八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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いくつかの想定外

 

 

テロリストによるオルキスタワー襲撃から一夜明け、クロスベルはある程度落ち着きを取り戻していた。

 

 

オルキスタワー襲撃を行ったのはロイド・バニングス、アリオス・マクレイン、ランドルフ・オルランド、アレックス・ダドリー、ロナード・グリフィン、リーシャ・マオの6人。この6人は当然ながら指名手配された。

 

 

これまで指名手配していなかったためか、今回の件で“罪を犯し指名手配された”という事実は真実味が増し、市民からの抗議の声は少なかった。

事前に《赤い星座》によるクロスベル襲撃の噂もあったためか、指名手配されたロイドらと総督府に不幸な行き違いがあった──などとも囁かれている。

 

 

襲撃メンバーと親交の深い遊撃士協会、軍関係者は関与を疑われたが総督府は追及せずに泳がせる選択をしている。

 

 

なお、この襲撃による負傷者はなし。総督府はテロリストの襲撃を読み、完璧な対応をしたと報じられた。

 

ちなみに、原因は不明だがオルキスタワー襲撃とあわせてクロスベル全域で停電が発生したのだが───それはあまり話題になっていない。

 

 

☆★

 

 

 

 

「なんだと…?」

 

 

 

オルキスタワー、総督執務室にて。

 

昨日のテロリスト襲撃、すなわち英雄のテロリスト化作戦を終えたルーファスはナギトに次の任務を下す。

 

内容はテロ組織《Ω》の調査だ。この背後に1つ、ルーファスさえ懸念してなかった組織が絡んできている可能性があったためナギトに調査を依頼したのだ。

 

「任務前のブリーフィング、と言うほど大したものではないが」と断ってルーファスは《Ω》について判明している事実をナギトに伝えていた。

 

ナギトの顔色が変わったのはそのリーダーのコードネームを聞いてからだ。

 

 

「聞こえなかったかね?ではもう一度言うとしようか。テロ組織《Ω》……そのリーダーは………《C》だ」

 

 

 

《C》は《帝国解放戦線》のリーダーを務めていたクロウのコードネームだ。

今クロスベルを騒がせつつあるテロ組織《Ω》は《帝国解放戦線》の後継である事は察していたが、その首魁の正体までは把握していなかった。

 

 

 

「ふざけるな……どういう事だ、それは…?」

 

 

 

静かな怒りを滲ませながら呟くナギト。最悪の……最低のストーリーをルーファスとその背後にいるオズボーンが描いている可能性に行き当たり、キッとルーファスを睨む。

 

 

 

「お前ら……じゃねえだろうな?」

 

 

 

それはクロウを逮捕するためにオズボーンがなんらかの大義名分を打ち立てる可能性だ。

 

しかしそんな事をナギトは許さない。それは契約違反だ。

 

 

 

「まさか…、我々も君を敵に回したくはないのでね。《Ω》のリーダーは間違いなく《C》を自称している。その正体までは判明していないが……クロウくんは少し前から連絡がとれないらしいね?」

 

 

 

「フフ」と笑いながら言うルーファスをナギトはさらに強く睨み付ける。

 

 

 

「“条件”を忘れてないだろうな。俺たちⅦ組メンバーに立場が不利になるような事を一切するな……それは如何なる場合でも有効だ。例え、その《C》が本当にクロウでもだ」

 

 

 

「……思い返してみても、あの条件は破格だね。いくら君を引き入れるためだったとは言え───今後Ⅶ組の諸君が何をするにしても敵対する事すら許さないとはね」

 

 

 

即席だったがその辺は良い条件を出せていた、と思うナギト。

とは言え、その条件に反する事なくオズボーンがⅦ組メンバーに何らかの悪事を働けば、ナギトは《鉄血の子供達》から離反するつもりだ。

 

 

 

 

「……そのつもりで出した条件だからな。いかな名分があろうと、世論の後押しがあろうと。………あいつらが不利になる事はするな」

 

 

 

 

言い切って、ナギトは剣呑とした雰囲気を霧散させた。

 

 

しかし、クロウと連絡が取れなくなっている事は確かだ。クロスベルに来ているらしい、という所までは把握しているが、一体何をしているのやら。

 

 

 

 

「それで、なぜ今更《Ω》なんですか?」

 

 

 

ナギトは《Ω》調査の理由について聞いてなかった事を思い出してたずねる。ルーファスも表情を真剣なものに変化させて答えた。

 

 

 

「実は…《Ω》の背後に予期していなかった組織の影がチラつき始めてね……それが真実かどうか確認してほしいわけだ」

 

 

「ほう……?」とニヤリとした笑みを浮かべるナギト。

 

「予期していた組織……の関与はあるのかな?」

 

 

 

「フフ……君に隠し事はできないようだ。そうだね、予期していた組織……つまり共和国の関与はある。主に武具やミラを融通しているようだ。……しかし、問題は予期していなかった組織の方だ」

 

 

共和国の関与は問題ない、とでも言いそうなルーファスだ。

ならば予期していなかった組織は共和国よりも厄介なのだろうか?

 

 

 

「その組織はこう呼ばれている。WBC…Without Borders Army(国境なき軍隊)と」

 

 

「国境なき軍隊……」と、ナギトが復唱した所で執務室の通信機が音を鳴らす。

 

 

通信に出たルーファスの表情が曇る。どうやら悪い報せらしい。「すぐに援軍を送る」と言ってルーファスは通信を終えた。

 

 

 

「《Ω》が市街地に攻め込んで来たようだ」

 

 

振り返ってナギトを見るとルーファスは短くそう告げた。

 

《Ω》が攻め込んで来た。タングラム門から機甲兵数機を強奪し、共和国から支援を受けているテロ組織が。

 

現状、クロスベル市街の警備は手薄だ。それもロイドたちを嵌めるために軍をガレリア要塞に移動させているからだ。

軍の帰還は2日後を予定している。その間にクロスベルを陥落させる腹積もりなのだろうか。

 

 

「数は一部隊程度、機甲兵は一機。威力偵察にしても意図がわかりかねる規模の敵襲だ。……無論、君には迎撃に出てもらうつもりだが敵は生け捕りにしてほしい」

 

 

 

「了解しました。機甲兵は壊しても?」

 

 

「構わない。市民の命のほうが大切だからね」

 

 

ナギトは再び「了解」と言うと、執務室から出て屋上へ向かう。

 

 

☆★

 

 

「あそこか……」

 

 

見据える先はクロスベルの鐘が設置してある中央広場だ。そこで機甲兵が暴れている様がナギトには見えた。

 

走り出したナギトはそのまま屋上から飛び降りるようにジャンプした。

その勢いのまま中央広場まで跳べるわけもなく、落下するかに思われた。

 

 

 

「こういう使い方は初めてだな」

 

 

“幻造”が、落ち行くナギトを阻むように足場を作り出した。

 

再度、跳躍。そしてまた足場を作り出して跳躍する。それを数回繰り返してナギトは中央広場へと到達した。

 

 

建物はすでに何ヶ所か破壊されている。オーバルストア《ゲンテン》や百貨店《タイムズ》などは立て直しを余儀なくされるレベルである。

 

 

宙空にてナギトを支える半透明の足場、それはナギトが宙に立っているようにも見せる。

機甲兵の目たるセンサーがナギトの姿を捉える。逃げ惑う市民とはまったく違った雰囲気の男だ。機甲兵はライフルの銃口を支援課ビルからナギトに移そうとして───

 

 

 

天喰雷(てんくらういかずち)

 

 

振り上げる刃は、巨大な斬撃に雷を纏わせて。

 

剣鬼七式、一ノ太刀と雷の型の複合戦技。雷鳴が弾けた斬撃は機甲兵の左腕を切り飛ばし、流れ込む雷撃は内蔵している配線の悉くを焼き払った。

 

 

見た目の損傷は少なく、しかし内部はずたずたに。相手が人なら全身が炭と化す程の力を持つが相手が機甲兵ならば内部の配線を焼き切り、導力機関をダメにするくらいだ。もちろん、地面に電気が逃げる前提の話である。

 

 

 

 

動かない機甲兵は檻と同義だ。街を破壊する機甲兵は沈黙した。あとは歩兵だけだ。

 

ナギトは市内の気配探知を行い、暴れていたはずの《Ω》のメンバーがほぼ鎮圧されている事を知った。

 

 

ルーファスが協力要請をした事は知っていたが、予想外に仕事が早い。

 

 

「さすがは遊撃士か」

 

 

 

その後ナギトは機甲兵から未だ年若き少年を連れ出し、遊撃士たちが捉えた《Ω》メンバーの引き渡しに立ち会う。

 

その際、遊撃士協会側の人間として4人の遊撃士が立ち会っている。内の2人ははクロエとナハト。残る2人は、昨日ジオフロントで見かけた気配と同一のもの…リンという女拳士と、スコットというライフル使いだ。

 

 

 

「迅速な対応、ありがとうございます。総督府臨時武官のナギト・カーファイです」

 

 

「いや、民間人の安全を第一に考える遊撃士の理念に従ったまでさ。あたしはリン、こっちの優男はスコット……あとの2人とは面識はあったよね?」

 

 

「ええ、先日街を案内していただきました」

 

 

クロエとナハトを見る。2人はどこか困ったような、そして疑念を孕んだ視線でナギトを見つめている。

 

 

「では、早速テロリストの引き渡しをお願いします」

 

 

ナギトがそう言うと、《Ω》メンバーの引き渡しが始まった。淡々とした作業、誰もが無口になる瞬間だ。唯一、テロリストたちだけが意気消沈した様子でぶつぶつと何かを呟いていた。

 

 

 

「それではこれにて」と低頭し捕縛されたテロリストたちを歩かせようとしたナギトの背中に声がかけられる。

 

 

「今回の件、総督府はどう捉えている?」

 

 

その問いをぶつけたのはスコットだ。ナギトはその問いに対して、文字通り公私混同して答えた。

 

 

 

「私のような木っ端武官では総督府の意はわかりかねます。が、今回の件は予期できたものでした。……すべてはルーファス・アルバレアの責任かと」

 

 

 

公私の公を前半に、公私の私を後半に。

今回の《Ω》の襲撃は予期できたもののはずだった。

ナギトでさえ「あるのではないか」と懸念していたのだ、ルーファスが考えなかったわけがない。

 

だとしたらルーファスは何故、今回の襲撃に対し後手に回ってしまったのか。

おそらくルーファスは《Ω》に諜報員を置いているのだ。その者から適時送られてくる情報では、今日の襲撃はなかった。だからルーファスは対応そのものをする必要がないと思っていたのだ。

だが、襲撃は現実に起きてしまった。しかしそれは諜報員のミスでも裏切りでもなく、《Ω》という組織の決壊である。

 

 

何らかの要因によって《Ω》の一部隊相当が組織を離反して、そのままクロスベルに特攻を仕掛けた──そう考えれば辻褄は合う。

 

 

すべては推測に過ぎないが、優秀なルーファスの失策がこの推測の後押しとなるだろう。

だから、すべては諜報員の情報を信じ切っていたルーファスの責任なのだ。

 

 

 

「そう、か……」

 

 

スコットは少し驚いたあと、考え込むようにそう呟いた。それを言ったナギトを訝しむように。

 

 

ナギトは微笑むと会釈をして今度こそ総督府へと帰還した。

 

 

 

☆★

 

 

 

「それで、今回の件……どういうわけですかね?」

 

有無を言わさぬ様相で、嘘を許さぬ雰囲気で。ナギトはルーファスに問いかける。

ひどく抽象的な質問ではあるが、その意味を聞き返すほどにルーファスはナギトを見くびってはいなかった。

 

 

「………どうやら《Ω》の末端メンバーの暴走のようだね。共和国の干渉を知らなかった若者が、それを知って突撃を仕掛けてきた、といった所だ」

 

 

 

《Ω》が《Ω》だけで成り立っているわけではない、と。

共和国の犬同然にクロスベルを脅かすテロリストだったのだ、と。

今回の件は、たったそれだけで立ち位置を見失った愚者の愚行だったわけだ。

 

 

「機甲兵に乗っていた少年はイェス・カインドというクロスベル市民でね、数ヶ月前から行方不明になっていたんだが……《Ω》に参加していたようだね」

 

 

 

「……なるほど。まあ、そんな所だとは思ってましたよ。もし本当に襲撃があるのなら、あなたがそれを察してないはずがない」

 

 

若者は得てして自分が1人で立っていると思いがちだ。

かつてのリィンもそうだったように。

 

 

人は支えられて生きている。そんな当たり前の事を真の意味で理解したらどうなるか?当人次第ではあるが、件のイェスという少年は絶望に狂った。

 

綺麗なまま、というのも変な話だがイェス少年は《Ω》をレジスタンスとでも思っていたのだろう。悪しき帝国の支配から故郷クロスベルを奪還するための組織だと。そこにはテロリストと呼ばれようと構わない──という陶酔もあったかも知れない。

だが《Ω》のバックに共和国がついているとなると、話はまったく違ってくるのだ。

 

総督府vs《Ω》は帝国vs共和国の縮図となる。つまり、《Ω》は共和国の手先としてクロスベルを攻め込む役目を負わされているも同然なのだ。

 

取り戻すべき、愛すべきクロスベルの街を再び帝国と共和国の戦場へと誘っていた自分に絶望した姿は想像に難くない。

 

 

本質がどうであれ、クロスベルを取り戻すという結果は出た可能性はあったにも関わらず、だ。

 

要は共和国の援助を知り、暴走した《Ω》メンバーと、そうでない者とに今回で別れたわけだ。清濁併せ呑む覚悟を持つ今の《Ω》は厄介な相手となっているだろう。それこそ前身たる《帝国解放戦線》程度には。

加えて、国境なき軍隊なる組織もからんでいるらしい。大層な名前だがいったいどんな組織なのだろうか?と思いルーファスに問いかける。

 

 

 

「そうだね……話を戻すとしよう。Without Borders Army、あるいはMilitaires Sans Frontieres……通称、国境なき軍隊は……猟兵団だ」

 

 

 

「猟兵団……ただの猟兵が軍隊呼ばわりされるほどの規模なんですか?」

 

 

 

「いや、そうではない。全隊を用いても我が国の正規軍には及びもしないし、クロスベルに常駐する軍でも数だけならば上回るだろう」

 

 

妙な言い回しだ。それは国境なき軍隊とやらは相当な練度であるということなのだろうか?

 

 

「国境なき軍隊───彼らは、大陸で初の猟兵団だ」

 

 

大陸初の猟兵団────

それは、その国境なき軍隊が始まりの猟兵団、猟兵という生き方を拓いた先駆けである事を意味していた。

 

 

「まあ、彼らは猟兵ではなく傭兵を自称しているが───」

 

 

 

猟兵とは、一流の傭兵を指す言葉だ。かつてノルドにて帝国と共和国の緊張状態を引き起こした者共は猟兵崩れ──すなわち傭兵と呼ぶべきものだった。

 

 

 

「それについては省力しよう。国境なき軍隊は本来大陸東部で活動していた猟兵団だが、いつのまにか西部にまで手を伸ばして来たらしい。団の結成から数百年……とうに衰退していた組織だったが、今代の団長が優秀らしく、団は急速に勢力を拡大してきている。今や東部最高の傭兵組織と呼ばれるほどにね」

 

 

猟兵団と傭兵組織……どこかにニュアンスの違いが感じ取れる。

それに、最強ではなく最高という表現も気になる。

 

 

 

「今回、《Ω》に雇われているのは国境なき軍隊のNo.2だ」

 

 

ルーファスはテーブルの上に1枚の写真を置く。そこには銀髪をオールバックにした30代ほどの男が遠目に写っていた。

 

 

「通称《鏡の銃士》。本名は不明かわからないがアダムと呼ばれている。仲間を10人ほど連れてクロスベル入りしたようだ」

 

 

写真のアダムのホルスターには6発式のリボルバーが収まっていた。導力技術が発達した今の世の中で火薬式の銃とは時代錯誤もいい所なのだが、それでも東部最高と呼ばれる傭兵組織のNo.2を張れる程の実力なのだろう。

 

 

「君に調べて欲しいのは国境なき軍隊について、だ。彼らの目的を探って欲しい」

 

 

「目的?……《Ω》に雇われただけの猟兵じゃないんですか?」

 

 

 

「事はそう簡単ではない。……今の《Ω》を構成するのはかつての《帝国解放戦線》のメンバーと、レジスタンス気分で参加したクロスベル市民だ。国境なき軍隊との繋がりがない……つまり彼らを雇うという事はできないはずだったのだよ」

 

 

「それこそ、国境なき軍隊が売り込みに来ない限りか……。共和国からの紹介ではない?」

 

 

「可能性はある。……が、そこまでを調べるのが君の仕事だ。頼まれてくれるね?」

 

 

 

「それが仕事と言うのなら。我が身は《鉄血》の傀儡であるがゆえに」

 

 

 

思ってもいない事を、とでも言うようにルーファスは「フフ」といつものように優雅に笑い、《Ω》についての調査をナギトに依頼したのだった

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