八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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されど騎兵は盤上にて踊る

 

 

 

《緋の騎神》テスタ=ロッサ。

帝都ヘイムダル、その中心たる皇宮の地下に封じられた存在。幾重にも重なる物理的な封印、概念的な封印、伝承防御。

 

それらの多重にかかったロックにより、ナギトとテスタ=ロッサの間は思念すら通じないはずだった。

そうでなくても遠い異国の地、声が届くわけがないはずだった。

 

 

だが────

 

 

 

「─────応!」

 

 

テスタ=ロッサはナギトの声に応えた。

あらゆる封印を引き千切り、ナギトの元に馳せ参じる。

 

転移の光と共にその姿がナギトの眼前に現れた。

 

 

「良く来てくれた、テスタ=ロッサ!」

 

 

ナギトにとっても半分は賭けだった。オズボーンやその麾下の者による封印を破れるか、そもそもリベールから帝国に声が届くのか。

 

果たして賭けには勝利した。

 

これはナギトがテスタ=ロッサの欠片を取り込み、半ば同一化している事を理由とした奇跡だった。

本来ならオズボーンの許可なく動かす事のできない超級。それを成し得たのが絆などではなく、物理的/霊的な繋がりである事はナギトらしいと言えるだろうか。

 

 

 

「うむ、そなたの呼び声が聞こえた。深く沈殿した我が思考システムにはっきりとな」

 

 

起動者と騎神らしい会話。端目ではエステルらがあっけに取られている。目の前に緋色の騎士人形がいきなり現れたわけだからさもありなん。

 

 

「…綺麗………」

 

「うん、これは………」

 

「見事な出来ね。パテル=マテルには劣るけど」

 

 

エステルらは口々に感想を漏らす。さすがにレンは辛口だ。比較対象が親代わりでは子の欲目も出るだろう。

 

 

「しばらくは一緒に戦ってもらうぞ」

 

 

「望むところ。これまで力になれなかった分、存分に我を振るうが良い」

 

 

 

「……っていうかロボットが喋ってる!?」

 

「うーん、造形といい男のロマンだね」

 

「あら、ヨシュアにそんな趣味があったなんてね」

 

 

3人それぞれの反応は見てて面白くもあったが、ナギトは諌める事にした。

 

 

「はいはい、そういうもんだと思ってて。今は急ごう」

 

 

「ッそうね!」

 

 

エステルが気を引き締めたのを確認してナギトはロレントに先行した。

 

 

☆★

 

 

「機甲兵5体か……」

 

 

想定を下回る数だ。無論、上空で控えるガルガンチュア級にはそれ以上の戦力が控えているだろうが、ロレントを占領するのに使われたのは機甲兵たったの5機だった。

 

 

ロレントはリベールでも五大都市の一角に数えられるが、その別名は“地方都市”。名だたる施設もない要は田舎だ。戦略的価値の薄い場所とも言える。だからこそロレントにはあまり戦力は差し向けられなかったのだろう。

オーレリア率いる“銀蹄機甲兵団”はやって来ていたが、あれはカシウス捕縛のための部隊なのでノーカウントだ。

 

 

「バルバトス」

 

 

鋳型に霊力を流し込むイメージ。次の瞬間、テスタ=ロッサの手には魔弓バルバトスが握られていた。テスタ=ロッサの“千の武器”の内のひとつだ。

 

 

地上を警戒していたらしい機甲兵たちの顔が上空で弓を構えたテスタ=ロッサを向いた。こちらに気づいたようだ。おそらく上空のガルガンチュア級からの連絡だろうと当たりをつける。

 

 

「遅い」

 

 

だが、致命的な遅さだ。尤もその遅れがなくとも機甲兵と騎神の性能差は歴然。遅かれ早かれ敗北する運命は変わらない。

 

 

矢を放つテスタ=ロッサ──ナギトにわずかな逡巡。ロレントを戦場にすべきでないという思考。

 

そんな悠長な事を言っていられる場合ではない。

 

 

弦を離す手からはすでに迷いはなくなっている。

秒間一射。僅か5秒でバルバトスから放たれた矢は機甲兵のコックピットを貫通し沈黙させた。

 

 

「さて……」

 

 

上空のガルガンチュア級を見やる。すでに下部ハッチが開き機甲兵を降下させる準備に入っている。

 

ガルガンチュア級飛行戦艦をあのまま墜落させて良いものか。機甲兵とは比較にならない質量、周囲への被害も相当なものになるだろう。

 

 

「んー…………エンノイア」

 

 

妥協する。その手に魔槍エンノイアを顕現させ、魔弓バルバトスに番えた。

 

 

「破空装填。──魔槍一擲」

 

 

撃ち放つ。騎神の力によって放たれた魔槍エンノイアという矢はガルガンチュア級戦艦の装甲を貫通する。そして機関部に到達したところで勢いを失った。

 

 

「弾けろ」

 

 

エンノイアに装填された戦技“破空”が圧力を解放した。同時に魔槍を構成していた霊力も弾けてそれらは相乗したかのような威力の爆発を生じた。

 

 

機関部の大爆発からガルガンチュア級の各部が連鎖的に爆発を起こし、やがて爆散する。

 

周辺への被害とタイムパフォーマンスを考えればこれが最善だったとナギトは言い張るしかない。善行ならぬ行い、しかし確固たる己の正義の元に断行した。

 

 

 

「えええええぇ!!?」

 

 

ナギトがテスタ=ロッサの核で苦い顔をしている時にエステルら3人はロレントに到着した。

 

 

「もう終わってる……!?」

 

 

「あれは……ひどいわね、お兄さん」

 

 

エステルは爆散するガルガンチュア級を見て大層驚いている。その裏側で周辺に飛び散るであろう戦艦であったものの破片がどれだけの被害を与えるか考えているのだろう。

 

 

「悪い、だけど時間がねえ。被害状況が気になるなら勝手にしろ。……だがこの戦争を止めたいのならこのままグランセル方面に行け!」

 

 

「ちょ、待ちなさいよナギト!」

 

 

ボース方面に機体を向けたテスタ=ロッサにエステルが待ったをかける。

 

 

「確かに時間がないのはわかるわ。……でもあれはあんまりなんじゃないの!?」

 

 

「わかってるよ!でもわかるだろ!?時間との勝負なんだ!ここで百の命を奪って後で千の命を救えるなら俺はそうする。お前らは違うだろうが、俺とお前らは違う人間だ」

 

 

「〜〜〜〜ッ!」

 

 

エステルは絶句している。というか、心底頭にきているといった体だ。平時ならディベートに付き合うところだが、今は緊急事態だ。エステルが二の句を継ぐ前にナギトはさっさとハーケン門まで行く事にした。

 

 

「すまん、あと任せる」

 

 

ヨシュアにそうとだけ言い残してナギトはテスタ=ロッサに搭乗したまま飛び去っていく。

 

 

 

「待ちなさいよ、このすっとこどっこいーー!!」

 

 

と、そんなエステルの声を騎神は拾ったが、ナギトは聞かなかった事にするのだった。

 

 

 

☆★

 

 

王国軍の動きは速かったようだ。ナギトはハーケン門に向かう最中、商業都市ボース周辺に墜落しているガルガンチュア級戦艦2隻を見てそう思った。

 

カシウス・ブライトの采配だろう。己の休暇という餌に釣られた帝国軍に強烈なカウンターを喰らわせてやったのだ。

こんな拙速な開戦は予想していなかっただろうに、さすがの指揮能力だと感服する。

 

 

そんな事を考えながら。もうすぐにハーケン門に着きそうだ。リベールと帝国を分かつ関所。陸路においては最大の出入口になるであろうそこは、どう見ても激戦地だった。

遠目にも王国軍と帝国軍がバチバチにやり合っているのが見て取れる。

問題はいくつかあるが、その中でも喫緊なものがひとつ。

 

この、モロ機甲兵というような見た目の騎神で、どうやって王国軍の信用を得ようか、という事だった。

帝国軍を撃退して事情を説明する、のが一番な手段だろうが長い時間拘束される可能性もある。

 

 

しかしこの段に至ってナギトに妙案が思い浮かぶ事もなく、そのまま戦場に参入したのだった。

 

 

 

空戦を繰り広げる王国軍飛空艇部隊と帝国軍飛行艦隊。数で勝る帝国軍に王国軍は質で対応している。

上空に佇む3隻のガルガンチュア級からの適時増援もあり、王国軍はやや劣勢か。

地上部隊についてはほぼ互角。ハーケン門付近は隘路が多く帝国軍の重戦車アハツェンが数を活かせず、小回りのきく王国軍の装甲車が活路を見出している。

 

 

ナギトが見やるのは上空のガルガンチュア級3隻。ここを落とせば、宣戦布告直後に各都市に流れ込んだ艦隊とも連携が取れるし、橋頭堡を築く事もできる。それなのに何をちんたらしているのだ。戦力の逐次投入なんて愚策、戦術の初歩で学ぶだろうに────そこで、はたと思い付いた。

 

 

「……わざとか?」

 

 

意図的に戦力を逐次投入し、戦闘を長引かせているのではないか?

 

 

「遅滞戦術……──まさか、後続を待ってるのか!?」

 

 

今、リベールに侵攻してきている帝国軍は、おそらく国境付近に待機させていた師団だろう。宣戦布告からの急襲により各都市に雪崩こまんとしたわけだ。

だが、それはあくまで前哨戦に過ぎないだろう。帝国本土に駐留する機甲師団が動き出すのは今からのはずだ。そしてその師団を待ってこいつらが動く腹積りなら。

 

例え一時ハーケン門を守れていたとしても、本命の機甲師団が到着すれば国土全てが蹂躙されるだろう。王国軍の士気の高さは評判だが、休む暇もなければ自然と練度は落ちる。

 

 

王国軍の良手としては、ここで無理してでも奇襲部隊を退かせ、本命の機甲師団がやって来るまでに態勢を立て直す事だろう。

 

智者であるカシウスならもっと良い策を出すかもしれないが、リベール王国はエレボニア帝国と本格的に戦争を始めた時点で詰みだ。国力差があり過ぎる。

だから、早いところ何らかの落とし所に持っていかなければリベールという国家は亡びる事になるだろう。

 

 

それはナギトが王国軍に味方したとしても同じだ。

 

 

「……やらない理由にはならねえよなあ」

 

 

自分に言い聞かせるように。

 

 

そうだ、ナギトがリベールに味方したとしても勝てるわけではない。

それよりもいきなりの開戦で混乱してるだろう帝国に戻るべきでは?

そもそも今、このリベールに攻め込んだオズボーンの目的は?

Ⅶ組のあいつらはどうしてる?

 

“帝国に帰るべき理由”が脳内で列挙される。かぶりをふった。あいつらならもう大丈夫だ。

 

もう決めている事だ。迷いはあってもいい。それで刃を鈍らせなければ。

 

 

 

「バルバトス……───いや」

 

 

テスタ=ロッサの手に魔弓を構築しかけて、やめる。ロレントと同じ手法でガルガンチュア級を墜とそうとも考えたが、それより良い手を思いついた。

 

 

「──グレイプニル」

 

 

魔鎖グレイプニル。これも立派な千の武器のひとつだ。

 

 

ガルガンチュア級に接近する。艦砲がこちらを向くが、その砲弾に当たってやるほどテスタ=ロッサはのろまではない。

 

 

「繋げろ、結べ」

 

 

グレイプニルに命じ、ガルガンチュア級3隻を鎖で結びつけた。連環の計というやつだ。

 

 

魔鎖の強度・長さは本来250アージュ級艦を縛するのには満たない。しかしナギトは闘気と霊力で補強する事によってそれらをクリアしていた。

 

 

そして。

 

 

「悪いな、墜ちろ」

 

 

 

ガルガンチュア級3隻の内、中心の1隻に向かって千の武器を撃った。

 

 

千の武器、全射出(ソードバレット、フルファイア)

 

 

ガルガンチュア級戦艦を砕き、貫き、沈める武器の群れ。鎖で繋がれたことで身動きの取れない戦艦はそれをまともに受けるしかない。

 

やがて一隻のガルガンチュア級が爆発し墜落を始める。グレイプニルによって結ばれた他の2隻も同じ運命を辿った。

 

 

250アージュ級戦艦3隻が、戦場に墜ちた。

 

 

帝国軍が布陣するハーケン門前、戦車アハツェンの群れるそこに墜落した。

 

 

大爆発。

火炎が爆ぜて黒煙が巻き上がる。ガルガンチュア級の墜落を予期した者もいたが、隘路と自部隊戦車によって退路はなく無惨に押し潰されると同時に火に焼かれる。

 

 

 

「はっ………」

 

 

それをやった本人は自嘲気味に───否、それは紛れもなく自嘲であった。

 

かつて共和国では100人斬りを成し遂げたナギトだが、今この一瞬でそれ以上の命を奪っただろう。

その重さを、背負うべき罪咎を軽視できる己の精神に。ナギトは自嘲した。

 

 

「いやさ、ある意味福音か。特異点である事も含めて俺だ」

 

 

ナギトは、この世界が創られた箱庭(ゲーム)である事を知っている。思い入れのあるやつ以外の命に価値を見出す事はほとんど不可能だ。

 

なんて自分への言い訳。敵兵の命の重さを軽視できても無視できるわけではない。それを考えるだけの余裕(強さ)がナギトにはあった。

 

 

「切り替え切り替え」

 

 

唱えるように軽快に、意識を現実に戻す。

惨憺たる光景はナギトが意図した通りのもの。墜落したガルガンチュア級3隻はハーケン門に攻め込んでいた帝国軍を巻き込み押し潰し、その体積をもって帝国から王国への道を塞いでいた。

 

元より隘路──狭い道だ、ガルガンチュア級が3隻も墜落すれば行き来を封鎖/制限できるだろうと考えての行動だった。

 

 

これでしばらくは陸路からの援軍は防げるはずだ。問題はリベール国内に入り込んだ奇襲艦隊だが、これも王国軍の反撃で手痛い被害を受けていると思しい。

 

ひとまずハーケン門の守護を完遂させるべくナギトは動いた。

ガルガンチュア級の墜落に巻き込まれなかった帝国軍部隊もあったが、退路を絶たれ背後から襲われては対応のしようもなく、指揮系統も麻痺して身動きも取れず。

王国軍とテスタ=ロッサによる挟撃になす術なく、時を要さずして降伏した。これにより百余名の捕虜を王国軍は確保した事になる。

 

 

 

王国軍とテスタ=ロッサ──ナギトが対面する。

 

 

「リベール王国軍の方々、お初にお目にかかる。我が名はナギト・ウィル・カーファイ。かつての王国軍剣術指南役《剣仙》ユン・カーファイの息子にして、カシウス・ブライト将軍の師弟である」

 

 

それからナギトは旅行中に戦争に巻き込まれた事などの事情を説明した。勿論、話さざるべき事柄については明かしていない。

「罠じゃないのか」、「信用できるのか」、「どこかで聞いた名前だ」……等々、王国軍で話し合われたが、とりあえずは友好的な関係となった。

 

ナギトがハーケン門地下の牢に閉じ込められなかったのはガルガンチュア級を落とした武力に、なにより捕虜で牢屋がいっぱいだった事が大きい。

 

 

友好的、とは言っても口だけの側面もあり、実際は即座に敵対関係にはならないというだけ。

 

司令官に会わせる、という名目でナギトはテスタ=ロッサから降りてハーケン門内部に案内された。

ハーケン門の司令官はモルガンだ。リベールの宿将、武神とも称される将軍。

 

ナギトの知識において彼は前線で指揮を取る印象を受けていたが、此度の戦においてはハーケン門内部から指揮をしていたのだろうか。

 

 

ナギトが通されたのは臨時医務室だった。戦闘により負傷した将兵で溢れ返っており、衛生兵が忙しなく動き回っていた。

 

 

「まさか、モルガン将軍は」

 

 

「ええ、開戦当初は前線で揮っていたのですが、砲撃の爆風を受けて負傷しました」

 

 

ナギトの疑念を案内役の青年将校が肯定する。それとほぼ同時に巨漢の横たわるベッドの横に到着した。

見ただけでわかる頑健な肉体。それが節々に包帯を巻きつけて静かに眠りについている。

このモルガンも武においては相当の猛者であったろうに、それが通用するほど戦は甘くはないらしい。

 

 

「将軍の容態は?」

 

 

「命に別状はありません。しかし打ち所が悪かったようで未だに意識は回復していません」

 

 

衛生兵の答えを受け取って青年将校は「やはりか」と眉根を寄せた。おそらくモルガンの気質からして目が覚めたら体を引きずってでも戦地に赴くからだろう。

 

 

「レイストン要塞のカシウス将軍は?」

 

 

青年将校と同じくナギトを案内していた兵士が「繋がりません」と簡潔に言った。

 

 

「おそらくですが、帝国軍が地中埋設線を破壊したのかも…ですね。彼らには百日戦役の教訓がありますし」

 

 

「ふむ……」

 

 

リベールの通信技術はエレボニア帝国やクロスベルに比べて発展していない。各都市は地中に埋設したケーブルによって連絡が取れるようになっているが、それを破壊されてしまえば長距離通信は不可能となってしまう。

 

 

「ムタタユー軍曹、派遣された部隊を率いて警戒に当たってくれ」

 

 

「了解しました」

 

 

「あとオサカズナ軍曹には私がハーケン門の臨時の司令官代理となった事を駐留全軍に通達するよう連絡を」

 

 

「……わかりました」

 

 

ムタタユー軍曹と呼ばれた兵士はARCUSを取り出して出口に向かいながら通信を行おうとしていた。

 

 

「……サボり癖があるが優秀でね、中々どうして本質を見抜く目を持っている。穿ち過ぎてしまうのが玉に瑕だが」

 

 

その背を見送った青年将校がムタタユーをため息混じりに評価した。

 

 

「申し遅れた、アンバーズ・シード…ハーケン門所属中佐だ。モルガン将軍の意識が戻らない以上、私がここの指揮を執る」

 

 

「シード、中佐……?」

 

 

どこか名前を聞いた事がある気がした。情報局のファイルだっただろうか。

 

 

「ああ、もしかしてマクシミリアンを知っているのかな?遠い親戚でね、彼とも連絡が取れれば良かったが………」

 

 

「どうやら思っていたよりまずい状況みたいですね」

 

 

「そうだな、ムタタユー軍曹の推測はさておくとして、レイストン要塞と連絡がつかないのは事だ。……此度の帝国からの宣戦布告からの電撃作戦を見透かしたかのようなカシウス将軍の采配だったが、やはり完璧には対応できていないな」

 

 

帝国軍は宣戦布告と同時に国境侵犯しリベール王国に対して奇襲をしかけた。五大都市制圧の電撃作戦である。

しかしこれはカシウスの策により成らなかった……が、ナギトの見立てでは電撃作戦に加わった帝国軍の戦力は、おそらく帝国全体戦力の1割にも満たない。それだけの戦力があれば、カシウスを欠いたリベール王国を征服するのに充分だったのかもしれない。

 

“カシウスの休暇”という偽報、そしてナギトがリベールに味方した事により帝国は当初の目論見を外したと考えて良いだろう。

 

 

「ナギト殿、これから各所に指示を出す。それまで待っていてもらって構わないか?」

 

 

ナギトは「構いません」と言った。アンバーズ中佐もまたARCUSを取り出すと何処かへ通信を始める。

アンバーズの指示出し待ちになったナギトは別の案内人に先導され司令官室に通された。ここで待つように言い含められてアンバーズの到着を待つ事になる。

 

 

「はあ」

 

 

ため息をついてソファに座る。

 

 

「んむ?」

 

 

尻に違和感。いや尻というより下敷きになったコートのポケットだ。ナギトがARCUSを忍ばせている箇所。

懐を探ってARCUSを取り出すと同時にポロっと何かがポケットからこぼれ落ちた。

 

 

「ん?」

 

 

ポケットから落ちたそれを摘み上げる。小指の指先ほどの大きさの、球形の物体だ。

詳しく調べようとしたところでナギトのARCUSが着信を報せる。しかもこれは教会から貸与されたアーティファクト経由の通信だった。

事態が起こってから考えると遅過ぎる連絡かもしれない。ナギトがリベールに旅行に来たのは教会のケビンから情報を仕入れたからだ。

 

 

 

 

「…………………ま、さ、か────」

 

 

 

そこである考えが頭を過り、その犯人たる羅刹の顔まで思い浮かんだ。

 

 

 

「やりやがった、あのくそったれ恩師ぃ……!」

 

 

 

オーレリア・ルグィン。彼女こそがナギトの懐に球形物体──小型超小規模通信妨害装置を入れた犯人であった。

 

 

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