八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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作戦、始動

 

 

「君には、このオルキスタワーに侵入してくるテロリストを迎撃してほしい」

 

 

 

 

クロスベル総督府、総督執務室にてルーファスからナギトへ下された命令はそれだった。

 

 

「テロリスト………《Ω》の件ですか」

 

 

《Ω》とはクロスベルに現れたというテロ組織の名だ。

以前、クロスベルに来たリィンが接触したらしいという話をユーシス経由で聞いたナギト。

 

 

 

「フフ、さすがに耳が早いな。リィンくんから聞いたのかな? だが違う。……順を追って説明しよう」

 

 

 

《Ω》ではないとルーファスは言う。ならばテロリストとは?オズボーンがナギトを送ってまでも達成すべき事案があるはずだが……

 

あるいは狂言でナギトを帝国中央部から引き離すのが目的だったか。

 

 

 

「先日、オズボーン閣下から私に指令書が届いた。詳細は省くが、クロスベルの英雄をテロリストに貶めるための作戦を展開しろ、という内容だった」

 

 

 

「クロスベルの英雄……特務支援課ですか」

 

 

 

「そうだ、ロイド・バニングスをはじめとする支援課メンバー、そしてその協力者たち。彼らをテロリストにするための作戦だ」

 

 

 

クロスベル警察、特務支援課。彼らと協力者たちは碧の大樹と呼ばれる突如出現したダンジョンを攻略し、クロスベル独立問題を解決したクロスベルの英雄だ。

その他にも特務支援課は様々な事件を解決しており、その名声たるや、まさに英雄と呼んで良きものである。

 

 

 

「彼らをテロリストにする、とはどうやって?」

 

 

 

「簡単な話だ、彼らにこの総督府を攻め込んでもらう」

 

 

 

 

簡単に言うルーファスだ。しかし事はそんなに簡単ではない。

クロスベルの英雄が、クロスベルの象徴とも言えるオルキスタワーに攻め込む?いったいどんなシナリオを描いているのだか。

 

 

 

 

「今日、とある噂を流布した。私がクロスベルの混乱を目論んでいるという噂だ」

 

 

 

「クロスベル総督のルーファス・アルバレアがクロスベルの混乱を目論む?そんな偽報で英雄たちを騙せると?」

 

 

 

 

「ふむ、難しいだろうな。相手は捜査のプロだった警察だ。加えてあの《風の剣聖》もいる。騙すのは難しいだろうな……噂がそれだけならば、ね」

 

 

 

ニヤリ、と笑うルーファス。そうだ、こいつはルーファス・アルバレア……貴族連合の総参謀として内戦を操り、最後にはオズボーンの手先として内戦を終結させた《翡翠の城将》。

しかも指令を出したのはギリアス・オズボーン。

 

噂に信憑性を持たせるだけの何かがあるはずだ。

 

 

 

「ルーファス・アルバレアは猟兵団《赤い星座》を雇い、クロスベルの悉くを破壊するつもりらしい。そして復興するのに帝国製のものを使い、より明確にクロスベルが帝国の統治下にある事を意識づけるようだ。ほら、その証拠に帝国軍がガレリア要塞での軍事演習に参加するのに、あらかた居なくなってしまっただろう?」

 

 

 

噂の内容を唄うように語るルーファス。その見目麗しい容姿からは考えられないほど、えげつない内容だ。

 

ナギトは苦笑いしながら「タチ悪いなー」と言う。

 

 

「フフ。クロスベルの民にとって《赤い星座》に街を蹂躙されたのは記憶は新しい。それに実際に軍もガレリア要塞に移動させた。……君の目から見てどうかな、この作戦の是非は?」

 

 

ルーファスの言葉にナギトは思考する。地頭の良さで言えばナギトよりルーファスが数段上だ。しかしルーファスが求めるものは、《理》に至った者の視点からの意見だ。

万物を自在に操るとまで言われる境地からの見解だ。

 

 

「決行日は?」

 

 

 

「明後日──2日後だ。3日後に《赤い星座》がクロスベルに到着する……という噂だ。ああ、ちなみに総督府の口座から1億ミラほどおろしておいた。ネズミを騙せるようにね」

 

 

 

相手に考える時間を与えない、といった所か。それに1億ミラの引き下ろしは、猟兵団に払う資金と見せるつもりだな、ハッカーを釣るつもりだ。

 

軍の移動、ミラの動き……それに加えて、クロスベルが蹂躙されるかもしれないという事に対して働く特務支援課の正義感。

 

時間がなく、蹂躙を防ぐためにはクロスベル総督の説得しか手がないとなれば……英雄たちがオルキスタワーに突入してくる可能性は充分にある。

 

 

 

「7割、成功するでしょう」

 

 

 

7割……実に70%だ。この釣り糸に獲物がかかる確率は。

 

もちろん獲物も、これが罠という可能性には感づくだろう。しかし、それが罠でなかった場合を考えて、踏み込んでくる。その確率が70%……というのがナギトの見解だ。

 

 

 

「7割か……充分だよ」

 

 

 

「ええ、ですが1つ問題が」

 

 

 

英雄たちを釣り上げるために餌を撒く……それはいい。しかし、その餌がクロスベルを飲み込んでしまうほど大きな魚を呼び寄せてしまうとしたら?

 

 

「共和国はどうするんです?防備が手薄になれば、やつらを招いてしまう事もありえる」

 

 

 

「それについては心配無用だ、すでに手は打ってある」

 

 

 

ルーファスは「それについては明日、実際に見てもらうとして」と話題を流す。

 

どうやら共和国の侵攻を抑止する何かがあるらしい。

 

 

「では、もう少し計画を詰めようか」

 

 

 

☆★

 

 

 

 

翌日

 

 

 

 

「……以外と遠いな」

 

 

ぽつりと呟くナギト。その足はタングラム門へ向かっていた。

 

 

 

ルーファスの語る共和国の侵攻を抑止する何かを見るために、ナギトはタングラム門に向かっていた。

 

ルーファスは見学許可証を発行するだけで、その何かについて説明しない。言ってくれれば済む話なのに、と思うナギト。だがそれにすら意味があると感じとっていた。

総督府の人間が、その何かについて最終チェックを行い、共和国の侵攻抑止が為されている事を確認し、計画を滞りなく始められる……その様子を、タングラム門に駐留する者たちに見せつける。……噂は本当ですよ、というふりをする。おそらくはそんな意図があるのだろう。

 

 

 

「あー、やだやだ。頭の良い奴らはこれだから」

 

 

 

愚痴を言いつつもナギトはタングラム門に向かう。対カルバード共和国最前線へと。

 

 

 

 

 

 

「話は伺っています。ようこそタングラム門へ」

 

 

そう言って敬礼したのは茶髪の女兵士だった。……否、士官であろうか。そういえばこの顔は資料で見た事がある。

 

 

 

「帝国軍クロスベル方面隊、タングラム門所属のノエル・シーカー少尉であります。本日は、例の新兵器の視察という事でよろしかったでしょうか?」

 

 

その名前が起爆剤となりナギトは記憶を想起させる。

ノエル・シーカー。特務支援課に所属していた女だ。武装はサブマシンガン二丁に、グレネードランチャー、電磁ネット諸々。多数の兵器を使いこなす制圧戦のスペシャリスト……というのが彼女に対する情報局のファイリングだ。

 

 

 

「はい。案内の方、よろしくお願いします」

 

 

 

華奢な体躯から想像できない戦闘技能を携えているのだろう。思考するナギトはしかし、平静を崩さずにそう言って軽く低頭する。

 

 

 

その後、ナギトはノエルに案内されて新兵器とやらの場所にまで向かう。

タングラム門はクロスベルが帝国の統治下に入ってから急ピッチで改造工事が進んでいる。今や門というよりは要塞と言った方が正しいのではないだろうか。

 

まあ、それも当然の話だ。

これまでクロスベルを挟み帝国と共和国は敵対していた。しかし帝国はクロスベルを併合し、単純に国境が押し広げられた形となる。対共和国最前線の基地がこのタングラム門となるのだ。ガレリア要塞の代わりにタングラム門を要塞と化す……理解できる話だ。

 

 

 

「…ん?」

 

 

 

と、歩きながら訓練風景を見ていたナギトは声を漏らす。兵を指導しているらしき人物は特徴的な赤髪だ。

 

 

遠目にもわかる。情報局のファイルにも要注意人物として登録されていた。

 

 

ランドルフ・オルランド。特務支援課の初期メンバーであり、元々は《赤い星座》の隊員で前団長《闘神》の息子。

戦闘能力だけなら特務支援課でも随一で、特にベルゼルガーという銃剣一体のバケモノ武装を使った時の脅威度は最高レベルの猟兵を凌駕するとか。

 

 

 

しかし、ノエルはナギトの漏れ出た言葉をどう思ったのか「ああ、あの武器ですか」と説明を始める。

 

 

「スタンハルバードですよ。元々はクロスベル警備隊で採用していた制圧用の武器なんですけどね。警備隊が帝国軍に取り込まれてからも、手に馴染んでるって理由で主武装にしてるままの人が多いんですよ」

 

 

それは、話題をランドルフから逸らすためか、あるいは本当に勘違いしたのかはわからないがナギトは「そうなんですか」と納得した様子を見せて、新兵器の元へ案内するノエルの後を追う。

 

 

 

 

 

「これが先日ここに運び込まれた新兵器です」

 

 

と、ノエルはその部屋……格納庫と言える空間の電灯をつけて言った。

 

 

 

その威容に言葉を失うナギト。いや、そうではない。ここにこの兵器がある意味を考えて絶句した。

 

 

「これは………ッ。なるほどな、そういう意味かよルーファス・アルバレア…」

 

 

 

それはかつて、ガレリア要塞からクロスベルを狙っていた砲口。

今やタングラム門に設置され、共和国の侵攻を阻む猛威。

 

 

 

「………列車砲」

 

 

 

 

列車砲……ラインフォルト社が製造した大量破壊兵器。

 

 

 

「これはいつここに?」

 

 

 

「1ヶ月ほど前です」

 

 

 

ノエルの答えに考え込むナギト。

1ヶ月ほど前なら、製造が開始されたのはクロスベルが併合されたくらいからか?ガレリア要塞の消滅があった事もあるし、共和国への抑止力は早々に欲しかった所だろうが。

しかし、列車砲なんて巨大な兵器を製造するのに、アリサは何も知らなかったのか?何か掴んでいれば元Ⅶ組メンバーには伝えてるはずだが。

 

 

 

「実戦での使用はまだですが、動作チェックは定期的に行っています。発射をするのに問題はありません」

 

 

 

「それは重畳」

 

 

 

ルーファスの思惑に乗り、この場はそう言う事にしたナギト。……まだ、ここじゃない。

 

目を細め、しばらく列車砲を眺めていたナギトにノエルは問いかける。

 

 

 

「あの、失礼ですが……どうして今になって列車砲の視察を?」

 

 

その質問にナギトは確信する。これは噂の真偽を確認しているのだと。ルーファスの思惑に乗る事を決めた今、言うべきセリフはひとつだけ。

 

 

 

「私は臨時武官として先日クロスベル入りしたわけでして、総督にこれを見てこいと命じられたんですよ」

 

 

世間話でもするようにして、毒を回す。

すでに作戦は始まっているのだ。ここは騙されろ、英雄たちよ。

 

 

 

「そうですか」とノエルは納得したように声を出し、ナギトは「ではそろそろ」と帰ることを示唆した。

 

 

 

 

列車砲格納庫を出た瞬間だった。ナギトを襲う、スタンハルバード。振るうは青髪をオールバックにした、精悍な男。

 

 

「おおおっ!」

 

 

直前までの気配も遮断してあり、予想してなかったナギトは少しばかり面を食らう。

 

 

 

しかし。

 

 

 

振るわれるスタンハルバードをナギトは半歩引いて避け、その柄を掴んだ。そのまま勢いを利用してスタンハルバードごと青髪の男を投げようとして──、スタンハルバードにかかっていた力が抜ける。

 

青髪の男がスタンハルバードを手放したのだ。あのまま掴んでいたら投げられていた所なので、勘がいいと言える。

 

 

 

「おっと……さすがですな臨時武官どの。いや〜、申し訳ない!部下たちが武官どのの実力が見たいと言いまして、不肖このダグラスがその任を請け負った次第です」

 

 

 

ナギトはフッと笑い、ダグラスにスタンハルバードを返す。ノエルはダグラスに「失礼ですよ」と注意をする。

 

 

「いえ、構いませんよ。ダグラスさんも気殺は見事でした。気づくのが一瞬遅れてたらやられてました」

 

 

ナギトはにこやかにそう言ってのける。それでも良かったんでしょうが、という言葉は飲み込んで。

クロスベル側としては、ここで臨時武官を試すという名目で襲いかかり、気絶させても構わなかったのだ。

 

 

 

「そう言っていただけると幸いです。武官どの、どうですか?我らの部隊に実戦指導というのは」

 

 

 

ダグラスは厚かましくもそう提案してくる。襲いかかって躱されたとしても、こうしてナギトの様子を窺える……どっちに転んでも良かったわけだ。

 

 

「少しだけなら」

 

 

ナギトは腕時計を確認すると、再びにこやかに笑う。

 

 

 

「おお、ありがたい!武官どの、こちらへどうぞ」

 

 

ナギトはそうして訓練に巻き込まれる事となった。

 

 

 

☆★

 

 

 

 

「では……始めっ!」

 

 

 

ナギトが相手にする事になったのは、精鋭とされる3人の男たちだ。

開始の合図と共に、その内の1人が電磁ネットを放つ。

ナギトはそれを後方に跳んで躱すが、その軌跡を辿るように銃弾が迫ってくる。射線から逃れると今度は1人がスタンハルバードを構えて肉薄してきていた。

 

 

 

いい連携だ。ARCUSなしでこれとは……

 

ナギトはそう思いつつ素早く踏み込み、男の腹に拳をめり込ませた。

苦悶の声と共にくの字に折れる男の腕を掴むと、電磁ネットを再装填している男へと投げつけた。

 

 

2人は激突し隙が生まれるものの、あと1人の銃撃は未だ続いている。

 

スペック差でサクッと倒してもいいんだが、それじゃあ指導にはならない。

 

ジグザグに動いて銃弾を避け続ける。常人ならすべてを躱す事は不可能だが……圧倒的なパワーでも、スピードでもなく。常人の動きでそのすべてを躱すナギト。

 

先読み、あるいは先見。

相手の動きを読み取って、次のアクションを予見する技術だ。

目線、肩の動き、銃口の向き………その3つの要素からナギトは兵士の動きを先読みし、銃弾の接近を許さない。

 

 

側から見れば、兵士が見当違いのところにわざと銃弾を撒き散らしているようにも見えるだろう。

やがて兵士は銃弾撃ち切ってしまったようでリロードに移る。ここが好機とばかりに踏み込むナギトであったが、激突した兵士たちがすでに体勢を立て直していた。

 

 

 

再び発射される電磁ネット。頭上に広がるそれを見て、ナギトは考えを改める。

 

 

これは、常人スペックでは勝てないな。

 

達人による常人の動き、から達人による達人の動きへとシフトする。

指導にはならないが、実戦として見るならばこれも良いだろう。

 

 

 

そうと決まれば。

 

 

 

二の型 X 八の型“風虎掌”

 

 

 

掌に風が集約し、それは虎の頭を模す形となる。

 

 

「──吹き飛ばせ」

 

 

虎頭から放たれる突風は電磁ネットを遠ざけ、

 

 

 

「──喰い千切れ」

 

 

 

掌から伸びた虎頭は兵士たちに襲いかかる。

 

 

 

兵士たちは防御で手一杯。ここからの一手は対応できまいよ。

 

 

 

「ARCUS駆動──クリスタルフラッド」

 

 

久々のアーツの発動。しかし駆動は上手くいったようで“クリスタルフラッド”は氷の奔流を成して兵士たちを飲み込んだ。

 

 

戦闘不能になった兵士たちを見てダグラスはわざとらしく顎を撫でる。

 

 

 

「ううむ、まさか我が軍の精鋭たちを歯牙にもかけぬとは、さすがは武官どのだ」

 

 

唸るように、そんな演技がかった様子でダグラスは言った。軍属とは言え、その演技力のなさはどうなんだ、と言いたくなる。

 

この話をどういう風に着地させるのか興味が出てきたナギトはセオリー通りに「いえいえ、そんな事は」と返事をしてみた。

 

 

 

「そんな事はありますまい!いやー、しかしこんな事では面目が立ちませんな。武官どの、もう一戦ご指導願えませんかね?」

 

 

 

 

 

そうして、再びナギトと3名の兵士が実戦訓練を行う事となった。

兵士、と言うよりは士官だ。今回ナギトが相手をする事になったのは、まずはダグラスその人だ。それに加えランドルフ・オルランド、果てにはノエル・シーカーをも巻き込んだ模擬戦。

 

 

 

「ガチじゃん」

 

 

思わず呟くナギト。

ランドルフ、ノエルは言わずもがな特務支援課として数々の難事件を解決した実力があり、ダグラスはかつての警備隊でも屈指の実力者という話だ。

 

ここでナギトを戦闘不能にでもさせる腹心算か?と疑うほどの全力の布陣である。

 

 

「こんな事になって……すみません。でも、やるからには全力でいきます!」

 

 

謝りながら、しかし愛用のサブマシンガンを勢い良くホルスターから引き抜くノエル。

 

 

 

「さぁて、やるとしますかね」

 

 

気怠そうに、しかし眼光は鋭くナギトを射抜くランドルフ。

 

 

 

「さあ武官どの、胸をお借りしますぞ」

 

 

 

そしてダグラス。スタンハルバードを小枝のように振り回す膂力が窺い知れる。

 

 

 

 

「では、はじめっ!」

 

 

 

 

 

こうして、訓練とは名ばかりの戦闘が始まった。

 

 

 

 

「……まあ、しゃーないわな」

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

 

「ハハ……マジかよ……?」

 

 

 

大の字に倒れたランドルフは、現実を噛み締めながらそう漏らす。

 

 

 

「ランディ先輩、いつまでそうしてるつもりですか?」

 

 

同じく倒れていたノエルはさっと立ち上がり、ランドルフの手を掴んで起こし上げた。

 

 

 

ダグラス&ランドルフ&ノエルVSナギトの模擬戦は、ナギトの勝利で終わりを迎えた。

 

元警備隊だけでなく、帝国軍クロスベル方面隊としてもトップクラスの実力者を相手にナギトは勝ってみせたのだ。

自身の奥義である“幻造”を発動し、無数の剣による物量攻撃で3人を制した形になる。

 

 

もちろん3人も全力ではなかったものの、ナギトもまた全力ではなかった事が3人にもわかっていた。

 

 

 

「あの臨時武官……正直、底が見えんな。そうそう見ないクラスの化け物だ。ランディ、どう思った?」

 

 

 

立ち上がったランドルフに、ダグラスが問いかける。ナギトは全力でなかっただけでなく、できるだけこちらに傷を残さないように、なんというか気遣いのようなものをしてくれていた。なぜそのような事をしたのかは謎だが。

 

 

 

 

「そうですね……支援課俺たちが総出でかかっても一蹴された《鋼の聖女》に近しい実力がある事は間違いないんじゃねぇかな、とは思いますが」

 

 

「《鋼の聖女》か……俺は話にしか聞いてないが、どうやら相当な猛者だったらしいな?」

 

 

「ありゃ猛者なんてもんじゃないですよ!もう化け物っつーか人外っつーか……そんなレベルです」

 

 

「その《鋼の聖女》に近い実力を持つあの臨時武官……ナギト・ウィル・カーファイ。注意しておくに越した事はなさそうですね」

 

 

 

 

ノエルがそうまとめ、ひとまずナギトについての会話は終了した。ここからどう動くべきか3人は思案する。しかしまずは、市街にいるロイドにナギトの事を伝えなくては。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

「おー、いちち………」

 

 

 

タングラム門での模擬戦を終えたナギトはようやくクロスベル市街へと辿り着いた。もちろん徒歩である。

 

 

ダグラス、ランドルフ、ノエルの3人との模擬戦はナギトにとり激闘であった。

剣雨を潜り抜けたダグラスとランドルフにスタンハルバードでの攻撃をもらい、ノエルの銃弾もいくつか喰らった。

 

いくら気で防護しているとは言え、痛いものは痛いのだ。

 

 

内気功によって治癒力は高めになっているが、明日の作戦までに全快になっているだろうか……?

 

 

 

 

ナギトはため息を吐き、総督府へと戻るのであった。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

 

「それと1つ、耳に入れておきたい事が」

 

 

 

作戦についての話を終えて、通信越しにナハトは1つの懸念事項について言及した。

 

 

 

「ナギト・ウィル・カーファイという人物についてだ」

 

 

 

「ああ……その人についてならすでに知っているよ。帝国政府の臨時武官で、どうやらとんでもない使い手らしいな?」

 

 

 

しかし通話の相手であるロイドはその人物について把握していた。

 

 

「もう知ってたのか……さすがに耳が早いな」

 

 

 

「仲間から連絡があってね。しかも列車砲を確認しに来たのが、件のナギトだったという話だ」

 

 

 

「本当か? …だとしたらそれなりのポストにいると考えた方が良さそうだな」

 

 

 

「ああ、しかも実力を鑑みるに俺たちへの抑えのような気もする……。懸念はあるが、作戦は実行する。クロスベルが危機に晒される危険性をみすみす見逃すわけにはいかないからな」

 

 

「……ロイドらしいな。色んな事情で支援課が散り散りになった今でも心が折れないなんて。事情が事情だけに俺たち遊撃士は表立って協力できないがバックアップはする予定だ。…アリオスさんが辞め、ヴェンツェルさんは帝国に、エオリアさんは公国へ行って人手はないが、何とかやらせてもらうよ」

 

 

 

「頼もしく思ってるよ、ナハト。……明日に備えて今日は早めに休むといい。寝坊されると困るからな」

 

 

「はは」と笑いつつロイドは言って、ナハトも同じように笑い、別れを告げると通話を切る。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

翌朝

 

作戦決行の日。情報が正しければ明日にでも《赤い星座》が街を蹂躙するはずだ。帝国軍のほとんどがガレリア要塞の演習参加のためにいなくなったクロスベルの防備は手薄、太刀打ちはできないだろう。

加えてヨナがハッキングして、ネット上で多額のミラの動きを見つけた。おそらくは総督府から《赤い星座》に支払われた代金と思われる。

 

ガレリア要塞の演習と称して軍を退き、その間に《赤い星座》に街を襲わせ、その復興を支援する事で、文字通りクロスベルを帝国の一部とする。

 

そんなルーファス・アルバレアの思惑を打ち破るには今日この日、ルーファス・アルバレア自身を説得するしかない。いざとなれば脅してでも《赤い星座》への依頼を取り下げさせる……それだけの覚悟を持ってロイドはオルキスタワーの前に立っていた。

 

 

 

 

 

「時間だ、作戦を開始する」

 

 

 

作戦はこうだった。まず支援課のリーダーでありクロスベルの英雄として名高いロイドが陽動としてオルキスタワー正面から突入し、頃合いを見計らって、アリオス・マクレイン、ランドルフ・オルランド、アレックス・ダドリー、ロナード・グリフィンの4名からなる別働隊がオルキスタワー内部に侵入する。

軍は退き、総督府の警備も最小限と見越した故の作戦だ。

 

 

 

だが、懸念事項が1つ。

 

 

 

 

 

ロイドがオルキスタワーに入る。

オルキスタワー──クロスベルの心臓部にして大陸最大の高さを誇る建築物だ。

 

クロスベルが帝国に占領されてから、政治中枢が本格的に行政区からオルキスタワー内部に移動し、オルキスタワーは昼夜関係なく人が忙しくしている……はずなのだが。

 

オルキスタワーの正面入口には普段は所狭しとひしめく人々の姿はなく、代わりにたった1人の男が佇んでいた。

 

 

 

 

 

「ようこそオルキスタワーへ」

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