までやるほど忠臣じゃないぜ?」

 

 

 

ニヤリと笑うナギトにユーシスは「やれやれ」とため息をつく。

ナギトという男を使うには、まず信頼を得なければじゃじゃ馬が過ぎて使えたものではない、と。

 

 

 

「そういえば、最近クロウと連絡とったか?」

 

 

 

「いや、忙しくてな……他のみんなともあまり連絡はとっていない状況だ。……この前アリサから連絡をもらった時、クロウと繋がらない、と漏らしていたが」

 

 

 

「あー、そうか。あいつの事だから無事だとは思うが……」

 

 

 

やはりクロウとは誰も連絡がとれていないらしい。ナギトもちょくちょく通信を試みているが、そのどれもが失敗している。

 

まさか嫌われたかと思ったが、やはり杞憂のようだった。

 

 

 

「十中八九、政府からの要請を躱すためだろうな」

 

 

 

「だな。政府側も本気でクロウを使いたいならレクター大尉なりクレア大尉なりを送り込むだろ。まあクロウがすっぽかした分だけ俺やリィンにしわ寄せはくるだろうが……」

 

 

 

「騎神の力を求めるのならリィンに回るだろうが……あいつは未だ学生の身分だ。頻繁に要請を受けるのを防ぐために学院長が政府に直談判しに行ったという話を耳にしたが…」

 

 

 

「そういや学院長は正規軍の名誉元帥……オズボーンの元上司だったな。……それならいくらか安心できるか」

 

 

「いや、それでもリィンは要請を受けざるを得ない状況に持っていかれているそうだ」

 

 

 

「なに?要請を受けざるを得ない状況だと?そんな切羽詰まったようは出来事があったのか?」

 

 

 

「どうやら、またクロスベル方面に呼び出されたらしい」

 

 

 

「クロスベル……共和国関係か?」

 

 

 

「そっちは一旦小康状態に落ち着いたようだ。だが、今度はテロリストが現れたという話だ」

 

 

 

「テロリスト……まさか、元クロスベル警備隊か警察からか?」

 

 

 

「いや、《Ω》と名乗るテロ集団らしい。聞いた事はあるか?」

 

 

 

「ないけど……何が狙いなんだ?クロスベルでテロが起こるとすれば帝国の統治に納得できない奴らの仕業だと思ってたんだが……」

 

 

 

「……さあな。ただ気になる事を言っていたとリィンは通信越しに語った。話せない内容なのか、何を言ったのかまでは聞いてないがな」

 

 

 

「そうか……まあ、機密にも関わるだろうしな。だが問題は、リィンがその《Ω》について決定的な情報を掴んでいるにも関わらず、それを政府に教えないで通信で傍受される事を恐れていた場合だ」

 

 

 

「それは……、まさかとは思うが……」

 

 

 

 

「いや、これについての考察はやめておこう。《Ω》がもしあいつらの後継だったとしても、今はもう関係のない話だ」

 

 

 

「邪魔したな」と、紅茶を一気に啜り、ナギトは立ち上がった。

 

 

 

「もう帰るのか?」

 

 

 

「建前上はどこにも縛られるいわれはないんだけどな。今はまだ待機命令を受けてるも同然だ。あんまり寄り道してちゃ怒られるだろ」

 

 

やれやれとナギトは肩を竦める。

なんだかんだ言ってもナギトは結局《緋玉の騎兵》としての役目は全うする気はあるのだ。

 

 

 

「まあ待つがいい。宰相殿の部下であれば四大名門の次期当主と親交を深めるのも悪くはなかろう」

 

 

ユーシスは「フッ」と笑いながら立ち上がる。

その言葉を聞いてナギトもその名目であれば良かろうと判断する。

 

 

 

「剣の稽古に付き合うがいい。宰相殿の懐刀が指南役ともなればさぞ有意義な時間を過ごせるだろう」

 

 

 

☆★

 

 

 

翌日、帝都に戻ったナギトだが、特に咎められる事なく帰還報告をしたという。

 

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