ティオ・プラトーをクロスベルに呼び戻す。
言うは易し…というが、これがまさしくそうだろうと思う。
クロスベルが帝国に併合された後、エプスタイン財団はわずかな人員を残して撤退した。そこにはティオ・プラトーも含まれる。
ティオは特務支援課の一員ではあったが、元はエプスタイン財団の所属。特務支援課には出向のような形で在籍していたものだ…とナギトは考えていた。
だから、どうにはするにはまずエプスタイン財団をクロスベルに呼び戻さなければならない。
それについての許可を得るために、今からルーファスを説き伏せに行くのだ。説得材料はあるが、それでも分が悪い賭けだ。
もし賭けに負けてしまえば、誠に遺憾ではあるが物理的手段でティオをクロスベルに連れてくる他ない。
……まあ、かの総督ならここまで読んで素直に提案を呑んでくれる可能性もあるが。
コンコン、とノックをすると「入りたまえ」と言われて入室する。
らしくもなく「失礼します」なんて言い、正しい姿勢のまま歩き、ルーファスと机を隔てて対峙する。
「さて、何か提案があるという話だったが」
世間話もなく、ルーファスはいきなり本題に切り込んだ。腹芸をする間も惜しい…というか無駄なのだと言わんばかりだ。
「ええ。本日は提案したき儀があって参りました」
「フフ…いつも通りの言葉遣いじゃないと、逆にこちらがこそばゆくなってしまうな?カーファイ臨時武官よ。そう構えずとも良い、いつもの通りといこうではないか」
「ではお言葉に甘えて。《鉄血の子供達》の1人《緋玉の騎兵》として、我らが筆頭にしてクロスベル初代総督である《翡翠の城将》ルーファス・アルバレア殿に1つの提案をする」
臨時武官としてではなく鉄血の腹心の1人として進言する。
ここから先は政治にも絡んでくる話になる、武官がどうして政治に首を突っ込めようか。
「エプスタイン財団をクロスベルに呼び戻す事は可能か」
「ふむ、エプスタイン財団」とルーファスは顎に手を当てる。白々しいと言うべきか、ナギトの狙いはとっくに知っているだろうに。
「呼び戻す事は可能だ。しかし、何故呼び戻す?」
当然聞かれる、エプスタイン財団をクロスベルに呼び戻す理由。
それは当然、ティオ・プラトーをクロスベルに呼び寄せるため。クロスベルの現状を知っているティオが、エプスタイン財団がクロスベルに呼び戻されたとなればついてくるのは必定だ。
だからナギトは、まるでティオを呼び戻す意思はなく、あくまでオマケのようなものだというスタンスを取る。
「メリットは2つあります」
さて、乗るか反るか。ルーファスがメリットよりリスクを重視すればその時点でアウトだ。
「まず1つ」ピッ、と指を立てて真剣な表情をつくる。
「エプスタイン財団の技術力が手に入る、という事です。これはそのままクロスベルのさらなる発展にも繋がります。エプスタイン財団が去ったのちラインフォルトグループがその後釜となりましたが、あくまでラインフォルトは重工業メーカー…国の発展という意味においてはエプスタイン財団に一歩劣ります」
逆に兵器開発で言えば世界一と言えるであろう。もちろん結社の十三工房は除いて考えての話ではあるが。
しかし、人形兵器などの使い捨てを除けばゴルディアス級の兵器は大抵ワンオフもの。生産力という点では誇張なしにピカイチと言えよう。
「なるほど…確かにクロスベルは度重なる共和国の侵攻により疲弊している。無論、民たちに被害はないものの、精神面での苦しみは推して知るべしであろうな」
どの口が、と言いそうになるが「その通り」というセリフで上書きする。
「故にいま必要なのは“豊かさ”であるかと」
そう結論する。
軍事面においては、列車砲の設置で牽制が効いている。先日の《Ω》侵攻時の共和国の軍事演習なぞ例外中の例外だ。
ルーファスも必要なのは生活面を豊かにする技術力ではなく、軍事面を増強する技術力ではないかと尋ねてくるが、現状を説明すると「なるほど」と言って引き下がる。ナギトがわかっているかどうかの小手調べであったのだろう。
「それで、2つ目とは?」
フフ、といつものように笑みを浮かべながらルーファスはナギトの挙げる2つ目の理由を聞く。
ナギトはここで、ニヤリと笑う。
ここから先は、リスクを内包するメリットの話。ティオ・プラトーがクロスベルに舞い戻る前提での話だ。
「もし仮に…の話になりますが。エプスタイン財団が我々エレボニア帝国に対して不利益を生じさせる行いをした場合、財団は帝国に負い目をつくる事になります」
具体的に言うならば、ティオがテロリストとして指名手配されているロイドたちに協力し、それが露見した時、帝国はエプスタイン財団に対して優位に立てる。多少の無茶は押し通せるようになるだろう。
「そして、それに連なりもう1つ」
3つ目のメリットではなく、あくまで2つ目のメリットから連続して得られる利。
「エプスタイン財団は遊撃士協会に莫大なミラを寄付する一大スポンサーです」
「つまり、エプスタイン財団に負い目…貸しを作る事ができれば間接的に遊撃士協会も支配できると?」
スポンサーに融資…もとい寄付をやめろと言い、それが通るのならば間接的な支配は可能だ。
遊撃士協会はあくまで非営利組織だが、所属する遊撃士もミラなしでは働けない。感謝だけでは食っていけないのだ。
いくら裏遊撃士稼業で稼いでいるとは言え、それも財団からの寄付と比べれば雀の涙程度。寄付金がなければ遊撃士協会は潰れてしまうだろう。
それが知れれば帝国へ非難は集まるだろうが、あの《鉄血宰相》なら「今まで世界各地の平和を守っていた遊撃士協会は不幸にも潰えてしまった。なればこそ我ら帝国が世界を統一し、精強たる帝国兵が治安維持を図ろうではないか」とでも言いそうだ。
それに、エプスタイン財団の技術力、科学力を手中に収める事ができれば増強されている正規軍に更に強力な兵器を与える事も可能かもしれない。
現に今、正規軍に普及しているARCUSもエプスタイン財団とラインフォルト社の合作だ。
「エプスタイン財団から見ても、このクロスベルに派遣される人材は貴重なもの。尻尾切りに使う事は考えにくいでしょう。…となれば、何らかの責任が財団に発生するのは必然かと。そして、その生まれた責任を膨らませて巧い具合に使うのが我らが父…ギリアス・オズボーンでは?」
肯定。宰相の優秀さをかさに着た弁。いかにも自陣の力量を信じているからこそ、リスクをとれるというポーズ。
しかし、ルーファスはこの提案には別の意味がある事には気づいているだろう。つまりは単純に特務支援課の初期メンバーをクロスベルに集結させるという狙い。
そこを踏まえて、先程述べたリスクとメリットをとれるかどうか、という話だ。
「判断や如何に」
ルーファスはいつもの微笑みのままに「なるほど、なるほど」とゆっくりと頷いてみせる。
別段、この提案を飲まなくてもルーファスは何も痛くない。エプスタイン財団、遊撃士協会に負い目を負わせる機会を失うだけ。
元からクロスベルの統治は上手くいっている。そこにわざわざリスクを呼び込む必要性はない。
必要性はないが。
「フフ────」
それでもやるのが、鉄血の子の筆頭たるルーファスだと踏んでいた。
「いいだろう。その提案を受け入れてエプスタイン財団をクロスベルに呼び戻す事にしよう」
総督執務室を出て「ふう」と一息。なんとか交渉は成功を収めた。
これで特務支援課らとの協力により発生した条件の1つである『ティオ・プラトーをクロスベルに呼び戻す』は完了したわけだ。
実際にはまだ来ると確定したわけではないが、一度は撤退したクロスベルに財団が舞い戻るとなれば必然ティオもついてくるだろう。
「私の方で財団や各方面に連絡しておこう。提案感謝するよ《緋玉の騎兵》殿」と総督は言っていたため、これ以降ナギトが何かをする必要はなさそうだった。
それとは別件でルーファスは「我らが兄弟が、今度クロスベルで新設される組織の人員を連れて視察に来ている。会って行くといいだろう」とも言っていた。
脳裏に浮かんだのは、うさんくさいがどこか憎めない《かかし男》の顔だった。
☆★
「よ!久しぶりだなァ、ナギト」
エレベーターから降りてロビーを見渡すと、ソファでくつろぐバカンスルックの男を発見。近づくとそんな挨拶を受ける。
「久しぶりですレクターさん。元気そうでなにより」
その男こそがレクター・アランドール。帝国情報局における特務大尉であり、二級書記官という立場も持つ《鉄血の子供達》の1人。
「というか、部下は?」
あたりを見渡すがレクターの部下らしき人物はおらず、どうしたのかと尋ねる。
「ああ、部下には手分けしてクロスベルの地形を頭に叩き込むように言っておいた。それで1人になった俺はお前さんを待ってたわけだ」
ていのいい厄介払い…ではないが確かにレクターが部下を率いて街中を歩く様は想像できない。要所要所で指示を出しつつ自分も独自に行動するのがレクターのスタイルだとナギトは目していた。
「ま、歩きながら話そうぜ。一応報告書には目を通しちゃいるが、生の現場の声ってやつを聞いとかないとなァ」
その後、ナギトとレクターはクロスベルを歩きながら情報交換をする。
レクターからは最近の帝都や通信用の中継器の設置、導力網拡大などの話を聞く。
「んじゃ、今度はそっちの話を聞かせてくれ。とりあえず…お前さんが来てからでいいぜ」
レクターの要望を聞いて、長くなりそうだと予感しながらも、回想していく。
「大きな出来事で言えば、まずは『英雄テロリスト化計画』。これはクロスベルを猟兵団が襲うという噂を流布し、その黒幕と目される総督、その居城たる総督府を特務支援課とその協力者たちに襲撃させるのが目的の計画です。
計画は成功し、特務支援課の残党の大半はテロリストとして指名手配され、後日アリオス・マクレインが逮捕されました」
「あァ、話は聞いてるぜェ……どうやら臨時の武官さんが1人で《風の剣聖》をノシちまったんだったな?」
「こっちも満身創痍でしたけど」
その後も2人は会話をしながら歩いていく。いつしかボートを借りてエルベ湖を遊覧しながら。
「それで今からおよそ1ヶ月前、《Ω》の総攻撃が始まり、それは何とか退けたものの首魁たる《C》とその配下の精兵は取り逃がし、協力者だった国境なき軍隊はノックス拘置所を襲撃…《アナザーフォース》の副司令は奪還され、囚人のほとんどが逃げ出し…もとい《アナザーフォース》に吸収されました。それと同時に《アナザーフォース》の司令であるゼロもクロスベル入りを果たし、《C》と行動を共にしていた事が確認されました」
「単なる依頼者と猟兵ってだけじゃなく、《Ω》と《アナザーフォース》は元から繋がってたってわけだなァ」
「そうですね、ミラのやり取りをするわけではなく、協力こそが報酬の同盟のようなものでしょう」
「大したやつだよな、その《C》ってのは。没落して久しかった大陸初の猟兵団《アナザーフォース》…国境なき軍隊を十数年で立て直したあのゼロを引っ張って来ちまうんだからよ」
「副司令が捕まってたのがでかいんじゃないですかね。《仮面の指揮者》エア…でしたか。現地で都合良く使える人員を擁する《Ω》からの提案は渡りに船だったんでしょうよ」
「確かになァ。だが《Ω》は囮に使われて壊滅…その《C》の狙いは何だったのか?って話になる」
「…さて。クロスベル解放というお題目を掲げちゃいましたが、ひと月前の総攻撃は拘置所襲撃の囮…すでに《Ω》は潰え、クロスベル解放という夢も儚く消えた……」
思うに、《Ω》とは新たなる《C》…クロウ・ゼネフォードに忠誠を誓う兵士を集めるための舞台だったのではないか。クロスベル解放という名目を掲げ、クロスベル市民を集わせてゼネフォードはその中から自分の命令には絶対服従する私兵を鍛えあげていたのではないか、と。
はじめからクロスベル解放なんてものは目論んでいなかったのだ。
ただ《帝国解放戦線》の後継ならば、そうするのが自然ーーーというブラフ。ゼネフォードは自身の目的のために《Ω》を組織し、《アナザーフォース》と手を組んだ。
「真相を知るのは、新しい《C》だけでしょう。すべてやつの思惑通りに進んでいるはずです。多少の誤差はあるでしょうが………」
「だろうなァ。……しかし新しい《C》と来たか。確か名前はクロウ・ゼネフォード……腕っ節は立ち、頭も切れ、肝も座ってるたァとんだ大物だ。会ったんだろ、どうだった?」
「剣を交えたわけじゃないですけど、かなり強いですね。1ヶ月前で内戦時のクロウと伍するくらいの実力はあるでしょう。末恐ろしい才能ですよ」
「お前が言うか、お前が。……実際、今のゼネフォードの歳の頃のお前とだったらどっちが強い?」
「あの頃はまだ未熟でしたけど、まだ俺に分があるでしょう。しかし、それは物心つく前から剣を握り、鍛えてきたからこその結果です。ゼネフォードが戦いを始めたのは《帝国解放戦線》に所属してからという話なので、わずか数年足らずであの実力ですから、あと一年もすれば《剣聖》に届き得るかもしれないほどの破格の才覚を感じました」
「天下の《緋玉の騎兵》様にそこまで言わせるたァな……破格の天才ってやつか。カーファイ、お前も大した天才だが、それでもゼネフォードと比べると落ちるわけだな?」
「そうですね。才能だけで言えば……いや、感情の爆発力という面で見ても俺はゼネフォードに及ばない」
「感情の爆発力だと?」
「強い想いがゼネフォードの急成長を後押ししたんだと思います。それが何なのかまではわかりませんが…奴にはなにかしら貫きたい想いがある。おそらくそれが《Ω》本隊を囮にしてでも《アナザーフォース》の副司令を奪還し、手を組む事に繋がったものかと」
「なるほどなァ……それがお前の所感か」
「はい」と答えて少しばかり会話が途切れる。眼前に広がる湖面を見てから「それにしても」と言葉を続けた。
「これで《鉄血の子供達》の野郎どもが揃ったわけだ。こりゃクロスベルも詰みですかね」
「なに言ってんだ。お前が来た時点でチェックメイトだったろーが」
「いやいや」と軽く笑みを浮かべたナギトに、レクターは片眉を上げて同じように笑う。
「お前が、本気でクロスベル解放の芽を潰すつもりだったらなァ」
レクターの語るそれは真実であった。それは秘匿されていたものではないが、ナギトの実力を知る《鉄血の子供達》なら抱く感想。
《却炎》のマクバーンを降した武力を持つナギトが本気で、そこにルーファスの知略が加わっていれば、すでに今頃は《Ω》は跡形もなく壊滅し、旧特務支援課メンバーは全員が牢にぶち込まれているだろう。
そうなっていないのは、ナギトがオズボーンの潜在的な敵であるからだ。内戦終結時の契約によって《鉄血の子供達》にはなったが、ナギトの存在は諸刃の剣…使い方を誤れば鋒はこちらに向く。しかしそういったリスクを踏まえてでも魅力的な人材なのがナギト・ウィル・カーファイだ。
ナギトはレクターの言葉を否定しようとしたが、思い直して話を一段飛ばして、今度は自分が問いかける側に回る。
「そういうあなたも。レクター…いつか裏切るつもりだろう?」
今は湖の上にボートで2人きり。監視の目もない。そもそもレクターはなにかしらナギトに伝えるつもりでボートを借りたのだと思い至った。
レクターは大仰にハッと笑うと、いつものおどけた調子でありながらも真面目な雰囲気を漂わせてナギトを真正面から見据えた。
「バレてりゃ世話ねぇな。俺から話を振るつもりだったんだが……ま、話が早いのはいいことか」
「腹に一物抱えてる《鉄血の子供達》でもお前はとびきりだ。ルーファスさんはどうかわからんが…見え透いた俺やⅦ組寄りのミリアム、クレアさんは何ぞ恩に縛られてる感じか?《鉄血宰相》を裏切れるやつが多過ぎる。だけどそれは裏切るシチュエーションになれば、の話で裏切るつもりで裏切るんじゃなくて、自身の信念に従った結果裏切る事になるだけで、お前のそれは違うよなレクター?お前は裏切りたくてそのタイミングを見計らってる感じだよな」
「それを言うと俺が裏切りたくて仕方ないように聞こえるなァ。これでもあのオッサンを一番身近で支えてきたのは俺なんだぜ?」
「それでも信用されてないのは、その腹が見透かされてるからだろ」
というかギリアス・オズボーンは誰も信用していないだろう。《鉄血の子供達》である俺たちも、実子であるリィンすら。でなければ、その身に流れるのが鉄の血であると言われるわけがない。
「辛辣だが…その通りだなァ。あのオッサンは誰も信用なんてしちゃいない。しかしその上で、いつ裏切るとも知れない俺たちを重用するのは、何が起きても叩き潰せる自信があるからだ。そしてその根拠を、俺は知っている」
ナギト・ウィル・カーファイが。
レクター・アランドールが。
クレア・リーヴェルトが。
ミリアム・オライオンが。
ルーファス・アルバレアが。
裏切ったとしても叩き潰せる自信。その根拠。
ボートの上という密室はそれを語るために用意されたのだと理解した。
「俺が今から話すのは事実だけだ。推測は一片たりとも入れねェ」
レクターの“カン”は異能と言えるだけの力を秘めている。
例えば道がわからなくてもカンに進んで従えば目的地に到着するような。迷路を一度も迷わずに踏破するような。そんな異才があったからこそレクターは《鉄血の子供達》の一員となったとも言える。
そんなレクターの推測ともなれば、聞く価値はあるのだが語りたがらないのは、それがあまりにも絶望的だからだろうか。
「ヴァリマール、オルディーネ、テスタ=ロッサ……《灰》や《蒼》はまだしも《緋》はオッサンの手元にあると言っても過言じゃない騎神だ」
「ああ。直接の部下である俺を起動者とする《緋の騎神》テスタ=ロッサ。要請という形でいつでも呼び出せるリィンの《灰の騎神》ヴァリマールとクロウの《蒼の騎神》オルディーネ。一騎だけでも戦局を左右しかねない戦力が、三騎も揃っている…と思っていたが、まさか……?」
「そのまさかだ。オッサンは残る四騎のうち三騎の騎神を手にしている」
七の騎神の内の六騎をすでに手中に収めているとは。もはやそれだけで戦争ができるのではないかとすら思える。
「《紫の騎神》ゼクトール……こいつはお前がテスタ=ロッサの起動者になった時と同じように帝都に試しの場が召喚され、俺とクレアが起動者になった」
その言葉に絶句する。目の前の男が騎神の起動者。しかもクレアもそうだと言う事は《灰の騎神》の試しでいうリィンとナギトと同じような二重契約といったところだろうか。
「んで《金の騎神》エル=プラドー…こいつも同じだ。帝都に試しの場を呼び込んだ。起動者は…」
「ルーファス・アルバレアだな。その名前だけは総督自身から聞いてたよ。騎神っぽい名前だと思ってはいたが…ほんとに騎神だったとは」
ルーファスがクロスベルを離れる前日、ナギトはルーファスと会話してその名前を聞き出していた。
エル=プラドーの準備が整ったというのは、試しの場の帝都への呼び込みが成功したという事だろう。
「最後に…《黒の騎神》イシュメルガ………こいつは言わずもがな…」
「ギリアス・オズボーンが起動者…というわけか。《鉄血の子供達》というのはハナっから騎神の起動者を集めるため…だったのか?」
「さて、そこまではわからねえが……あのオッサンが起動者になったのは、俺たちよりも前だ。たぶんお前が《緋の騎神》の起動者になるよりも前なんじゃねぇか」
ギリアス・オズボーンが起動者になったのは、ナギトが《緋の騎神》の起動者になるより前かもしれない。
それを聞いて、ナギトは記憶に残るオズボーンの復活劇の真実を理解した。
クロウの狙撃によりギリアス・オズボーンは斃れ、そしてあの内戦が始まったのだ。
しかし内戦終結間際にギリアス・オズボーンは復活を果たし、貴族連合の総主宰であるカイエン公を捕らえ、《身喰らう蛇》からは《幻焔計画》を奪うという言わば総取りの形で内戦を締めくくった。
心臓を貫かれ、死んだはずのオズボーンの復活。その顛末はあの場では明かされなかったが、おそらくはアリアンロードと同じなのだという考えに至った。
ギリアス・オズボーンはクロウに撃たれる前から死んでいた。しかし騎神の核をその代替品とする事で生ける屍…不死者とも言うべき存在として、この世界に甦ったのだ。
元から死んでいるから心臓を撃たれても死なず、もしかしたら、あの威圧感さえ長い期間騎神と同調しているせいかもしれない。
「そうか……」
この推測が生まれたのはナギトがアリアンロードの真実を知っているからだ。《鉄血宰相》の手の内にない唯一の騎神を駆る《鋼の聖女》の存在を。逆にアリアンロードが、実は250年前から生きる《槍の聖女》リアンヌ・サンドロットであるという事実、《銀の騎神》アルグレオンの起動者であるという事実を知らぬレクターからすれば、未だオズボーンの復活は謎のままだろう。
「それが、オズボーンの余裕の根拠か?」
ナギトは暗にこう問うているのだ。
いくら六騎の騎神が手元にあると言っても、そのすべてが一斉に裏切ってしまえばどうするつもりなのか、と。
「いや、いくらあのオッサンでも他の五騎の騎神が裏切っちまえば普通に負けるだろうなァ。《黒の騎神》単体じゃさすがに無理あんだろ」
たとえいくら《黒の騎神》イシュメルガが強くともヴァリマールにオルディーネ、テスタ=ロッサ、ゼクトール、エル=プラドーを相手にすれば負けるしかない。
それらの騎神の起動者たちが足並みをそろえるかどうかは微妙なところだが、そう仮定して話を進める。
「だが、あのオッサンの秘密はそれだけじゃねえ。他にも何かの異能を持っているんじゃねえか?」
《時の至宝》の権能。ブリオニア島で邂逅したクロノギアの力の残滓。
それをオズボーンが持っているという事はレクターには伝えず「いつものカンか?」と笑みを向ける。
それは事実だけを話すと言った段階を離れたのか、という問いかけでもあった。
「ま、そんなとこだ。んで、さっきの質問に答えると、だ。まだクロスベルは詰んじゃいねえよ。俺も視察が終わったら帝都にとんぼ返りしなきゃいけないからなァ」
そして話題は前のものに戻る。ナギトが振った《鉄血の子供達》の男3人がこの地に揃ったのだからクロスベル解放という夢は詰んだのではないか?という質問。
「《銀蹄機……おっと」
と、そこまで言ったところでレクターのARCUSが着信音を鳴らす。
モニターを見て、その名前を確認するとわずかに視線を細めて「スピーカーモードにする」と通話を開始してナギトにも内容が聞こえるように操作をした。
「やあレクターくん。君も意地が悪いね」
通話口から聴こえてきたのはルーファスの声だった。
「はは、我が兄上殿。いったい何の話です?」
「フフ。先程君がクロスベル中に放った情報局の諜報員が、面白い情報を持ち帰った」
「へェ…そいつはどんな情報だ?」
「すでにわかっているだろう?最古の機甲兵を最新に作り上げたものについてだよ」
最古の機甲兵。そう聞いて思い脳裏に浮かぶ影が1つ。
「あァ………アレの事だな。わかった、すぐに向かう。場所は総督府の執務室で良かったか?」
「ああ、そうしてくれ。ナギトくんも一緒にいるのだろう?彼も連れてきてくれ」
「そのつもりだ。じゃ、切るぜ」
レクターはルーファスの返事も聞かずに通話を終了した。
懐にARCUSを仕舞うレクターにナギトは真剣な視線を向ける。
「レクターさん、最古の機甲兵というのは……」
「まあ待てよ。説明してやる」
ナギトとレクターはボートを漕いで岸に戻りながら、ルーファスの語った内容を反芻する。
「事の発端はおよそ1ヶ月とちょい前だ。帝国から一つの設計図が盗まれた」
その盗まれた設計図こそが、最古の機甲兵のものなのだろう。
「総督サマが言ってた最古の機甲兵を最新に作り上げた…ってのはそいつに色々とオプションを付けたもんだろうさ」
「なるほど。最古の機甲兵というのは……」
「そいつはお前さんの予想通り……機甲兵の元となった《蒼の騎神》を模して造られたもの………お前たちがオルディーネ・イミテーションと呼んでいた機甲兵だ」
pixiv版に追いついてしまった……
ストックがなくなってしまったので、これからは今まで以上に亀更新になると思います。
読者の方々におかれましては、これからも末長く拙作にお付き合いいただければ感涙の極みでございます。