八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

31 / 92
第二の轟報

 

 

《風の剣聖》と戦った翌日。

 

その疲れからか、日が昇ってもナギトは深い眠りの中にいた。

それでも、目を覚ますきっかけがあれば、人とは目覚める生き物なのだ。

 

 

今回の場合、それはARCUSの着信音だった。

 

 

 

ベッドの上にから手を伸ばしてARCUSを掴み、通信モードをONにする。

 

 

「ナギト・カーファイですが」

 

 

 

「リィン・シュバルツァーだ。……もしかして寝てたか?」

 

 

 

通信の相手はリィンだった。今はまだ学院生であるリィンがクロスベルにいるナギトに何の用だろうか。

教会に渡されたアーティファクトを使っての通信を行うほどの出来事があるのか。

 

 

 

「うん。……どした?」

 

 

「はは……」と苦笑するリィンは、かつて政府の要請でクロスベルに2度赴いた事があった。もしや要請で3度目となるクロスベルへの出向が決まったのだろうか。

 

しかし、続くリィンの言葉はナギトの予想を裏切るものとなる。

 

 

 

「今日、ラウラがそっちに行くから」

 

 

 

キョーラウラガソッイニイクカラ……?今日、ラウラがそっちに行くから!?

 

 

「はあ!?」

 

言葉の意味を理解したナギトは頓狂な声を上げてベッドから飛び起きる。

 

 

「まてまてまてまて、ステイ、リィン……もっかい言って?」

 

 

 

「今日、ラウラがそっちに行くから」

 

 

 

「なぜっ!?」

 

 

 

 

何の用があってラウラがクロスベルを訪れるのか?

リィンのように政府からの要請という線はないだろう。ならば純粋にナギトに会いに来たか?それもおそらく違う。

 

 

 

「クロウはクロスベルにいるんだろう?ケビンさんから渡された例のアーティファクト……ラウラはそれを運んでる」

 

 

 

リィンの説明でナギトも事情を理解する。

対オズボーンの同盟者に教会が与える通信範囲拡大の恩恵をもたらすアーティファクト。

七曜教会はすでにオズボーンを危険因子と見做し、対策を取り始めていた。それが、各地の有力者への協力の呼びかけだ。

ナギトもクロスベルに行く直前に協力を要請され、件のアーティファクトを渡されていた。

 

 

 

「……という事はアルゼイド子爵も?」

 

 

スゥ、と頭の中が冴えていくのが自分でもわかった。寝ぼけモードからいつものナギトへとシフトする。

 

 

 

 

「……ああ。呼びかけに応えたらしい」

 

 

 

「なるほどな……だから、訳知りのラウラに運ばせているわけか。《光の剣匠》ならいざ知らず、その娘程度なら監視も緩い」

 

 

 

「そういう事だ。……クロスベル駅まで迎えに行ってくれるか?」

 

 

 

 

「構わんが……俺もまだクロウと合流してるわけじゃないぞ?」

 

 

 

「そうなのか?…クロウ………やはり」

 

 

 

やはり、とリィンは言う。クロウがナギトの前に姿を見てたがらない理由について知っているかのような口ぶりだ。

 

 

 

「……やはり、なんだ?知ってる事があるなら教えてくれないかな」

 

 

 

僅かな沈黙の後、リィンは意を決したようにして語る。

 

 

「このアーティファクトはどうやら傍受を妨害してくれるらしくてな、内緒話もできるから言うが……、俺が前回、クロスベルに臨時武官として入った時、《Ω》と名乗るテロ組織と邂逅した。彼らはおそらく《帝国解放戦線》の後継だ」

 

 

 

「それは俺もわかってる。問題は……その次だな?」

 

 

 

 

「ああ………リーダーは《C》と呼ばれ、クロウが身につけていたあの黒衣装と仮面をまとっていた」

 

 

 

「あー……あの《C》の時の衣装か。ボイスチェンジャー付きの」

 

 

帝都地下で対峙した《C》の姿を思い出す。黒ずくめの格好。正体を隠す事に加えて戦闘能力を落とさないように調整した…とはクロウの言葉だった。

 

 

「となると、件の《C》は姿を隠す必要があるのか……、あるいは単にクロウのファンか、だな?」

 

 

 

少し笑いながらナギトは言う。後者は一見ありえなさそうで意外と現実味のある答えだとも思いながら。

 

 

 

「はは。……おっと、そろそろ始業だ。じゃあまたな、ナギト」

 

 

時間ギリギリだったのか、リィンはそう言うとすぐに通信を終了した。もちろんナギトの止める言葉なんて聞こえてはいない。

 

 

ナギトはARCUSを持ったまま「おいおい」と室内でひとり声を出す。

 

「あの野郎、ラウラが来るのが何時かも告げずに切りやがったぞ」

 

 

 

これは腹いせに授業中に猛烈なコールをするしかない、と思うナギトであった。

 

 

☆★

 

 

アリオスとの激闘。

 

八葉の剣士としての戦い。

 

それを制したのは、確かにナギトだった。

 

 

だが、アリオスの技の冴えに魅せられたのも確かだった。

二の型に限った話ではあるのだが、その点においてアリオスはナギトを確実に上回っていた。

八葉一刀流、二の型……その極意は《風》だ。風の如きしなやかさと疾さに重きを置いた技が揃っている。

 

アリオスは皆伝した以後も技を磨き続けていたのだろう。その華麗な剣はまさに一陣の風の如くあった。

その点においてナギトは敗北を認め、負けるまじと奮起した。

 

アリオスよりさらに技の冴えを。

アリオスよりもっと華麗な剣を。

 

 

そして、それは叶った。

 

 

一種の機能美を得たとさえ感じた剣技。アリオスもまた対抗せんと技の練度を上げて来る。

それが何度も繰り返され、2人の剣技はさらなる高みへと飛躍した。

 

 

ああ、理合いが心地よいと感じたのはその時だったか。

 

 

 

 

 

駅でラウラを待っていると、腹部の包帯にじわりと血が滲むのがわかった。

 

アリオスとの激闘を思い返していたのが悪かったのか、傷が開いてしまったようだ。

 

 

「むぅ……」

 

 

傷の治りを早くしようと内気功を試みるが、やはり気の巡りが悪い。

昨日の戦いで消耗したせいか、体がかなり弱っている。まともに気を練る事さえ難しいと言った有様だ。

 

 

「はあ」とため息を吐いて視線をあちこちに巡らせる。ふと目に付いたのは、ゴミ箱に投げ捨てられていた帝国時報の号外。

 

見出しは『アリオス・マクレイン逮捕!』と大きく印字されている。

 

 

今やクロスベルはこの話でもちきりになっている。あのアリオス・マクレインが逮捕された……この情報はクロスベル民の間に大いに轟いた。

 

 

 

帝国時報の内容は、テロ活動を行なっていた旧クロスベル警察特務支援課とその仲間の1人であるアリオス・マクレインを逮捕したというものだ。

総督府の臨時武官が活躍したとされるが、その実名までは記載されていない。

 

ルーファスは内戦時と同じくナギトを無貌の英雄として扱うつもりなのだろうか。いつでも代役が控える《閃嵐の騎士》のような人形として。

もしくは、実名を載せない事でナギトのプライベートを守っているつもりか。

 

 

どちらにせよ───あるいはどちらでもないにせよ、この特ダネを拾ったのが帝国時報だけ、というのは付け入る隙になろう。

 

 

「くく……こうなると、あの策で………」

 

 

 

 

 

 

「なにやら悪い顔をしているぞ、ナギト」

 

 

いきなり声をかけられて驚くナギト。声の主は目の前にいたが、いくら何でも気づくのが遅すぎた。

 

 

 

「おう、ラウラ。久しぶり」

 

 

ラウラだった。ラウラ・S・アルゼイド…元Ⅶ組の一員にして、内戦をくぐり抜けたアルゼイド流を継ぐ女傑。そしてナギトの恋人でもあった。

 

 

 

「ああ、久しいな、ナギト。と言っても最後に会ってから二月と経っていないが」

 

 

 

「愛しい愛しいラウラに会えないからな。一日千秋の思いだったわけよ」

 

 

 

ナギトがいつものように笑うものだから、ラウラもまたいつもと同じように笑う。

 

「そなたは変わらぬな」と言うラウラにナギトは「変わってなくて安心したろ?」とウインクする。トールズ時代と変わらぬやりとりがそこにはあった。

 

 

だが、変わっている事も確かに存在した。

最後に会った時と、ラウラの雰囲気が変わっていた。あの時は研ぎ澄まされた闘気を感じたが、今はそれがなくなっている。……いや、なりを潜めていると言った方が正しいか。

 

ヴィクターの姿が思い浮かぶ。

ラウラとナギトが最後に会ったのは、半年に及ぶ修行の5ヶ月が経過した頃だった。あの時は苛烈なまでの闘気に剛剣を幻視したものだが、今やその苛烈な闘気は控えている。

 

さしずめ、静謐な闘気と言ったところか。

 

 

周囲の者に安心を与えるかのような、奮い立たせるかのような王者の気風。

 

 

妄想の中のヴィクターがニヤリと微笑む。彼が残りの1ヶ月で何かをやったのは明らかだ。

 

 

「じゃ、とりあえずどっかでメシでも食うか」

 

 

 

時刻はすでに正午に差し掛かる頃だった。

 

 

 

☆★

 

 

 

 

「では、クロウは……?」

 

 

 

「ああ、俺も行方はわからん」

 

 

 

 

食事を終え、ナギトとラウラは歩きながら会話する。その内容は恋人らしいものではなく、クロスベルの内情やクロウについてのものだった。

 

 

 

「例の物は俺が預かっとこうか。ラウラはいつまでクロスベルにいるつもり?」

 

 

 

ナギトはラウラから、教会から預かったというアーティファクトを受け取る。さすがに往来の多い街中でアーティファクトという単語を出すのは躊躇われた。

 

 

「ふむ……特に期限は定めていないが……私に長居されると何か困る事でもあるのか?」

 

 

ラウラはジト目でナギトを睨みつける。浮気を疑われているわけではないだろうが、どこか居た堪れなくなる。

 

 

「そんな事はないが……」

 

 

と、そこで口ごもる。

“お前がいたら勝っちまうだろ”とは言えない言葉だ。

 

 

と、港湾区にたどり着いたナギトはそこでアイスを販売する屋台を発見した。

 

 

「よし、食後のデザートといこう。ラウラ、何味がいい?」

 

 

露骨に話題を逸らしたナギトをさらに睨むラウラだったが、にこやかに笑うナギトの勢いに押されてついには「ストロベリー」と頬を赤くして言うのだった。

 

 

ベンチに座り、アイスを食べる2人。

遠くにはミシュラムワンダーランドが見えており、いつか2人で行ってみたいなー、なんて話をする。特にラウラはテーマパークのマスコットであるみっしぃのフリークのため、今からワクワクが止まらないようだ。

 

 

アイスを食べ終えたラウラは「そういえば」と切り出す。

 

 

 

「そなた、《風の剣聖》と立ち会ったようだな」

 

 

「む」とナギトは唸る。帝国時報の号外になったほどだからラウラが知らぬはずがない。

しかし、その号外にはナギトの名は記載されていなかった。

……とはいえ、現在のクロスベルでアリオス・マクレインを単独で下せるのはナギトくらいのものだ。

 

 

 

「さすがに知ってたか………、その通りだけど、気になるか?」

 

 

 

「ふむ………再会した時からそなたの気が弱まっている事には気づいていたからな。かの剣聖と対峙したことはわかっていた。気にならぬと言えば嘘になる」

 

 

 

 

「……話してみるか?」

 

 

 

アリオスは現在、オルキスタワー内にある魔導区画という場所に囚われている。

クロスベルにはノックス拘置所という、犯罪者を捉えておく施設があるのだが、そこは過去に脱獄者が出た事もあり、アリオスのような重要人物を留めておくには不足であると判断されたのだ。

 

ナギトはルーファスからアリオスへの面会の許可を得ていた。そこでは同道者への云々は語らなかったが、禁止されていない限りは以下略。いつも通りのナギト解釈である。

 

 

 

 

「機会があるなら是非とも言葉を交わしてみたいものだ。八葉の《剣聖》に名を連ねるほどの武人……語り合う機会はそう多くあるましいな」

 

 

ラウラは言った後にくすりと笑み、「しかし」と続ける。

 

 

「そのアリオス・マクレインを倒した猛者がすぐそばにいると言うのにな」

 

 

その言葉にはナギトも笑う。

アリオスは類稀なる武人だ。それは動かない事実であり──ナギトが更にその上をいく武人であることも確固たる事実だ。

 

どちらと語った方が有意義かは明らかである。

 

 

「だが、そなたの語る言の葉は抽象的に過ぎる。私の実力不足もあるだろうが……時にはふざけているのかと思うほどだ」

 

 

煌魔城が消失してから学院を卒業するまでに、ナギトとラウラは多くの言葉を交わしていた。

緋の玉座で目覚めたウィル・カーファイの見せた一太刀は、自らの父すら超えたものを感じさせたのだ。ナギトが剣の道の彼方にたどり着いたと理解するには充分すぎた。

 

故に多くを語り合ったのだが、その時のナギトの言葉はひどく抽象的だった。

時にふざけていると思われたのはナギトの在学中のキャラクター性からであった。

 

 

「抽象的になるのは仕方ない。……まあ、俺としてはわざと難しく説明したから、わからないのが当然なんだけどね」

 

 

仮にわかりやすく説明したとしても理解できないだろう、とナギトは考える。世界には理解できる事と理解できない事がある。………言葉通りに理で解けない真実が。

 

 

「む、やはりナギトはいじわるだな。……しかし、意味はわからなくとも今でも心身に刻みつけた言葉ならある」

 

 

拗ねたふりをしたラウラだが、すぐにその様を改めてナギトの言葉を思い返す。

 

 

 

「“全は一にして一は全”……しっかりと理解しているわけではないが……なんとなく、これこそが世の理を統べる概念なのではないかと思っている」

 

 

全は一にして一は全。それはナギトが在学中にラウラに語った言葉であった。

それこそは、ナギトが君臨する剣の境地“天上天下我剣同一”を言い換えた言葉であった。

ラウラはそれを世の理を統べる概念と語った。

理解できないものを、理解しかけている。

理解してはいけないものを、理解可能なものに変貌させつつある。

 

 

 

危険だ。それを理解してしまったら。

 

 

「……全は一、一は全。あらゆる全ては世界と同一である。世界の裡にあって世界と一つ。故にこそ全は一にして一は全なり」

 

 

だが、偽る事はできない。

それがナギトとして生きる自分が、ラウラに与える事ができる誠意だからだ。

 

 

深い悲しみと望みを絶たれたかのような瞳。しかし、その奥底には希望の光があった。

ラウラは見つめ合うナギトの変化に気づいて雰囲気を引き締める。

アイスの甘い残滓は口の中から消え失せていた。

 

 

「例えば、一枚の絵画があったとする。その絵には様々なものが描かれている。人、動物、花、空、雲………それらは絵の中にあっては“それ”として在る……が、それは絵画という世界にあるものでしかない。絵画に描かれたものでしかない。一枚の絵画という世界の中で見れば、それらは“それ”として独立しているが、その絵画を外から見れば“それ”は絵画の一部でしかない………これが、その意味だ」

 

 

ナギトは可能な限り、簡単に説明した。

一枚の絵画に描かれたものは、その絵画の中でこそ独立したものだが、絵画を見たものからすれば絵画の一部でしかないと。

全は一にして一は全……その意味は、この世界を外から眺める視点だと。

 

 

 

 

「……やはり…………その考えは理解できぬな」

 

 

長い沈黙の後にラウラは言った。

ナギトは雰囲気を弛緩させて「ふっ」と笑う。

 

 

「理解できなくていいんだよ。これは、理解できない方がいい。……なんというか、山を登っていると思ったら、いつのまにか海の底で溺れていた……そんな気分になる」

 

 

武を極めんとする者は《理》を目指す。

それは、果て無き山に登る行為…登山に似ている。

そこに文字通りの果てはない。人は登山の途中で朽ち果てるのが定めだ。例え永きを生きる《鋼の聖女》でさえ、未だ道半ば…登山の途中だ。

何年の研鑽を積もうと、辿り着けないのが、果て無き道の果て……山の頂だ。

 

ナギトが立つのは、その山の頂だ。

そして、そこは山の頂であると同時に海の底でもあった。

 

 

果て無き道の果てに、山の頂に至るにはどうすればいいのか?

簡単な話だ。武人でなくともできる。それを理解できさえすれば。

天上天下我剣同一を。全は一、一は全を。

この世界が物語であることを。

 

 

 

 

しかし、そんな事は理解できない。

ナギトは物語の外側からやってきたイレギュラーだからこそできた芸当だ。

 

外側からやってきたナギトでさえ、この世界が物語だと理解した時は絶望した。

それをこの世界の住民が理解すれば、絶望という言葉さえ生温い惨状に成り果てるだろう。

 

 

 

「ふむ…………理解はできぬが」

 

 

顎に手を当ててラウラは考察する。理解できない。しかし、ナギトの気持ちになったらば。

 

 

「そなたはひどく怯えていて、それを他人に伝播させたくないのだな」

 

 

そういうふうに、思い当たる。

山を登っていたと思ったら、海の底で溺れていた。……そんな絶望感を他人にまで味わって欲しくないから、ナギトは己が境地をわかりやすく開示しないのだ。

 

 

ラウラの言葉にナギトは目を見張って、それから笑んだ。

 

 

「……そうだな、そうかもな」

 

 

やはり多くを語らないナギトの瞳が、ラウラはどこか遠くに思えた。そうして思い至ったのは、ナギトはどこか人と視点が違うという事だ。それはきっと人間性だとか能力とか、それだけの話ではなく。

 

これは、彼方からの視点だ。

チェス盤を見下ろすプレイヤーの視点だ。

 

……そんな考えが浮かんだラウラは自分の思考にぞっとした。

確かにこれがナギトの境地なら“山を登っていたら海の底で溺れていた”という感覚が理解できるかもしれない。

なんせ世界をチェスに見立てて動かすプレイヤーなら、繰り出す一手には何の慈悲も躊躇もないのだから。

敵の駒を取る時も、味方の駒が取られる時も、その考えが目的のためだけに向いている事実を現実に当てはめると、それはひどく人間性の失われた…まさに神の視点だからだ。

 

 

しかし、とラウラは考えを改める。

ナギトはこれまでもこれからも、ずっと間違いなく“ナギト”で居続けるだろう。それについては確信がある。

 

 

ならば、ナギトはきっと大丈夫だ。少なくともそれで絶望する事はもうないだろう。

そんな彼方からの視点を、ナギトはおそらく自分というフィルターを通して見ている。己という色眼鏡を通してセピア色の世界を見ているのだ。

 

だからナギトは己でこう納得しているに違いない。

───海の底から見る景色も悪くない、と。

 

 

 

 

押し黙ったラウラの名前をナギトは呼ぶ。ハッとしたラウラは「いや、解決した」とにこやかに言う。

 

ナギトは意味がわからず呆れながらも「ならいいんだが」と肩をすくめる。どこかラウラから向けられる目が優しくなった気がするが追及はしなかった。

 

 

 

 

「それで、どうする?《風の剣聖》にお目通り願うか?」

 

 

 

いつも通りに戻ったナギトに安心しながら、ラウラは「そうだな…」と考え込む。

今しがたのナギトとの会話で得るものがなかったとは言わないが、それでも自分が理解するには遠過ぎた。

ならば、それより僅かでも近い者に話を聞ける機会を逃す手はない。

 

 

 

 

「うむ、決めたぞ。ナギト、道案内を頼む……《風の剣聖》のもとへ」

 

 

 

「ああ、任されよう」

 

 

 

2人の行く先は決まり、立ち上がろうとしたところでぬっと目の前に影が立ち入ってきた。

 

 

 

「その話、私も乗らせてもらえないかしら?」

 

 

 

逆光に目が眩む。しかし、その正体はすぐに判明した。

 

2人の眼前に現れた女性はクロスベル通信社の記者。

 

 

「グレイス・リン。クロスベル通信社の記者よ……あ、これ名刺ね」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。