八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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イベント開始!

 

 

 

「───というわけで同窓会をします!」

 

 

ナギトは宣言した。アルゼイド子爵邸、居間での事である。

 

在席するメンバーはラウラ、フィー、サラにナギトを加えた4名。レグラムにいるⅦ組メンバーである。

 

ナギトの言う同窓会とは、オズボーン対策を練ろうぜ、という会の開催を意味している。昨日、遊撃士協会支部でフィーとサラに語った通りにラウラに説明してナギトはそれを同窓会と称した。

 

 

───“「あんた、みんなで集まって騒ぎたいだけでしょ」”

 

───“「うるさーーーい!」”

 

 

というサラとのやり取りがあった事は伏せる。図星かと言われればそうだ。が、オズボーン対策も本当だ。

 

 

「ふむ……事情はわかった。私も気がかりだったゆえ、対策会の開催には賛成だ」

 

 

「同窓会ね」

 

 

少なくとも名目は“同窓会”だ。

当然、ラウラもナギトの事情については共有されていたらしく、気にしていたようだ。

 

それでも臆せずクロスベルでは協力して、かつそれに口を挟まないあたりナギトへの信頼が篤いと見える。これはクロスベルに突撃訪問したリィンにも同じ事が言えた。

 

 

「議題は俺の事だけに限らないしな。今後俺たちⅦ組がどう動くか───そういうのも含めて“オズボーン対策会議”…もとい同窓会を開こうと思ったわけだな。ひとりじゃどうにもならない事でもⅦ組が集まれば何とかなりそうな気もする」

 

 

「その体のいいメンバーの集め方が同窓会ってわけね。場所はどこでやるつもり?」

 

 

サラの出した疑問にナギトはすでに回答をもっていた。

 

 

「帝都──と言いたいですが。ユーシスの家がベターでしょうね」

 

 

「ん、帝都は敵の本拠地だしね」

 

 

「内戦で敗れて力を落としたとは言え四大名門……間者の入り込む余地はないか」

 

 

「その通り」とフィーとラウラの補足を肯定する。

 

 

「あんた、食事代とか色々浮かす気でしょ」

 

 

ぎくり。サラの追及は的を射ていた。同窓会を開くにも金がかかる。しかし大貴族の級友の実家であれば、そこらへんはユーシスが融通を利かせてくれると思ったのも事実だ。

 

 

「はっはー、持つべき者は大貴族のクラスメイトですね!」

 

 

そんなふうに嘯いて、そこから同窓会を開くまでのプロセスを打ち合わせた。

 

開催時期は3月。男子メンバーはナギトが、女子メンバーはラウラが招待状を直接手渡す事に決定した。

通信で連絡を取ろうにも傍受される危険性があるし、なによりメンバーの数人はそもそも無線での連絡ができない地域に居を構えている。

 

 

「これ俺が大変だな」

 

 

東はガイウスを訪ねてノルド高原、西はクロウを訪ねてジュライ特区へ。エレボニア帝国を横断する旅路になる。

 

しかしひとまずはその方向で話は決着し、ナギトはレグラムを発つのだった。

 

 

☆★

 

 

ナギトがまず向かったのはノルドだった。級友ガイウスを訪ねてみる事にしたのだ。

 

早朝にゼンダー門に到着したナギトが徒歩(ダッシュ)でノルドの集落に着いたのは夕刻だった。

 

 

ノルド高原東部の湖畔に隣接する集落。内戦以降は帝国と共和国の緊張感も相まって、ここから居を移動させずにいるらしい。

 

 

ナギトが集落に入ると、ちょうど羊の世話をしているガイウスと遭遇した。

 

 

「よっ、ガイウス」

 

 

「驚いたな。久しぶりだ、ナギト」

 

 

ガイウスは落ち着いた様子でナギトを迎え入れる。この雄大な男は、最後に会った時より数倍デカく見えた。

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

ガイウスの成長ぶりに驚いているナギトだったが、気を取り直してその当人からの問いに答える。

 

 

「悪いな突然来て。別に急ぎの用件でもないんだ。事前に連絡入れたかったけど、ここは圏外だからさ」

 

 

「ナギトならいつでも歓迎だ。……何やら話があるみたいだが、今から夕餉だ。良かったら我が家のゲルで食べないか?」

 

 

「おっ、悪いねえ。確かに話は後からできるし、ご相伴に預かっちゃおうかな」

 

 

そして、さも当然のようにナギトはウォーゼル家の夕食に招かれる事になった。父親ラカンをはじめとしたウォーゼル家の人間は皆ナギトを快く受け入れてくれた。

 

 

「それで、話とはなんだ?」

 

 

夕餉の後、ゲルの中で円形になって茶を飲むウォーゼル一家はやや緊張した面持ちでナギトに尋ねた。

 

 

「ああ、そんな大した話じゃないのでそう構えず」

 

 

ナギトは茶を飲んでにこやかに告げる。しばらくクロスベルで1人飯ばかりだったから、この家族のあたたかさが胸に沁みている。

 

 

「実はさ、同窓会を開こうと思って。3月にする予定なんだけど……ガイウスは来れそうか?」

 

 

「同窓会か。その招待のためにわざわざノルドまで来たのか?」

 

 

「さすが鋭いな」

 

 

単に同窓会へのお誘いなら招待状を送れば済む話だ。しかし、こうして自ら赴くあたり事情があるのだとガイウスは看破していた。

 

 

「………俺の話は聞いてるだろ?その件についての対策をしようってのが本分でな」

 

 

「ああ……アリサから聞いてる。そうか、わかった。3月だったな、その同窓会…参加しよう」

 

 

あえてぼかして言ったナギトにガイウスも同じように応える。

ナギトが《鉄血の子供達》である事はウォーゼル一家にまでは共有されていないように見えた。

 

 

「そうかそうか、良かったよ。断られたらどうしようかと。……そんじゃあこれ、招待状ね」

 

 

「ああ、わかった」とガイウスが受け取り、ひとまず本題は終わった。

 

そこからはしばらく団欒の時間となり、ナギトはその日はノルドの集落で一泊する事になるのだった。

 

 

☆★

 

 

一宿一飯の恩を受ける事になったナギトは何か仕事はないかと集落を回る事にしたのだが、役に立てそうな荒事もそうありはしない。

 

 

「うーん、参ったねこりゃ」

 

 

恩を受けっぱなしというのはあまり落ち着かない。ただでさえナギトは前にこの集落に世話になっていたのだ。

 

 

「ふふ、落ち着かない様子だなナギト」

 

 

そんなナギトを見かねてかガイウスが声をかけてきた。

 

 

「おーガイウス。何かない?」

 

 

「ないな」

 

 

すげなく恩返しのチャンスを不意にされる。そもそもチャンスなんてないのかもしれない。こんな平穏な集落でトラブルなんてものは。

 

ナギトが役に立つとするなら、それは基本的に暴力くらいのものだ。多少は知恵も回るがそれは悪知恵で平和なノルドでは無用の長物であり、生活の知恵なんてものは持ち合わせていなかった。

 

 

「ま、俺が動く必要もないくらい平和だってんならそれが一番だな」

 

 

「ああ。……例えそれが束の間であったとしても」

 

 

苦虫を噛んだような表情から、発言と共に気を抜くナギト。しかしそれに反するような言葉をガイウスが出した。

 

 

「……気づいてるのか」

 

 

「ああ。……帝国は軍拡を続けている。共和国との睨み合いが戦争に変わる日も、そう遠い話じゃないだろう。……そうなればこのノルドも戦火に包まれる…………」

 

 

ガイウスがそもそもトールズ士官学院に入学したのは、そういったノルドを取り囲む外の状況を学ぶためでもあった。

Ⅶ組での経験を通じてガイウスは諸外国の状況を知る事になり、ノルドの危機が現実味を帯びていると理解していた。

 

 

「………」

 

 

ナギトは何も言えない。戦争となると、さすがに手出しできない。ノルド高原は戦略的価値がない地ではあるが、戦争が始まればここが戦場になる可能性は十二分にあった。

 

 

「……しかし、そうさせないための“同窓会”でもあるのだろう?」

 

 

ガイウスの期待混じりの微笑みを向けられたナギトは笑って「そうだな」と答えた。

“Ⅶ組の安寧”───ナギトとオズボーンの契約が、その時まで守られている事を切に願う。

 

 

「……ところで、恩返しの話だったな」

 

 

ガイウスは話題を元に戻す。戦争なんてネガティブな話はやめだ。

 

 

「ああ、なんか思いついたか?」

 

 

「ナギトは気に入らないかもしれないが───」

 

 

ガイウスは前置きをして。

 

 

「──俺と立ち会ってくれないか?」

 

 

そう切り出した。

急な考えだし、それがノルドへの恩返しかは怪しいところ。しかしナギトは二つ返事で快諾した。「いいぜ」と。

 

 

そうして2人は集落を離れて巨像前までやってきた。10アージュほど距離をとって互いの得物を構える。

 

ガイウスの構えは以前と少し異なっており、そのせいか殊更成長を予感させる。

 

 

「実は少し前にウォレス准将が集落を尋ねてきてな、その際に少し手解きを受けた」

 

 

ウォレス准将──領邦軍准将ウォレス・バルディアス。《黒旋風》の二つ名で知られる槍の使い手。

彼は、かつてこの地で挙兵した当時の《獅子心皇帝》に付き添った勇士の末裔らしい。あの浅黒い肌もノルドの血が流れている証なのだろう。

 

 

「そうなのか。……道理で、強くなったと思ったわ」

 

 

どうやら再会の折りにデカくなったと思ったのは勘違いではなさそうだった。

 

 

「ああ、ひと回り成長できたと思っている。……そしてその強さが、どこまで世界に通用するのか───試させてくれ」

 

 

“世界”と。ガイウスはナギトを評した。どこかむず痒い感じもしたが、それが望みとあらば。

 

 

「わかった。……じゃあまず」

 

 

手加減は抜きだ。

 

 

「耐えてみろ」

 

 

刹那、放たれる殺気の奔流。いつもの純粋な闘気とは違う、殺意を込めた殺気は、それを向けられたガイウスに明確な死をビジョンさせる。

 

 

剣で斬られ、貫かれ、首を刎ねられる。それらのイメージが次の瞬間には現実になるのだと錯覚してしまう。

足が竦む。手が震える。心胆が凍える。──それを魂で拒否した。

 

 

 

「〜〜〜ッおおおおおお!」

 

 

己を鼓舞する咆哮で恐怖を吹き飛ばす。ガイウスの構えに平静が戻り───

 

 

「まずは合格。焦って攻めないのも良いね」

 

 

ニコリ。笑って、その笑みが変貌する。ニヤリ。

 

 

「──だが一手遅い」

 

 

ガイウスが恐怖を振り払う一瞬でナギトは“雷軀来々”。ガイウスの周囲に雷の分け身を配置していた。

 

 

「───!」

 

 

分け身が一斉に襲いかかる。それをガイウスは槍を回転させて嵐を生み出す事で防いだ。

 

 

「タービュランス……いや、黒旋風か。まあいい」

 

 

跳躍したナギトはガイウスの戦技が進化している事を確認。その上で構わぬと、太刀に込めた雷撃を解き放った。

 

 

「さあ、どうする?」

 

 

“雷神烈破”。

雷が嵐を直撃した。パワーで言えば、間違いなく勝る一撃だった。しかし。

 

 

「おっ!マジかよ!」

 

 

ガイウスの嵐──戦技タービュランスにウォレスの槍技を混ぜた“黒旋風”に“雷神烈破”は飲み込まれた。

 

 

「そうか、螺旋の」

 

 

嵐はそもそも螺旋の力を内包している。それを発揮できれば出力で劣っていても技として勝る事はできる。

 

 

「いくぞ、ナギト!」

 

 

嵐の中でガイウスは言った。得物の十字槍に嵐の力と飲み込んだ“雷神烈破”が収縮し、それは一本の槍となってナギトに放たれた。

 

 

嵐と雷の槍。完成度の高い戦技だ、ナギトは内心驚嘆していた。リィンもラウラも成長していたが、その度合いで言えばガイウスの方が勝るのではないか。

 

 

「よっ、と」

 

 

ガイウスの“黒旋風”にナギトの“雷神烈破”の力が合わさった戦技だ。わざわざ受けてやる道理はない。

ナギトは“幻造”で即席の足場を作り出すとそれを足場に跳躍して、嵐と雷の槍を避けた。

 

 

「悪いな」と着地したナギトは言う。

ガイウスは落下するナギトを狙っていたが、ならその狙いから外れてやればいい。

 

 

「構わないさ。ナギトの本気を注文したのは俺の方だ」

 

 

「そうか。……なら、もうちょいギア上げるわ」

 

 

軽い調子で言って、ナギトは立ち昇るばかりだった闘気を己に収束させた。

 

 

「真気統一」

 

 

絶招によって高まるオーラ。爆発的に身体能力を向上させるが、それは同時に体内に収まりきらぬ闘気が可視化するほど濃密に体外に漏出する。

そのすべてを無駄と断じ、本来漏れ出るはずの闘気すら己の体内に留める荒技───それが“真気統一”だ。

 

 

「9割……だな」

 

 

しかしまだ未完成。漏れ出るオーラすべてを体内に押し留めるには、そのための集中が必要だ。戦闘中にやるには致命的である。

 

 

「……今ならその凄まじさがわかる。やはりとんでもないな、ナギトは」

 

 

「は、褒めるなよ。照れるだろ」

 

 

太刀を構え直したナギトの“疾風”がガイウスに肉薄する。

ぎりぎり視認できたガイウスの槍がナギトを薙ぎ払い──その姿が朧と消える。

 

消えた幻影の後ろから本物のナギトが現れて、ガイウスの腹部を強かに打ちつけた。

 

 

「無幻疾風…ってな。まだまだいくぜ」

 

 

峰打ちだった。刃であれば胴体が両断されていた事を理解しつつガイウスは力を入れ直す。ウォレスの薫陶により昇華した“ワイルドレイジ”により耐久力もアップし戦闘続行は可能だ。

 

 

「こい!ナギト!」

 

 

そこから少しの間、剣舞の時間となった。ナギトが感嘆したのは、ガイウスの闘気の流れに淀みがない事だ。必要な時に必要な分だけ、必要な部位に闘気を流している。無駄のない闘気運用は達人の域に近しい。しかも槍という長物でありながら、ナギトの剣速についてくるスピードと技巧も以前とは段違いだった。

 

 

「やるじゃねえか、よ!っと」

 

 

剣舞の隙間に“業炎撃”を打ち込んで強引に距離を離す。

どんな戦技を見せようか、ナギトが愉悦に笑む一瞬でガイウスは奥義の構えに入っていた。

両手に構えた2本の槍からふたつの竜巻が放たれる。

 

 

「イクスペルランサー!!」

 

 

判断が早い。これも好ポイントだ。

しかし、この“イクスペルランサー”も強力に進化している。螺旋の力を全面に押し出した竜巻は並大抵の戦技では飲み込まれて終わりだ。

 

 

「驕ったなガイウス!」

 

 

だが、ナギトとて螺旋の技術に習熟せし剣士。しかもレベルとしてはガイウスより上だ。

 

 

「螺旋撃!」

 

 

一の型を代表する基本形の戦技。ガイウスの嵐とはまったく逆位相の竜巻が放たれる。

 

それはガイウスの“イクスペルランサー”と互いに打ち消し合い、相殺した。

 

 

「まだまだ、甘かったな」

 

 

ぶつかりあった螺旋の力が土砂と草を巻き上げる中、ナギトは疾風の歩法でガイウスに近づくと、その喉元に鋒を突きつけた。

 

Sクラフト後の硬直で反応が遅れたガイウスはそれに対応できず、ここに勝敗は決した。

 

 

ナギトが太刀を引くと同時にガイウスも肩から力を抜く。

 

 

「ふぅ……、成長できたかと思っていたが、やはりまだ届かないか」

 

 

「いやー、大したもんだぜ。ただ相手が悪かったな」

 

 

ニヤリと、再び笑う。

ナギトとガイウスには明確な力の差がある。しかしその力の差を埋めるだけの技量をガイウスは示した。螺旋の技術だ。惜しむらくはナギトもまた螺旋の使い手であった事。それがなければナギトももっと苦戦していただろう。

 

 

そんな事を懇切丁寧に教えてやるわけではない。

 

 

「落ち込むなよ。そのまま進めばお前はもっともっと強くなれる」

 

 

だからこうして軽快にアドバイスするだけだ。

 

螺旋は武の極意のひとつだ。これを極めれば並大抵の相手には勝てるし、多少の実力差も覆せる。

 

 

「強くなれる…か。他ならぬナギトの言葉だ、信じよう」

 

 

ガイウスもまたナギトのアドバイスを真っ直ぐに受け取る。これがガイウス・ウォーゼルという男の長所なのだ。ナギトのようなひねくれ者なら言葉の意味を穿ちすぎて明後日の方向に進んでしまう事もあるだろう。

 

 

 

「よし、んじゃあこれで終わり!さっさと帰ってメシにしよう!今日もお世話になります!」

 

 

「ふっ。……ああ、馳走しよう」

 

 

勢いに任せたナギトのセリフにガイウスは笑んで返す。宣言通りにナギトは今日までウォーゼル家で厄介になると、翌日出立する事にした。

同窓会の招待イベントは始まったばかりだ。

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