八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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本話にて魔力という概念が登場しますが、戦術オーブメントを介して属性化した闘気とご認識ください。
たぶん今後、魔力という表現はあまり使わない…


カルバード共和国にて

 

 

ノルド高原

 

 

正確には帝国領でも共和国領でもないこの地。帝国のゼンダー門を越えたノルド高原の向こう側には共和国の軍事施設が建設されている。

 

帝国によるクロスベルの吸収合併により共和国も軍を動かす事態となっている。戦場は主にクロスベル付近だが、ここノルドでもすでに緊張感は高まっていた。

 

 

 

 

共和国の軍事施設からさらに西へ30セルジュの所に、共和国最西端の町があった。

ノルドの地にほど近いこの町は、戦争開始前夜の騒がしさに包まれていた。

 

戦争により利権を得ようとする商人がこの町に来やり、商売を始める。するとその噂を聞きつけた者も集まり出し、今や町はナギトが《剣鬼》だった頃に過ごした町とは異なっていた。

 

 

 

 

この町の町長宅のすぐ隣には支える籠手を看板に掲げた建物があった。遊撃士協会である。

 

 

 

「ふう、もう夜か……、まだ人はいるかな?」

 

 

その遊撃士協会支部の前にて佇むはナギト。ナギトの今回の目的地はここだった。

かつてウィル・カーファイとして遊撃士となり、裏で一仕事をこなした後に配属された支部。共和国の辺境、ノルド高原に近い町。

 

ナギトはゼンダー門を終点とする貨物列車に乗り、ノルド高原を下って国境を越えてこの町に到着した。ユミルを出たのは早朝だったが、さすがにノルド高原は広く徒歩で移動すれば夜までかかってしまったというわけだ。

 

 

見れば、窓明りはまだ点いていた。それでも人がいるとは限らないが、まだ営業は終わっていないという事だろう。待っていれば仕事を終えた遊撃士が帰ってくるはずだ。

 

ナギトはそう考え、扉を開ける。蝶番のキィと鳴る音を懐かしく思いながら、その支部に入った。

 

 

 

「いらっしゃい、こんばんわ。……おや、ウィルではないか。久しいな」

 

 

どこまでも平坦な声音。特に再会を祝するわけでもない、その挨拶の主人を見る。

 

 

「…どうも、お久しぶりです。……アルジュナ先輩」

 

 

声をかけてきたのはアルジュナだった。準遊撃士のウィルに、遊撃士のいろはを享受した《槍弓》の異名をとる、今やB級の遊撃士。

 

 

 

「ふむ……2年ぶりか。いろいろとあったようだが?」

 

 

 

「…はい、色々な事がありました。その中で、先輩に教わった事が役立ちました。……先輩には感謝してもしきれません」

 

 

 

 

「それほどでもなかろう。立ち話もなんだ、座るとしよう」

 

 

言って、アルジュナは二階へ登っていく。ナギトは「受付はいいんですか?」と訊くがアルジュナは「もう少しで新顔が帰ってくるからいい」と答えた。

 

 

遊撃士協会支部、二階にてテーブルを挟んで座った二人。ナギトはおもむろに頭を下げた。

 

 

「…あの時はすみませんでした。何も言わずに出ていってしまって」

 

 

「過ぎた話だ。謝る必要はない。まあ、あのあとアネラスは少しうるさかったが」

 

 

ナギトの謝罪を、アルジュナは軽く受け取った。過ぎた事だと許すその様は、記憶にあった通りだ。

 

 

「アネラスが……あいつにも悪い事をしましたね。あ、これ帝国土産です」

 

 

ナギトはそう言って土産品を渡す。中身はユミルで買ってきた菓子だ。

 

 

「受け取ろう。……さて、まだ久闊を叙したい所だが、もう夜更けだ。そろそろ店仕舞いをしないとな。ウィル、今日はホテルをとっているか?」

 

 

「いえ、とってないです」

 

 

「では、ここに泊まるといい。また明日、話をするとしよう」

 

 

 

ナギトが礼を言うのとほぼ同時に、支部の扉が開かれた音が聞こえた。聞こえてくる帰還報告の声は2つ。アルジュナが言っていた新顔だろう。

予想通りにアルジュナは「新顔が帰ってきたようだ」と席を立ち、一階へ向かう。

 

 

 

階段を降りるアルジュナにナギトは続く。

 

 

「あ、アルジュナ先輩、ただ今帰りました! …ってあれ、応対中でしたか?」

 

 

階段から姿を現したナギトを見て、元気の良い少年はそう言った。少年の胸には真新しい遊撃士のバッジが輝いている。その少年の隣に少女がいるが、こちらも遊撃士のバッジをしていた。

 

 

「いや、構わない」

 

 

アルジュナは階段から下りて立ち止まり、ナギトはその横に同じく立ち止まる。

 

 

 

「はじめまして、俺はナギト・ウィル・カーファイ。アルジュナ先輩からはウィルって呼ばれてる。一応ここに三ヶ月強勤めた事がある」

 

 

 

少年は「ウィル?……ウィル!?」と声をあげるとアルジュナに確認をとる。

 

 

「ウィル・カーファイって、アルジュナ先輩が言ってた、あのウィル・カーファイですか?」

 

 

アルジュナは短く「そうだ」と言う。どうやら、この少年の反応から察するにアルジュナはナギトの事を話していたらしい。

 

 

「会えて光栄です!あ、俺、ティーダっていいます。こっちはルカ。よろしくお願いします!」

 

 

夜更けだというのに本当に元気だな、と思いつつナギトはティーダ少年の握手に応じる。紹介された少女ルカはティーダと違って奥手なようで、ナギトを見かけてから一言も発していない。

 

ティーダは「いやぁ〜、光栄だなぁ〜」と言いながら、しかしそれをアルジュナに阻まれた。

 

 

「自己紹介が終わったなら、依頼の報告をしろ。そして今日は帰るといい。ウィルとなら明日話せばよかろう。ウィルもそれでいいな?」

 

 

ティーダはしょぼくれたように「はぁい」と返事をしてナギトも「はい」と答える。

ティーダとルカがアルジュナに依頼の報告をしているのを見て、ここでの活動を思い出す。

 

回想していたら、いつの間にかティーダとルカの報告は終わったようで「では、また明日!」とティーダはルカを連れて出て行った。

 

 

「それでは、俺も帰る。戸締りはよろしく頼むぞ」

 

 

アルジュナもそう言うと、支部を出て行った。

残されたナギトは戸締りをして仮眠用ベッドで眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

翌日の朝、目覚ましになったのはティーダの元気な挨拶だった。

 

 

 

 

寝ぼけ顔のままナギトはシャツを着て一階に降りる。ティーダはナギトを見ると、やはり元気よく挨拶する。

 

 

「おはよーございます!」

 

 

 

「おはようさんです。朝、早いな?」

 

 

 

「いえ、下っ端ですから!」

 

 

 

にしても元気過ぎるだろ、と内心で呟くナギトはティーダの影にルカを見つけた。ルカはナギトと目が合うと、小さく「おはようございます」と言う。ナギトはそれを可愛らしく思い、ティーダの時と同じように「おはようさんです」と返した。

 

 

ギルドのドアが開き、アルジュナが現れる。

 

 

 

「おはよう。ティーダ、ルカ、それにウィルも。……ウィル、お前は顔を洗ってくるといい」

 

 

 

アルジュナの忠言に従ってナギトは水道水で顔を洗い、眠気を吹き飛ばす。もう春が近いが、水道水は未だに冷水と呼んで過言ではない。朝が億劫なのは冷水を顔に浴びせなければいけないからかもしれない。

爆睡したのは昨日ノルドを横断する際に全力疾走を続けたからだろうか、なんてナギトは意味もなくそんな事を考えながらコートを着込み、アルジュナたちに合流する。

 

 

受付の横にあるテーブルを囲い、アルジュナが「さて」と話を始める。

 

 

「早速だが、今日中に片付ける依頼はこれだ」

 

 

アルジュナがテーブルに置いた紙束は、3つの依頼を示していた。

 

「あの魔獣の掃討に、軍との合同訓練……あとは逃げた牛の捜索ですか」

 

 

 

「ふむん…?」

 

 

 

ナギトはティーダとルカと同時にそれを覗き込む。

逃げた牛の捜索は、この町の牧場から逃げ出した牛がいる事からの依頼。

軍との合同訓練は、訓練というか遊撃士と兵士の手合わせ。

魔獣の掃討というのは、商談にくる商家が使う街道の魔獣の討伐の依頼。

 

 

 

「ウィルも気づいたか。魔獣討伐依頼の対象だが、ケツアルコアトルだ。2年ほど前、俺やお前が倒したケツアルコアトルがすでに子を産んでいたらしい。……気づいた時にはすでに遅く、ケツアルコアトルはこの地に根を下ろしていたというわけだ」

 

 

 

「なるほど。でも、そこまで問題視されてないって事はこのケツアルコアトルは従来の、クロスベルに生息するケツアルコアトルくらいの強さって事ですか?」

 

 

「うむ。俺が倒した強力化したケツアルコアトルや、その第一子たるお前が倒したケツアルコアトルと比べれば弱い。……ティーダでも3体同時ならば倒せるくらいだろうな」

 

 

 

「いやー、3体は厳しいですよ」

 

 

 

アルジュナは「では」と仕切り直し、依頼を分配した。

 

 

アルジュナは牛の捜索を担当し、そのままギルドの受付に入るとのこと。ウィルとティーダ、ルカはケツアルコアトルを駆逐した後に軍との合同訓練に行く事になった。

 

 

 

「よろしく頼むぞ。ティーダ、ルカも勉強してくるがいい」

 

 

「はい!」

 

 

「…はい」

 

 

 

ギルドを出発し、街道に出る。目標はケツアルコアトルの巣だ。

 

 

 

 

「そういえば、2人の得物は何かな?」

 

 

と、ナギトはティーダとルカに話しかける。ティーダは剣をルカは銃を腰に差しており、それが2人の得物だろうとあたりをつけての発言だったが。

 

 

「俺はこれです」

 

 

ティーダは言いながら剣を抜く。装飾も控えめな剣はしかし、普通の直剣ではなかった。

 

 

「法剣か。珍しいな」

 

 

 

「はい、結構扱いは難しいんですけど…使いこなせたら格好いいですからね!」

 

 

ティーダの説明が終わると、ルカが腰のホルスターから銃を抜いた。

 

 

「私は、これ。導力銃」

 

 

 

「へえ。……アーツを撃つタイプの奴だな。こっちも珍しい」

 

 

 

内戦時、トワが使っていたのがルカが持っているのと同タイプの銃だった。

 

 

 

「ルカはギルド重役の娘ですからね!結構いい装備とか融通してもらってるんです。それにルカはアーツの腕も一流ですよ」

 

 

 

ルカの事を我が事のように自慢するティーダに、「そうかそうか」と反応しながら、道を歩いていく。

 

 

 

 

「そういえば、ずっと聞きたかったんですけど、ウィルさんの遊撃士のランクって何ですか?」

 

 

 

と、ティーダは唐突にそんな事を訊いてきた。

 

しかし、ティーダの期待するような答えは返せないだろうと思いながらもナギトは答える。

 

 

 

「準遊撃士2級だよ」

 

 

 

一瞬の硬直の後にティーダは「冗談ですよね?」と聞き返す。がナギトは「マジ」と答え、ティーダはわかりやすく落胆した。

 

 

アルジュナからかつてのナギトの活躍について聞いていたのだろう、ティーダは“ウィル・カーファイ”に幻想を抱いていたのだ。

 

 

ティーダはよほどショックを受けたらしくぶつぶつと何かを呟いている。

 

 

「嘘だろ…準遊撃士相手に何を勉強しろってんだ……?でもアルジュナ先輩の話なんだから……いや、何かの間違いなんじゃ……」

 

 

 

聞こえてるぞ、クソガキ。

 

 

 

☆★

 

 

 

「見えたな。あれがケツアルコアトルの巣か?」

 

 

それから少し歩いた所で、ナギトはケツアルコアトルの巣らしきものを発見した。2人に確認すると、やはりそのようだ。

 

 

「だけど、まずいな……」

 

 

ティーダは呟く。巣には、ケツアルコアトルが所狭しとひしめいていた。

 

 

「おかしい……この時間はもうほとんどのケツアルコアトルがどこかに行ってるはずなのに」

 

 

作戦はこうだった。

起床してケツアルコアトルが街道に出たのを見計らって巣を制圧。ケツアルコアトルが帰ってきたのを確認して巣ごと爆破してケツアルコアトルを殲滅する。

 

しかし、今のようにケツアルコアトルが巣から出ていなければ、巣に爆薬を設置するという前提が果たせない。

 

 

「まあ、こうなってる以上、このままでやるしかないだろ」

 

 

ナギトはそう言うと、太刀を抜いた。

 

 

「ちょっ!無謀だって、ウィルさん!ケツアルコアトルはそこらの魔獣とは違う!準遊撃士が敵うような相手じゃない。それも20体以上いる!」

 

 

 

「20体どころか40体はいるよ。……大丈夫だ、安心しろティーダ。俺は確かに遊撃士としてのランクはお前に劣るだろう。遊撃士としての技量も。だけどな、アルジュナ先輩はそれでもお前とルカに勉強してこいと言った。遊撃士として俺に勝るお前たちが、俺に何を学ぶ? ……純然たる戦闘力だよ。ティーダ、ルカ、見て学ぶがいい。これが、俺からお前たちに贈ることができるただひとつのものだ」

 

 

 

ティーダは止まった。準遊撃士の無謀を制止しようとは思わなくなった。

なんだこれは。なんだこの安心感は。これではまるでアルジュナ先輩に守られている時のような……

 

 

ナギトがゆっくり近づいていくと、ケツアルコアトルは気づき侵入者を取り囲む。

 

その数、7体。自分とルカのコンビですら勝つのは難しいとティーダは思う。しかし当のナギトは、そんな中で大した脅威を抱いてはいないように見えた。

 

 

ナギトは剣を地面に突き刺したかと思うと、クラフトを発動させた。

 

 

 

「幻造」

 

 

 

呟いた瞬間、ナギトの力は太刀を伝って大地に流れ込み、ケツアルコアトルの真下まで行くと、そのまま刃を型作りケツアルコアトルを刺し貫いた。串刺しという表現が最も正しい。

ティーダやルカからは地面から特大の刃が生えたように見えただろう。

 

 

ナギトが太刀を地面から抜くと同時にケツアルコアトルを串刺しにした刃も消失し、絶命したケツアルコアトルはそのまま倒れ伏す。

 

 

「んな、ぁ…」

 

 

「すごい……やっぱり……」

 

 

呆然とするティーダ、呟くルカ。2人を尻目にナギトは納刀して、ニヤリと笑ってみせる。

 

 

 

「撃破完了だ、先に進もう」

 

 

 

 

 

 

ナギトの実力を目の当たりにして騒ぐティーダを引き連れ、ケツアルコアトルの巣で大暴れする。

ケツアルコアトルの殲滅が終わったのは、それから20分後の事だった。

 

 

 

「いや〜、すごいっすね、ナギトさん!まさかあんなに強いなんて!そんなに強くてなんで準遊撃士なんて立場に甘んじてるんですか?」

 

 

 

 

「うんまあ、事情があってだね」

 

 

 

興奮も冷めやらぬティーダを落ち着かせていると、すぐに共和国軍基地に到着した。

 

 

衛兵に事情を説明して中に通して貰い、基地の司令を名乗る人物と話をする。

 

 

 

「遊撃士協会の者です。依頼と聞いて参上した次第ですが!」

 

 

 

遊撃士としてのランクが高いティーダを筆頭としてナギトたちは司令と話す。

 

 

「ふむ、よく来てくれた。……しかし《槍弓》殿がいないようだな。………これは少々目論見が外れたかな」

 

 

 

「アルジュナ先輩は今日は別方面で動いてまして……俺たちじゃ不足ですか?これでもそれなりに場数は踏んでるんですけど」

 

 

 

「いやいや、そういうわけじゃないんだ、気を悪くしたなら謝る。ただ事件の少ない僻地においてB級にまで成り上がった《槍弓》のアルジュナが来てくれていれば、私も立ち会わせてもらおうかと考えていた所だったんだ」

 

 

事件の少ない僻地。ノルド高原を挟んで帝国と面するこの地では、遊撃士が活躍する場面は少ない。首都のように毎日、大小の事件が起こる場所ならばアルジュナはすでにA級になっていてもおかしくないとさえ言われている。

 

その時、ルカがナギトにそっと呟いた。

 

 

「…あの人、《雷撃》の異名を持つ大物」

 

 

ナギトはそれに「そうか」と返す。なるほど道理で隙がないわけだ。

 

 

 

「ところで、君たちの遊撃士のランクはどれほどかな?そこの君はバッヂをつけてないようだが」

 

 

 

と、そこで《雷撃》の司令はナギトを見る。ナギトははっとして、それから「HAHAHA!」と大仰に笑った。

 

「こりゃ忘れちまいましたね。遊撃士としてのランクは一応、準遊撃士2級です」

 

 

「…準遊撃士1級、です」

 

 

「俺は正遊撃士G級です」

 

 

 

「準遊撃士が2人に、正遊撃士なりたてが1人か。……ふふ、雛鳥と呼んで相違ないな。よし、ではこちらも相応の者を当てよう」

 

 

 

司令は新人数名を呼ぶと、そいつらをナギトたちにあてがわせた。

 

 

 

「ふーむ、じゃあ俺は先輩方の活躍を見せてもらいましょうかね。ティーダ先輩、ルカ先輩、先鋒は頼んます!」

 

 

ナギトはおどけると一歩下がった。出て来たのは4人。ティーダとルカと比べるといくらか見劣りする。自分は必要ないだろう。

 

 

司令もそれで承知し、兵士4人vs遊撃士2人の試合が始まった。

 

 

 

「速攻!」

 

 

いの一番に飛び出したのはティーダだった。法剣を振るい、そのギミックに驚いた兵士たちの武器を、ルカが狙撃して弾き飛ばす。

 

兵士は1人が壁となり残る3人がその間に武器を拾う。壁となった兵士1人はティーダにより失神した。

 

武器を拾った3人は、しかしその地点が危ういとは知る由もない。

 

 

ルカのオーブメントの駆動が終わり、アーツが発動する。

 

 

 

「エアリアル」

 

 

 

緑風は竜巻となり、兵士3人を飲み込む。巻き上げられた兵士たちは、なす術もなく戦闘不能となった。

 

 

 

 

「さすがにやるな、遊撃士。連戦でも大丈夫かい?」

 

 

司令は部下たちが活躍する事もなく敗北した事に驚きながらも、次の兵士たちを呼び出した。

呼び出された兵士は3人。さっきのが新人だとしたら、次は中堅クラスの兵士だった。

ティーダとルカでなんとかやれるかどうかのギリギリの瀬戸際な強さだ。

 

 

 

「ばっち来い!です!」

 

 

「……ばっちこーい」

 

 

 

ティーダの返答にルカも同調する。

 

 

 

「よろしい!では試合開始だ」

 

 

 

 

 

 

「ほいやー、頼んだよー」

 

 

先手を打ったのは、やはり遊撃士2人だった。

ルカがフォルテとクレストのアーツをティーダに施し、攻撃力と防御力の増したティーダはそのまま突貫する。

 

 

 

「任せろ!」

 

 

 

ティーダは掌から刀身に魔力を流す。刀身は4つの色に輝き始めた。

 

 

 

「器用だな」

 

 

火、水、風、土の魔力が均等されて法剣に纏われた。

 

 

ティーダは法剣を伸ばさずにそのまま走り、兵士の1人とぶつかった。残る2人の兵士がティーダに銃口を向けるが、ルカの狙撃により銃を取り落す。

兵士2人が一瞬、ルカに視線を奪われた隙にティーダは兵士1人との勝負を決する。法剣の4色の魔力が爆発して兵士を戦闘不能に追いやった。

 

残る兵士2人が剣を抜き、ティーダに襲いかかる。ルカが銃撃で気を逸らそうとするが、それには1人が対応し、兵士1人の素早い踏み込みにティーダは反応し切れずに傷を負った。

 

 

 

「くっ、この!」

 

 

兵士と距離を取ったティーダは気を高めると法剣を振り、刃を宙空で切り離し操る。

 

 

「これで決める」

 

 

法剣の刃は兵士2人を取り囲んで踊るように舞う。

 

 

「刃よ、七曜に染まれ!」

 

 

法剣の刃はやがて七色を纏い、兵士たちとの間隔を詰めていく。

 

 

 

「七曜剣舞!」

 

 

宙空を舞う刃は、やがて兵士たちを切り刻んだ。

 

 

 

戦闘終了。

 

 

 

 

 

「こいつらまで倒すとはな。さすがという他ない。しかし、次はどうだ?」

 

 

司令はそう言うとまた新たな兵士たちを呼んだ。数は先程から減って2人だが、その2人がティーダとルカと同等以上に強い。ティーダとルカが万全でも苦戦は必至だろう。

 

 

 

ティーダは「ばっち来い」とまだ言うが、先程の試合ですでに消耗している。ルカはまだ戦えそうだが、万全には程遠い。

 

 

「いや、俺が変わるよ。先輩方は休んでて」

 

 

 

ティーダは何か言おうとしたが、自分の状態を顧みて踏み止まり、ルカもそれに倣い、退がる。

 

 

「…わかりました。というか、先輩はやめてくださいよ」

 

 

ナギトは「あいあい」と返事をしながら、ティーダたちとバトンタッチする。

 

 

 

「というわけで、次からは俺が相手をします」

 

 

 

 

「いいだろう、準遊撃士殿。大丈夫か?とは聞かなくても良さそうだな、先程から全く隙がない」

 

 

 

司令は二つ名持ちなだけはあり、ナギトを階級だけでは判断せずに不敵に笑った。ナギトの実力を測るつもりだろうか。

 

 

 

「お前ら!負けたら5セット追加だ!」

 

 

 

司令は出て来た兵士2人に檄を飛ばす。兵士の顔が面白いほどに曇ったのは、5セットとやらがひどくきついからなのか?筋トレ地獄といったところだろうか。

 

兵士たちが返事をして、試合開始。

 

 

 

5セット追加の脅しが余程効いたのか、兵士たちは開始早々全力を発揮する。

 

 

1人がライフルを連射しながらグレネードを放り、もう1人は舞い上がった砂塵の中に切り込む。

 

 

が。

 

 

手を一振り。

 

ナギトがそうしただけで、砂塵は風に巻かれて散じていく。晴れた視界には剣を構えてくる兵士が。

 

剣を振りかぶる兵士に肉薄し、手を捻り上げながら押し倒し、剣を奪う。無刀取りだ。

 

 

 

未だに銃を連射する兵士の視界から外れ、ナギトは剣を一振りして孤影斬でその兵士を戦闘不能にする。

無刀取りをされた兵士は立ち上がるも、足払いを喰らい、剣を眼前に突きつけられた。

 

 

 

 

試合終了だ。この基地でも最高練度の兵士が、何も出来ずに敗北した。相手は武器すら抜いていないのに、だ。

その事実に《雷撃》は笑った。強き者よ、我と試合えと。

 

 

 

「こやつらを相手にせぬとはな。いやはや全く大したものよ。ではこの私とも試合って貰おうか」

 

 

 

 

《雷撃》の司令は気が高ぶっているようで、言葉遣いはおそらく普段と同じものになっている。

 

ナギトはその申し出に快く応じ、2人は試合うことになった。

 

 

 

「ヴォルグ・レイサンダー。《雷撃》と呼ばれている。君は何者かな、準遊撃士殿?」

 

 

 

剣を構える前に《雷撃》の異名を取る司令、ヴォルグ・レイサンダーは訊く。眼前の、見た事もない強者の正体を。

 

 

 

「八葉一刀流、二代目継承者 ナギト・ウィル・カーファイ」

 

 

 

 

「ほう、かの八葉の使い手であったか。しかも二代目とは!あの《剣仙》がそれを許すほどの相手ならば、不足なし!」

 

 

 

ヴォルグはさらに高ぶり、剣を抜き放った。

 

 

 

「さあ、試合おうぞ、八葉の剣客よ」

 

 

 

ビリビリと感じる気迫を前にナギトは太刀を抜いた。無手でやれば怪我をする相手だ。なるほど共和国軍の大物という評価は間違っていないようだと実感する。

 

 

 

「いざ、参る」

 

 

 

開戦の合図は、その声だった。

 

 

 

 

 

 

2人の姿が、消える。

 

刹那の後に、中央で火花が散る。

 

 

「ふっ、よもや我が雷速と同等のスピードとはな!」

 

 

《雷撃》は笑い、ナギトはそれに薄く微笑んで返す。

 

 

一瞬の鍔迫り合いの後、またしても2人の姿が消え去り、今度は金属の衝突音だけが場に響く。

 

一合、二合、三合………………やがて埒が明かぬと2人は悟り、互いに大技に取り掛かる。

 

 

 

「剣鬼七式、三ノ太刀」

 

 

 

瞬間的に太刀に装填された闘気を解き放つ。指向性を絞ったそれは。

 

 

 

「破空 : 突」

 

 

 

「雷轟!」

 

 

 

ヴォルグは、極大の雷をたった一本の剣に封じ込めた。一振りのもと放たれる雷撃は、まさしくあらゆるものを灰燼に帰するだけの力を秘めているだろう。

発想はナギトの“神鳴刃”とよく似ている。しかし、ヴォルグの方がより雷の力の理解度が高く、威力はナギトの“神鳴刃”より上だった。

 

 

 

 

まずったな、とナギトは思考する。軍基地やヴォルグへの被害を考えて“破空”を選んだが、威力で押し負けている。

ヴォルグの“雷轟”の威力も“破空”でかなり相殺されていて、このまま受けてヴォルグに花を持たせる事も脳裏を掠めたが、覆せる敗北を受容するほどナギトはまだ大人ではない。

 

 

 

「超過式」

 

 

太刀に貯蔵していた闘気を解放して8つに収束させる。

 

 

「八卦覇掌」

 

 

8つの闘気の塊は“雷轟”を打ち消すと、そのままヴォルグを打ちのめした。

 

 

ぶっとんで、二転三転。一息の間があってヴォルグは事もなげに上体を起こした。

 

 

「……まいったな。まさか、こんなに力の差があったとは」

 

 

 

ヴォルグは両手をひらひらと上げて降参の意を示す。

 

 

 

「いやぁ、見誤りましたよ。奥の手使っちゃいました」

 

 

「はっは!八葉の剣聖にそう言われると俺も少しは立つ瀬があるってもんだ!」

 

 

「剣聖ではないんですがね」と言いながらヴォルグの手を取って立ち上がらせる。試合はナギトの勝利で終わった。

 

 

☆★

 

 

 

“ケツアルコアトルの掃討”、“軍との合同訓練”が終わり、ナギトたちは帰路につく。やがて町に着いた頃には昼を過ぎていた。

 

 

「おかえりだ、3人とも。首尾はどうだ?」

 

 

迎えてくれたアルジュナに依頼は完了したと報告し、昼食タイムに入る。

 

 

 

「そうか、あの《雷撃》に勝つとはな。さすがだ、ウィル」

 

 

 

「いえ、あの《雷撃》さんもかなりの使い手ですよ。さすがは共和国将校と言うべきか」

 

 

 

アルジュナはそこで「ふむ…」と真面目な表情を見せた。

 

 

「ウィル、ここ2年は帝国にいたそうだな。帝国の情勢はどうなっている?ここが戦場になる可能性はあるか?」

 

 

「難しい質問ですね……先の内戦で、革新派と勢力を二分していた貴族派は力を失いました。ヘルムート・アルバレア、クロワール・ド・カイエン…帝国最大の貴族である2人が逮捕された形となります。残された貴族たちも立て直しを図るでしょうが、あと一年は革新派……ギリアス・オズボーンが好き勝手やるでしょう」

 

 

「《鉄血宰相》か……、テロリストに撃たれたと聞いたが、まさか生きていたとはな」

 

 

 

「それは俺も驚きですよ。不死身じゃないかって噂もあるくらいです。

それで、この地が戦場になるかどうか、でしたか。 …正直な話、わかりません。だけど、ここから南下した所にはクロスベルがある。共和国がここからクロスベル攻略に乗り出すつもりなら、ノルド高原で帝国とぶつかる事はあるかもしれません」

 

 

 

「なるほど、そういう見方があるか。………ふむ、恐ろしいものだな」

 

 

 

淡々と言うアルジュナに「そうは見えないんですけど」とツッコミを入れたのはティーダだった。

「そういえば」とアルジュナが話を変える。

 

 

「ウィルと仕事をしてどうだ?勉強になったか?」

 

 

「ウィルさんが強過ぎて全然勉強になりません!」

 

 

即答したティーダ。ルカは苦笑いするのみだ。

 

 

 

「そうか。……どうやらこの2年で腕を上げたようだな、ウィル。どうかこの俺と手合わせしてもらえないか?」

 

 

 

 

アルジュナからこう言った申し出があったのは初めてだった。

かつてナギトがケツアルコアトルの幼体を撃破した後、八葉一刀流の使い手であると話してから手合わせのチャンスはあったが、しようという話はなかった。

今はいない受付を担当していた人物とアルジュナの会話を覚えている。

受付の「どうしてウィルと試合でもしないのか?」という問いに対してアルジュナは「今の俺では歯が立たないからだ」と答えた。

 

ならば、手合わせを申し込んできた今なら、ナギトにその槍が届くと?

 

 

 

ナギトはその申し出を受け、席を立つ。

 

 

「いいですよ、やりましょう」

 

 

 

ナギトとしても、強者との手合わせは心踊るものがあった。

 

 

 

 

 

 

いつか、《剣鬼》と《不動》が立ち会った場所にて、ナギトとアルジュナは試合う事となった。

 

 

 

 

 

ティーダの「始め!」の合図にアルジュナはまず弓を手に取った。

 

 

 

「ウィルよ、お前もこの2年で強くなったのだろう……かつてとは違う圧をお前から感じる」

 

 

 

 

「……謙遜なしで言って、武の位階を上がりましたからね。2年前の、剥き身の剣のような感じじゃないでしょう」

 

 

 

 

「ふむ、まさしく。今のお前は剣の極みにいるのだろう。活殺自在という所か。しかし、お前が強くなったように、この俺もまた強くなった。………遊撃士としての先達からの忠告だ、ウィル。慢心を捨てよ。でなければ我が武具はお前のはらわたを喰い千切るだろう」

 

 

 

アルジュナは偽りを口にしない。いつも正しく、真実を語る。

2年前のアルジュナは、強くなかった。所謂達人の域に到達してはいなかった。だが今ならどうだ?達人の如き強さを得て、その精神ならば。

アルジュナは真性の英雄たりえるのではないか?

ナギトは内戦時の自問を思い出す。“正義の味方とは?”

それはおそらく、アルジュナのような人物だ。

 

 

 

 

 

 

瞬間五射。

 

矢が放たれる。旧世代の武器であるはずの矢は、近代科学を凌駕していた。

アルジュナが矢を番えたかと思えば、次の瞬間には矢が眼前にあった。

 

叩き落とすという選択肢を捨てて、回避する。

 

 

───速い。

 

 

 

矢を躱したナギトを、次の矢が襲う。

回避地点まで読んだアルジュナに感嘆しつつ、ナギトは太刀を抜く。

 

師に「剣は抜かずとも良い」と言った手前、あたり抜きたくはないが、このレベルの相手に得物なしというのは酷な話だ。

 

 

迫り来る矢を斬り落とし、矢の異常な速さの正体を知る。

 

 

雷の性質に変化した魔力が付与されていた。

なるほど、道理で。とナギトは納得する。これならば《雷撃》の彼や自分の“迅雷”のようなスピードも理解できる。

 

タネがわかれば簡単な話だが、これは嫌な相手だ。アルジュナは身体も雷の力でスピードアップしているのだろう。降り止まぬ矢の雨がその証拠だ。近づくことすらままならない。

 

 

だが───、

 

 

一矢一矢に込められている雷の魔力は多くない。スピード重視のため魔力を纏わせる時間すら惜しいのだろう。

であるならば、矢が貫けぬほどの鎧を纏えば接近は容易。しかし、一瞬でなければならない。アルジュナが矢に込める魔力を多くすればナギトの鎧など容易く打ち破るだろうからだ。

 

 

 

ナギトは己が身に闘気の鎧を纏う。

 

 

刹那の時間すら挟まずに脚力を爆発させる。迅雷。

 

 

雷の速度で以って迫るナギトはしかし、アルジュナの動きも雷速であると知っていながらにして、注意できていなかった。

 

 

 

ナギトの“迅雷”による刃がアルジュナに届く前に、火炎を纏ったアルジュナの槍がナギトの顔面に迫っていた。

 

 

顔を反らしながら着地し、火炎を爆発させて次撃を防ぐアルジュナから距離を取る。

 

 

「甘く見るな。未だその太刀筋には慢心が見える」

 

 

ナギトは傷を確かめながら苦笑いする。

アルジュナの槍はナギトの頬を薄く切っていた。槍が火炎を纏っていたおかげで出血はないが、これは傷が残るのではなかろうか?

 

 

と、そこでナギトは自責する。こんな思考が慢心なのだ。

もっと集中しろ、俺。これが試合だと侮るな。

 

 

 

 

“雷躯来々”でナギトは雷を纏う分身を発生させる。

分身に一斉に襲い掛からせようとして、アルジュナが槍を地面に突き立てた。

 

 

「炎神よ」

 

 

 

それを中心に火炎が広がり、分身を燃え散らせる。ナギトは焼かれまいと距離を取り、それが失策だったと知る。

 

 

 

「、吼えろ」

 

 

炎神よ、吼えろ。

 

 

そう言ってアルジュナは、槍の穂先に莫大な炎の魔力を集中させる。

 

 

 

 

「雷神よ、猛れ」

 

 

 

雷神よ、猛れ。

 

 

 

そう言ってアルジュナは、膨大な雷の魔力を纏う弓に槍を番えた。

 

 

 

 

 

「灼き尽くせ」

 

 

 

 

そして、槍は矢となり放たれた。

 

 

 

 

双神の咆哮(デュアル・ロア)!」

 

 

 

 

 

 

 

熱を帯びた槍は周囲の空間を溶かしながら、雷の速度でナギトに迫る。

躱せはしない。防御は溶かされる。ならば、迎え撃つのみ。

 

その槍を、炎を、斬り裂くのみ。

 

ナギトの太刀が光を纏う。

 

これこそは双交剣派(ダブルブランド)──八葉一刀流 X アルゼイド流の剣技がひとつ。

 

 

「龍洸撃!」

 

 

 

“龍洸撃”と“双神の咆哮”が衝突する。

 

衝突の刹那、ナギトは押し負けている事に気付く。

自分の剣技が力負けするのも癪だが、ここで敗北するよりはずっといい。

 

 

ナギトは力の入れ方を変える。“双神の咆哮”を正面から受け止めるのはやめて、その下からすくい上げるようにして槍の軌道を逸らした。

 

 

 

上方に跳ね上がる槍。これでアルジュナは槍という武器を失い、これをナギトは勝機と見定める。

 

 

 

 

アルジュナは弓を構えたかと思うと、槍を射る。一射、二射、三射、四射、五射。

射られる度に槍は弾かれくるくると宙空を舞い、アルジュナの手に戻った。

 

 

 

神業にナギトがポカンとしていると、アルジュナは「ふ」と笑い、再び槍を構えた。

 

 

 

 

「ただの曲芸だ、気にするな。……それでは、幕引きといこう」

 

 

アルジュナは槍を握る手に力を込める。すでに“双神の咆哮”で体力を消費した以上、長期戦は不利だと踏んだのだ。

 

ナギト「いいでしょう」と不敵に笑い、さらに気力を高めていく。

 

 

 

 

裂帛の気合を発揮したアルジュナが槍に全力を預けて突撃する。

ナギトも呼応するように太刀に渾身の力を込めて突進する。

 

 

 

一瞬の交錯の後、立っていたのはナギトだった。

 

槍はアルジュナの手を離れ地面に突き刺さり、膝を折ったアルジュナにナギトは剣を突きつける。

 

 

 

「……俺の負けか」

 

 

 

アルジュナの宣言にナギトは太刀を鞘に納めた。

アルジュナは「ふぅ」と一息吐いて立ち上がり、槍を回収しながらナギトを見る。

 

 

 

「わかってはいたが、やはり負けたか」

 

 

 

どうやらアルジュナはこの敗北を予期していたらしい。

 

 

「8:2で負けるだろうとは思っていたんだがな、己が力を試したかった。許せ」

 

 

ナギトが「構いません」と言うのと同時にティーダが騒がしくしながらやって来る。「ナイスバトルですお二人ともー!」と白熱した様子のティーダを宥め、全員で支部に戻る。

 

遊撃士の仕事は、午後からも忙しくなりそうだった。

 

 

 

☆★

 

 

 

 

 

その日の夜、ナギトは支部のベッドの上で、自らの力の衰えを噛み締めていた。

 

 

ナギトは、記憶を失ったその日から今日までに、強くなった。しかし、同時に衰えてもいるのだ。

それは精神的なものではなく、単純に肉体的な話だ。

 

 

かつて、この地で蛇の執行者たちを退けた時ほどの力を、今のナギトは有していない。

 

力は衰え、速さは翳り、技術は拙く。

 

ナギトは思考する。

果たして、今の自分なら《剣帝》に勝てるだろうか?

2年前は肉体面には同等だったが、精神面で敗北していたがために負けた。しかし今なら?精神面では絶大な強さを得たが、肉体面はいささか衰えた。

 

……………解は出ず、ナギトは来訪者に声をかける。

 

 

 

「夜這いか?」

 

 

 

 

「そんなわけがないでしょう。起きてたんですね」

 

 

暗闇から姿を現したのは、昼間とはうって変わって堂々とした態度のルカだった。

 

 

 

「そりゃあな。というか、わかってたんだろ」

 

 

 

「ええ。支部が施錠してありませんでしたから。あなたに限って今日たまたま施錠し忘れた、なんて話はないでしょうし」

 

 

つまり、ナギトは今夜ルカが来るとわかっていて支部の施錠をせず、ルカはそれを知ってナギトが就寝していないことがわかっていた、ということだ。

 

 

「ねえ、《剣鬼》さん?」

 

 

ルカはくすくすと笑いながら、ナギトに話しかける。

ナギトはその呼び方を聞いて、ルカの正体に思い至る。

 

 

 

「ロズワール・アルテリーヴォという男を覚えているかしら?」

 

 

覚えているのか?という問い。しかしナギトはその名に覚えはなかった。人の名前を忘れ易い質ではないのだが。

謎だ、とナギトは首をかしげる。

 

 

 

「覚えてないのね。……まあ、一回顔を合わせただけだから仕方ないのだけど」

 

 

ルカは「やれやれ」と肩をすくめる。

 

 

「2年程前かしらね。この地で準遊撃士に甘んじていたあなたに仕事を持ってきた男よ。“裏”のね」

 

 

 

ナギトはそこまで言われて、ロズワールという人物の事を思い出す。

 

 

「ああ、あの人の事か。“蛇を駆逐せよ”だったか。いやあ、名前は知らなかったもんで」

 

 

表の方では観光案内、という名目でナギトを雇った、あの男だ。

 

 

「それで君は……そのロズワールさんの親族なのかな?」

 

 

ニヤリ、といつものように笑ってナギトが訊く。確信を匂わせるその笑みにルカはまた肩をすくめた。

 

 

 

「さすがに察しがいいわね。そう、ルカテリーナ・アルテリーヴォが私の本名」

 

 

 

ナギトはそれを聞いてから間髪を入れずにまたニヤついたままに発言する。

 

 

 

「んで、君は俺の意思確認に来たって所かな?」

 

 

 

ルカ──ルカテリーナは、今度こそ瞠目した。

 

 

 

 

「……さすがにそこまで察しがいいと気味が悪いわね。……確かに、意思確認が今回の目的よ。だけど、そこまでは私の仕事じゃないわ。

私の仕事は、あなたをレマン自治州の遊撃士協会本部まで連れて行く事。同行、お願いできるかしら?」

 

 

 

ナギトは「なるほど」と納得する。確かに《剣鬼》とまで呼ばれた奴に、裏遊撃士を続けるか否かを問いただすのだ。自分たちの本拠地でやりたいと思うのも無理はない。

 

続ける気がないのであれば、ここでルカテリーナを斬ればいいだけの話だ。

それが答えとなるが、しかし……

 

 

 

 

ナギトは「ふむふむ」と思案を巡らせた後、言った。

 

 

 

「わかった、行くよ」

 

 

 

 

ルカテリーナは安心の溜息を漏らし、低頭する。

 

 

「ありがとう」

 

 

 

ナギトは「気にするな」と言いながらルカテリーナの頭をポンと叩く。

 

 

「さて、それじゃあ行くか。今からだろ?移動手段は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしてナギトは、レマン自治州へ飛ぶ。

 

 

 

☆★

 

 

 

 

「あっ……と、ちょっと忘れ物」

 

 

支部を出る寸前、ナギトが思い出したように受付の裏の戸棚を調べる。

 

 

「あったあった」

 

 

 

取り出したのは遊撃士の証たるバッジだ。

 

 

 

「バッジ、ですか」

 

 

というルカテリーナの問いにナギトは短く「うん」と答える。バッジを懐に仕舞うと「よし、行こう」と言った。

 

 

 

 

どうして今更バッジなんか、と聞きたげなルカテリーナの表情を察してナギトは先回りして答える。

 

 

「これは、筋を通した証にもなるからな。まあ、俺の精神衛生上の問題だから、気にするなよ」

 

 

それと書き置きで“用事ができたので去ります”という旨の文章を綴っておく。

 

 

2年前、バッジと置き手紙を残して逃げた自分を思い出す。

たった1日の手伝いでは、逃げた過去の清算なぞできるわけもなし。しかし、それでも筋は通したつもりだ。

 

トールズを卒業してからの旅は、そういった自己満足の軌跡だ。

 

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