八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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初戦は終わり、気の抜けない夜が始まる。

 

 

 

「やっと出た!心配したんだぞナギト!」

 

 

通信に応える。帝国にいるであろうリィンからの長距離無線通信だ。七曜教会からのもたらされたアーティファクトにより実現している。

 

 

「おうリィン。悪いな、ちょっと立て込んでて……つーかオーレリア将軍にやられてな」

 

 

「オーレリア将軍って…!?まさか、戦ったのか?」

 

 

元からリィン含む多少の面子にはリベール旅行に行くと伝えてある。

 

 

「ああ。まあ勝ったけど。どうやら戦いの最中にジャミング装置仕込まれたっぽい」

 

 

「勝っ……!?ジャミングって……いちから説明してくれ!」

 

 

かくかくしかじか。ナギトはリベール旅行中に戦火に巻き込まれてからの事情を説明した。通話の最中にクロウとトマスも参加し、併せて情報を整理する事になった。

 

 

 

 

「教会でも今回のリベール侵攻はまったくの想定外で……今は帝国への非難声明を準備すると共に僧兵を派遣するか話し合っているようです」

 

 

「想定外って言うならもう全員がそうだろうぜ。聞いた話じゃ共和国をはじめとする世界各国も教会と同じようなもんらしい。だろ、トマス教官?」

 

 

「ええ。もはや世界が帝国に謀られたと言っても過言ではない状況です。それぞれ組織としてリベールに救援を行うか静観するかで意見が分かれているようですね」

 

 

「これは各国の動きが鈍いと言うより、帝国の動きが突然過ぎたんだろうな。……まだ開戦初日で帝国内でも反発は少なくない。トールズでも話題になったが、卒業生含めてどう動くべきか迷っているな」

 

 

3人の説明により国外の動きもある程度把握できた。どこも似たような対応だ。とりあえず帝国を非難はするが、実際にリベールを助けようとする動きもありつつ、しかし帝国を恐れて日和見したい勢力もある。

 

 

「………一番この事態に食いつくのは教会かギルド、もしくは共和国あたりかと踏んでたんだけど、そこらへんもっと詳しく聞けない?」

 

 

「共和国については政府内での意見の対立が激しいらしいですね。国際的に帝国を非難するのは当然ですが、この機に帝国に攻め込みたい意見と逆襲を恐れて静観したい意見が分かれているようです。特に共和国は最近は帝国に連戦連敗……国民の嫌戦意識が芽生えているようで……なにより大きいのが、国境に正規軍でも精強と名高い第四と第七機甲師団が派遣され睨みを効かせているようです」

 

 

トマスの解説にナギトは「ははあ」と頭をひねる。第四と第七が共和国との国境にいるのはある意味ラッキーだ。リベールとしてもナギト個人としても。

それに相変わらずトマスは耳が早い。というよりは教会が、なのだろう。各国にナギトに渡したのと同じアーティファクトを与え、その協力者から情報を得ているのだと推測できた。

 

 

「ギルドの方も慌ただしくしてるみたいだ。サラ教官に聞いたんだが、どうやらリベールから帝国に出張して来ていたA級の人が入出国を厳しくされていて帰れないだとか、もう遊撃士協会総本部もA級以上の派遣を決定してるとか。……ただクロスベルや共和国といった近隣諸国から人を送るのは厳しいみたいだな」

 

 

「ふうむ……時間がかかるか。………ちなみに結社は?」

 

 

「蛇の連中か……どうだろうな、最近はヴィータのやつとも連絡とってねえし……。こんな表の戦争に裏のあいつらが絡んでくるか?」

 

 

「確かにな。けどオズボーンと結社は敵同士だろ。《幻焔計画》とやらの詳細は知らんし“激動の時代”と関係してるのかも不明だけど……リベール侵攻がそれに当たるかもしれないなら何らかのアクションがあるかもしれん」

 

 

ナギトの推論と言えるかもわからない言葉にリィンら3人は黙考した。僅かな沈黙を破ったのはトマスだった。

 

 

「あくまで私が把握してる限りは…ですが、帝国の内戦以降、結社は不気味なほど沈黙してます。個人として動く事はあっても組織的な……言わば《身喰らう蛇》としての動きはない。彼らは当然《幻焔計画》がどんなものか把握しているでしょうから、此度のリベール侵攻がそれに関係してくるなら何か手出しをしてくる可能性はあります」

 

 

「教会も《幻焔計画》の内容は知らないんですか?」

 

 

「ええ、悔しい事に。クロスベルの虚ろなる幻をもって帝国の焔を燃え上がらせる……そんな計画らしいですが」

 

 

ナギトもそんなフレーズは聞いた覚えがあった。“クロスベルの虚ろな幻”……これはおそらく消えた《幻の至宝》の代わりにつくられた《零の至宝》の事だろう。

そして“帝国の焔”……これについてはわからない。

焔──《焔の至宝》の事なら、その正体はマクバーンだからこの線はないはず。

帝国の焔と聞いて思い浮かぶのは内戦だ。帝国全土を巻き込んだ戦火。“帝国の焔”と言えなくもない。確かにあの内戦はクロスベル独立国──すなわち《零の至宝》にまつわる事件が端緒であった。

 

思い出せ。あの内戦で結社の使徒ヴィータ・クロチルダは何をしようとしていた?

 

 

「……………………」

 

 

沈思黙考。内戦時の記憶が甦る。

 

 

「リベールは関係ない、か………?」

 

 

表と裏の連動はない。だから結社は介入しない……?

 

 

「今すぐ結論を出すのは早過ぎじゃねえか?まだ開戦初日だろ」

 

 

クロウの諫言にナギトは凝り固まりかけた思考を「そうだな」と解きほぐす。

 

 

「それでナギト………君はどうするつもりなんだ?」

 

 

確認するように問いかけたのはリィンだった。

すでにこの場に至った経緯は説明している。だからこれは確認作業に過ぎなかった。

 

 

「リベールに残るよ。この戦争を起こしたオズボーンの狙いもわからねえしな。……それに本来の目的──カシウス・ブライトに会うってのも達成してないしな」

 

 

もはや“挨拶”なんて段ではないかもしれない。それでも初志貫徹を果たしたいという思いはあった。

 

 

「リィン、クロウ……お前たちⅦ組には帝国で動いてほしい。どうにか内側からオズボーンの狙いを探ってくれないか?」

 

 

「了解したぜ。だが……」

 

 

「俺たちも今や“英雄”の身……どこまで自由に動けるかわからないぞ」

 

 

ナギトの頼みにリィンとクロウは応えるスタンスだ。しかし2人は英雄なんて肩書を与えられた非常時的兵士。

 

 

「わかってる。でも出来るだけお前たちがリベールに攻め込むのは回避してほしい。俺も戦いたくはねえし……政府のオーダーでも、こんな大義のない戦争に参加する義理はねえだろ。それに英雄が戦争に消極的なら帝国内の士気低下も狙える」

 

 

その言葉は暗に、ナギトがこれからリベール側として戦い、もしリィンらが来ても撃退する意思が秘められている。

 

 

「………わかった。なんとかしてみるよ、オズボーン宰相の狙いを探る事も含めて……みんなと協力してみる」

 

 

リィンの了解をもってひとまず会話は落着。その後ナギトはトマスに話を振った。

 

 

「教会──いや、星杯騎士団はどう動くつもりなんですか?あなた方には《天の車》もある……他より比較的フットワーク軽く動けるでしょう?」

 

 

「それって……」

 

「教会が秘密裏に運用してるっつー……」

 

 

ナギトの言及にリィンとクロウが反応する。それにトマスは嘆息してから質問への返事を行った。

 

 

「一応機密事項なんですがねぇ……。我々星杯騎士団としては、当然ですが戦争そのものに介入するつもりはありません。……しかし局地的になら参戦する目もありますし、つい先日配置換えを行いまして……リベールで待機していた第八位と入れ替わる形で第五位…つまりケビンくんがリベール入りしました」

 

 

かつて聞いた話では対オズボーンとして教会は帝国に3人、近隣に3人の守護騎士を置いていたらしい。

その内の1人、第八位グンター・バルクホルンが先日までリベールにいたらしいがケビンと交代して帝国入りしたそうだ。確かガイウスの知己でもあったか。

 

 

「ケビンくんとは現在連絡は取れませんが……まあそのうちひょっこり顔を出すでしょう。それ以外のメンツについては、リベールへの侵略が陽動である事も考え、帝国組は待機、近隣で控えていた守護騎士たちには帝国入りが命じられました」

 

 

「リベールについてはケビン・グラハム神父1人で対応しろと?」

 

 

「そうなります。《千の護り手》───かつて教会を支えた《千の腕》の後継者たるか…お手並み拝見といったところでしょうか」

 

 

「随分と趣味の悪い言い草だな。《千の腕》……ルフィナ・アルジェントだったか、すでに亡くなったと聞いてるが」

 

 

少なくとも味方ポジの言うセリフではない言葉を吐いたトマスにクロウが聞き覚えのある名前に食いつく。

 

 

「ええ、ケビンくんが守護騎士になった際に。彼女の異名を受け継いだケビンくんには是非とも頑張ってもらいたいものです」

 

 

「……はあ、結局は星杯騎士団も余力がないって事ですか」

 

 

トマスの悪辣な言い口は結局、そこが着地点だった。リベール王国内にケビンしかいないなら、いずれは連携を取りたいものだ。

 

 

「そういや、他の面々はどうしたんです?……この通信…教会からアーティファクトを託されたメンツはもっといると思ってたんですが」

 

 

そこでナギトは次に通信に参加していないメンバーについて言及した。それこそリベールではカシウスに渡していると思っていたのだが。

 

 

「ケビンくんについては先程言ったように連絡が取れません。おそらくリベール入りでごたついているんでしょう。カシウス将軍についても同様と思われます。この急な開戦で各所に指示を出さなきゃいけないでしょうし。……他の面々については私たち教会を軸にして情報交換を行なっています。共和国の情報屋やクロスベルの市長などですね」

 

 

「まあ、俺たちもいきなり知らない人と話すのは困るしな。トマス教官たちが仲介役をやってくれるのは助かります」

 

 

さらさらと答えたトマスにリィンが礼を言う。フィルターのかかってない情報が欲しい気もしたが、取捨選択して必要な分だけこの場で出力してくれるのは助かる面も大きい。

 

 

とりあえずはこんなものか、という事でひとまず通信は終わり。また気になる情報が入り次第、共有する事になった。

 

 

 

それから数分もしない内にアンバーズ・シードが司令室に入室。

 

 

「お待たせして申し訳ない。部下に指示を出していてね」

 

 

「いえいえ、大変でしょうし」

 

 

言いつつナギトの対面に座るアンバーズ。

ナギトは部屋の外に10名の兵士の気配を察知した。どうやら良くない状況かもしれない。

 

 

「改めて、アンバーズ・シードだ。モルガン将軍の意識が戻るまで、暫定的にこのハーケン門の責任者となる。よろしく頼む」

 

 

「ナギト・カーファイです。よろしくお願いします」

 

 

握手を交わす。うーん、なんとも寒々しいやり取りだ。

 

 

 

「それで、ナギト氏はなぜリベールにやって来られた?」

 

 

「旅行ですよ。えーと…八葉一刀流ってご存知です?」

 

 

「もちろんだ。東方由来という……カシウス将軍の納めた剣術であろう?」

 

 

「はい、俺がそれの二代目筆頭伝承者に就任しまして、そのご挨拶に伺ったんですよ。カシウス師兄とは面識はないんですがね」

 

 

「ほほう、それで戦争に巻き込まれたと。それは災難だったな?」

 

 

「いやまったく。帝国から来ておいて何ですが、とんでもない事をしでかしてくれたもんですよ」

 

 

ナギトは帝国からの旅行者である。これまでハーケン門関係者に明かしてはいなかったが、おそらくもう掴んでいるだろうと思い口にした。

 

 

「………聞きたいのだが、どうして帝国の旅行者が我が軍に味方する?それにあの機甲兵はなんだ?」

 

 

さあ、どこまでぶっちゃけるか。正直、この問答で信用を得られる気はしない。

 

 

「正直なところを言うと、俺には帝国に潜在的な敵がいまして。今回のリベール侵攻の狙いが読めないし、なによりこの戦には大義がない。リベールに味方するのは以上の理由です。……で、あの機甲兵なんですが気に入らない上司の命令をぶっちして持って来ました」

 

 

「…うーむ、なんとも………」

 

 

アンバーズは反応に困っている。なんとも言えないだろうワードをチョイスしたのだ。

 

 

「だが、君が旅行者を装った帝国軍人であるとは考え難い。我々の信用を得るためだけにあの飛行戦艦──ガルガンチュア級を3隻も墜とすのは採算が合わないからな」

 

 

実際は4隻だし、墜としたガルガンチュア級で陸路も塞いだ。現時点で論功があれば功一等はナギトであろう。

 

安心しかけたナギトに冷や水をかけるように、アンバーズは鋭い視線を向ける。

 

 

 

「しかし───我々の信用を得る事で採算が合う場合がある。………カシウス・ブライトの暗殺だ」

 

 

 

そうくるか、とナギトは思った。この流れはまずい……というか、眼前の中佐アンバーズは結論ありきで話し合いを決着させようとしている。

 

 

「君はカシウス将軍に会いたいと言ったな。それは暗殺の機会を得るためだとも考えられる。……今のところナギト氏…君は我が王国の恩人だ。将軍自ら会っても不思議ではない。君は信用を勝ち取った。だから怪しいのだ」

 

 

捲し立てるように言うアンバーズ。危機管理的にこの対応は正しい。

 

 

「別に会わずとも通信でカシウス将軍と話せれば容疑は晴れると思いますが」

 

 

「そうだな。だが今はレイストン要塞とは連絡がつかない。カシウス将軍に君が刺客でないと断言はできないだろう。例え兄弟弟子であっても、それは暗殺者と両立する」

 

 

「一理ありますね。……じゃあ俺は軟禁ですか?部屋の外に待機させてる兵士はそのためでしょう」

 

 

あまりにも自然に言い当てたナギトにアンバーズは目を剥いた。確かにあの機甲兵の活躍には驚いたが、この人物もただのパイロットというだけではない。

 

 

「──ッああ。大人しく従ってくれるな?君が宣告通りただの旅行者であると言うのなら」

 

 

「………いいでしょう。あ、牢屋は勘弁ですよ?」

 

 

「心配無用だ、すでに牢は帝国軍人でいっぱい………君には応接室で大人しくしていてもらう。確認が済むまで、王国の料理の味を楽しんでくれたまえ」

 

 

いっそ軽快と言えるやり取り。嘆息したナギトをアンバーズの合図と共に部屋に突入した兵士たちが捕らえる。

 

 

ナギトはこうしてハーケン門で軟禁される事となった。

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