八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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終極へのプレデュード

 

 

ラウラの修行に付き合い、アイゼンガルド連峰を下山してから3週間。

あと1週間ほどで修行を終えるラウラとの再会を心待ちにしていたナギトだったが、どうやら運命とやらはそう簡単に祝福を与えてくれないらしい。

 

 

 

 

アイゼンガルド連峰を下山してから3週間、レグラムで遊撃士として活動していたナギトのARCUSが着信を報せる。

 

 

 

 

「はい、ナギト・カーファイですが」

 

 

 

 

「おうナギト。俺だよ、オレオレ」

 

 

 

 

「オレオレ詐欺か、よし切ろう」

 

 

 

 

「だー、待て待て。俺だよ、レクター・アランドール」

 

 

 

というコントを終え、レクターはナギトに帝都まで来るように命じた。

 

 

《緋玉の騎兵》としての仕事が、またあるらしい。………まだある、と言った方が正しいだろうか。

マクバーンの捕縛任務が終わり、残っていた任務が下される、という事だろう。

 

 

 

 

ナギトは挨拶周りを終えると、そのまま帝都行きの列車に乗り込んだ。

 

 

 

☆★

 

 

 

 

ナギトには、まだまだやりたい事がある。

 

 

《剣仙》の弟子でも特に有名な《剣聖》と呼ばれる二人……カシウス・ブライトとアリオス・マクレインの二人と話をしたい。

 

 

同じ人物を師と仰ぎながら、違う運命を歩む男たち。

リベールの異変やクロスベル独立の時、彼らは八葉の技を学びし者として、どんな気持ちで事に臨んだのか。

 

それに、正式に八葉一刀流を継ぐ者としての報告、挨拶もしたい。

 

 

 

国外に行くならそれなりに手間をかけなければいけないし……今回の任務が終わったらすぐに行こうか。

そういえば、まだ卒業してからリィンとクロウには会ってなかったなー、などとぼんやりと考えながら、列車の外の景色を眺める。

 

 

 

 

懐かしきトリスタの町並が見え始め……

 

 

 

「ん?」

 

 

 

そこに、三つの人影を発見した。

その内の二人は見覚えのある顔で、あと一人はどこかで見た覚えのあるような、ネギのような頭の白法衣の男。

 

 

その三人と、もれなくナギトは目が合ってしまい───次の瞬間、視界が黒に染まった。

 

 

 

「むふぉっ!?」

 

 

突然椅子が消失し、尻もちをつくナギト。眼前には先程目が合った三人が苦笑しながら立っていた。

 

 

 

「突然申し訳ありませんね、ナギトくん」

 

 

苦笑しつつ、いつものように胡散臭い笑顔をしたまま、この出来事の犯人は手を差し伸ばした。

 

 

 

「……いや、大丈夫ですけど。今回は何の用ですか、トマス教官?」

 

 

ナギトはその手に掴まって立ち上がって尋ねた。

 

この黒い空間は、トマス・ライサンダーの使う《匣》によるものだ。外界の一切を遮断する異能に包まれるのは、あの最後の旧校舎探索以来となる。

 

 

 

「ナギトくんには近々連絡を取る予定だったのですが……どうやらこれから政府からのオーダーを受けに行くようで、急遽予定を前倒して今日、この人と会ってもらう事にしたわけです」

 

 

そう言ってトマスが視線をやったのは、白法衣に身を包むネギヘッドのエセ神父風の男だ。

 

七曜教会の特殊実働部隊たる星杯騎士団の副長であるトマスが、《匣》を使ってまで紹介したい人物……ただものではあるまい。

 

 

 

「耳が早い事で……」

 

 

 

政府から帝都に来るように言われたのは今朝だ。それを昼過ぎに把握して行動に移るなど、尋常ではない。

七曜教会の情報網はいったいどうなっているのか、気になるところだ。

 

 

 

 

 

「星杯騎士団、守護騎士第五位《千の護手》ケビン・グラハムくんでーす。ほらケビンくん、挨拶しちゃって」

 

 

 

トマスがいつものおとぼけ教官モードに切り替わる。

紹介されたケビンはため息をついてから自己紹介を始めた。

 

 

「ども、ケビン・グラハムいいます。一応守護騎士の第五位を務めさせてもろてて《千の護手》なんて名乗らせてもらってます」

 

 

 

随分と腰の低い人当たりだが、その名前で思い出した。いつか帝都で読んだ資料にその名前と風貌が記載されていた。

 

 

 

「はじめまして。ナギト・ウィル・カーファイです。お噂はかねがね」

 

 

 

「リィン・シュバルツァーです。よろしくお願いします」

 

 

 

と、ナギトに便乗する形で今まで無口だったリィンが自己紹介した。

トマスとケビンと共に立っていたリィンだが、あまり事情は知らされていなかったようだ。

 

 

 

「ほう、噂とな?」

 

 

 

「ええ。リベールの異変やクロスベル独立の際、ご活躍されたとか」

 

 

それは、一般人の知るところにない情報だ。ナギトのセリフは、これを知る組織に身を置く事を示している。

 

 

 

「……どうやら隠す気はない、ということやな」

 

 

 

「円滑に話を進めようと思いまして」

 

 

 

こんな時間の概念があるかも怪しい空間で腹の探り合いをするのは面倒の極みだ。

 

 

「ナギト、それは………」

 

 

リィンが口ごもる。Ⅶ組の情報網でリィンまで連絡は来てると思うが、ナギト本人の口から聞くまで信じたくなかったのだろう。

 

ナギトはそれを看破して間を置かずに答える。

 

 

 

「俺がそれを知る立場にある……つまり俺が鉄血の子飼いの一人であるという事だな。まあ気に病むな」

 

 

 

決定的な事実を耳にしたリィンは表情を歪める。ナギトが何のために、誰のためにそうなったのかは知っている。だから、それ以上の疑問を口に出すのはナギトの決意を穢すような気がして。リィンは閉口した。

 

 

 

「やー、酷い兄弟やなぁ。今まで秘密にしてたんか?」

 

 

 

「いやいや、情報は伝わってたはずだが。信じたくなかったらしい」

 

 

 

「そか。……まあええわ。本題に入ろか」

 

 

 

義兄弟の問題には関わるまいと話を打ち切ったケビンに、後ろからトマスが「ひどい神父さんですねー」と茶々を入れる。が、それを無視してケビンは続けた。

 

 

 

「とは言っても、今日はほんまに顔合わせだけが目的なんや。あと、これを渡しとくわ」

 

 

とケビンは黒い端末のようなものをナギトとリィンに手渡した。

 

 

「これはいったい?」

 

 

リィンがそれを見ながら、ケビンに訊く。

 

 

 

「それは星杯騎士団の通信に使われるアーティファクトの一部や。そいつを近づけるだけであらゆる通信装置は通信可能範囲を拡大する。ま、相手も同じモン持っとかんと意味ないけどな」

 

 

 

女神の秘蹟の顕れたるアーティファクト。星杯騎士団はそれの回収を目的に動く組織だ。すべてはアーティファクトを悪用されないため………という名目なわけだが、回収したアーティファクトを星杯騎士団が使うのは如何なものなのだろうか。……そんな事が言っていられる状況ではないのだろうが。

 

 

「本当はクロウくんにも渡したかったんですけどね。彼は今クロスベルにいるようですし」

 

 

 

「クロウがクロスベルに?」

 

 

トマスが何気なしに語った(この男の事だから本当は狙ってだろうが)事実はナギトにとり初耳であった。

 

ナギトは少し前の記憶を探る。

オルディスで別れたクレアだが、クロウを捕まえられなかったそうだ。なんでも、クレアと入れ替わる形でクロウはジュライを離れたのだとか。

その後クロスベルに向かったというわけだろう。

 

 

 

「はい、そうみたいですねぇ」

 

 

 

「もう一人の騎神の起動者ってのにも会ってみたかったんやけどなぁ」

 

 

 

 

そう語る守護騎士の二人。その様子を見てナギトはこの顔合わせの目的がわかってきた。

 

 

 

「なるほどなるほど。この顔合わせ……目的は協力要請という所ですか」

 

 

 

 

「……察するの早すぎへんか?《剣聖》レベルやぞ」

 

 

 

一瞬の沈黙の後、ケビンが呟くように言う。

ナギトは「まあ、同門ですからね」と笑い、リィンは首を傾げる。

 

 

「どういう事ですか?この顔合わせの目的が協力要請って……、何に対しての………」

 

 

 

「無論、《鉄血宰相》への……でしょう? 察するにリベールの将軍様はその要請に応えたようですね」

 

 

ナギトが指す人物はかの《剣聖》カシウス・ブライトだ。現在はリベール軍の実質的な司令官を務めている。

 

 

 

「ご明察ですね、ナギトくん。これは確かにギリアス・オズボーンへの決起への呼びかけです。すでにリベールに2つ、カルバードに3つほど、それと同じものを預けてあります。クロスベルにも1つ預けたかったのですが、あそこは今、監視の目が厳しく潜り込めない状況にあります」

 

 

 

リベールに2つと、カルバードに3つ。計5つ。エレボニアを東と南から包囲する国にそれだけか。

思ったより少ない……と黙考するナギト。秘密を知る者は最小限に留めておきたいわけか。しかしエレボニア帝国内では少なくとも3つ…俺とリィン、クロウには預けるつもりだったのか。それにあり得る人選としてはヴィクターに皇子オリヴァルトと言った所か?

 

 

 

「しかし、決起と言うのは少し大袈裟です。我々教会は、ギリアス・オズボーンを最大限警戒し、何かあった際に協力できる人たちに呼びかけているだけです」

 

 

再び副長モードに突入したトマスに、ナギトはさらなる疑問をぶつける。

 

 

「じゃあこの決起軍は、有事の際のカウンターとして動く組織で、こちら側から仕掛ける事はないと?」

 

 

 

「軍だなんて。まあ、基本的にはそうなります。しかし、先制防衛、という事でならこちらから仕掛ける事も充分あり得ます」

 

 

 

「それはつまり、何かが起こる前に宰相を押さえる、という意味ですか?」

 

 

先制防衛、という言葉は国の先制的自衛権に似ている意味合いを持つ。先制的自衛権とは他国から武力攻撃がない時点ですでに危険が存在するとし、そのような危険を予防するために自衛措置を行うと事ができる権利だ。

 

この場合で言えば、オズボーンが何らかの悪事を行おうとしていると教会が判断した場合、決起軍の戦力を行使してその悪事を阻止する、という感じだ。

 

 

 

「そうです、リィンくん。何かが起こってからでは遅いのです」

 

 

 

「しかし、あのギリアス・オズボーンが事前に情報を漏らすようなヘマをすると思いますか?どのみち、後手に回ってしまうのでは?」

 

 

 

今度はナギトが挑発にも似た質問を繰り出す。そうだ、あれは怪物だ。あれが事を起こすのなら、事前に察知するのは不可能に近い。

 

 

 

「いいえ。だからこその三人体制なのです。現在、帝国には私を含め3人の守護騎士がいます。加えて、私の連絡次第ではあと3名の守護騎士が帝国に強制的に入国する手筈になっています」

 

 

「その中には第一位《紅曜石(カーネリア)》もおる。名前くらいは聞いたことあるやろ?」

 

 

ケビンの言葉を聞いて記憶を掘り下げる。と、該当するものが1件。

 

 

「カーネリアって、あの『カーネリア』のシスター・カーネリア?」

 

 

『カーネリア』とはナギトがトールズ在学中に読んだ本のタイトルだ。その物語のヒロインがシスター・カーネリア。読了後に「実話かコレ?」と言った記憶がある。

 

 

「そのカーネリアや。本名はアイン・セルナートっつってな、べらぼうに強いで。俺と副長の二人がかりでもあしらわれる程度にはな」

 

 

「それは……頼もしいな」

 

 

 

リィンの言う通り、確かにその援軍は頼もしい。心強い。だが。

 

 

 

「だけど、その援軍は事が起こった後に帝国入りする事になるんじゃないですか?」

 

 

 

「……そうです。もし私が事前に察知して呼び出したとしても、到着するのは事が起こった後になる可能性もあります」

 

 

 

 

「はっきり言ってくれ。帝国が戦場になる可能性は」

 

 

 

トマスの物言いはひどく慎重だ。ナギトが未だ《鉄血の子供達》の一人であるという意識があるのだろう。敵対したくないと、言外に伝えてきている。

 

しかし、ナギトはその決定的な言葉を聞きたかったのだ。

それは即ち、帝国が戦場になるかどうか。ナギトの『大切』に危険が及ぶかどうか。

 

 

 

「大いに、あります」

 

 

 

果たしてトマスは、ナギトの望む答えを言い放った。

 

わかりきった答えだ。しかし、言葉にされて実感が増す。決心ができる。

 

 

 

ナギトはわかっていた。己こそが、切り札になると。

 

ナギトがオズボーンに味方すれば、オズボーンは勝利し、ナギトが教会に味方すれば教会は勝利するだろう。

 

ナギトにはそれだけの力がある。

単純な戦闘力はもちろんの事、軍略面においても対抗できるのは《剣聖》クラスの知力の持ち主だけだろう。

《騎神》という武力もある。ブリオニア島の決戦で核が損傷して今はバルフレイム宮地下で修復中だが、そう遠くない内に動かせるようになるだろう。

 

そして何より、ナギトには裏技がある。

マクバーンを永遠なる眠りに誘った秘密の力。あれがあるからこそ、ナギトは何よりも力を持つ最低であれるのだ。

 

 

 

 

 

「……わかりました。俺はあなた方に協力します」

 

 

「ありがとう、ナギトくん。……リィンくんはどうしますか?」

 

 

 

「俺も協力します。……あの人が何かをするなら、それを止めるのは俺の義務だ」

 

 

 

 

トマスは再び「ありがとうございます」と言い、その瞳の真摯さを丸メガネの向こう側に隠した。

 

 

「それじゃあ、今日はこの所でお開きにしましょうか〜」

 

 

「せやね。顔合わせも済んだし。いつでも連絡待ってるで」

 

 

 

笑う2人の守護騎士。教会の持つ最高戦力の一角たちは、その大層な役職名のイメージよりフランクに思えた。

 

彼らは信仰心ゆえに教会に仕えているのだろうか?

その謎は追及しないほうが良さそうだ、とナギトは軽く笑い、別れを口にする。

 

 

 

「ええ、それじゃあまた。あ、ケビンさん」

 

 

 

「ケビンでええよ。何かな?」

 

 

「しばらく帝国にいるのかな?」

 

 

 

「そのつもりやけど、何で?」

 

 

ケビンの答えにナギトは少し項垂れる。

期待はずれ…ではないが、残念だ。リベールの異変に関わったケビンならば、彼とのパイプになるかもしれないと思ったのだが。

 

 

「いや、ちょいとリベール方面のツテが欲しかったんだけど」

 

 

 

 

「ほう、リベールへのツテですか。誰かに会いたい、とかですか?」

 

 

鋭い考察を挟んできたのはトマスだ。心なしか、楽しそうに見える。

 

 

 

「カシウス・ブライトに。彼に会いたいな、と」

 

 

 

「兄弟弟子ですもんね。つもる話もあるでしょう。わかりました、その件については教会に一任してください」

 

 

「…何するつもりなんや、副長さん」

 

 

「なあに、彼の休暇の情報をナギトくんに流すだけです。教会の情報網をもってすれば容易いことでしょう」

 

 

トマスの申し出はありがたいものだった。ナギトは「お願いします」と頭を下げる。

 

 

 

「じゃあ、今度こそお別れですね。ああナギトくん、今日の事はくれぐれも口外しないように」

 

 

 

「了解です。オズボーンに密告したりはしませんよ。俺は彼の部下ですけど、忠臣じゃないんで」

 

 

 

ナギトの冗談めいた口調に、トマスはニヤリとして指を鳴らす。

 

《匣》は解除され、ナギトの視界には列車の車内風景が映り込む。

 

 

 

1人になった空間で、先ほどと似て非なる言葉を口にする。

 

 

「俺は彼の忠臣じゃないけど、部下ですから」

 

 

騎神については話さなかった。《緋の騎神》テスタ=ロッサ。

その事まで語れば、教会はさらにナギトを重要視したかもしれない。ひょっとすれば教会はすでにナギトが《緋の騎神》の起動者であると掴んでいるかもしれないが、あの2人の言動から可能性は低いと思われる。

 

 

だが、言わなかった。

なぜならナギトはギリアス・オズボーンの忠臣ではなくとも、部下ではあるからだ。

 

《緋玉の騎兵》としての、彼への義理立てだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

列車は帝都へ向かう。

 

運命の歯車はもう止まらない。

物語は狂ってしまえばもう元には戻らない。

 

運命の狂った歯車は、止まらず加速を続けるのみ。

世界は終焉に向けて、進み続ける。

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