八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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束の間の再会、今や懐かしきトリスタよ。

 

 

 

ノルドを離れたナギトが次に向かったのは翡翠の都バリアハートだ。

級友ユーシスが治める貴族の街で、そのユーシスも今やアルバレア家の当主となっている。“暫定”が外れたのは父ヘルムートと兄ルーファスの不在が確定したからで、噂では若当主は苦労しながらも良い治世を行なっているらしい。

 

 

 

「ようユーシス。久しぶり」

 

 

「久しいな、ナギト。……来るならもっと早く言え。時間を空けるのに苦労したぞ」

 

 

「悪いな」と言いつつ入室。用意してあった椅子に着席した。

 

 

ナギトはノルド高原を出て、まずレグラムに帰った。そこで翌日行くとユーシスに連絡。一泊したのちにバリアハートに来た運びとなる。

 

 

「まあいい。それで用件はなんだ?」

 

 

テーブルを挟んだナギトの対面にユーシスが座る。同時に執事がふたつのカップに紅茶を注いだ。

 

ナギトはその執事──アルノーに視線をやりつつ言う。

 

 

「同窓会を開こうと思ってさ。ユーシス、ホストやってくんない?」

 

 

表向きの理由だ。執事が部屋から去るまでの時間稼ぎ。同窓会のくだりは前日の通信で伝えていた。

 

 

「貴様の考えは透けて見えるぞ。我がアルバレア家の歓待を期待しているのだろう」

 

 

そんな表向きの理由にユーシスは辛辣に返事をする。ナギトにはその狙いもあったため、「うぐ」と言葉に詰まった様子を見せた。

 

やがて執事が退室して、部屋には2人きりになった。

 

 

「……アルノーは信頼できる」

 

 

「わかってるよ。でも出来るだけ伏せておきたい」

 

 

ユーシスの発言にナギトも答える。Ⅶ組の同窓会──オズボーン対策会については、本当にⅦ組のメンバーにしか伝えたくないのだ。

ナギトもユーシスが信頼するアルノーの事は知っていて、対策会についてもバレても構わないと思っているが、万一の可能性に備えるのは悪い事じゃない。

 

 

「…いいだろう。では本題を話せ」

 

 

ナギトの懸念をユーシスも受け止めて、本題を促した。

 

 

「名目は同窓会。本当はオズボーンへの対策会議をやろうぜって話」

 

 

「《鉄血宰相》のか。……ナギト、お前の事情についてはアリサからⅦ組に共有された事は知っているな?」

 

 

ナギト・ウィル・カーファイは《鉄血の子供達》のひとりである。

その事実について、以前に会った時にユーシスには明かしていたナギト。アリサと違い、皆に共有していい旨は伝えていなかったと振り返る。

 

 

「ああ。そういやユーシスにも教えてたよな。黙秘してもらってたみたいで」

 

 

「気を使ったぞ、まったく……」

 

 

変にストレスを与えていたようだ。反省。

 

 

「まあ、そんなわけで《鉄血の子供達》の一角である俺がどうやって平和的にオズボーンに敵対するか、それを話し合うのが今の目的だ」

 

 

平和的に敵対する、とはいかにも矛盾した発言だが、人間関係(政治)とはそういうものだ。その点についてⅦ組の誰よりも経験済みであろうユーシスはため息を吐きつつ渋い顔をした。

 

 

「その会合の候補地としてこのアルバレア城館が選ばれたわけか。……確かにうちなら革新派も迂闊に手を出せないだろうな」

 

 

「そゆこと。……あとさっきのも当たり」

 

 

ナギトは先程ユーシスが指摘した“アルバレア家の歓待”も期待している。天下の四大名門だ、さぞ美味い料理を準備してくれるだろうと。

 

ナギトのいやしい思考と、噂で聞くクロスベルでの活躍が結び付かずユーシスは眉間を揉む。ナギトがどんな人物か思い出してきた。

 

 

「………いいだろう。今のところ我が家が最も安全だろうからな」

 

 

ユーシスの承諾に「ありがとー」とにこやかに笑むナギトに再び頭が痛くなる思いをする。

 

 

「だが、そうなるとひとつ懸念がある」

 

 

それらを無視してユーシスは続けた。

 

 

「対策会……同窓会でもそうだが、それを聞きつけた兄上が乱入してくる可能性だ」

 

 

「あー、ルーファスさんね。あり得るな、クロスベル総督もクビになって今は帝都で宰相の補佐をやってるみたいだけど」

 

 

「ああ、このアルバレア城館は兄上にとっても実家……いつ帰宅してもおかしくない。それこそ同窓会の最中でもな」

 

 

そうなれば対策会が頓挫する事は想像に難くない。

 

 

「………………」

 

 

クロスベルでのルーファスとのやりとりを思い出す。

もしかすると仲間になってくれる可能性は……

 

 

「俺もあの人とはクロスベルで一緒に仕事したけど、ようわからん」

 

 

しばらく沈思黙考したナギトだったが、結論はそれだった。

オズボーンの思考が雑だと言った事やその後のナギトの会話から、完全にオズボーンサイドの人間とは思えないが、それもナギトにそう思わせるためのブラフかもしれない。

 

だが、直観だけで話すなら。

 

 

「でも、同窓会と銘打つからにはそこに乱入するほど無粋じゃないと思う」

 

 

「だが、兄上は……」

 

 

ユーシスの不安は尤もだ。それだけルーファスの《鉄血の子供達》筆頭宣言は衝撃的だった。その後の公爵家長子としての対応も信頼を損なうものとして充分だろう。

 

 

「どこまで行っても貴公子だよ、あの人は」

 

 

皇子オリヴァルトと名声を二分した男。社交界のプリンス。そのありようはいかなる時でも気品を感じさせる。それはきっと日頃の振る舞いによるものだ。

 

 

「そこまで差し迫った事情でもない限りは、ルーファス・アルバレアという人物は道理を通す。………俺はそう思うよ」

 

 

「……結局博打でしかないな。だが、気に入った。いいだろう、その同窓会の件とやら、引き受けさせてもらおう」

 

 

ユーシスの賛成ももらい、ホストを引き受けてもらう。ユーシスの名前で作っていた招待状も無駄にはならなかったというわけだ。

 

その後、細かな打ち合わせをして一泊世話になると、ナギトは翌日トリスタに向かった。

 

 

☆★

 

 

帝都近郊トリスタ。都会過ぎず田舎過ぎないこの町には名門トールズ士官学院がある。

卒業以来、来ていないはずのトリスタだが、学院生時代を昨日の事のように思い出せる。青春のいちページとして刻まれているのだと自認する。

 

学院に続く坂道は記憶の通りで、残念な事にライノの花が見れる季節はまだ先だ。

 

 

士官学院に入る。今はまだ授業中らしく学院の敷地内はわずかにグラウンドから喧騒が聞こえてくるばかりで静かだ。

 

受付に話を通して入館許可を貰う。そこから放課後まで待ってリィンと合流した。

 

校舎の屋上から部活に励む学院生たちを見下ろしながら、2人はベンチに座ると口を開いた。

 

 

「ようリィン。元気そうでなにより」

 

 

「君こそな、ナギト。……今朝方通信があったのは驚いたよ、ナギトから連絡を取ってくるなんて珍しいんじゃないか?」

 

 

「そうかぁ?クロスベルからもしただろ」

 

 

「内容が、今日の放課後に学院で会うぞ…だったからな。突然過ぎないか?」

 

 

「ん。まあ急遽決まった事を伝えに来たわけだしな。……リィン、同窓会やるぞ」

 

 

視線をゆっくりと回しながらナギトはリィンに言った。記憶通りの風景。記憶にない顔ぶれ。新任の教官や一年生の姿が確認できる。

 

 

「同窓会か。………って用件を伝えるだけにしては変だと思うのは気のせいか?」

 

 

「はっ、まったく……ガイウスもそうだったけどお前も鋭いな。同窓会は名目で、本命はギリアス・オズボーンへの対策会議をⅦ組で集まってやろーぜ、って話でな」

 

 

ナギトの言葉に、リィンはその名を復唱した。

ギリアス・オズボーン───リィンの実父だ。

 

 

「ユーシスの家──アルバレア城館でやる予定。3月ね。……一応、お前は最初から参加するもんだと思って話を持って来てるんだが」

 

 

「ああ、参加するよ。……俺もこの一年…名ばかりの英雄として政府からのオーダーを受けてきた。それでわかった事なんかをみんなと共有、考察したいと思っていたんだ」

 

 

エレボニア帝国の英雄《灰色の騎士》。それがリィンの二つ名となっていた。しかしその身に背負うのは重積ばかりで旨味がないのだから、学生の間から苦労しているものだと憐憫を覚えてしまう。

 

 

「そりゃあ良かった。………俺のことはアリサから聞いてんだろ?」

 

 

そんな感情を振り払ってナギトは話題を変える。それはナギト自身の事情についてだ。

 

 

「…………ああ、この前はあえて触れなかったけど……やっぱり真実なんだな?」

 

 

「おうよ。お前もわかってたと思うが」

 

 

煌魔城でのナギトとオズボーンのやり取り。そして自分の英雄としての働きからナギトがオズボーンと裏でどんな取引をしていたのか、リィンはほぼ正確に掴んでいた。

 

 

「まあ……あれだ。今のとこオズボーンも取り決めは守ってる。俺も無茶しなくていい。……お前やクロウには嫌な役目押し付けちまったのは悪い」

 

 

ナギトはオズボーンとの取引でリィンやクロウが英雄として利用される事を認めた。それが彼らに望まぬオーダーを受諾させる事になっているのは間違いなく、その点については申し訳なく思っていた。

 

 

「……俺やクロウより君の方が嫌な役目だろう。クロスベルでの事だって…………」

 

 

「はっはー、仕事ついでに観光、おまけに弟弟子にも会えたんだ。役得ってもんさ。給料も出るしな」

 

 

強がりだと思われただろうか。だが、あながち間違いでもない本心だ。オズボーンからの要請でマクバーンと戦ったりクロスベルで悪役をやったりしたが、あれはあれで楽しかった。

 

そんなナギトの心中を見抜いたか、あるいは強がりに騙されたふりをしてくれたのか、リィンは「ふ」と微笑した。

 

 

「君ってやつは……」

 

 

とりあえずリィンの理解を引き出せた事を悟ったナギトはぱん、と手を叩いた。

 

 

「はい、この話やめ!リィンが何でも辛気臭い方にもってくからなー」

 

 

参った参った、と言わんばかりにナギトがわざとらしく肩をすくめる。そんないつも通りの様子にリィンも乗っかる事にして、この話題は対策会へ先送りされた。

 

 

「忘れない内に渡しとくわ。これ招待状ね」

 

 

そして同窓会の招待状を手渡して用事は終了した。

 

屋上の柵に身を預けるようにして眼下の光景を見下ろすナギトにリィンは声をかける。

 

 

「フェンシング部に顔を出したらどうだ?」

 

 

懐かしみつつも、どこか遠い思いを抱いていたナギトにとって、その言葉は背中を押してくれるものだった。

 

 

「ああ、そうだな。ありがとう」

 

 

だからさりげなく礼を言って、それから「またな」と別れを口にする。同じ言葉をリィンも返して、ナギトは屋上から立ち去った。

 

 

☆★

 

 

「お疲れーす」

 

 

かつての雰囲気を思い出しながらギムナジウム、フェンシング部の部室の扉を開ける。

室内の視線が一気に集まる。制服も着ていない部外者の来訪は珍しい事なのだろう。

 

 

「ナギトじゃないか。久しぶりだが……どうしたんだ?」

 

 

話しかけてきたのはパトリックだった。金髪を中央で分けた2年生。ハイアームズ家の御曹司だ。

 

 

「ほら、何を止めている!」

 

 

そんなパトリックは先輩らしく、部室で模擬戦を行なっていた、ナギトの訪問で中止していた下級生に注意した。すぐさま試合を再開した下級生らに微笑みつつナギトはパトリックに近づいた。

 

 

「すっかり先輩だな。部長か?」

 

 

「ああ、大変だよまったく……。フリーデル先輩はあれでも苦労していたんだな」

 

 

「はは、血気盛んな男子生徒がいたらしいからな」

 

 

「それは君だな」

 

 

軽妙なやり取りをして、パトリックは模擬戦からナギトに視線を移した。

 

 

「それで、どうした?」

 

 

「別にどうも。別件で近くに来たからOBとして顔見せに来ただけ」

 

 

ナギトの返事を聞いてパトリックは気を緩めたようで、寄せられていた眉根の皺がほどかれた。

顔を出しただけでこんな表情をされるとは。自分はどれだけパトリックにトラブルメーカーだと思われているのだろうか。

 

 

やがて下級生の模擬戦が終わると、パトリックが模造剣を手渡してきた。

 

 

「OBとして顔を出したんだ。一本くらいは付き合うだろう?」

 

 

「仕方ねーな」とナギトはにやり。部室の中央でそれぞれ構えを取って開始の合図を待つ。

 

 

「あの人がパトリック部長の言ってた…」

 

「シュバルツァー先輩の兄弟っていう……」

 

「でもあんまり似てないような……」

 

 

部員たちは人伝てでナギトについて聞いていたようだ。その内容にも気になるところではあるが。

 

 

「おい3人目!そりゃリィンの方が──」

 

 

「はじめ!」

 

 

こそこそと話す下級生に注意してやろうとナギトが声を張り上げる途中、試合開始の合図がなされた。

それと同時に、構えも解いて隙だらけのナギトにパトリックが迫る。刃引きされた模擬戦用の武器とは言え、当たれば痛いし怪我もする。

「あっ!」と部員の何人かが痛ましい未来を想像した。

 

 

「──男前って話しかコラァ!」

 

 

しかし、やはり。当然のようにそんな不意打ち擬きには当たってやらない。3人目に注意しつつ、迫った刃を防ぎきる。

 

そのままぐるりと剣を回すと、それに引っ張られたパトリックが体勢を崩して、そこに蹴りをぶち込んで初期位置にまで退がらせた。

 

「おおっ」と歓声が上がる。あのパトリック部長がこんな風にあしらわれるなんて、といった風体の部員たち。

 

かつての先輩らが卒業した今、パトリックは部内ではばを利かせているらしい。

 

 

「さて、始めようか……パトリック」

 

 

「君は相変わらず……いいだろう!ここでライバル関係に決着をつけてやる!」

 

 

パトリックが突っ込んでくる。ナギトはそれを受け止める。

 

 

「それってまだ続いてたのね。とっくに勝ち逃げしたつもりだったわ」

 

 

「君は!相変わらず!ムカつく!やつだな!」

 

 

いくつもの剣撃が放たれる。パトリックの剣閃はナギトの在学時より数段鋭くなっている。

 

 

「んー、フリーデル先輩にはまだ届かないな」

 

 

「っあの人と比べるな!」

 

 

攻守交代。ナギトが攻める。差し向ける剣をパトリックはしっかり防いでいる。ナギトが卒業してから攻防共に磨いてきたようだ。さすがはライバルを自称するだけはある。

 

 

「よーし、ギア上げちゃうぞ」

 

 

ふざけた調子でナギトは言って剣速を上げた。パトリックはしばらく凌いだものの、やがて追いつかなくなって模造剣を手から弾き飛ばされる。試合終了だ。

 

 

部内最強であったパトリックを下したナギトはさんざん部員たちに持て囃され、いい気になって指導を行う。

 

そんな友人(ライバル)の様子に満足したのか、パトリックはついいつもより部活の時間を長めにとってしまったとさ。

 

 

 

 

 

 

その晩、リィンやパトリック、懐かしい友人たちと共にはしゃいだナギトはトリスタで一泊し、翌日帝都ヘイムダルに向けて出発する。

 

次に招待状を渡すのはマキアスとエリオットだ。

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