八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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激動への布石

 

 

 

 

 

ナギトからサザーラント州から戻った後2ヶ月が過ぎ。

 

決戦の時は来た。

 

 

 

 

 

 

「目標は結社《身喰らう蛇》執行者No.Ⅰ《却炎》のマクバーン。対象を確保、拘束するのが今回の目的となる」

 

 

 

 

帝都ヘイムダル、バルフレイム宮は政務室にて。その部屋の主人たる《鉄血宰相》ギリアス・オズボーンの前に五つの人影があった。

 

 

《緋玉の騎兵》ナギト・ウィル・カーファイ

《かかし男》レクター・アランドール

《氷の乙女》クレア・リーヴェルト

《白兎》ミリアム・オライオン

《黒兎》アルティナ・オライオン

 

 

 

《翡翠の城将》ルーファス・アルバレアを除く《鉄血の子供達》揃い踏みであった。

 

アルティナは《鉄血の子供達》の一員ではないものの、姉妹機であるミリアムとほぼ同等の性能、能力を持っているため今回の作戦に召集された。

 

 

今回の作戦の目的はマクバーンの拘束。

あの《火焔魔人》を相手に殺すではなく拘束をしなければいけない。非常に難易度の高い任務である。

 

 

 

しかし、失敗は許されない。マクバーンの焔の本質を知る者が見れば今回のギリアス・オズボーンの目的は明らかだからだ。

 

万物貫焼炎───あらゆる防御を、耐性を無視して対象を焼き尽くす炎。それを封じるという事は、それ以外の力では止められない事を起こそうとしているわけだ。

 

 

 

「さあ、行くが良い。健闘を祈るぞ」

 

 

 

オズボーンの指示に従い、ARCUSを手に取りディメンション・コールを作動させる。

 

 

「ディメンション・コール起動───転送が開始されます。衝撃に備えて下さい」

 

 

クレアの声に従い、例え空中に放り出されても良いように身構える。

段々と目の前の景色が白み始め、肉体がどこか別の場所に出現していく感触を確かめる。

 

 

 

その時間は長いようで短く、僅か一分という時間で帝都ヘイムダルにいた五人は、遠く離れたブリオニア島に転送された。

 

 

 

 

 

 

大きな目で見ても、ギリアス・オズボーンと《身喰らう蛇》のどちらが脅威となるかはわからない。

故にナギトは、ここで結社の戦力たるマクバーンを潰すという選択をしたのだ。

 

選択をした、とは正確な表現ではない。選択をさせられたと言うべきだ。

ナギトがこの話を断れば、マクバーン拘束の依頼はまた別の者に回されるだろう。その依頼を回される第一候補が、英雄と呼ばれる自分の義兄だった男だとナギトはわかっていたのだ。

だから、ナギトはマクバーンの拘束という無茶な要求を飲む事にした。

例え騎神という力を持ってしてもマクバーンとリィンの間には大きな隔たりがある。そもそもリィンを含む仲間たちを守るために自分は《鉄血の子供》となったのだ。ここで退くのは初心に反していた。

 

 

 

 

 

ブリオニア島に転送されたナギトたちは現地で待機していた情報局員からマクバーンの居場所を聞き、その場に向かう。

 

 

ノルド高原と似た巨像がブリオニア島にもあった。マクバーンはノルドでも巨像を見物していた。今回のブリオニア島での出現も巨像の見物が目的なのだろうか。

 

 

 

 

マクバーンがいたのは巨像前の広場だった。

障害物などはなく、奇襲には向かない場所。最善手はマクバーンと戦闘になる事なく不意打ちで捕らえる事だったが、この巨像前では難しい話だ。マクバーンが巨像前から移動するまで待つという手もあるのだが、結社の執行者の移動手段は転移だ。マクバーンの目的が巨像見物なら、目的を果たしたマクバーンが巨像前から転移で去る可能性もある。

 

故に、チャンスは今しかない。

 

 

 

 

 

 

「よう、マクバーン。……ここでも巨像見物か?」

 

 

赤衣の長身に話しかける。マクバーンは気だるげに振り返ると頭をがしがしと掻いた。

 

 

「誰かと思えばナギトじゃねえか。どうしたよ、そんなぞろぞろ引き連れて」

 

 

 

すでにこちらの面子を見てナギトらの目的を察したマクバーンであったが、それでもあえて訊く。

これが最後の会話になるかもしれないと予期しているからだ。

 

 

 

「呼び方を変えてくれた所に悪いが、今日の俺はナギトとしてじゃなく《緋玉の騎兵》としてここにいる。ギリアス・オズボーンの命でな」

 

 

 

「……なるほどな。あのオッサンもなかなか食えねえとは思ってたが手ェ回すのが早すぎなんじゃないか?」

 

 

 

 

「さてな。今の俺は上司の命令に疑問は抱かぬただのイエスマンだ。……悪いがマクバーン、今回は仕事だから時間制限は無しでいく」

 

 

 

 

問答をするのは面倒だと言わんばかりにナギトは闘気を炸裂させた。血を思わせる緋色のオーラが抜いた太刀に集約する。

 

 

 

「ああ、いいぜ。来いよ《緋玉の騎兵》! 思うがままにやり合うとしようぜぇ!!」

 

 

 

 

同時にマクバーンもその身を魔人のものへと変質させた。煌魔城でⅦ組を蹂躙したあの形態だ。

 

 

 

 

「やれやれ、本当にこんな奴とやりあうハメになるとはなァ」

 

 

 

「でも、オジサンの命令じゃ仕方ないよね」

 

 

 

愚痴をこぼすレクターに、アガートラムを呼び出し戦闘態勢に入るミリアム。

 

 

 

「任務を開始します」

 

 

 

「ええ、死力を尽くしましょう」

 

 

 

アルティナもクラウ=ソラスを呼び出し、クレアはホルスターから銃を抜く。

 

 

 

 

「総員、戦術リンクON!目標は敵個体の拘束、殺す気でかかれ!」

 

 

ナギトは言いながら、自分の言葉の矛盾に笑う。目的は拘束でありながら殺す気でかかれとは。

しかし、実際に殺す気でかからなければマクバーンには傷一つつけることはできないだろう。

 

 

 

 

VS 結社《身喰らう蛇》執行者No.Ⅰ《却炎》のマクバーン

 

 

戦闘開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヂッ、という音と共にナギトが残像を残して消える。

残像が収束したのはマクバーンの背後。すでに『迅雷』で斬り込んでいた。

 

 

 

「チィ、相変わらず速え」

 

 

紙一重で避けられなかったマクバーンの脇腹からは血が流れていた。前回ノルドで戦った時より技は冴えている。それでこそ《剣鬼》、それでこそナギト・ウィル・カーファイだとマクバーンは強敵を前に嗤う。

 

 

 

 

 

 

「ガーちゃん!」

 

 

「クラウ=ソラス!」

 

 

 

 

マクバーンの視線が外れた一瞬にミリアムとアルティナが距離を詰め、左右から戦術殻で殴打を繰り出す。

 

 

 

マクバーンは迎撃しようと両掌を左右の戦術殻に向けるが。

 

 

 

「させません!」

 

 

その両腕はクレアに狙撃され迎撃の炎はあらぬ方向に放たれてしまう。

 

 

 

「ぐっ!」

 

 

 

アガートラムとクラウ=ソラスの殴打をモロに受けたマクバーンは後退りをするほどに体勢を崩されてしまい。

 

 

「おっと、俺を忘れてもらっちゃ困るぜェ」

 

 

 

────そんな隙をあの強かな男が見逃すはずもなかった。

レクターが連続して刺突を繰り出し、その独特な間合いごとマクバーンは潰すべく腕から炎を出して周囲を薙ぎ払うが、その時にはすでにレクターは離脱していた。

 

 

 

「こいつぁオマケだ!」

 

 

 

離脱の瞬間、レクターはアーツ“ダークマター”を撃ち出しマクバーンの足を止める。

いつもであれば“ダークマター”の引き寄せ効果などマクバーン相手に望むべくもないのだが、体勢を崩している今なら話は別だった。

 

 

しかし、それでも足止めできるのは一瞬だ。

 

 

だが、一瞬でいいからこそレクターは“ダークマター”を発動したのだ。

 

 

 

 

 

「剣鬼七式、三ノ太刀───!」

 

 

 

力を溜めたナギトが剣を振りかぶる。

太刀に込められた力は周囲を空間ごと破壊するエネルギー。

 

 

 

「───破空 : 潰!」

 

 

 

 

太刀は振り抜かれ戦技はマクバーンを切り潰した。

土煙が舞い、マクバーンのダメージの度合いは確認できないが、これで倒れたという事はないと全員が確信している。

 

 

 

 

「やった……わけねえよなァ」

 

 

 

「ええ、気を抜かないでください」

 

 

 

武器を下ろさないレクターとクレア。不用意に攻撃に移り防御を疎かにする事はなかった。

 

 

 

土煙を裂いて斬撃が飛来する。

 

 

 

「防壁展開!」

 

 

 

ナギトが指示を飛ばしミリアムとアルティナが前に出て戦術殻で防壁を張った。

斬撃はそれに防がれ消失するが、その余波である熱まではかき消せなかった。

 

 

 

「来るぞ!」

 

 

しかし暑がっている暇もなく、今度は土煙からマクバーンが飛び出して来る。マクバーンの手には魔剣アングバールがあった。外の理によってつくられた剣はマクバーンとの相性が良いらしく凶悪に変貌している。

 

 

空いた左手からマクバーンは火球を打ち出した。極限まで濃縮された焔“ジリオンハザード”だ。

 

 

ミリアムとアルティナは続いて防ごうとするが、火球の勢いに押されて吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

飛び上がったマクバーンにナギトが地を蹴って迎え撃つ。

振り下ろされる魔剣を受け止める太刀。それを間近にナギトは、触れずして火傷する熱さを感じる。闘気で体を防護してなおこの熱さだ、直に食らえば骨まで溶かされるのではないかと。

 

 

マクバーンの剣とナギトの太刀の力は拮抗していた。使い手の力量はほぼ同等だ。しかし、ここでは武器の差が出てしまった。

 

 

 

魔剣の熱に太刀が刃毀れを起こす。刃が溶け焼き切られる。

 

ナギトの太刀はゼムリアストーン製だ。しかしマクバーンの魔剣は外の理によってできている。

内のものでは外のものに敵わないのは道理だ。

 

 

しかし、ナギトにとってそれは埒外の出来事だった。これまでどんな乱暴な扱いをしても傷一つつかなかった最硬の剣が焼き切られるとは。

 

 

「おいゼムリアストーン!?」と目を剥くナギトは隙を晒してしまう。

 

 

 

「ボディががら空きだぜ?」

 

 

マクバーンは間髪いれずにナギトに火球を撃ち込んだ。

タメがなくナギトも瞬時に防壁を張ったため致命傷とはならないだろうが、それでも相応のダメージは負ってしまう。

 

 

 

「うぼあぁぁぁああああ!」

 

 

 

奇声をあげながら吹き飛ばされていくナギト。地面に激突すると土埃が舞い、その怪我の度合いは視認できなくなった。

 

 

戦闘離脱もあわや…と思われるナギトだが迎撃には意味があった。

 

 

 

「ミラーデバイス、セットオン」

 

 

空中にいるマクバーンの周りにはすでにミラーデバイスが展開されていた。

 

 

「オーバルレーザー、照射!」

 

 

クレアの導力銃から光弾が発射されるとそれはミラーデバイスで反射を繰り返し、やがてその軌跡は魔法陣を描く。八芒星の魔法陣は強く輝き、その魔力を爆発させた。

 

 

クレアのSクラフト“カレイドフォース”である。それをモロに受けたマクバーンは一瞬意識が飛ぶ。ダメージは確実に蓄積しているのだ。

 

 

着地、もとい墜落するマクバーンをさらにレクターが追撃する。

 

細身の剣を一閃し、マクバーンを魔力の帯で拘束する。魔力の帯は集束すると紅き宝石となってマクバーンをその場に縛り付けた。

 

 

「ナイツ・オブ・ルブルム!」

 

 

 

レクターが拳銃を撃つ仕草をすると、それと同時に紅い宝石は炸裂しマクバーンもろとも砕け散る。

 

 

 

「そして俺復活ぅーー!」

 

 

 

 

マクバーンの火球によりダウンしていたナギトが未だ“ナイツ・オブ・ルブルム”による魔力の奔流収まらぬ内に飛び込む。

 

 

 

その動きは雷より速く、まさに閃光が如し。

 

 

 

通り過ぎる一瞬に無数の斬撃を叩き込む。

 

それは速過ぎるが故に切断という現象が遅れてやってくる。

 

 

 

パチン、と太刀を鞘に納めるナギト。まるでそれが合図だったかのように斬撃は一斉に炸裂した。

 

 

「六ノ太刀、閃行嵐舞」

 

 

 

 

またしても舞い上がる土煙にマクバーンの姿は隠される。

しかし、今度の土煙は一瞬で晴らされた。

 

マクバーンが魔剣アングバールを一振りすると、待っていた土砂の全てが焼き払われたのだ。粉塵爆発など起きる余地もなく燃やし尽くされた先に見えるは笑み。

 

 

 

「ククク……いいじゃねぇか。最高だぜお前ら!!」

 

 

 

 

 

陽炎ゆらめく魔剣を天に突き立てると、その刃先から膨大な炎熱が放たれる。

 

炎はやがて集束し中天にて球体を成した。

 

 

 

闇色と表現すべきマクバーンの焔が、まるで太陽のようにブリオニアの地を灼く。

 

 

 

 

 

「オイオイ、こりゃあちっと熱過ぎンぜ…」

 

 

 

その暗黒の太陽はそこにあるだけで人の体力を奪い尽くして余りある。サウナなど比較にならない熱が5人を襲う。

 

 

 

「…冗談だろ……ありゃあさすがに……」

 

 

しかし、目下の問題は熱中症よりも、太陽の如き火球だ。あれを落とされたら間違いなく終わる。人は元より騎神すら焼かれるであろう熱量だ。

 

 

 

「あれはさすがにガーちゃんでも防げないかな……」

 

 

悔しさを滲ませながらミリアムは言う。

 

防げないのであればその前に決めるまで。

 

 

 

 

「速攻かけんぞ!」

 

 

 

 

ナギトの号が飛び、4人はARCUSを駆動させてアーツをマクバーンにぶつけるが、そのどれもが効果の薄いように見える。

 

 

 

号を飛ばした当のナギトは気を全身に漲らせ、その力を解放する。

 

 

「天地を流るる力の奔流よ……」

 

 

 

圧倒的な力をもって敵を裁断する剣技七式における始原の技。

 

 

 

「一ノ太刀」

 

 

 

上段からの振り下ろしと下段からの斬り上げに極大の気力を込めて。

 

 

 

「────天地喰閃!」

 

 

 

 

可視化した気の刃はしかし、マクバーンを切り裂く事なく消え去った。

 

 

 

「そんなんじゃアツくなれねえなぁ………もっと来いよ、ナギトぉ!!」

 

 

 

マクバーンの上で炎を揺らす太陽から火球が放たれ、斬撃そのものを焼き払ったのだ。

 

 

 

 

「マジかよ……」と苦笑いするナギト。“天地喰閃”はナギトの持つ戦技の中でも純粋なパワーでは上位に食い込む。

それすら簡単に焼失させられる火球が相手となると、通用する戦技は限られてくる。

 

 

 

八葉一刀流 始の太刀“八葉一閃”

 

 

 

ユン・カーファイが八葉一刀流を考案するに至った始まりの一太刀。

八葉一刀流は八つの型があり、一の型なら《螺旋》、二の型なら《風》と八つそれぞれに武の極意があるのだが、“八葉一閃”はその武の極意を一太刀に集約したもの。

上段の構えから振り下ろされる一太刀は見た目の派手さに欠けるものの、すべてを断ち、切り裂く力を秘めている。

 

 

その技であればマクバーンも斬れるであろうという自信がナギトにはある。

 

 

 

「………は」

 

 

 

いつかオーレリアに指摘された事を思い出した。自ら語った事を思い出した。

“至高の一刀”───それを追い求めるが故に感覚を失った阿呆を思い出した。

 

技に頼るな、俺。自身に言い聞かせる。

 

 

 

「さてさて……やるか」

 

 

ため息を吐くナギトは太刀を小脇に抱えて雷を足元に燻らせる。

 

 

 

「雷身功」

 

 

これよりナギトの身は雷となる。その速度は落雷──否、雷光と同等。邪魔するものがあればそのすべてを貫き焦がす。

 

 

 

 

ナギトの姿が消え、その影がマクバーンの元に迫る。

 

マクバーンは頭上の太陽から火球を放つも、そのすべてがナギトの影すら捉えられずに地面を焼いた。

 

 

 

一瞬の後にマクバーンの眼前に迫るナギトだったが、マクバーンも迎撃の準備は出来ていた。

 

 

横薙ぎの一閃を太刀で受け流すナギト。剣術なら自分が上手だと言わんばかりにマクバーンを睨みつけるが、その瞬間に見てしまう。

 

魔剣を受け流した太刀の刃が溶解されてしまうのを。

 

 

太刀の形状が変化し、マクバーンの剣を受け流し切れずに僅かに体勢を崩すナギト。マクバーンはその隙に空いた手で炎を放つ。

 

 

ナギトは慌てて体勢を立て直すと地を蹴ってマクバーンから距離を取った。

 

 

 

そして、手に持つ太刀をしげしげと見つめる。

 

 

「……ダメだな、こりゃ」

 

 

刃が刃毀れを起こしてるに加え、一部は溶けている。

使い物にならない、とは言わないが強敵相手にこれで挑むのは無謀と言うものだ。

 

 

 

ナギトは太刀を納刀すると「ちょっと時間稼いでー」と4人に声をかけて天に手を翳した。

 

 

 

 

 

 

「来い!《緋の騎神》テスタ=ロッサ!」

 

 

 

 

 

 

これが《緋の騎神》に乗って初の戦闘となる。

 

ナギトはこんな事もあろうかとディメンション・コールで転送される際、テスタ=ロッサに乗ったまま転送され、そのままブリオニア島に来たのだった。

マクバーンとの戦闘前に近くに置いて来たため呼び出しでかかる時間は短いものだ。

 

 

すぐに機影が見え始め────

 

 

 

「ん?あれ?」

 

 

天に掲げた手を自分の眼前に持ってきて首を傾げるナギト。

 

おかしいな、騎神の制御が効かないぞ?という顔をする。

 

 

《緋の騎神》はそのまま────

 

 

「あっ、ちょ、待っ……アッーーー────!」

 

 

 

大きく砂埃を巻き上げて墜落着地した。

 

 

 

 

 

 

何をやってるんだと戦闘を中断して苦笑いする5人。

やがて砂埃を払って《緋の騎神》が現れた。

 

 

 

「さあ、始めようぜマクバーン! ここが俺たちのクライマックスだ!」

 

 

 

格好つけてももう遅かった。

 

 

思えば、マクバーンとの因縁はパンタグリュエルから始まり、煌魔城、ノルドと続き、ついにはブリオニア島にまで至った。

渡り合う事すでに3回。互いに必殺の力を持っていながらこれまでどちらも生き長らえてきたのはある意味奇跡だろう。

 

だが、ここからの戦いにそれはありえない。

 

これは足止めでもなければ、助っ人が入るでもない、ましてや時間制限などあるわけがない。

 

 

奇跡にさよならを。

 

 

ここからは実力勝負だ。己の全てを使い果たしてでも相手を超えろ。

 

 

 

「4人とも、下がって。ここから先は巻き込みエリアだ」

 

 

 

騎神テスタ=ロッサから声が届き、4人はその場を下がった。

今のマクバーンの相手をするのは無理だが、そのマクバーンとテスタ=ロッサの間に入るのはもっと無理だ。

 

 

 

 

 

《千の武器を持つ魔人》と渾名されるテスタ=ロッサは霊力を武器の形に変化させる。その様はナギトの“幻造”と酷似して扱い易い。

赤い揺らぎを伴い召喚された魔剣プロパトールを構え、ナギトは叫ぶ。

 

 

「いくぞ、マクバーン!」

 

 

 

 

暗黒の太陽から放たれる火球を切り払って進み、マクバーンのいる場所を大地ごと切り潰す。

 

マクバーンは跳躍して回避し、左手に焔を燃え上がらせた。

 

 

 

「こいつでも喰らっときな!」

 

 

 

テスタ=ロッサの視界を遮る焔は目眩しの役目を果たす。

プロパトールで焔を消し飛ばす一瞬の間にマクバーンは焔で巨大な魔犬を作り出す。

 

 

ヘルハウンド、特大バージョンだ。その大きさは騎神に比肩する。

 

焔とは本来、触れ得ぬものであるが、このヘルハウンドは触れてしまえるほどに焔の密度が高い。しかし触れてしまえば瞬時に骨まで灰と化すだろう。

 

 

 

しかし、ナギトにはわかっていた。これさえも次なる手の布石に過ぎないと。

 

 

「霧散しろ…破空!」

 

 

 

空間そのものを爆散させると戦技でヘルハウンドを散らす。

 

 

 

開けた視界に映ったのは、さらに輝きを増した闇の太陽だ。

 

灼熱の猛威はさらに力をもってナギトたちの頭上に降り注ぐ。

 

 

 

 

 

巨大化した太陽から放たれる火球の大きさは騎神を飲み込んで余りあるものだ。それを太陽は無数に放っていく。

 

 

 

 

魔剣プロパトールで切り払うも、圧倒的な数を前には手が足りない。

 

 

思い出せ、煌魔城で《緋の騎神》は───《紅き終焉の魔王》はどう戦っていた?

 

 

 

すでにイメージはできている。ナギトの“幻造”は《緋の騎神》での戦い方の試金石となっていた。

 

 

赤い波紋が空中に揺らぎ、そこから覗くは千の武器。

 

 

千の武器、射出待機(ミレニアムアームズ・ステイファイア)

“幻造”、千の武器、複製開始(ミレニアムアームズ・コピースタート)

 

赤い波紋から刃先を覗かせる千の武器。そこにさらに“幻造”で千の武器の複製を作り出す。

 

 

千の武器、複製の武器、全射出(ソードバレット・フルファイア)!」

 

 

総計二千の武具が火球を迎え撃ち、マクバーンを消し飛ばすために空中を疾った。

 

 

 

 

 

 

 

まるで異次元の戦いに手出しできずにいるレクターはこの暑さの中、冷や汗を流す。

 

 

「オイオイ……たった2人で戦争かよ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

射出される武具に火球の数が追いつかなくなり、赤い揺らぎは矛先をマクバーンに変更する。

放たれる武器をマクバーンは打ち返し、躱し、捌いていく。が、しかし。それでも総数二千の武具を捌き切れるはずもなかった。

 

 

 

「オ、オオオオオオオオオォォォォオオオ!!!!」

 

 

 

 

マクバーンの顔に浮かぶのは笑み。これほどまでに自分を圧倒してくれるとは。

 

しかし、マクバーンにもまだ逆転の策はあった。

 

 

 

 

太陽が、堕ちる。

 

 

圧倒的熱量を誇る、暗黒の太陽が。

 

 

 

 

 

テスタ=ロッサは今度は武器の射出先を落下してくる太陽に向ける。

 

あんなもの、近づいただけで灰まで焼き尽くされよう。

 

 

故に、近づけさせてはならぬ。落ちてくる間に消滅させなければ。

 

 

 

 

 

「う、おおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

気力を振り絞る。千の武器を射出しては造り出し、また射出する。しかしそれだけでは足りない。常に“幻造”で武器を複製しながら射出する。

 

 

 

そうして、やっと太陽が消滅したかと思えば、その先からマクバーンが姿を現わす。

 

手には闇色の魔剣が太陽が如き熱量を持って迫る。

 

 

力を使い果たし、不意を突かれたテスタ=ロッサは動けず───魔剣アングバールは、テスタ=ロッサの(ケルン)を貫いた。

 

 

 

 

 

「─────()った!」

 

 

 

 

その刃は、騎神を駆るナギトの胸の中心を穿っていて。

 

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

「────殺った!」

 

 

 

灼熱の剣。却炎を纏う魔剣。アングバールは《緋の騎神》テスタ=ロッサに施された霊力と闘気による防護を容易く貫く。

 

騎神の核────起動者を乗せるそこを、魔剣は串刺しにしていた。却炎によって刃を拡張させており、その熱量は簡単に人の命を燃え散らす。

 

 

勝利の確信と共にマクバーンに訪れたのは哀愁にも似た感情だった。

最初に会ったのは貴族連合旗艦パンタグリュエルでの事だった。ナギト・シュバルツァーはかつて《剣鬼》と呼ばれた剣豪───そう胸を高鳴らせて臨んだが、現れたのはいたって普通の青年だった。どことなく異質さを覚えたが、普通の範疇を出ない剣士。

それが内戦でめきめきと力を高めて、マクバーンの興味は再燃した。このまま育てば、いつか自分に刃が届き得るかもしれないと。

 

 

 

「その“いつか”がこんなに早ぇとはな………。《剣鬼》……いや、ナギト・ウィル・カーファイ………お前さん、悪くなかったぜ」

 

 

 

「こ、の……俺、が……────」

 

 

 

核の中から漏れる声。息も絶え絶えのそれにマクバーンは哀愁を断ち切った。魔剣を振り切る。拡大された焔が騎神の核をナギトもろとも焼き払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────本物だったらな」

 

 

 

 

マクバーンの胸を、心臓を貫くボロボロになった太刀。

 

 

 

 

「な、に……?」

 

 

その刃に貫かれた瞬間、マクバーンは力を封じられたように感じた。心臓を刺されては当然の反応である。

 

 

 

「力比べはお前の勝ちだよ、マクバーン。だが、知恵比べは俺が勝ったようだな?」

 

 

 

勝負は決した。

 

この戦い、マクバーンの勝ちだった。ナギトが素直に騎神に乗っていればの話だが。

 

魔剣アングバールの貫いたテスタ=ロッサの核には誰も乗っていない。否。搭乗者は力尽きて消えたと言うべきか。

 

 

 

「“分け身”だよ」

 

 

とナギトはネタばらしする。

《緋の騎神》を呼び出した時、わざと砂埃を舞わせて、その際に“分け身”を作り出し、それを騎神に騎乗させたのだと。

 

 

 

つまり、これまでマクバーンが戦っていた《緋の騎神》テスタ=ロッサはナギトの複製が操っていたに過ぎない。文字通りの傀儡であり、それを仕留めさせる事によって生じた隙を突く───というのがナギトの作戦であった。

 

 

 

「マクバーン、お前が武芸者じゃなくて助かったよ。気の流れが読まれてたら、あの砂埃の中での入れ替わりにも気づかれてただろうしな」

 

 

 

 

「チッ………、掌で踊らされてたわけか。完敗だな」

 

 

 

 

「………力じゃ勝てないと思ったからこその策だよ。どうか恨むな」

 

 

 

 

ナギトはそう吐き捨てると、マクバーンの胸から太刀を引き抜いた。

 

崩れ落ちるマクバーン。ナギトが太刀を鞘に納めるとレクターたちが寄ってきていた。

 

 

 

「おい、殺しは……」

 

 

 

「大丈夫だよ。死んじゃいない。………ちょいと裏技を使わせてもらった」

 

 

 

心臓を貫いては殺したと思われても仕方ないのだが、ナギトが行ったのは裏技──呪いをかけたとも言うべきものだ。

 

 

「裏技?」

 

 

 

「バグらせた、つってもわからんだろ」

 

 

「ふぅ」と一息つくナギトだったが、その視界にありえないはずのものが写り───

 

それが、なんであるか理解できると同時に叫んだ。

 

 

 

「退がれ!!」

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

突然の警告にしかし、4人は対応してみせた。

戦闘経験の為せる反応は、4人をしっかりとナギトの視線とは逆に導く。

 

 

地を蹴ってローリングしながら体勢を整え、ナギトが警告した何かを見ようとして、重なる鉄音が耳朶を打つ。

 

 

 

刹那の後にナギトの太刀が弾き飛ばされ、その衝撃にナギトは手を震わせる。

 

 

 

「な、こいつァー……!」

 

 

 

レクターは、驚く。ナギトが太刀を弾かれる程の相手とわかっていて、その人物が脳裏に浮かばなかったかと言えば嘘になるが。

 

 

 

 

「満身創痍でありながら、私の槍をここまで捌きますか。見事な腕前です」

 

 

 

全身を包む大仰な鎧、頭をすっぽりと覆う物々しい兜、手には身の丈程もある馬上槍(ランス)

それらのイメージからかけ離れた美しい声音は、下した相手を褒め称えていた。

 

 

「貴方こそ…… まったく、いやらしいタイミングで出てくるものです」

 

 

 

 

全員がその人物を確認し、驚愕と畏怖を心身に走らせた。

 

 

強張る体で、それでもファイティングポーズをとるミリアムの額には冷や汗が流れる。

 

 

 

「マクバーンに並ぶ結社の最強……アハハ、ちょっと厳しいかも」

 

 

 

いつも機械的なアルティナでさえ、その人物には畏怖の感情を抱く。

 

 

「データベースで見た顔です。結社の使徒、《第七柱》」

 

 

演算機並みと評される頭脳を持つクレアはいち早く勝率を導き出し、その結果に歯をくいしばる。

 

 

 

「《鋼の聖女》……」

 

 

 

内戦時クロスベルにいたレクターは、彼女について良く知っている。クロスベルの異変を解決した特務支援課をいとも容易く蹴散らした実力者の名前を。

 

 

 

「……アリアンロード」

 

 

 

 

《身喰らう蛇》至高の武人が《鉄血の子供達》の前に立ち塞がった。

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