八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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最後の轟報

 

 

そこから約1ヶ月、クロスベルは動乱の時間を過ごした。

クロスベル市民の署名による解任請求が受諾されルーファス・アルバレアが総督職を辞し、実質的後釜としてヘンリー・マクダエルが市長に就任。

帝国クロスベル方面軍は解散。帝国人は本土に戻り、クロスベル人は警備隊として再編された。また軍警は警察に名前を変え人員を配置した。

 

帝国軍の一部には、この言わばクーデターの結果に不服として反旗を翻したが、これはすべてナギトが処理した。

 

《赤い星座》の襲撃で街に出た被害は帝国が補償。クロスベルに移り住んでいた帝国人は送還される事になったが、ここでも一悶着があった。

 

クロスベルが再独立を果たした事で好機と見たカルバード共和国が軍を送り込んできたが、帝国から派遣された機甲師団が撃退、クロスベルの宗主国としての立場を示した。

 

また、指命手配されていた特務支援課の処遇についても意見が割れたが、とある臨時武官の口添えでクロスベルにとって良い方向に決着したと噂もあるが、真偽の程は確かではない。

 

 

 

そして─────

 

 

☆★

 

 

「ふぅ……」

 

 

荷物をキャリーケースに押し込む。手ぶらでクロスベル入りしたナギトだったが、ここで暮らす内に荷物は増え、Ⅶ組等の知り合い用にお土産を買ったりしたためキャリーケースはぱんぱんになっている。

 

ナギトは壁掛けの時計を見上げる。

 

 

ナギトと特務支援課の決戦────否、クロスベルの再独立が認められてから約1ヶ月が経過している。

政経方面は未だ引き継ぎ期間中だが、ナギトの役目はひとまず終わり、帝国に戻る事になった。

 

そして今日がその帰還日だ。

 

 

行きは帝都から歩いて来たが、帰りは列車のつもりだった。すでに切符も予約していて、あとは帰るだけ……なのだが。

 

 

「まだちょっと時間あるな……」

 

 

忘れ物がないか等確認したが、それでもなお列車の発車時刻まで時間がある。

 

 

「飯でも食うか」

 

 

少し早めだが、ランチにする事にしたナギトは港湾区にある馴染みのラーメン屋台へと向かった。

 

 

屋台まであと数十歩というところで、背後から「ナギト」と呼び止められる。振り向くとそこにはロイドとキーアがいた。

 

 

「ようロイド。奇遇だな」

 

 

「いや、きみを待ち伏せさせてもらった。……ここにはよく噂の臨時武官殿が立ち寄るとタレコミがあってね」

 

 

「ふ」と2人は笑みを交換した。ロイドの横のキーアもにこやかに微笑んでいる。

 

 

「…お昼、まだなんだろう?一緒にどうかな?」

 

 

「そりゃありがたい。ご馳走になろう」

 

 

ちゃっかりとナギトは言って、ロイドは案内をした。到着したのは特務支援課ビルだった。

 

 

「ちょっと待っててねー。すぐつくるから!」

 

 

たたた、とキーアが厨房の方に走っていった。

 

 

「悪いな。忙しいだろうに」

 

 

「いいんだ。きみが俺たちのためにしてくれた事を思えば安いもんさ」

 

 

ロイドは椅子を指し、ナギトは大人しく着席する。

 

 

「改めてになるが……ありがとうナギト。きみとは何度も戦ったけど………それ以上に助けられた」

 

 

「よせやい。俺は俺のやりたい事をやっただけさ。クロスベルに来たのはうちの宰相閣下の命令だったが………なかなかどうして楽しかった」

 

 

クロスベルに来てからの約4ヶ月間、振り返れば楽しかったとナギトは言える。ロイドらと縁を結べたのもそうだが、アリオスとの再会にクロウの残した因縁の決着を見れたのも僥倖だった。

 

 

「そう言ってくれるとありがたいよ。できれば独立したクロスベルを観光してもらいたかったが……」

 

 

「独立宣言は年明け1月1日だったな。残念だがその前に帰るよ……年末までに帰らないと、さすがに恋人が怖いんでな」

 

 

ラウラはあれで乙女なのだ。“あれで”なんて言った事が伝わるのも非常に恐ろしいが、それでも清き乙女だ。例えナギトの帰還が遅れたところで、あんまり怒られないだろうが悲しい顔をされる想像をしただけで胸が痛いので。

 

 

「恋人がいたのか。……それなりの期間、ほったらかしにしてたみたいだな?」

 

 

「今からコエーよ。ま、優しいやつだから許してくれるだろうけど」

 

 

「ははは」と再び2人は笑い合った。ひとしきり笑い終えたところで、今度はナギトが言った。

 

 

「ロイド……おめでとう。このクロスベル再独立はクロスベル全体の戦果だ」

 

 

寿ぐ言葉は直裁に、ロイドを正面に見据えて放ったセリフは、確かに心に染み込んで。

 

 

「ああ、ありがとう。……きみが力を尽くしてくれた事は知っているよ。だから言わせてもらうと、この再独立のきっかけはやはりきみがクロスベルに来たからなんだ。……《Ω》や《アナザーフォース》、《赤い星座》……それだけじゃない、クロスベルが抱え込んでいた多くの火種も消してくれた」

 

 

「そこまで大仰な事はしてねぇよ。…………つーか結局、俺とロイドで共闘する機会なかったな」

 

 

むず痒くなったナギトは下手くそに話題を変えた。ナギトがクロスベルに来てから、特務支援課との決着がつくまではもちろん、その後の慌しかった1ヶ月間でもナギトとロイドが肩を並べて戦う事はなかった。

ランディやノエルとはこの1ヶ月の間に数回、共に戦ったがついぞロイドとは背中を預け合う事はなかった。

 

 

「言われてみるとそうだな。…だけど俺はとっくにきみと一緒に戦ってる気になってたよ」

 

 

ロイドの言葉に「ははは」と笑みがこぼれた。うれしいような、心苦しいような。

 

 

「できたよー!」

 

 

そんなところで、キーアが料理を盛り付けた皿をテーブルに届けにきた。食器も準備していざ。

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

手を合わせて声を合わせる。

 

 

「うん、めちゃうま」

 

 

ぱくぱくと料理を食べる。食事の間は小難しい話はなしだ。

いずれ食べ終わり、キーアは皿を洗いに厨房に戻り、ナギトとロイドは食後の一服をしていた。温められた緑茶が身体に染み渡る。

 

 

「悪いねぇ、ご馳走になって。そっちは忙しいだろうに」

 

 

「そうだね、正直てんてこ舞いさ。俺も休憩が終わったらまた仕事だ」

 

 

「お疲れ様です」と労いの言葉をかける。また緑茶を一口飲んで。

 

 

「ロイド……わかってると思うけど、クロスベルはここからが大変だぞ。今回の再独立……あっさり認めたギリアス・オズボーンの腹はわかんねーし、共和国──大統領サミュエル・ロックスミスもかなりの曲者。………帝国が宗主国になったからには共和国の侵攻は許さないだろうが……それもいつまで続くか」

 

 

「………ああ、わかっている。クロスベル自治州と認められながらも帝国の庇護下に入った……その事で市民の反発もあるかもしれない。タングラム門には帝国軍が常駐する事になったしな……共和国との取引も禁止されているわけじゃないが、それでもしばらくはキツい状況が続くだろう」

 

 

「うん……、まー俺が気にするような事でもないな。とにかくアレだ…負けんなよ、頑張れ」

 

 

ロイドがそこまでわかっているのなら、ナギトから言うべき事はなにもない。クロスベルは今後も苦境に立たされるだろうが、何とかやっていくだろう。

 

ナギトの軽い物言いの激励にロイドは「はは」と笑い。

 

 

「頑張るよ」

 

 

と決意を告げる。

ロイドの、クロスベルの決意を見届けたナギトは腕時計を確認し、列車の時刻が迫っている事を理解。緑茶を一気に飲むと立ち上がった。

 

 

「ゆっくりしていきてーところだけれども、そろそろ時間だ。お前ももう休憩終わりなんじゃないか?」

 

 

ロイドもまた時計を見て立ち上がる。

 

 

「そうだな、名残惜しいけどお別れの時間みたいだ」

 

 

キーアは皿拭きまで終えると戻ってきて、仕事に戻るロイドとクロスベルを離れるナギトを見送る構えだ。

 

支援課ビルを出て階段を登っていく。そこからは別行動だ。ロイドは警察署に行くらしく、書類仕事が残っていると言った。

 

 

「それじゃあロイド、またな。………この昼飯の恩はいずれ必ず返すよ」

 

 

「ふっ、きみというやつは………。わかったよ、期待して待っておく」

 

 

初対面の時を彷彿とさせるやり取りにロイドとキーアは笑っている。

 

 

「また来てね、ナギト!今度はエリィたちとも一緒にご飯食べようね」

 

 

「おっ、そりゃ楽しみだ。キーアもまたな」

 

 

ナギトは言うと、2人と目を合わせて頷きあった。

 

 

「じゃあな」

 

 

それだけ言うと、ナギトは振り返らず駅に向かって歩き出した。

ロイドも警察署に向かい、キーアは支援課ビルの留守番に戻る。

 

 

 

 

時刻ピッタリに列車は発進した。過ぎ去っていく景色にほんのわずかな郷愁を覚える。

クロスベルにいたのは約4ヶ月間という短い間だったが、それでも濃密な時を過ごしたと言える。

特務支援課との出会い、アリオスとの再会、シグムントとの戦闘……もちろんそれだけではない。結社に入った事やこの地の遊撃士との邂逅も思い出のひとつだ。

 

 

「今度は観光で来るかな」

 

 

ラウラでも連れて。結局観光スポットのひとつ、ミシュラムワンダーランドにも行っていない。ひとりで遊園地に行くほどナギトは豪胆ではないし、みっしぃのファンでもない。

 

 

しかしまあ、また来たいと思える街であるのだ。このクロスベルは。

 

 

 

明くる年、一月一日。

クロスベルは独立を宣言した。

 

独立宣言に際し、解放に尽力した英雄としてロイド・バニングスが招待されスピーチを行う事になったのだが、そこでとある臨時武官の名前が出た事がにわかに議論される事になるのだが、それはナギトは知らない話である。

 

なにはともあれ、クロスベルは正式に独立した。帝国から併合されてわずか1年後の事である。

 

 

 

こうして最後の轟報は高らかに、静かに。全世界に響いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

 

 

「…はい、私です。クロスベルの件はすべて計画通りに終わりました。結局彼がどうしてあそこまでクロスベルに肩入れしたかはわかりませんでしたが……。

………はい、そうですか。しかし……本当に良かったのですか?……クロスベルを手放して。

……いえ、そういうわけでは。

……ふ、その時には“クロスベル総督”なんて肩書きには大層な意味もないでしょうね。クロスベルを──カルバード共和国さえ呑み込んでしまえば。

…………リベールですか。ふむ、確かに後顧の憂いではありますが……いささか早計ではありませんか?

………確かに、その意味で好機ではあるかと。しかし…………

……彼、ですか…………?

………なんと、そこまで評価しているとは。彼は傑物ではありますが、匹夫の勇を貫くタイプ……“激動の時代”を阻めるとはとても……

………は?…あ、いえ。少し予想外だったもので。しかし、件の神子はもはや抜け殻という話では?

……そうでしたか。ならば、その力を使って共和国との戦争も…

……わかりました。私も微力ながら尽くさせていただきます。

 

……ええ、それでは。────ギリアス・オズボーン宰相閣下」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

The End

 

to be continued in『八葉を継ぐ者──A2── 第三部:選尽のリベール間章:平穏なるエレボニア』

 

 

 

 

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