八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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西へ

 

 

「ナギトさんはおそらく《緋の騎神》の起動者です」

 

 

暗黒竜の寝所へ向かう最中、異界化した帝都地下でエマはそう切り出した。

 

 

「え?……《緋の騎神》って、煌魔城でリィンと僕たちが倒したあの?」

 

 

「あり得るのか?僕も詳しくはないが……その《緋の騎神》とやらは皇族しか選ばないんだろう?」

 

 

《紅き終焉の魔王》───《緋の騎神》テスタ=ロッサ。その存在を知るエリオットとマキアスには俄かに信じがたい。

 

 

「ええ、そのはずです。……ですが、私とセリーヌは起動者独特の気配をナギトさんから感じていました。前までは《灰の騎神》の起動者だからと思っていましたが、先程会話した感じだと、ナギトさんは緋の起動者になったみたいです」

 

 

「ちょちょちょ……、ちょっと待ってくれ!情報量が多過ぎだ」

 

 

エマが一気に放出した事柄にマキアスの処理は追いつかない。マキアスだけではない、エリオットも困惑していて、ラウラに至っては思考を放棄しているのか真顔のままだ。

 

 

「……いや、一旦忘れる事にする。今は暗黒竜を斃すのに集中しなければいけないしな」

 

 

「そ、そうだね……ちょっと整理する時間が必要かも……」

 

 

しかしこの話題は本人がいない所でやってもあまり意味はない。おそらく、と頭につけたあたりエマの中でも確定しているわけではないはずだ。

 

 

「ラウラさんは驚かないんですね?」

 

 

腹の底を探るように、エマは問いかける。

 

 

「いや、驚いているさ。だが…今はマキアスの言う通り暗黒竜打倒に集中せねばならぬ。その件については後でしっかりナギトを問い詰めよう」

 

 

ラウラの芯はブレない。ナギトの事についての驚きはある。今すぐにでも戻って問い質したい気持ちもある。しかし、今やるべき事とそうでない事を分けているだけだ。

ある意味で人間らしからぬ分別の仕方はナギトの悪影響と言えた。

 

 

「ふふ、そうですね。……ナギトさんの身に何が起こったのか今は私たちに知る術はありません。……なので、その件については後でナギトさんをたっぷり問い詰める事にして………。今は先を急ぎましょう」

 

 

議題を呈したエマが引き下がった事で、それについての会話は終わる。

その後ラウラたちは見事に役目を果たした。

 

 

 

☆★

 

 

 

病室で目が覚めたナギトはベッドに縛られたまま逃げる事も許されずにエマたちに詰め寄られていた。暗黒竜討伐翌日の事である。

 

ナギトは全身包帯ぐるぐる巻きであり、向かいや隣にもラウラやマキアス、エリオットがいてそれぞれ怪我の度合いは違えど入院という形をとっていた。

目覚めたナギトは自らの容態を聞かされた。血管の破裂、筋肉の断裂etc……、どれも身体の内側から爆発したようなものだったらしい。おまけに出血多量もあり死ぬ寸前だったとか。

 

 

霊脈から力を吸い出した反動だ。テスタ=ロッサから霊脈より霊力を汲み上げる感覚を体得したナギトだったが、有り余る力に身体が耐え切れずこのような有様になってしまったのだ。

今後の課題は霊脈から汲み上げる霊力の量をコントロールする事になるだろう。

 

閑話休題。

 

 

 

ひとまず皆で怪我の具合を共有する。一番酷いのがナギトで、次にラウラ、その次にマキアス、エリオット、エマと続く。

エリオットはまともにダメージを受けていないらしいが瘴気に当てられて具合が悪く入院したそうだ。エマも同条件かと思われたが、

 

 

「私はセリーヌに守られてましたから」

 

 

らしい。

ラウラたちに瘴気を軽減する守りを施したエマに、セリーヌが同じような守護をかけていたらしい。それがあの討伐隊で唯一エマだけが入院していない理由だった。

 

 

「それで……ナギトさん、事情は聞かせてもらえるんですよね?」

 

 

にこやかに迫るエマにナギトは喉を詰まらせる。もはや物理的にも逃げられそうにないと思ったナギトは観念する事にした。

 

 

「事情と申しますと……えー、どこからでしょうか」

 

 

「最初からです」

 

 

ノータイムで切り返してくるエマ。トールズ時代のような甘ちゃんのエマはもういなかった。

ナギトは最初とはどこからだったか思い浮かべる。その中には明確に機密である《緋の騎神》についてもあった。これはナギトから切り出すわけにもいかず、逆に問いただす。

 

 

「エマ……お前は、俺が何であるかわかっているのか?」

 

 

仲間。友人。ナギトが求めているのはそういった答えではない。

 

 

「《緋の騎神》の起動者……ですね?」

 

 

果たしてエマの出した答えにナギトは安心した。それがわかっているのなら、ナギトから《緋の騎神》についてバラした事にはならないだろう。

 

 

「そう。俺は《緋の騎神》テスタ=ロッサの起動者になった──させられた、の方が正しいか」

 

 

「させられた、とは?」

 

 

 

「《鉄血宰相》の謀略でな、ほとんど現実感のないまま《緋の騎神》の試練を突破してしまった」

 

 

ラウラもマキアスもエリオットも、口を挟まない、挟めない。現実感に乏しいわけではない、むしろ昨夜に旭日の如き光の柱が帝都を照らした光景こそがそれに当たる。あの消滅の光が暗黒竜を灼き尽くした光景を目にした今、余程の事でもない限り驚愕は生じ得ない。

 

ただこの場面においては、エマだけがナギトを容赦なく追い詰められるから任せているのだ。神秘方面に疎いラウラたちではナギトに躱されてしまうかもしれない。

 

 

「ふむ、それで?」

 

 

シンプルにエマが静かに怒っていて怖いというのもあった。

 

 

「たぶんその時に暗黒竜の呪いが《緋の騎神》から分離したと思う。その呪いが帝都地下にあった暗黒竜の死体と結びついて今回の件に発展した……と、思ってます、ハイ……」

 

 

「なるほど、つまりすべてナギトさんのせいだと」

 

 

「ちょっと待って!全責任俺にあるってのは違うぞ!」

 

 

「黙りなさい」ぴしゃりとエマが言ってナギトは肩を落とす。すっかりエマの雰囲気に呑まれてやっている。

 

 

「どうして今まで放置していたんですか?」

 

 

「だってよー、知らなかったんだもんよー」

 

 

ナギトは夢見心地のまま《緋の騎神》の試練を突破した。その際に暗黒竜の呪いが逃げ延びたとも知らず。だからある程度は自身に責任がある事がわかっているから粛々とエマの尋問を受けている。

 

 

「知らなかった、で済まされる話ではないでしょう。実際に被害者も出ています」

 

 

「すみませぇん、すみませぇん……」

 

 

平謝りするナギトにエマはため息をひとつ。

 

 

「……まあその件についてはもういいでしょう、ナギトさんも反省しているようですし」

 

 

それから本題に入った。

 

 

「どうしてその話を私たちにしてくれなかったんですか?」

 

 

エマの──仲間たちの不満点はそこだった。その話をされた所で“じゃあお前ひとりで解決しろや”とでも言われると思っていたのだろうか。

 

 

「だって時間なかったんだもん」

 

 

「嘘ですね」

 

 

だもん、と可愛げたっぷりに言ったナギトだったがあえなく撃沈。エマは「リィンさんから聞きましたよ」と続けた。

 

 

「暗黒竜の首を一撃で刎ね飛ばしたそうですね。信じがたいですが、ナギトさんならそんな馬鹿げた事もできそうです」

 

 

理詰めされている。ナギトは再度観念した。チェックメイトをかけられるより早くゲロってしまった方が楽だ。

 

 

「事実です。………すまなかったと思ってる。俺ならこの件を単独でもっと早く処理できた。それこそ地下に乗り込んでゾロ=アグルーガを斃せば終いだ。……でもちょっと確認したい事がありましてね、そのためにあなた方には骨を折ってもらう事にしたんです」

 

 

申し訳なさそうにナギトは語った。その詳細については、今はどうでもいい。

やはり腹が立つのはどうして自分たちにそれを話してくれなかったのか、だ。

 

 

「……ナギトさんの立場はわかってます。そのせいで思うように動けない事も。でも……私たちにくらい、話してくれても良かったんじゃありませんか?………私たちを信用していないんですか?」

 

 

苦しい言葉だった。吐き出す方も、受け取る方も。

これについてはナギトの落ち度だ。だから受け止める義務があるし、弁明の余地がある。

 

 

「……信用してる、信頼してる。大切な仲間で友達だと思ってる」

 

 

「だったら───」

 

 

説明の時間がなかったというのも事実だ。しかしそれ以上にナギトは恐れていたのだ。ただでさえ《鉄血の子供達》という危うい立場で、これ以上の事をやらかしたと知られるのが。Ⅶ組という拠り所を失う事が。

 

 

「すまん、俺はビビってた。お前たちに失望されたくなかった、見放されなくなかった」

 

 

そんな事はありえないとわかっているはずなのに。それでも自分の本質がこの世界の外側からの来訪者であるから。

 

ナギトのそんな心情までを読み取れたわけではない。しかしエマを始めとする仲間たちはナギトの沈痛な面持ちに目を伏せた。

 

 

「許してほしい。これからはもう隠し事はしない。ちゃんと相談する、ちゃんと頼る」

 

 

それはあまりにも強い男の、あまりにも弱い本音であった。

 

ナギトはすでに隔絶した武人であり、ある程度の問題なら単独で達成できてしまう。今回の暗黒竜騒動はたまたまラウラたちがいたから、確認したい事もあいまって利用させてもらっただけ。このシチュエーションでなければ、それこそひとりで暗黒竜を討伐していただろう。

 

 

だからこそ、この宣言はラウラたちの心を打った。

 

 

「僕はそれでいいと思うよ」

 

 

口火を切ったのはエリオット。強く優しい心根の持ち主たる彼が一番にナギトに赦しを与えた。

 

 

「ぼ、僕もだ。……その傲慢癖が治ればいいのだがな」

 

 

「私も赦そう。業腹だが……惚れた弱みというやつだ」

 

 

「ま、いいんじゃない?」

 

 

マキアスもラウラも、おまけにセリーヌまでもがナギトを受け入れた。

 

 

「と、いう事ですナギトさん。……私たちはきっと何があってもあなたの味方です。だからもっと頼ってください」

 

 

もちろんエマもそうした。

 

 

「みんな………」

 

 

ナギトは涙が出そうになる。わかっていた事だ。わかっていた事だが……やはり自分を受け入れられるのは嬉しいものだ。

 

 

「差し当たってナギトさん。今、隠してる事を全部話してください」

 

 

と、そこで感動をぶった切るエマの詰問が再開した。ナギトも、ラウラたちも呆然としたがこれこそ有言実行というものだ。

 

 

「隠してる事か……うーん…………」

 

 

ナギトは考えてみる。隠し事はあったか。特に機密だった《緋の騎神》についても明かしたし、これ以上のビックリ要素はないはずだ。

 

 

「隠し事は、もう───」

 

 

いや、あった。教会との協力関係。そして大爆弾の《身喰らう蛇》の執行者になった事実が。

 

 

「も、モウ…ナイヨ……?」

 

 

咄嗟に隠したくなるナギト。怪しさマックスの回答にエマがとうとう魔導杖を振り上げようとした時、新たに見舞客が現れた。

 

 

「お邪魔する。怪我はどうだね、Ⅶ組の諸君」

 

 

豪奢な衣装の強面は《鉄血宰相》ギリアス・オズボーンだ。およそ来るはずのない国家の重鎮の姿にフリーズしてしまう面々であったが、昨夜のルーファスの言葉を思い出して顔を出しても不思議ではないと思い返す。

 

 

──“「今の彼がこの帝都で頼れるのはオズボーン閣下のみ」”

 

 

ナギトは自身を謀略によって《緋の騎神》の起動者にしたのはオズボーンだと語った。

そのオズボーンが暗黒竜復活について知らなかったはずかない。エマはそう確信した。

 

 

「宰相閣下、ご足労をかけたようで。おや、ルーファスさんも一緒ですか」

 

 

ナギトは途端に曰く仕事モードに入っている。

冷静を取り戻したと思っていたエマがオズボーンの圧のために気づかなかったルーファスの姿を発見していた。

 

 

「うむ、入院したと聞いてね。こうして足を運んだわけだが──思っていたより元気そうだ」

 

 

「はは、包帯ぐるぐるで元気とは言い難いですがね。あの暗黒竜を斃したんだ、これくらいで済んで良かったと思うべきなんでしょう」

 

 

「さすがの君でも伝説が相手では荷が重かった…という事かな?」

 

 

ナギトのプライドをくすぐるルーファスの物言い。しかし自尊心なんかより大事な事柄はある。

 

 

「ええまあ。仲間の手を借りてやっとこさ、ですよ。そういやルーファスさんも助けてくれたようで、ありがとうございます」

 

 

「フフ……構わないよ。これは私の宿題でもあったからね」

 

 

今度は訳のわからないワードを出してきた。宿題とはいったいどういう事だろうか。

 

そんな疑問を振り切って、オズボーンに問いかけたのはエマだった。

 

 

「オズボーン宰相閣下。お聞きしたいのですが、どうして暗黒竜を放置しておられたのですか?」

 

 

直裁な、咎めるような問いかけにルーファスが目を細めた。

 

 

「アレは問題ではなかったのだよ」

 

 

事もなげにオズボーンは答える。

 

 

「それは───」

 

 

「閣下、お戯れはそこまでに」

 

 

追及しようとしたエマの機先を制するように言ったのはルーファスだ。それだけオズボーンの発言には意味があった。

 

 

「フフ……そうだな。では、私は帰るとしよう。これでも忙しい身でな」

 

 

オズボーンは笑うと踵を返す。本当にナギトの顔を見に来ただけなのかもしれなかった。

 

 

「後の事はルーファスに任せてある。君たちはゆっくり休みたまえ。今回はご苦労だった」

 

 

それだけ言うと、オズボーンは振り返らず病室を出て行った。

その背中が見えなくなった頃にナギトは大きくため息を吐く。いかにも緊張の糸が切れたというポーズだ。

 

 

「何しに来たんです?あの人」

 

 

「見舞いだと言っているだろう?何にも疑り深いのは君の悪癖だねナギトくん」

 

 

ルーファスもまたため息を吐きつつナギトに答える。

 

 

「後処理はルーファスさんがしてくれるって話でしたけど」

 

 

「うむ、この暗黒竜事件については後は私に任せたまえ。表向きにはただの傷害事件──吸血鬼事件とも噂されているが、続く被害者がなければいずれ鎮静化するだろう」

 

 

人の興味は常に新しいものに注がれる。すでに終わった事件を面白おかしく着飾らせようと、だ。

 

それに“吸血鬼”なんて面白い話に、さらなる裏があると考える者は少ないだろう。それこそ古の暗黒竜と結びつけるのは不可能だ。

 

「お願いします」とナギトは言う。事後処理についてはおそらく事件そのものよりナギトにとって困難な問題だった。それを引き受けてくれると言うなら否やはない。

 

 

「もしかして、宿題……というのは暗黒竜についてだったりします?」

 

 

それは先程出たワードだった。不可解だったものだが半ばハッタリのままナギトはルーファスに問いかけた。それにエマたちもハッとしてルーファスを凝視する。

 

 

「……よくわかったね。暗黒竜への対処についてはクロスベルから戻った私に閣下から下された課題だった。……今回は君たちの作戦に乗らせてもらう形で解決したが………果たして及第点ももらえるかどうか」

 

 

やれやれとルーファスは肩を竦める。かつての災厄を10人ぽっちで解決できたのだから及第点くらいはもらいたいところだろうが、今回の件を主導したのはナギトだ。

 

 

「仕方ないでしょう。俺がこの件に関わったのはたまたまですから……悪く思わないで下さいね?」

 

 

「わかっているさ。最悪、君を頼らせてもらう事まで考えていたからね」

 

 

ルーファスがオズボーンから及第点をもらえなくてもナギトのせいではない。そう釘を刺してから、何気なく次の本命に切り込んだ。

 

 

「そういや問題じゃなかったって話でしたけど、それはなんで?」

 

 

「───、それは……私に語る資格はないんだ、勘弁してくれ」

 

 

そのルーファスの反応でナギトは確信した。オズボーンが暗黒竜を問題ではなかったと言った理由が。その情報はナギトが知るはずもなかったのだから、ルーファスの対応も間違いでは決してなかった。

 

 

「……わかりました。まあ…もう終わった話だからどうでもいいんですけど」

 

 

ルーファスが事後処理を引き受けてくれた今、ナギトたちにとって暗黒竜事件は終わった話。どうでもいいとは言わないが、もう役目はない。そのためこの事件に関わる事はない。──が、それを問題ないと言ったオズボーンについては後で仲間たちと共有する必要があるだろう。

 

 

「では、私も失礼するよ。療養したまえⅦ組の諸君」

 

 

ルーファスも病室を出ていく。その気配が病院から立ち去ったのまで確認してからナギトはぶっこんだ。

 

 

 

「オズボーンは《時の至宝》の現し身だ」

 

 

これにはエマをはじめとするメンバーも素っ頓狂な声をあげた。

それからナギトは説明する。《時の至宝》は人に宿るものであり、それはオズボーンの家系に脈々と受け継がれていたものである事。その次代がリィンと思われる事も。仲間たちがそれを受け入れるのには少し時を要した。

 

 

「だから、オズボーンは暗黒竜を問題じゃなかったって言ったんだろうな」

 

 

「……なるほど。《時の至宝》の力で暗黒竜の時間を凍結していた………」

 

 

やはり答えを出すのが早かったのはエマだ。ナギトは首肯して、

 

 

「妙だとは思ったんだよな。250年前の獅子戦役と去年の内戦で《緋の騎神》は魔王になった。その時に、《緋の騎神》の裡に呪いとして潜んでいた暗黒竜もそれなりの力を蓄えたはず………。で、俺が呪いを解放してからすでに8〜9ヶ月は経ってる。復活にそこまで時間使うか?……ってさ」

 

 

「ふむ、つまりオズボーン宰相は暗黒竜の呪いが自らの死骸に受肉してから最近まで、その時を止めていたという事だな」

 

 

「それでルーファスさんがクロスベルから戻ってくるのと合わせて、時間停止を解除したってわけだね」

 

 

「それでルーファスさんは宿題なんて言ってたのか……」

 

 

ラウラとエリオット、マキアスもそれぞれ納得し、事態の把握ができたようだ。

 

 

「ま、それを横からかっさらったのが俺たちってわけだな。かっかっか!いてて……」

 

 

景気良く笑って見せたナギトだったが、そうすると傷が痛んだ。

 

 

突然の見舞客やオズボーンが《時の至宝》そのものである事など、エマたちにとって衝撃は大きかったようで、それを飲み込むのに時間がかかったためすでに日は傾き始めていた。

 

 

入院患者であるナギトらを残してエマが帰る間際にナギトに言った。

 

 

「そういえば…‥目が覚めたら連絡してくれってリィンさんから言われてたんでした。ナギトさん、よろしくお願いしますね」

 

 

半分くらい確信犯だろうと思いつつナギトは去っていくエマを見送ってリィンに通信をした。容態やらを聞かれるが全部受け流して通信を切る。リィンの事だから“観の眼”である程度把握しているだろう。

 

 

☆★

 

 

それから5日が経過した。

 

 

「復活ッ!ナギト・カーファイ復・活ッ!!」

 

 

ナギトの傷は全快していた。医者からは全治2ヶ月を言い渡されていたが、エマの魔術による治療とナギトの気功術によって治癒力は高まり、僅か5日で完治した。ちなみにエリオットやマキアスはすでに退院して学校生活に戻っている。

 

ナギトに比較し傷が浅かったラウラもナギトと同日に退院する事になり、2人揃って病院から出た。

 

 

「退院おめでとうございます、ラウラさん、ナギトさん」

 

 

そんな2人を迎えてくれたのはエマだ。花束代わりに魔術で花を一輪くれた。中々洒落ていてキュンとくる。

 

 

「私はこれからミリアムに会いに行くつもりだが……ナギト、そなたはどうするつもりだ?」

 

 

ラウラは同窓会の招待状をⅦ組女子メンバーに配っていた最中であった。ミリアムとは暗黒竜討伐の際に顔を合わせたが、あの時は招待状を渡すような場面ではなかった。

 

 

「俺はあとクロウだけだからな。とりあえずジュライに行くつもり」

 

 

「クロウか………連絡はつくのか?」

 

 

「さあ?」

 

 

「さあって…ナギトさん」

 

 

エマが嘆息する。ラウラもだ。ナギトは計画的に見えてズボラな性格だ。行き当たりばったりと言うべきか。

 

 

「最近は中継器が建ったとかで通信の状況いいんでしょ?近くまで行ったら連絡入れるし、いざって時の手段はあるしな」

 

 

通常の回線で通信ができなくても教会から預かったアーティファクトによって通信は可能だ。

 

 

「んじゃ、そゆことで。またね〜」

 

 

ナギトはいつものように軽々しく別れを告げる。

 

 

そうしてジュライへ向かう。クロウの故郷へ、西へ。

 

 

 

「あ……」

 

 

結局、自身が結社の執行者である事を明かさなかった事を思い出したナギトだったが、わざわざ連絡するほどの事でもないだろう。執行者にはあらゆる自由が保証されているのだ。

 

それこそⅦ組の身内ではシャロンが結社に所属しつつも、執行者の特権を使ってラインフォルト家のメイドをやっていたりする。

 

 

エマたちからもあれ以上の追及はなかった。暗黒竜の件がありナギトが《緋の騎神》の起動者だったりオズボーンが《時の至宝》だったりして、ショックが大き過ぎたせいかもしれないが。

 

 

「ま、いっか」

 

 

そんなふうに問題を無視したナギト。その事にいずれ足を掬われるかもしれないと、嫌な予感は少しだけ覚えつつ。

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