八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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人喰い虎の真価

 

それはまるで、虎に喉元を食い千切られるかのような──幻視。

 

 

 

 

 

「───ッ!」

 

 

 

 

一閃。太刀を振るう。虚しくも当然のように空を切った。

 

 

 

「はっ、はっ、はっ……」

 

 

冷や汗が頬を伝う。無意識の行動だった。“幻造”で太刀を作り出して、それを横薙ぐ。

眼前の風景はナギトが寝泊まりしているホテルの一室。寝る前の光景と少しも変わらない。

 

 

「夢……?」

 

 

自分で言って、それはないと断じる。ナギトを眠りから目覚めさせるほどの、強烈な殺気……それが夢から発されるはずがなかった。

 

 

「殺気……というよりは敵意、か?」

 

 

そのニュアンスの違いに、ナギト自身も首を傾げる。感じたのは殺気ではなく敵意──原始的な敵を倒したいという意思のようなものにも思えた。

 

それもマクバーンのような人間離れした敵意……否、マクバーンのそれよりさらに獣性を帯びたものを。それこそ虎を幻視させるほどの。

 

 

 

 

気配探知の網を広げると、ウルスラ間道の方に敵意を向けてきた何かがいることがわかった。

 

 

 

それは敵意を隠すでもなく、挑発的に…あるいは誘うように。

 

 

 

「……………」

 

無言で唸るナギト。時刻はすでに2時を回っている。午前の方の2時、すなわち深夜だとか未明だとか表現される時間帯だ。

 

 

“今日”はすでにルーファスのために使うと決めた1日だ。

睡眠はすでに2時間ほどはとっているが、これでは万全の体調で1日を過ごす事はできないだろう。万全でなくともロイドくらいなら一蹴して余りある体調ではあるが。

 

 

ルーファスに捧ぐ一日故に、この誘いに乗るのは、言わば義理に反する事に思えた。

───しかし。しかし、ナギトは何故かこれが運命の導きのように感じているのだ。

 

 

無意識が“行け”と語りかけて来るのだ。

この無意識が何なのかナギトにはわからない。

挑発されたために敵を圧倒したいというプライドなのか。

クロスベルに近づく獣性を持つ脅威を排除すべしという正義感なのか。

あるいは何がしかからの干渉なのか。

はたまたはナギトの裡にあった意識らの残響か。

 

 

 

 

果たしてウルスラ間道に、件の敵意の主はいなかった。

 

 

いや、いないわけではない。

隠れているだけだ。

 

 

敵意はナギトがクロスベル市街を離れた途端になりを潜めた。それは逃げたわけではなく、襲うためにどこぞに姿を隠したと見るべきだ。

ナギトは現に視線を感じていた。

 

 

 

ウルスラ間道はクロスベル市街と聖ウルスラ医科大学を繋ぐ道なのだが、ここには脇道がおおく少し逸れれば林にも繋がる。

例の敵意の主が隠れたとしたら、ナギトでも見つけるのは困難だろう。

 

ならば、誘い出せばいいまでだ。

幸いな事に敵意の主は───まったくもって字面の通りにナギトに敵意を向けていた。逃げたという事がなければ、今にも襲う隙を探しているはずだ。

 

簡単な話、隙を見せてやればいい。

 

 

 

 

 

ちょうど延髄を削るように振るわれる爪。

 

 

ナギトが隙を見せたのは、首の後ろ───すなわち延髄であった。

 

敵意の主は獣性の持ち主らしく、ナギトが隙を見せた瞬間に襲いかかってきた。

 

 

しかし、それ故に対処に易く。

 

 

 

振り向きながら、ナギトは自らの首筋を掻き切ろうとする爪──その手首を掴む。

 

存外に細くふわりとした、しかし体毛と呼ぶには少し違う手触り───。

 

 

体ごと突き出されたそれの勢いのままに、敵意の主を地面に叩きつける。それを3度繰り返した後に中空へと放り投げた。

 

それはそのまま地面に叩きつけられるかと思われたが、空中でくるりと体勢を立て直すと綺麗に着地した。

 

 

間道の導力灯に照らされる獣の姿をナギトは視認する。

四足歩行。体表は白地に黒の縞模様。赤いたてがみを風に揺らしている。

 

 

 

そこまで認識した所でナギトの胸中に、獣の正体が思い浮かんだ。

 

 

「こいつ………まさかとは思うが」

 

 

 

言い終わる前に獣は再び突進してきた。鋭き爪を突き立てるようにして、ナギトに迫る。

 

 

 

だがそれは磨き上げられた盾によって阻まれる事となった。

 

ナギトでさえ気づかぬスピードで、獣の攻撃を受け止めたのは、古式ゆかしい戦鎧に身を包んだ乙女。

 

 

 

「……デュバリィ」

 

 

 

《神速》の名を冠する《身喰らう蛇》、《鉄機隊》筆頭隊士デュバリィだった。

 

 

 

「久しぶりですわね、ナギト・シュバルツァー……いえ、ナギト・ウィル・カーファイでしたか?」

 

 

 

「ナギっちでもいいぜ!」

 

 

 

「ええい、いちいち茶化すんじゃありませんわ!」

 

 

それでも反応してくれるあたり、人がいいのか天然なのか、おそらくはどっちもだろうと思うナギト。

デュバリィはナギトのボケにツッコミを入れた後、表情を真面目なものへと変化させる。

 

 

「今です、アイネス、エンネア!」

 

 

 

凛々しい声音が間道に響き、それに呼応する声が2つ。返事よりも早く動き、獣の動きを牽制する。

 

 

 

物々しいハルバートを軽々と振るい、地面を叩き割る《剛毅》のアイネス。

流麗なる弓を構えては瞬時に矢を射る《魔弓》のエンネア。

 

どちらも筆頭たるデュバリィに勝るとも劣らぬ実力を持つ戦乙女だ。

彼女らに囲まれてしまえば、かの獣といえどなすすべなく倒れるしかない────

 

 

ハルバートが抉った地面から、その剛撃が勢いを飛ばすように地面を抉り割り進む。

 

 

「地裂斬……?」

 

 

ナギトはそれに似た戦技を見た事があった。ラウラが使うアルゼイド流の技の1つ“地裂斬”だ。

 

 

“地裂斬”を避けるように獣は後方に跳ぶ。そこを狙い撃つエンネアの矢が獣を捉えた。

矢の数本をその身に受けながら獣は、嫌がるようにさらに後方に下がった。

 

 

しかし────

 

 

「遅いですわ───!」

 

 

《神速》のデュバリィが追撃する。剣の峰が獣の腹部を叩く。

 

 

 

それがとどめとなったのか、獣は地面に崩れ落ちた。

 

 

 

 

「やれやれ。これにて一件落着、ですわね」

 

 

戦闘態勢を解くデュバリィに、アイネスが忠告する。「いや、まだだ」と。

 

 

ぐぐぐ、と痛みを堪えるように獣はその四肢で立ち上がった。

 

 

「確かに、手負いとは言えこの程度で倒れるなら執行者なんて務まらないわよね」

 

 

「まったくしぶといですわね…」

 

 

 

エンネアはやれやれ、とばかりに弓を再度構えて、デュバリィは悪態をつきながら獣を睨みつけた。

 

 

 

「という事は、やはり……あの獣は」

 

 

あの獣の名は。

 

 

「シャーリィ・オルランドか」

 

 

白地に黒の縞模様は、包帯とその下の素肌───ナギトの雷撃によって炭化された肌だ。赤いたてがみは当然、彼女の毛髪となる。

 

 

シャーリィは意識を持っていないようだった。

処置の仕方からして、シャーリィはおそらく聖ウルスラ医科大学に入院していたのだろう。ナギトとの戦闘の後、何者かがそうしたと思われるが……その点については置いておく。

 

そのまま眠り続けていたシャーリィの、肉体のみが目覚めてしまった。そして自らに大怪我を負わせたナギトへの憎悪──敵意を宿したまま医科大学を出て、ウルスラ間道にてナギトを誘い出したわけだ。

 

 

シャーリィは今、オルランドの血に宿る狂気──獣性に身を任せたままだ。本能のままに戦うシャーリィの強さはいったい如何程のものか。

 

 

 

「その通り。執行者No.ⅩⅦ……帝国で内戦が起きていた時、クロスベルで猛威を振るった猟兵団《赤い星座》の部隊長の1人。新第三柱がスカウトした新参の執行者ですわ」

 

 

 

 

「………なるほどな。って事は俺も手伝ったが良さげ?」

 

 

 

シャーリィがこうなったのにはナギトにも責任の一端がないとは言えない。襲ってきたのを返り討ちにしただけなのだが。その後失神したまま街を襲撃してナギトのせいにされては困る。

そういう意味も含めてナギトは言った。

 

 

「いいえ、手出しは無用ですわ」

 

 

 

が、デュバリィはそれを跳ね除ける。それが戦士としての矜持かどうかはわからないが、ナギトは食い下がった。

 

 

 

「やー、それでもお互い時間をロスするのは避けるべきなんじゃないかな?」

 

 

 

───見透かしたようなナギトの言動にデュバリィは目を細めて考える。一瞬の後に「では、私たちと共に戦う事を許します」と傲慢な物言いで共闘を許可した。

 

シャーリィを牽制していたアイネスとエンネアも頷き、ここに鉄機隊とナギトの共闘関係が成立した。

 

 

「恐悦至極」とナギトは恭しく礼をするとパキパキと骨を鳴らしてデュバリィに問う。

 

 

「五体満足で生かしたまま拘束する……条件はそれだけで良いかな?」

 

 

デュバリィたちの任のひとつはシャーリィの回収だろう。それは生死問わずというわけにもいかず、できれば五体満足が望ましいはずだ。

 

 

「ええ。できますか?」

 

 

「んー、まあやるだけやってみる。援護は任すぞ?」

 

 

自信なさげなセリフとは裏腹に、その声音には確かな未来を思い描く様が見て取れた。言い終わると同時にナギトは脚力を爆発させた。

 

 

《神速》と見紛うほどのスピード。一瞬で間合いを詰めたナギトは、そのまま掌底でシャーリィを空中に打ち上げた。

 

 

 

「幻想縛鎖」

 

シャーリィを追うように掌が動く。ナギトがそう唱えると、中空から二本の鎖がシャーリィの体を捕縛した。鎖はそのまま空中に留まる。ナギトの“幻造”による実体を持つ幻ゆえの芸当だ。

 

 

鎖によってぐるぐる巻きにされたシャーリィは空中に縫いとめられたのように動けない。

 

だが、シャーリィは。獣は、吼えた。

 

猛々しく。すべてを破壊する獣のように。

 

 

月に、吼えた。

 

 

 

 

「ヴヴヴヴア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!」

 

 

 

 

 

それはなんだ。なんだったのだ。獣だ。オルランドの獣。

 

狂えるオルランドゥ。伝説の再現のようだ。

 

 

 

鎖が引き千切られる。

 

 

「おいおい……マジもんの鎖より強度は上げたやつだぞ……」

 

 

呆れと畏れが入り混じったナギトの言葉。ありえないとは言わないが、信じられないとでも言いたげだ。

 

 

拘束という結果を求めるのであれば、ああやって捕縛するのが一番の手だ。しかし、その捕縛を力技で突破されるとなると、拘束の難易度はぐっと上がる。

そもそも失神してる故の暴走──獣性──なのだから気絶させる、なんて選択肢は論外だ。

 

 

 

「何か他に手はあるんですの?」

 

 

とデュバリィが聞いてくる。近くにアイネスとエンネアも集まり、作戦会議の様相だ。シャーリィは警戒してか動かずにこちらの様子を伺っている。

 

 

「動けなくする、というのが手っ取り早いか」

 

 

案を出したのはアイネスだ。《剛毅》の異名の通りの勘案とも言える。

だが、それに待ったをかけるナギト。

 

 

「いや、これ以上ダメージを与えたくないなら、関節を外した上で捕縛すればいい」

 

 

簡単に言うが、言葉ほど容易でないのは明らかだ。ただの捕縛とはわけが違う。あれだけの動きをする獣に、数回の接触した上での捕縛だ。

それも埒外の力を発揮するシャーリィの関節を外すのは至難の技のように思われる。

 

 

「できるんですか?」

 

 

「やる」

 

 

それは自信か慢心か───、戦乙女3人はシャーリィへの警戒はそのままにナギトをちらと見やる。

 

その目に宿っていたのは自信でもなく、慢心でもなく。確信。呼吸をするかのように事を成すだけの技量が自らにあるのだと言う理解だった。

それは味方には安心を与えさせ、奮い立たせるだけのカリスマでもあった。

 

 

「つっても相手はあの獣だ。どこまでヒトの……人体の限界に挑戦してくるかわからん。だから、今度はホントにサポートは任せるぞ、《鉄機隊》」

 

 

 

「当然、援護なら文句は言わせませんわ!」

 

 

 

「《鉄機隊》の名に恥じぬ働きを見せよう!」

 

 

「背中はまかせてね」

 

 

 

《鉄機隊》の名を出したのが効いたのか、3人は意気軒昂とばかりに奮い立ち武器を構える。

 

 

「斬り込みますわ──!」

 

 

言うと、デュバリィが疾駆する。

疾風をなびかせて剣が空を切る。躱されたわけではなく避けさせたのだ。

 

シャーリィの獣の勘からか、避けさせられたそこが死地だと理解しているのか逃れようとするが、彼女の神速がそれをさせない。

 

 

 

デュバリィの剣に弾き返されたシャーリィが体勢を崩す。

 

そこを狙ってナギトはシャーリィを組み伏せ、勢いのままに両肩と腕を繋ぐ関節を外した。

シャーリィならば筋肉の収縮だけで関節を入れてもおかしくはない──そう考えたナギトは“幻造”で再び鎖を作り出すと関節を入れられないようにシャーリィの両腕を縛った。

 

 

これであとは脚だけだと、思ったところで濃密な殺気が頭上で口を広げていた。

 

鋭利な牙は赤黒く形作られている。巨大な虎の頭部がそこに顕現していた。

 

噛み砕かれる前にナギトはシャーリィから距離を取った。

シャーリィはふらふらの体で立ち上がると赤黒い巨大虎の頭部を背後に控えさせる。

 

 

 

可視化する程の──否、可触化するほどの濃密な気が、あの虎の怪物を作っているのだ。

 

明確な輪郭を帯びた、鬼の形相の虎はまさしくナギトの“幻造”のようで。幻ゆえに変幻自在、しかしその特性ゆえに一度集中が解ければ形を失い虚仮威しとなる。

 

 

 

虎の頭が徐々に小さくなっていったかと思うと、赤黒いオーラはシャーリィの体にまとわりついた。それは獣の鎧のようで、全身を覆い、擬似的な腕まで作り出した。

 

実際の脚とオーラの腕で、シャーリィは再び四足歩行の構えに戻る。

 

 

 

「気をつけろよ、あれはたぶんさっきより──」

 

 

段違いに強い、と言おうとしてシャーリィの姿が消えた。一瞬の後にデュバリィが吹き飛ばされる。

 

赤黒いオーラの爪がデュバリィを襲ったのだ。デュバリィは《神速》の名は伊達ではないと言うべきか、シャーリィのスピードに対応したようだが、いかんせんパワーで押し負けたようだった。

 

 

 

「跳べ!」

 

指示するが早いか、ナギトが地面を踏み砕いた。震脚を強力に進化させた戦技。

 

踏み砕いた地点から円形に地面がひび割れていく。そして、それ以上の揺れがシャーリィを襲う。

 

 

ゆらり、と風の流れを縫うようにナギトの手が中空を薙ぐと、その掌に虎が形作られた。

 

“風虎掌”だ。風を虎の頭としての形に封じ込めた戦技。

 

 

「──っ、噛み、砕け!」

 

 

ナギトが掌を突き出すと虎が首を伸ばすようにして伸び、シャーリィに噛み付いた……が、砕けたのは風の虎の牙の方だった。

 

 

 

全力ではなかったにしろ、鉄板くらいならば貫くだけの力を込めたつもりだった。しかしその牙を逆に砕くとは、なんたる防御力か。

 

 

シャーリィを包む赤黒いオーラはさらに濃密に、獣の在り方を示すように濃く、濃くなっていく。

 

 

 

「はぁあああ!」

 

 

跳躍していたアイネスが落下の勢いを利用した一撃をシャーリィに見舞う。物々しいハルバートの重さは、獣の鎧の腕二本を使って止められる。

 

 

 

「そこね」

 

 

 

狙いすました一矢が放たれる。戦技“デビルズアロー”、普段であれば敵を強制的に気絶させるだけの威力を秘めた矢は、獣の鎧を貫きシャーリィを地面に縫い付けた。続けて二の矢、三の矢がシャーリィを──否、その鏃のすべてはシャーリィから剥がれかけた包帯を捉えていた。

 

シャーリィの身に巻かれた包帯を地面に縫い付けることで、シャーリィ自身は無傷なまま拘束する。なんという発想、なんという技量。

感嘆もほどほどに、シャーリィが包帯を引きちぎればエンネアの絶技も無駄となる。その事を理解しているナギトはシャーリィと距離を詰める。

 

 

 

「沈め」

 

 

獣の鎧を割ってナギトの指が、シャーリィの心臓に触れる。

肌に触れた指から針のように気の刃を伸ばしたナギトは、それで体内の気の巡りを悪くするツボを押した。

 

武術の達人であれば対処されるレベルの児戯ではあるが、今のシャーリィの如き獣であれば対応もままならぬだろう。

加えて、獣の鎧は気によって形を与えれた幻だ。気の巡りが悪くなればそれは元の幻に戻る。

 

ナギトは獣の鎧の消失を確認すると、さらに指の気針で何箇所がツボを刺激してシャーリィの全身を痺れという網で捉えたのだった。

 

 

 

 

 

3人の戦乙女と共に倒れ伏したシャーリィを見る。

 

 

 

「これ、どうしたの?」

 

 

聞いてきたのはエンネアだ。《魔弓》たる彼女の技がなければここまでスムーズにシャーリィを拘束できなかっただろう。

 

 

 

「点穴を突いた」

 

 

 

「点穴か……まさか八葉一刀流がそこまで通じてるとはな」

 

 

点穴というワードは知っていたらしい《剛毅》のアイネス。エンネアの矢がシャーリィを捉えるのをフォローした彼女のパワーには眼を見張るものがあった。

 

 

 

「体の自由を奪う点穴と、体内における気の巡りを悪くする点穴だ。しばらくは動けないはず」

 

 

 

 

「相変わらず…さすが、ですわね」

 

 

シャーリィに吹き飛ばされたデュバリィが今頃になって顔を出す。

この役立たずめ!と言ってやってもよかったのだが、それは冗談が過ぎるというもの。さすがに《鉄機隊》の筆頭なだけはある力量を見せつけられた気分だった。

獣と化したシャーリィがいの一番にデュバリィを狙ったのも、戦乙女の中では最も警戒すべき相手だと認識していたからかもしれない。

 

 

 

ナギトは息を吐くと「さて」と仕切り直すように言い、

 

 

「それで、用件はなにかな?」

 

 

と戦乙女たちに向けて切り出した。

 

 

3人の目がわずかに細められる。

 

デュバリィがやれやれと言った様子で武装を解くと「さすがに気づきますか」と肩をすくめた。

 

 

 

それにナギトも肩をすくめて返す。「ああ、さすがにな」と。

 

 

ジオフロントでナギトにやられたシャーリィは、何者かの手によって聖ウルスラ医科大学に入院する事となった。

そのシャーリィを回収するだけなら、チャンスはいくらでもあったはずだ。なのにそれをせずにこの段になって「シャーリィを回収しに来た」というのは筋が通らない。《身喰らう蛇》ほどの組織が執行者の行方を掴んでいないとは思えなかった。

 

では何故、事ここに至りシャーリィの回収に乗り出したのか?

それはナギトに接触するための方便だったと考える方が自然だ。ナギトへの接触が本命でシャーリィの回収はあくまでおまけ。ナギトへの接触とシャーリィの覚醒のタイミングが重なったのはおそらくは偶然──あるいは何者かの意図によるものかもしれないが──だったはずだ。

 

露骨にヒントはあった。だからナギトは「さすがに気づく」と言ったのだ。

 

 

 

デュバリィは──否、《鉄機隊》の戦乙女全員が佇まいを凛としたものに戻して、ナギトを見据えた。

 

その筆頭が口を開く。

 

 

 

 

「《星見の塔》に向かいなさい。そこであのお方がお待ちです」

 

 

 

 

 

 

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