八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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天晴②

 

 

リィンが目を覚ましたのはそれから5時間後。夜も更けたクロスベル市、ナギトが寝泊まりしているホテルの一室での事だった。

 

 

「……ここは………」

 

 

気絶していた経緯を思い出しながら、横たわっていたベッドから身を起こそうとして、全身が軋むような痛みを覚えた。

 

「っ……」

 

 

「無理すんな。まだ寝てろ」

 

 

傍らから声をかけてきたのは椅子に腰掛けて本を読んでいたナギト。ぱたんと本を閉じてベッドの横まで椅子ごと移動してきた。

 

そうしてようやく実感する。

 

 

「そうか……俺は負けたんだな」

 

 

「善戦はしてた。ナイスファイト」

 

 

軽々しく言うナギトに、もはや何も言い返す気力もない。

 

 

「だけど俺に勝つには10年……1年……半日くらいは早かったな」

 

 

「半日くらいで追いつける気がしないんだが……」

 

 

やや控えめに言い返す。それだけナギトのフォローは下手くそ過ぎた。あの模擬戦で見せたナギトの実力は遥か遠くに思えたからだ。

 

しかしナギトは真面目くさった顔で「いや?」と補足する。

 

 

「あの戦闘でお前が見せた成長……覚醒といってもいいかもな。あの速度で実力を伸ばせれば俺にも半日で届くと思うぞ」

 

 

「あれを成長と呼んでいいのかはわからんが」と付け足したナギト。

あの模擬戦の後半を思い返す。神気合一──普段のそれより圧倒的な力を引き出せていた。

だがあれはあくまで外付けの力であり、リィンの地力というわけではない。それに頼って成長したところで、自らの積み重ねとは言えないだろう。

 

それに、もし仮にあれを成長と呼ぶとしても、あの瞬間は奇跡的に階段100段飛ばしが成功したようなもの。それを半日も続けるのは不可能だ。奇跡が100連続してもまだまだ届かない。

 

 

「それは……難しいな」

 

 

俯いてリィンはぽつりとこぼした。ナギトに「追いついてみせる」と言ってから1日も経たずして、みっともない思いを感じている。

 

そんなリィンを気遣うようにナギトは言った。

 

 

「そんな顔すんなよお兄様。……お前はあの瞬間、俺と──《刀神》と並んだんだ」

 

 

「《刀神》?」と聞き覚えのないワードにおうむ返しする。

 

 

「俺の新しい渾名。ある人がつけてくれてな。こっ恥ずかしいから名乗った事はないんだが」

 

 

「確かに……《刀神》とは大きく出たものだな。……でも、今のナギトならそう名乗ったとしても不足はないと思うけどな」

 

 

「ああ。………だからさ、お前もその《刀神》様と一瞬とは言え伍したんだ。そんなしょんぼりされたんじゃ俺も立つ瀬がないってもんよ」

 

 

 

「……そうか。そうだな…………」

 

 

 

リィンはそうしてナギトの慰めを受け入れた。天井を見上げる。それは室内を照らす電灯を見ているわけではなく、その先の空を見上げているようだった。

 

 

「……まるで、夢でも見てるような時間だった。鬼の力が限界を超えた先に俺を連れていってくれた……そんな感じだ」

 

 

 

「そうだな」と今度はナギトが頷く。

 

 

「そしてそれは間違いじゃない。……リィン、お前の鬼の力の正体について、推測があるんだが聞くか?」

 

 

続く言葉にリィンは見開いた目をナギトに向けた。まさかこんなところで自分の“鬼の力”に言及されるとは思わなかったからだ。

「聞かせてくれ」とベッドから身を起こして言った。

 

 

 

「まず“鬼の力”の正体だが……おそらくとある2つの力が混ざったものだと思う。あー、いや混ざったと言うと違うか?共存か?」

 

 

のっけから説明に疑問符をつけてナギトは語る。リィンは思わず苦笑した。

 

 

「まあとりあえず、お前の中にはとある力が2つあるってわけだな」

 

 

「その、とある2つの力っていうのは?」

 

 

催促されたそうなナギトに応えて催促する。“鬼の力”──慮外の力を引き出すもの。それ相応の覚悟を内心で宿す。

 

が、そんな覚悟は続くナギトの言葉で木っ端微塵にされた。

 

 

 

「神の力」

 

 

「なっ……!?」

 

 

言葉を失ったリィンにナギトは畳み掛けるように推測を語り続ける。

 

 

 

「とは言っても封印された形の、そのまた欠片みたいなもんだけどな」

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!神の力って……まさか女神エイドスの力が俺に宿ってるって事か!?」

 

 

取り乱しながら問うリィン。空の女神エイドス───唯一無二の神にして至尊の存在。七耀教会はこの女神を信仰する一団で、その教義は全世界に広まっている。

しかし、そんな女神の力にしてはリィンの“鬼の力”は禍々し過ぎる。

 

そんな風に渦巻く疑問をナギトは「いや」と二文字で一蹴してみせた。

 

 

「?」

 

 

まるでわからない。というように頭上にハテナマークを浮かべるリィン。

ああ、気持ち悪い。そんな言葉を飲み込んでナギトは続けた。

 

 

「時の神クロノギア。そして焔の神マクバーン。この二柱がお前に宿る神の真名だ」

 

 

「なにを言ってるんだ」と少しだけ憤りを見せながら。本当にわからないと顔に出すリィン。続いた言葉はナギトが予期した通りのものだった。

 

 

「神といえば女神エイドスしかいないだろう」

 

 

これだ。語尾に疑問符すら付けず、断定した口調のリィンにナギトもまた断定口調で応える。

 

 

「今はな。だけど昔は違った。原初の世界において神は四柱いた。始まりの二柱──大地の神ラダマンジュ、時の神クロノギア。ラダマンジュが身を裂いて生まれた焔の神マクバーン。そしてご存知の空の女神エイドス」

 

 

そんな神話は知らない。そんな神話はない。あらゆる文献にそんな存在は確認されていない。だからこそ女神エイドスは唯一絶対の神として君臨しているのだ。

────それが、この世界の住人の認識。

 

 

ナギトが語った事実を知っているのは極々わずか……それこそエイドスくらいのものだろうと思われる。

 

 

「………もし仮にそうだとして、どうしてナギトがそんな事を知ってるんだ?」

 

 

もはや長い付き合いになったナギトの事を信用したリィンはその情報源を開示せよと迫る。

 

 

「そりゃ本人──もとい本神に聞いたからだな。ブリオニア島に巨像があるだろ?あれが時の神の抜け殻……みたいなもんだ」

 

 

既知の情報と未知の情報が入り混じり、リィンの困惑は増すばかり。

 

 

「一応、神話の終わりは時の神と焔の神の激突があって相討ちに終わり、それぞれ弱ったところを空の女神に至宝として力を封印された形たなる。エイドスの総取りってところだな」

 

 

露悪的に語ってしまったのは、ナギトにとってこれが本当に気味の悪い事だからだ。

 

 

「そんな……、でもやっぱり信じられないな。女神エイドス以外に神が存在するなんて」

 

 

「それだ」とリィンの言葉に飛びつく。

 

 

「それだよリィン。それこそ“女神の枷”の影響なんだ」

 

 

 

女神の枷──またしても馴染みのないワードに首を傾げるリィン。

 

 

「何の目的か、あるいは使命かわからんが、女神エイドスによって世界は閉じているんだ。外洋を行く船や飛行船がある海域や空域から抜けられない……そんな事実もある。それにもっと重要なのは人の認知、認識をある一定のポイントから先に進ませないようになっている」

 

 

「本気で調べて理屈として納得しない限りはな」とナギトは補足する。

先に語った船や飛行船の話にかかっているのだろう。

 

 

「例を挙げれば、“この世界にはゼムリア大陸しか存在しない”、“神は女神エイドスしか存在しない”……そんな感じに。根拠を示されなければ、まずゼムリア人はこれらの事実を疑う事すらしない。この思考ロック───それが女神の枷だ」

 

 

 

「そんな……」

 

 

リィンの言葉は弱々しい。今まで常識と思い込んでいた事柄がひっくり返されたのだから無理もない。

しかもナギトのいう根拠が、今はナギトの言葉だけというのも混乱してその説明を疑ってしまう一因になっている。

 

だってそれは、今まで──今でも女神を信奉しているゼムリアの人間たちを、当の空の女神本人が悪辣に管理しているようなものだから。

 

 

 

「この“枷”はゼムリア人を閉じ込める牢獄であると同時に揺籃でもあるんだろうな。………話が逸れた」

 

 

 

「本題に戻すぞ」と言ってナギトは話題をひとつ手前に立ち戻らせる。すなわちリィンの“鬼の力”の根源について。

 

 

「時の神と焔の神は、それぞれ至宝として封印された。《時の至宝》と《焔の至宝》だな」

 

 

未だ話のスケールについていけず、戸惑うリィンを横目にうっすらと性格悪く笑んで、なおもナギトは続けた。

 

 

「その2つの至宝はどうやら人に宿るもんらしい。時は血族に、焔は適性で。リィン、お前はその2つの次代だ」

 

 

困惑するリィンを他所にナギトは嘆息する。2つの至宝の力を宿すとは、さすがは主人公だと。思えばリィンのARCUSの専用スロットは時属性と火属性だった。あれはリィンに眠る至宝の欠片の影響かもしれない。

 

 

 

「……わからない。何もわからない……が、ひとまず飲み込むとして。質問だナギト……俺がその2つの力の次代だとして、当然…当代の継承者もいるんだよな?」

 

 

ナギトが眺めている間にリィンは何とか平静を取り繕うくらいはできたようで、質問とは名ばかりの確認をする。

 

 

「そうだな。《焔の至宝》は結社の執行者マクバーンだな。名前まで一致してんのは偶然か、あるいは…だから至宝に選ばれたってセンもあるが……わからんな、保留。……んで、《時の至宝》は血に受け継がれる。リィン…‥お前が次代だってんなら、当代は必然お前の実父……」

 

 

「──ギリアス・オズボーン」

 

 

言葉を継いだリィンの、なんと険しい表情か。その感情の荒れ狂う様子はナギトからは窺い知れない。ゆえにリィンが落ち着くまで待とうと思い…それはすぐに訪れた。

 

 

「はあ…、わかったよ。とりあえずこれも飲み込む。……その上でもうひとつ確認だ、ナギト。……君が俺の“鬼の力”が至宝によるものだと気づいたのは、あの模擬戦でその力を俺が発揮したからだな?」

 

 

 

話は本題の中核に切り込まれた。

 

 

 

☆★

 

 

 

リィンの“鬼の力”───いったい誰がそう呼び始めたのか。実際は鬼なんて邪悪なモノではなく神の力であったのに。

 

とは言ってもだ、その神の力も完全ではない。神話の闘争により弱った神力を封印されて至宝となった。おそらくこれで本来の形からかなりスケールダウンしているはず。おまけにリィンのそれは欠片と呼んで差し支えないもの。むしろ当代の使い手がいるのにどうして使えているのか。

 

とりあえず、その点については考えてもわからないため今わかっている事柄だけを伝える事とする。

 

 

「“刻焔戴天”、それに終の焔技“黄昏”……だったか。至宝の力がわかりやすく顕現していたのは。リィン…お前、これらの技を使った時の記憶や感覚は覚えてるか?」

 

 

リィンは目を閉じると回想する。あの模擬戦の記憶。限界の先に踏み込んだ感覚を。

 

 

「覚えてはいる、が……なんて言うんだろうな。まるで夢を見ていた気分だ。あの戦技も、その名も……自分じゃない自分の裡から出てきた………そんな感じだ」

 

 

その感覚はナギトにも覚えがある。トールズ在学時に《剣鬼》時代の剣技を取り戻す際に、その技の出し方もスペックも、その名も自らの内側から溢れ出すような感覚。リィンのそれとはまた違うかもしれないが、イメージとしては充分だろう。

 

 

「……話を戻すが、お前の“鬼の力”………俺はお前の潜在能力を引き出すものと考えていた。外付けの力じゃなく、お前のポテンシャルを強制的に開花させるものだと」

 

 

「…………だけど本当は至宝の力だった…そう言いたいのか?」

 

 

「違う」とナギトは即答した。むしろナギトの推測はリィンに眠る至宝の力によって引き起こされていた事象だと、より強固に思えている。

 

 

「むしろ外付けではありえないんだよ。《時の至宝》、《焔の至宝》……それらの仕様はわからないが、欠片程度ともなれば大した力は望めない。ならやはり、お前の神気合一によって得られる力はリィン・シュバルツァーの内側からもたらされるものだと考えた方がしっくりくるんだ」

 

 

「それは…どうなんだ? 神気合一を使った際に俺は見た目が変わる。それはどう説明するんだ? それに俺はあの力を全開で使ったら死んでしまう予感すらあるんだぞ」

 

 

リィンの疑問は尤もだ。ナギトはこれに答えるだけの推測があった。

 

 

「見た目が変わるのは、おそらく至宝の力が関係してるな。お前のポテンシャルを引き出すのに力が発揮した際にああいう変化を伴うんだろう。 それと全開で使ったら、って件だが……そりゃいつの話だよ?」

 

 

 

見た目が変わるのは至宝の力。リィンの潜在能力を引き出すために至宝の力が発動した時に見た目が変わる。ナギトの説明はあくまでリィンのポテンシャルがベースになっている。

 

 

 

「いつって……もう一年くらい前か。あの内戦が始まった日、トリスタに来たスカーレット……彼女が乗っていたシュピーゲルにやられそうになった時だ。あの時はヴァリマールを呼んで事なきを得たが……」

 

 

 

だろう、とばかりにナギトは相槌を打つ。それ以前にも“鬼の力”を引き出せば死んでしまう可能性には気づいていただろうが、それを身近に感じたのはあのトリスタ防衛戦の時を置いて他にない。

しかもリィンは内戦によって“鬼の力”を神気合一でコントロール下に置いた。あれ以降、命の危機を感じ取った事はないはずだ。

 

 

 

「結論から言うとだな。お前のポテンシャルを解放していたのは《時の至宝》の力によるものだ。時を操る力をもってリィン・シュバルツァーという存在に干渉し、未来…リィンが得るであろう実力を今のリィンに還元している。………お前の死んじゃうって予想もたぶんそこからだな。未来のリィンの隔絶した能力を今のリィンでは受け入れ切れずに死ぬとか、そんなとこだろ」

 

 

 

「一理あるが………だったら今の状況はなんだ? さっきの模擬戦で俺は明らかに普段より“鬼の力”を解放していた。ナギトの推測通りなら、俺は未来の自分の力を受け入れ切れずに死んでなきゃおかしいんじゃないか?」

 

 

「そこは単にお前のポテンシャルにお前の身体能力が追いついてきたってだけだろ。でもやっぱり多少の無理は通したから体がだるい……そんな感じで筋は通ると思うが」

 

 

 

ナギトの主張は一見でたらめのようでいて、リィンにいちいち納得を与えてくる。これも当人だからの理解で、他人からすればまったく筋の通らない話になるのかもしれないが、リィン本人からすれば、今まで自分を包んでいた謎のベールが一枚一枚剥がされていくような感覚だ。

 

 

黙りこくったリィンを見て、ひとまずは納得してくれた事を察したナギトは話を進める。

 

 

 

「んであの黒い焔も……たぶん《時の至宝》の力が絡んだものだな。覚えてるか?…あの“刻焔戴天”から放たれた火は俺の太刀を一瞬で焼き尽くした」

 

 

「言われてみれば…そうだったな」

 

 

「お前の焔………《焔の至宝》の力──万物貫燃炎であっても、ああはならない。特に至宝としての出力が低いリィンの焔じゃな」

 

 

「万物貫燃炎………あらゆる守り、耐性を貫いて対象を燃え上がらせる炎………だけどそれは相手を一瞬で焼き尽くせるわけではない、だな?」

 

 

「そう。至宝の力であっても、あくまで炎。燃えるという工程は必ず発生する。それを無視して対象を焼き尽くすなんてのはありえない。……まあ火力にもよるだろうが、《火焔魔人》の焔であっても俺の太刀を一瞬で灰にするなんざ不可能だ」

 

 

「つまり、ナギトの太刀が焔に触れただけで燃え尽きてしまったのは《時の至宝》の力の影響……そういうわけだな?」

 

 

「その通り」とリィンの言葉を肯定する。

信じられないものでも信じられないまま受け入れてしまえば、そこから先の飲み込みが早いのはリィンの長所だ。馬鹿みたいな出来事に慣れてしまった悪影響とも言える。

 

 

「“刻焔戴天”──その名の通り時の性質を孕んだ焔。効果としては俺が体感した限りだと………燃え始める→燃える→燃え尽きる…という普通の燃焼の工程を、燃え始める→燃え尽きるってふうに歪めてた感じだ」

 

 

正確にはそれ以上だったろうが、説明しにくいためここでは便宜上そう説明した。

刻=時。名は体を表すと言うが、おそらくこれもリィンの裡から無意識に溢れたものだろう。

 

 

「これが時間を加速させたか圧縮したか…もしくは消し飛ばしたかわからんが、とにかく燃えるっつー工程をぶっ飛ばして俺の太刀を灰にしたのは確かだ。……これが俺がお前に《時の至宝》の力が宿っていると確信した理由だな」

 

 

「以上」と言って説明を終える。

とは言え、ここまではブリオニア島で巨像──時の神クロノギアとの邂逅で立てていた推測だ。今回はそれが確信に至ったというだけ。

 

リィンは以前から《焔の至宝》の片鱗を見せていた。ならば《時の至宝》もまた同じように力を宿していても不思議ではない。

 

 

「……ナギトがそう言うからには、あの瞬間の俺はそんな力を発揮してたんだろうな。仮に至宝の力でないとしても、俺にはそんな……ありうべからざる能力が備わっている」

 

 

時を操る。焔を操る。そんな権能。リィンの言う通り、確かにありうべからざる異能だ。場合によっては人の世の崩壊すら可能なものだ。

 

 

「わかってると思うが、その力……別に隠してもいい。だけど目を逸らしちゃならんぞ」

 

 

「わかってるさ。今さら目を背けたりしない。変な力があるとしても俺はリィン・シュバルツァーだ。兄弟分に置いてけぼりにされないためにも、せいぜいこの力は利用させてもらうとするよ」

 

 

「はっ。強かになったなリィン」

 

 

「君の悪影響さ、ナギト」

 

 

開き直ったリィンと、その様子に快哉をあげたナギト。2人で「くくく」と笑い合う。

ひとしきり笑った後で、リィンが礼を言った。

 

 

「ありがとう……ナギト。俺の正体不明だった“鬼の力”……制御できるようになってからも不安はあったけど、今回の件でそれも和らいだ。なんだか空が晴れた気分だ」

 

 

「いいってことよ。助け合いの精神が兄弟には必要だろ?」

 

 

「全部推測ってのがあれだけどな」とボカシつつリィンは苦笑した。「あれだな」とナギトも苦笑しつつ言って。

 

 

これまでリィンに語り聞かせたのはすべてナギトの推測──ではあるが、時の神クロノギアの証言という信憑性の高いものも勘定に入れているため、まるきりハズレという事もないはずだ。

クロノギアがわざわざナギトに虚言を弄する必要性もない。

 

 

 

「ところでナギト。さっきの模擬戦の最後なんだけど…」

 

 

と、一段落したところでリィンが切り出した。ナギトは即応する。

 

 

「さすがに勝たなきゃカッコつかないんで体面気にせず勝ちに行きましたスミマセン」

 

 

あの模擬戦の最後の最後。2人の力は拮抗していた。鍔迫り合う2人に余力はなく、しかし2つの至宝の恩恵を受けたリィンは限界を超えて刻焔を展開した。

それを受ければ敗北は必至だったナギトは剣で鍔迫り合う勝負を捨てて体術で決着をつけた。

 

太刀を抜かせてみせたリィンへの不義理ではあったが、あの焔の性質を考えると、むしろ受けてしまっては即死。リィンの心にも傷を負わせる事になると思ったからナギトは決着を急いだのだ。さすがにこれを言うのは格好悪いため語らない。

 

思い返せば、内戦中の模擬戦でも同じような決着だった。あの時は剣力勝負でリィンがナギトを上回り、その太刀を弾き飛ばした油断を突かれた形となり今回とは些か異なるが、ピンチになったらナギトは手段を選ばない外道になるなんて思われたら心外だ。

 

 

「いやそうじゃなくて」

 

 

どうやらリィンの言葉は別のところにかかっていた。慌てて弁明謝罪までしたナギトは謝り損した、みたいな表情をつくった。

 

 

「……《時の至宝》の力だった事はわかってる。でもナギトの言葉を信じるなら、俺はいずれ君に並ぶ剣士になれるって事だよな……?」

 

 

切り出されるのではないかと思っていた話題。

模擬戦の最終幕。剣と剣で語りあったあの瞬間。《時の至宝》の権能で潜在能力を解放したリィンを、ナギトは無意識的に八葉一閃で迎え撃った。

それはリィンに脅威を感じたからではなく、ナギトが極限の集中状態とリラックス状態にあり、かつ兄弟分の覚醒に高揚していたからだ。

 

 

──“「八葉一閃」”

 

──“「無仭剣」”

 

 

そして刃はぶつかった。

ナギトの“八葉一閃”は最強無敵の剣技だ。武の極意、世の摂理、人の理を一太刀に込めた技。言葉では到底説明しきれない世界という剣だ。

これについては、あの武神の如きアリアンロードからもお墨付きをもらうほどのもの。

 

いまだ《剣聖》にも至らぬリィンではほんの刹那でも受け止められれば奇跡以上だった。

しかし現実は奇跡を超えた。たったの一合とは言えリィンの太刀はナギトの“八葉一閃”と互角に打ち合ったのだ。

 

 

「──そうだな。それが近い将来か、遠い未来かはわからんが……あの刹那、お前の太刀は世界とひとつになっていた。だから俺の奥義と互角だった」

 

 

ナギトはリィンを肯定した。もはや世辞すら必要ない関係での言葉は真実をはっきりと映し出す。

その言葉で不安そうだったリィンは、嬉しげに、誇らしげに微笑んだ。

 

 

「──“無仭剣”…だったか」

 

 

あの時、リィンが唱えたその剣技の名前をナギトはしっかりと覚えていた。逆にリィンは無意識に口ずさんだようで覚えていないらしい。

 

「ふう」とため息をつくようにして感心したような嘆息したような、そんなふうにナギトは笑う。

 

 

それは我らが老師ユンが、自らの境地に名付けた名前だ。

この事実はもしや、その剣技を未来、リィンに授けたという事ではなかろうか。

ユンから八葉の二代目を指名されたナギトとしては面白くない。すでにその境地に独力で至ったとは言え、これではまるでリィンこそが正統後継者のようではないか。

 

 

「お前は期待されてるな。至らぬ弟子と呼ばれてた俺とはえらい違いだ」

 

 

ため息混じりに言うナギト。言ってから少し後悔。嫉妬心をぶん殴ってぶっ飛した。

 

1人で納得して嫌味を向けられたリィンだったが、持ち前の察しの良さで言葉を紡いだ。

 

 

「ナギトもまだまだ未熟だな、老師の真意を察せられないなんて」

 

 

「あん?」

 

 

「……老師の手紙に書いてあったよ。俺が八葉を完成させる者かもしれないって。だけどそれはあくまでユン・カーファイが編み出した剣術の完成だ。その枠からは出られない。でも君は、その枠を超えられると老師に思わせたから八葉一刀流の二代目に選ばれたんだろう」

 

 

 

瞠目した。嫉妬心で目が眩んでいた。そんな発想はなかった。

言葉をなくしたナギトに、リィンはようやくしてやったりと笑んでみせた。

 

 

「嬉しい事を言ってくれる」

 

 

微笑みながら顔が熱くなるのを感じたナギトは、話は終わりだとばかりに背を向けた。椅子から立ち上がって窓までスタスタ歩く。クロスベルの夜風で顔の火照りを冷まそうという算段だった。

 

そんな見え見えの照れ隠しをナギトもまた微笑みで見送って───、ナギトの髪が緋く光ったのを見た。

 

 

「───その髪、どうしたんだナギト……?」

 

 

 

☆★

 

 

 

「あ、ホントだ」

 

 

鏡で確認すると、左耳の後ろのあたりの一房の髪が緋く染まっているのがわかった。

 

 

「……………………」

 

 

少し考え込んだナギトは、これがいかなるものか当たりをつける。

その隙にリィンはひとつ息を吐いて決心した。

 

 

「ナギト、そろそろ聞かせてくれてもいいんじゃないか。───君の正体について」

 

 

ナギトの正体。リィンはついにそこに踏み込んだ。

 

 

「俺の事情をここまで詳らかにしたんだ。君の事を教えてくれないのは不公平なんじゃないか?」

 

 

 

そんなナギトの言い草にリィンは少し笑って「そうだな」と言った。

 

 

「お前、俺の事をどこまで知ってる?」

 

 

「結社の連中から“特異点”と呼ばれてる事。それとエマからも聞いた……君が…本来知り得るはずのない知識をもっている事も。エマは笑って未来人なんじゃないか、なんて言ってたけど……」

 

 

 

エマの考察はあながち間違いではない。ナギト=俺たちはある意味で未来人だ。だった。だがそれだけでは20点もやれるかどうか。

 

ナギトはため息ひとつこぼして、リィンと同じように決心する。今さらナギトの事情を知ったところでリィンの態度が変わる事もないはずだ。

 

 

「リィン……俺はお前を片割れのように思ってる。だから話す」

 

 

しかし、心に生じたわずかな不安はどうしようもなく。だからみっともなく予防線をはった。

 

片割れ──いつものように義兄弟という呼び方でない事にリィンは眉をひそめつつも、続くナギトの言葉を待った。

 

 

「どこから話したもんか………。まずは軽く“特異点”について説明するか」

 

 

ナギトも話す事を承諾したものの、どう説明するかは悩む。よもやこの世界がゲームであると語るわけにもいくまい。それは世界の住人にとって重すぎる事実だ。

そこだけは伏せつつ、しかしわかりやすく説明するには。

 

 

「俺はこの世界の生まれじゃないんだ。……うーん、生まれじゃないというと語弊があるな。この世界の存在じゃない、が正しいか」

 

 

「それは……外の理の存在ってことなのか?」

 

 

「いや、それとも違くて。俺はこことは別の世界の人々が願って発生した存在…なんだよな。だから俺には血縁者はいない」

 

 

ありえないほどの軽さと勢いで、重みを備えた言葉が次々と飛んでくる。先のリィンの力の根源とすら比較にならない意味不明。

 

 

「まぁ、簡単に言うなら、小説の世界に飛び込んだみたいな話さ」

 

 

小説の世界に飛び込む。それは誰しもが一度は夢見るものだ。リィンもそこそこ小説は読んでいるし、それらの物語自体に納得している。でももっとこうなると良いなんてのは普通の感想で。だから小説の世界に入り込むなんて夢想は世界中で蔓延っているものだ。

 

 

「……そう、なんだな」

 

 

リィンは理解した。理解して聞かなければ良かったなんて思ってしまい、後悔する。例え重すぎる事実であっても、受け止めると覚悟したからこの話を切り出したのだ。

 

 

「だからお前は慧眼だよ。俺の本質──その性質に早くから言及してたんだからな」

 

 

トールズ入学前。リィンはナギトの事を“おかしな性格”と評した。“多重人格”とも。ナギトという特異点は数多の願いが重なってできた産物。そこには願いと共に数多の人格も注ぎ込まれていた。それはトールズ入学と共に未来の記憶と同時に発現するはずであったが、システムの抵抗による記憶喪失のため、その機は逸していた。

しかし、そう言った側面は確かにあって、それがナギトの性格が掴みづらい一因となっていたのは間違いない。

 

ハテナマークを浮かべたリィンを「まあそれはいいとして」と流してナギトは続けた。

 

 

「そんなわけで、俺は世界の外側から来た者だ。結社の盟主ってのは未来予知ができるって話だけど、それは俺には適用されないんだろうな。だから俺は結社の連中から“特異点”なんて呼ばれてマークされてたわけだ」

 

 

世界──ゲームの世界。あらゆるものがシステムに管理され、筋書き通りの動きしか許されない世界。そこに“特異点”というバグが侵入し、関わるものを物語のくびきから解き放つ。

確定している──未来予知で知った筋書きを書き換える“特異点”を結社が危険視するのも頷ける話だ。

 

 

「“女神の枷”が俺に通じてないのも同じ理屈だろう」

 

 

とナギトは付け加えて言った。

リィンの混乱は止まない。ナギトに血縁がいない事に同情しかけたが、それを忘れるくらいの情報量を叩き込まれて頭はパンク寸前だ。ただでさえ“鬼の力”について解明されたばかりでまだ上手く飲み込めていないと言うのに。

 

だが、あらゆる情報を飲み込む前に確認すべき事ができた。

 

 

「ナギト……君は小説に入り込んだような話だと言ったな。まさかそれが俺を片割れと呼んだ理由じゃないだろうな…?」

 

 

リィンの聞き方には棘が──悲壮感があった。

仮にこの世界を小説の中だとして、自分もその登場人物だろう。もしかすると中心人物かもしれない。思い上がりだろうが主人公かもしれない。だったら読者として感情移入しないか?自分の分身だと思わないか?

──ナギトはそういう意味で自分を片割れと呼んだのではないか?

 

 

「一理ある」

 

 

否定して欲しそうなリィンの問いに肯定で返す。

確かにそういった面はある。閃の軌跡はリィン・シュバルツァーの物語であり、主人公を自らのアバターと思うのは当然の事だ。

 

 

「だが十全ではない」

 

 

だが。ナギトがリィンを片割れと呼んだのはそれだけが理由ではない。

もしそれだけが理由であればエステル・ブライトも、ロイド・バニングスも、あるいはケビン・グラハムも、片割れだ。

しかしナギトがそう呼ぶのはリィンだけだ。

 

 

 

「俺はナギト・シュバルツァーで、ナギト・ウィル・カーファイだ。俺がお前たちと過ごした日々……あれは嘘偽りない俺の青春だ、俺だけの思い出だ。だから、俺は俺個人としてお前を──リィンを片割れだと思ってる」

 

 

 

リィンを片割れだと──義兄弟と呼ぶのにプレイヤーたちの意思は関係ない。むしろあいつらはそんな重要ポジにおさまるな、と声高に批判するだろう。いやしていた。

 

 

ナギトの言葉を受けてリィンは心底安堵したような嬉しそうな顔をする。それにはナギトも嬉しくなって顔を綻ばせた。

少しだけ和らいだ雰囲気の中で、しかし、やはり、説明は続く。

 

 

「エマは俺を未来人と言ったってな。……これも間違いじゃないな。正解とも言い難いが。俺が知っていたのはあくまで限定的な未来だけで、それも記憶喪失のせいでほとんど意味を成してなかった。それに、その未来も今から過去の事だから、現時点において俺はちょっと特別なだけの現代人さ」

 

 

「…………つまり、ナギトが知っている未来──時間はもう通り過ぎてるって事だな?」

 

 

「その通り」と肯定する。ナギトが知っていたのは閃の軌跡2のエンディングまで。しかも記憶喪失のせいで、その未来知識もほとんど活かされる事なくその時間まで辿り着いてしまった。

それでも使命である“クロウの救済”が叶った事は確かで。記憶喪失という形で封じられた俺たちがナギトの中から“運命を変えろ”と叫び続けてくれたおかげでもある。

 

 

「ひとまずこんなところか」

 

 

と、ナギトは締めた。

リィンはまだ開示されていない情報がある事を察しつつも、得られた情報の多さにそれを追求する余裕がない。

 

 

だが、まだ確認しておくべき事があと2つある。

 

 

 

「ナギト……特異点については、なんとか理解したつもりだ。……その上で問おう。君以外に特異点は存在するのか?あるいはこれから先に現れる可能性は?」

 

 

「ない事もない…かな」

 

 

リィンの問いかけに対して、ナギトの答えは曖昧だった。しかしこれにはナギトにも言い分がある。

 

 

「……この世界──というとややこしいな。世界線と言うか。…は、言わば並行世界なんだ」

 

 

「並行世界…」同じ言葉をリィンが呟く。聞いたことがある理論だ。あの時こうしていたら……の選択肢の数だけ世界が枝分かれするというもの。

 

 

「この世界線は…俺の知っている未来に、俺が干渉した事で本筋の世界から枝分かれした並行世界になる。………だからさっきの答え方みたいになる」

 

 

ない事もない──そうナギトは言った。

だが、それだけでは説明が足りてないとリィンはジト目を向ける。

 

 

「……俺はとある願いが人のカタチを成したものだ。その結果、この世界線はこんなふうになったが………また別の願いもあるだろう。それはきっとこの世界線じゃなく、本来の物語に介入して独自の並行世界へと発展していくはずだ。各々がそれぞれの願いや妄想の果てに物語は形作られる………だから、おそらくもうこの世界には特異点は現れない」

 

 

閃の軌跡がある。万人に愛される物語。だが、そこにプレイする者たちの願いが織り込まれた結果、生まれるのが並行世界。本来の物語とは違う亜種閃の軌跡。このナギトの物語も、数多ある願いの内のたったひとつに過ぎない。

 

 

「………ナギトとは別の特異点が並行世界には存在するかもしれない。だけどナギトはこの世界線にいるから、ここにはもう新しく特異点は現れない──そんな認識でいいか?」

 

 

まるきり正解というわけではないが、要所を押さえたリィンに「いいと思う」と言っておく。

 

 

 

「それで………これまでの話が、君の髪が緋くなっているのとどう関係してるんだ」

 

 

 

そうして、話は第一ポイントに立ち戻る。これがリィンが聞きたかった最後のひとつだ。

 

ナギトは自分の左の脇腹を触ると、逡巡を振り払う。ここまで来たんだ、全部ゲロっちまおう。

 

 

「直接は関係ないな。………まあ見てもらうほうが早い」

 

 

言うが早いか、ナギトはシャツを捲り上げてリィンに裸身を晒す。

 

 

「それは……っ!?」

 

 

目を剥いて二の句を告げないリィンに、ナギトが説明する。

 

 

「特異点の話はさっきした通り………。だが、今の俺はすでに願いを果たした後の抜け殻みたいなもんでな。特異点としての力を振るうのには代償がいる」

 

 

特異点としての力。世界を変革させるバグ。

すでにクロウの救済という使命を果たしたナギトから、その本質は抜け出てしまっていて。だからその権能を扱うには代償が必要となる。かつて願いの化身が言っていた通りに、ナギトの肉体──特異点の器を代償として、その権能は発揮された。

結果、ナギトの左脇腹のあたりはデータが消失している。かつてそこにあった引き締まった肉体は暗黒に飲まれ、今や虚空だけがそこにあった。

 

 

「それは…………大丈夫なのか?」

 

 

「ま、これだけじゃなんにもならねえよ、平気だ。外見こそこうだが、内臓もちゃんと動いてるみてーだしな。……それより、ホレ。本題はこれだろ」

 

 

ナギトは虚空となった脇腹をさして言う。リィンが目を凝らすと、そこには緋い何かがあった。

 

 

「紅蓮の魔王──《緋の騎神》か。あれの破片を入手する機会があってな。……つい出来心で埋め込んじゃった」

 

 

てへ、と舌を出すナギト。そのあまりにもあまりな展開に、

 

 

「はあ!?」

 

 

リィンも思わず大声が出てしまった。

 

《紅き終焉の魔王》──元は《緋の騎神》テスタ=ロッサ。内戦の終盤、煌魔城でリィンとクロウの2人の騎神で討ち取った災厄だ。

確かにあの時、リィン──ヴァリマールの一閃により災厄は打ち払われた。ナギトが虚空となった自らに埋め込んだというのは、その時に出た破片だろうとリィンは推察する。

 

実際は《緋の騎神》の起動者となったナギトがマクバーン戦で破損したテスタ=ロッサを見て思いついたわけだが、そこは機密に関わるため黙っておく。嘘をついたわけでもないし、勝手に誤解してくれるだろう。

 

 

 

「はー………、じゃあなんだ?その髪が緋くなってるのは、《緋の騎神》の破片を埋め込んだからなんだな?」

 

 

「むしろそれ以外に理由が思い浮かばん」

 

 

至極真っ当にため息をつきながら頭をかかえるリィンにナギトは胸を張って返事をする。

 

 

 

「問題はないのか?」

 

 

「ないだろ」

 

 

「《緋の騎神》は呪われてるって話じゃなかったか?」

 

 

まずった、とナギトは思った。

すでに《緋の騎神》の呪いは解けている。おそらくナギトが夢見心地で斬った影の暗黒竜がその化身だったのだろうと当たりをつけていた。

 

が、リィンはそんな事を知る由もなく。むしろナギトが呪いについて知っていないとおかしいとさえ考えている。

 

 

「………今のところ悪影響はないしな。まあそんな心配するなよ」

 

 

「間があったぞナギト。………まあ君が隠し事をしているのはいつもの事だし、あんまり致命的な事もないだろうからこれ以上は聞かないでおくが」

 

 

ナギトの隠し事をリィンが見逃した事で事態は落着した。「ふう」とあからさまに九死一生を得た仕草をしたナギトは話題を変えた。

 

 

 

「そういやリィン、いつ帰るんだ?」

 

 

「今日の予定だったが………さすがに無理だな。明日の朝イチでトリスタに帰る事にするよ」

 

 

どうやらトンデモ突貫旅行だったらしい予定にナギトは「は」と息をこぼしつつ。

 

 

「そうしろ。厄介ごとに巻き込まれない内に帰った方が吉だな」

 

 

 

「ああ、わかってる。………こっちの件は君に任せるぞ、ナギト」

 

 

「おうよ」と短く返す。リィンとてナギトが《鉄血の子供達》である事は知っているだろうに、それ以上を要求してくる。

 

 

………期待に応えたいとは思う。しかし、これはあくまでクロスベルの問題であり、ナギトの物語だ。リィンの意志に阿るのは、そのすべてに背を向ける事にもなりかねない。

 

 

「俺は、俺のできる事をしたいようにやるさ」

 

 

だから、そんな本音を軽口染みて言うだけだ。

 

 

 

 

 

翌朝、リィンは列車に乗ってトリスタへ帰っていった。

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