八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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仮面の男と甘ちゃん宣言

 

 

 

「以上が、我が《銀蹄機甲兵団》敗北の顛末となります」

 

 

リベールの地でナギトに敗北したオーレリアは帝国本土に戻り報告を行なっていた。相手はどういうわけか《鉄血宰相》ギリアス・オズボーンである。

 

 

「ふむ、そうか。カシウス・ブライトは不在だったか」

 

 

「はい、恐れながら情報局が──いや帝国そのものが、かの《剣聖》に謀られたものかと」

 

 

「その通りだ。彼とてこの時期の開戦を読んでいたわけではあるまいが……やってくれたものだ」

 

 

オーレリアには意味がわからなかった。なぜわざわざオズボーンと面会して直に報告を行うのか。

 

 

「しかし……それ以上に想定外だったのはナギト・カーファイの存在でしょう。リベールに旅行に行っていた…というだけならまだしも、帝国軍に弓を引くとは………。噂の騎神とやらもハーケン門では大活躍だったとか?」

 

 

「フッ、そうだな。あれの武力はもはや一軍にも匹敵しよう。騎神を持ち出せば更に厄介だろうな。……オーレリア将軍、彼と刃を交えてみてどう思った?」

 

 

「隔絶していますね、武人としても……人間としても。………“特異点”、でしたか。蛇の人間があやつをそう呼んだと聞きましたが………そう呼ばれるに足る人物である事はもはや疑い様もないでしょう」

 

 

だから、ほんの少しでも聞き出そうと思ったのだ。

オーレリアは裏に精通した人間ではない。ある程度の事情は知っているが、積極的に関わる気もあまりない。それはオーレリアが“将軍”という身分を得ているからだ。表でそんな大層な地位にいては裏で活動しにくい。

だから表でも裏でも奸計を巡らすオズボーンの思惑の一端でも覗ければ……と、そう思ったのだ。

 

 

 

 

「フフ………、そうか。では、やはりこのタイミングで戦争を仕掛けたのは正解だったようだな」

 

 

 

 

「──!?」

 

 

その意味を履き違えるオーレリアではない。

だからこそ、問わざるを得ない。

 

 

「──ギリアス・オズボーン宰相閣下……あなたは、いったい何をしようとしている?リベールで、いやこのゼムリアで………あなたの言う“激動の時代”はどこへ向かっている!?」

 

 

剣の柄に手をかけかねない勢いでオーレリアは言った。だがオズボーンは僅かもたじろぐ事はない。宰相執務室という密室、オズボーンも元帝国軍人とは言えすでに前線を退いて十年余り、もしオーレリアが乱心すれば斬り捨てられる可能性すらあった。

 

だがオズボーンは揺らがない。すべては己の目的のために。

 

 

「誤解されがちだが、私はこれでも小市民でね」

 

 

困ったように笑う、そうとはまったく見えないオズボーンの強面がほんの少し安らいだように思えた。

 

 

「戯言を」

 

 

ギリアス・オズボーンが小市民だなんて戯言を誰が信じると言うのか。

一言で切って捨てたオーレリアに、やはりオズボーンはいつもの低く艶のある声で言ってのけた。

 

 

 

 

 

「取り戻したいのだよ────在りし日の幸せをな」

 

 

 

 

☆★

 

 

 

「劣勢か………」

 

 

翌朝、帝国による侵攻が再開された。ハーケン門の応接室で軟禁されているナギトは王国軍が蹂躙されていく様を見ている事しかできない。

 

 

王国軍も精鋭とは言え帝国正規軍もさすがに精強。兵の質に差がないのであれば、あとは数で戦は決まる。

とは言え“劣勢”程度で済んでいるのは帝国軍の艦隊が予想以上に少ない事が理由だ。昨日ガルガンチュア級3隻が墜とされた事で帝国軍は慎重になっているのか。その分、帝国は他の地域に戦力を割ける事には繋がるが……

 

 

「………成長したと言うべきか、らしくないと言うべきか…………」

 

 

ナギトは己の思考に嘆息する。

ナギト・ウィル・カーファイという人物は突出した武力を持っている。それこそ単騎で戦況を変えてしまえるほどに。あるいは、戦争という概念を陳腐化させるほどに。

 

だからか、気が大きくなっている。ほんの少し前までは手の届く範囲を守るのに必死だったのに、今やこのリベール全土の事を気に掛けられるまでになっている。

だからこそ、歯痒い。手の届く範囲で、目に映る範囲で、誰の意図とも知れず人々が争っているのが。

 

 

「ギリアス・オズボーン………何が狙いなんだ……?」

 

 

この戦争を起こした張本人であろう男の顔を思い浮かべる。

いくら考えてもそれは憶測の域を出ない。無為な時間を過ごしている───そんな焦燥感がナギトを苛立たせる。

 

 

あのアンバーズ・シード中佐も優秀なのだろうが数で押されてはどうしようもあるまい。気配で戦場を察知する限り、王国軍の戦線が崩壊するのは時間の問題だ。

助けに入りたい思いもあるが、ナギトは軟禁されている身、如何様にでも脱出はできるがその後の問題もある。

 

 

「…………はあ」

 

 

大きく息を吐いた。もう勝手に出撃してしまおうかと思ったその時だった。

 

応接室のドアがノックされ、次の瞬間には見覚えのない軍人がナギトの眼前に侍っていた。

 

 

「ナギト・カーファイさん、どうか我らに力を貸してくれないでしょうか?」

 

 

「……あなたは?」

 

 

「タイガ軍曹です」と頭を下げたままその軍人は言った。

 

 

「アンバーズ・シード中佐の命令か?」

 

 

「いいえ、ムタタユー軍曹の独断です。俺…いえ私はそれに従ってあなたに助力を請うよう命じられました」

 

 

ムタタユー軍曹。昨日会った兵士だったか。

 

 

「同じ階級で命令?」

 

 

「あの人は先輩なので」

 

 

ナギトの細かい疑問に答えるタイガ軍曹。

 

 

「独断か……」

 

 

そんな疑問も解消されたところでナギトはつぶやいた。ハーケン門の責任者はアンバーズだ。その許可も得ずにナギトに救援を頼んだとあれば彼はどうなるか。それにナギトも。

 

 

「ダメでしょうか……?」

 

 

不安げに頭を上げつつこちらを見るタイガ軍曹に笑ってみせる。

 

 

「いいや、渡りに船だ」

 

 

ナギトとしてはこれで筋は通った。助けを求められたから応じる。ただそれだけの事だ。小難しい政治はまず命あっての物種。この場を切り抜けるのが先決だろう。

 

 

「では……!ならすぐにでもあの機甲兵を……」

 

 

「いや、それはいい。それより準備して欲しいものがある」

 

 

それから僅かの後、帝国軍は蹂躙される事となる。

 

 

 

☆★

 

 

 

「すー、はー…」

 

 

大きく息を吸って、吐く。

トントントン、空を蹴って“幻造”の足場に着地。

 

 

力を解放する。

 

 

「極技・無双天晴────!」

 

 

極太の光線が帝国軍飛行艦隊を丸ごと薙ぎ払った。

爆散、墜落したガルガンチュア級を端目に、ナギトは声を張り上げた。

 

 

「我が名はジョン・ドゥ!人呼んでマスク・ド・ジャック!王国軍特務兵である!!帝国軍よ、リベールの地を侵すなら覚悟せよ!この仮面が貴様らの見る最後の光景となるだろう!!!」

 

 

マスク・ド・ジャック───後にリベールの英雄と語られない兵士の登場である。

 

 

 

 

ナギトがタイガ軍曹に求めたのは王国軍の制服である。個人的には一兵卒の制服なら帝国のものよりセンスが良い。

 

そこに“幻造”で白い仮面を造り出し装着する。こうしてナギト・カーファイという人物は表向きには消え、王国軍特務兵ジョン・ドゥの出来上がりというわけだ。

 

出来の悪い筋書きではあるが“ナギト”としてこの戦争に介入するには名分がない。だからこうして王国軍兵士としての、まやかしの立場を創作して戦場に立つと決めたのだ。

 

 

ちなみに偽名についても少し考えた。前に使った“ウィル・エルフィード”はなし。実際このリベールにはエルフィード姓のアネラスがいる事だし。“ナギト”や“ウィル”をもじった偽名にしようとも考えたが、それらはこの切羽詰まった時間でやるべきではない。

こうして仮面の英雄マスク・ド・ジャックことジョン・ドゥ(名無しの権兵衛)は完成したわけである。

 

 

 

とまあ、こんな出来の悪い筋書きは当然ボロが出るもので。

 

 

仮面を外したナギトはアンバーズに詰め寄られていた。ハーケン門内部の通路で人目も憚らず、数十名の兵士に囲まれている。

 

 

「正直助かった面はある。だが君は軟禁された身であったはずだ。それがどうして戦地に立った?」

 

 

こちらを睨みつけるアンバーズ・シード。全くもってご尤もな意見である。

 

 

「あー、俺です。俺が助力を願いました」

 

 

兵士たちをかき分けて現れたのはムタタユー軍曹であった。揉める事はわかっていたムタタユーは自身の駆る飛空艇を手早く片付けると、この場に急行していた。

 

 

「君か、ムタタユー軍曹。前にも独断で降格させられたのを忘れたのか」

 

 

「いやいやまさか。でも他に手段もなかったと思います。俺は手が離せなかったんでタイガ軍曹にお願いしまして」

 

 

どうやらこのムタタユーという青年は以前にも独断で動いて、挙句降格したらしい。その時の状況は窺い知る事はできないが、その是非に問わず命令違反には罰が下されるのが軍という組織だ。

 

ムタタユーは「ととと」とステップを踏むようにナギトの傍らに立つとタイガ軍曹に謝った。

 

 

「すまんな、ちょっと損な役回りさせたわ」

 

「いいっすよ。でもこっから先は」

 

「わかってる。……気が重いわ」

 

 

ムタタユーは気怠げな表情をした。やはりナギトの解放はムタタユーの独断で「責任はとる」的な発言でタイガを動かしたものと見えた。

 

ここでナギトが何か言っても事態を好転させる事はできまい。ナギトが動いたのはどこまでも自分の理屈だ。軍の理屈もわかりはするが、どの口で…という話になる。

なので、この場はムタタユーの弁舌に任せる事にした。

 

 

「……今回の件、改めて俺の独断です。すみませんでした」

 

 

ムタタユーは頭を下げる。しかしこれは以降の会話のための前振りだった。

 

 

「ですけど、どの道でしょう。このカーファイさんの力を借りられなければハーケン門は突破されていた。………責任というなら、このハーケン門だけでなくリベール王国全土に対する責任が我々軍属にはある」

 

 

アンバーズは顔を顰める。ナギトはそれだけで、これまでの事も含めてアンバーズ・シードという男の在り方がわかった。

 

 

「その男にリベールを害する意志があったらどうするつもりだ?カシウス将軍やアシリア女王陛下の命を狙っていたら」

 

 

「ですから、どの道です。………カーファイさんにリベールを害する意志があっても、シード中佐の懸念が現実になったとしても。俺たちにそれを止める力はない。あの緋い機甲兵だけじゃない……今日の活躍を見れば一目瞭然ですよ。人の身でありながら馬鹿げた力を持ってる」

 

 

「止められないから、ギャンブルに出るしかないと?」

 

 

「はい。今日の活躍を見る限りこの人には軟禁なんて無意味でしょ。その気になればすぐに扉なんて破れるわけだし。……それに昨日、司令室でのカーファイさんの通話の監視記録を見れば限りなくシロだとも思える」

 

 

「だから、上官の命令を破ってでもナギト氏に援軍を頼んだのか」

 

 

「そうです。………カーファイさんがリベールを害しても、それは戦争が早く終わるか遅く終わるかの違いに過ぎないと思うので。──だったら力を借りれる方に賭けて、戦争がリベールの敗北で終わるっていう未来をひっくり返してもらおうと思ったんです」

 

 

ムタタユーの言い分は、要約するとこうだった。

この戦争、リベールの負けで終わる事ははじめからわかっている。だからもしナギトが将軍や女王を暗殺しても、その未来が早く訪れるだけ。

だったらナギトに力を貸してもらう可能性に賭けて戦争の趨勢そのものをひっくり返してもらおう──というものだ。

 

そこまで期待されるのは光栄だが、同時に気が重くもあった。

 

 

 

「言い訳はわかった。今回の件はなかった事にして……ナギト氏には変わらず軟禁されていてもらう。ムタタユー軍曹…君には───」

 

 

ムタタユーの意見は一見筋が通っているように見えて、かなり危うい論理の元に成り立っている。そんな論理をアンバーズが認めるはずもなく非情な裁定を下そうとした、その時────

 

 

 

「───そこまでだ」

 

 

厳かな声が通路に響き渡った。人海が割れ、そこから姿を見せたのは人に支えられた老躯。モルガン将軍であった。

 

 

 

☆★

 

 

モルガン将軍の意識が戻った事で事態は一応の終息を迎えた。

ハーケン門の指揮はモルガン将軍に戻り、アンバーズ中佐はその副官に。ムタタユーやタイガら軍曹の判断も非常時故に不問とされた。

 

そしてナギトはモルガン将軍に礼を言われ───再び応接室で軟禁されていた。

 

 

「しばらく待てと言われてもな………」

 

 

モルガン将軍からはそう言いつけられている。どうやら昨夜、アンバーズ中佐の命令で通信回線復旧部隊がハーケン門から進発していて、案の定破壊されていた通信回線の復旧の目処が立ったようだった。

 

手持ち無沙汰である。

 

 

「ッ………」

 

 

身体の節々が、少し痛む。“極技・無双天晴”の反動だ。威力については折り紙つきであったからガルガンチュア級を墜とせた事に疑問はない。だが、今回は前回クロスベルでやった時と違い、力のリソースの大部分を霊脈から汲み上げていた。

だからナギト自身の消耗は軽微だが、また汲み上げる力の調整をミスったため身体に負担がかかっている。

 

 

「あれだけの事をして、この程度で済んだんだから御の字か」

 

 

本日のナギト───もといマスク・ド・ジャックの戦果はガルガンチュア級5隻。とんでもない功績(殺人)である。

 

 

その事について思う事がないわけではないが、もう決めた事だ。殺されたやつらとて自ら軍属になる事を選んだのだから、そんなやつらの命を背負うなんて真似は狂ってるとナギトは断じた。そう思わないとやってられない部分もある。

 

だがもし……自らが奪った命の中に顔見知りがいたら───なんて思考は背筋を凍らせるに充分だった。

昨年のトールズから卒業した先輩方からも数名は正規軍に入った。もしそんな人たちまで手にかけていたら…………

 

 

「あほくさ」

 

 

ナギトは思考を打ち切った。手すきだとこんな思考の迷宮に突入してしまうから困る。

 

もう、決めた事だ。決めた事なのだ。

優先順位を誤るな。己の正義に従って行動しろ。

それで例え──何人から非難されたとしても。

 

 

 

しばらくして、ナギトは呼び出された。司令室である。なにやら通信が復旧したという事で、カシウスとモルガン両将軍の話し合いも終わり、ナギトの扱いについて決めるようだ。

 

 

備え付けられた机の上にPCが載っている。勧められるままに、それと対面するように着席した。

モニターに映る顔は些かの疲れも見せない逞しいリベールの守護神のものだった。

 

 

「はじめましてだな。老師から君の事は聞いている。ウィル・カーファイ………いや、今は改名してナギト・ウィル・カーファイと名乗っているんだとか?」

 

 

「はじめまして、カシウス師兄。八葉一刀流二代目、筆頭伝承と相成りましたナギト・ウィル・カーファイです。こちらもお噂はかねがね…といったところですね。………本当ならこんな状況で挨拶したくなかった」

 

 

カシウス・ブライト。《剣聖》の異名を持つ──持っていたリベール王国の将軍。卓越した戦略眼を持つ名将だ。

 

 

困ったように眉根を上げたナギトにカシウスも呼応する。

 

 

「まったくだ。せっかくの初対面がこんな形とは、空の女神も酷な事をする」

 

 

「どうやら俺はそういった運には恵まれていないようで」

 

 

クロスベルのアリオスに挨拶しに行った際も落ち着いた状況ではなかった。あの時は敵対していたのだから、今回は味方としてカシウスと面会できたのだからややマシか。状況としてはアリオスとの時よりなお悪いが。

 

 

「フフ…そのようだな。改めてカシウス・ブライトだ。かつて《剣聖》を名乗っておきながら剣を捨てた師不考者だ」

 

 

「その分俺が師孝行者となりましょう。八葉を継ぐ者として。───《剣聖》を超えた剣士となる事で」

 

 

「うむ……君になら任せられそうだな。老師の末弟子……君の兄弟分だったか…も気になるところではあるが」

 

 

「あいつももう《剣聖》一歩手前ですよ。あなたが抜けた穴なんて俺たち2人で塞いで差し上げる」

 

 

「……頼もしい事だ。帝国は有望な若者が育っているようだな」

 

 

 

いっそ失礼とも取れる軽妙なやり取り。それを聞いている室内の面々にはしかめっ面をしている者さえあった。

 

 

「さて、挨拶はこれくらいでいいだろう。本題に入らせてもらうぞ」

 

 

カシウスは前置きして本題に入る。それすなわち今後についてだ。

 

 

「君の活躍は聞いている。ハーケン門に攻め入った帝国軍の撃退……しかもあのガルガンチュア級を昨日と今日で合わせて8隻も墜としたそうだな」

 

 

「ええまあなんとか。やればできるもんですね」

 

 

やればできる、なんて軽々しいものではない。聞いた時には耳を疑った情報だ。カシウスはツッコミを入れたくなったが我慢して話を続ける。

 

 

「緋色の騎士人形……確か機甲兵のモデルとなった騎神だったか。それに乗って昨日は3隻。今日はマスク・ド・ジャックとやらに変身して生身で5隻」

 

 

どうやらナギトの、あの名乗り上げもカシウスに伝わっているようだ。

カシウスから“マスク・ド・ジャック”なんて名詞が出てきてナギトは少し笑ってしまう。どんなネーミングセンスだと。いや名付けたのは自分なのだが。

 

 

「そのマスク・ド・ジャックが放ったという光線………それは君の奥の手か?」

 

 

「いえ、調整さえミスらなきゃタメは要りますけど連発可能です。奥の手だったら秘しますよ」

 

 

「君の奥の手も個人としては気になるところだが………ふむ」

 

 

カシウスは黙り込んだ。ガルガンチュア級5隻を一薙ぎする“極技・無双天晴”───破格の戦力の使い所でも考えているのだろう。

 

 

「あーっと、でも乱発すると土地が枯れるんで…」

 

 

「土地が枯れる……?……まさか………霊脈から力を吸い上げているのか?」

 

 

カシウスの慧眼に舌を巻く。剣を捨てたとは言え八葉に連なる者なのだからその方面の知識もあるのだろうが。

 

 

「まー……霊脈のバックアップなしでも撃てますが、日に一回が限度ですね。撃った後の俺は大技もあまり使えなくなります」

 

 

「そうか、なるほど………おっと、そういえば確認していなかったな。……君はこちらの戦力として数えさせてもらっても良かったのか?帝国から来たんだろう」

 

 

そこで思い出したように問うカシウス。最初に確認するはずの項目だが、この智将もそれなりに焦っているという事なのだろう。

 

 

「構いません。俺も今回の侵攻には思うところがありますし。……この戦争を迅速に終わらせて講和に持ち込むには帝国の力を削ぐ必要がある」

 

 

戦争が長引けばそれだけ犠牲が増える。その内には市民の犠牲さえ許容してしまうようになるだろう。だから戦争を早めに終わらせてしまいたい。兵士たちの善良が失われてしまう前に。

 

そのために自国の兵士を殺し回るのは、もう仕方がないと割り切る。

 

ただ────

 

 

「ただ、俺は甘ちゃんなんで……いざという時は自らの基準に従います。………それで良いならこの力、存分にお使いください」

 

 

 

「………こちらは元よりあなたにお頼みする身。力添えしてくださるのであれば否やはありません」

 

 

その発言は立場ありきのものだったか。礼と品を備えたカシウスに面食らったナギト。そこからカシウスは悪戯する子供のように笑んでみせた。

 

 

「いや、マスク・ド・ジャック───ジョン・ドゥは元々我が王国軍の特務兵だったか?ならこき使わせて───」

 

 

「勘弁してくださいよ……」

 

 

 

そんな一幕がありつつ、ナギトの翌日の動きは決定した。

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