八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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モチベ! 界の軌跡でかかったモチベーションブーストが切れたようです。更新が遅くなり申し訳ありません。

あとパルワールドやってました。なんか色々問題になってますけど面白いですね。どうなる事やら……


束の間の平穏。それは台風の目の如く

 

 

 

「調子はどうだ?」

 

 

 

「自分でやった相手に聞くの、ほんとそういうとこだぞナギト」

 

 

 

エレボニア帝国からリベール王国に宣戦布告されてから5日目。

4日間の戦績を踏まえてから帝国からリベールに対し停戦を申し込み、リベールはこれを受諾。

リベール王国に平和的な一日が戻っていた。

 

 

ナギトは昨日の戦闘で帝国に逃げ帰ったリィンとクロウと通信をしていた。

 

 

「はっはっは、悪いな強くて。……嫌味が言える程度なら良かったよ」

 

 

「ったく、こいつは……」

 

 

通信越しのリィンとクロウは自らを棚に上げて話すナギトに嘆息。いつも通りのやり取りができる事に一安心だ。

 

 

「さて、昨日はあんまり話せなかったけど今なら俺もお前らも時間はあるだろ。帝国がリベールに戦争ふっかけてから5日目……そろそろ何か掴めたか?」

 

 

ひとしきり笑ってからナギトは本題に踏み込んだ。

1日目の夜にも通信を行い、今後の動き方を話し合ったが、今回はそれによって得られた情報の共有だ。

あの時はトマスがいたが今回は不参加。気兼ねなく話せると言うものだ。

 

 

 

「有力なのはあんまりだな。突然の開戦だったせいで国中が混乱してやがるぜ。この戦争を始めたのは鉄血……マジでどこにも事前連絡せずに独断でおっぱじめたらしい」

 

 

「そのせいで軍部どころかエレボニア帝国そのものが混乱中だ。共和国をはじめとした世界各国から非難声明が出た事もあって国内でも政府……特にオズボーン宰相を非難する声があがっている」

 

 

クロウとリィンは話す。有力なものはないとクロウは言ったが、国内でなければ得られない情報はナギトも欲しかったところだ。

 

 

「そうか……。リベールとの戦争も今のところ上手くいってないし、国民も不安になるだろうな」

 

 

「ここ最近の帝国軍はずっと勝ちっぱなしだったからな。負けた時の反動もでかいだろ。……ま、それ以前にリベールと戦争するって事態に困惑してるのが大きいだろうがな。……政府からはまだろくな声明も出てねえしな」

 

 

「マジかよ……、んじゃこの戦争を引き起こした大義名分を嘘っぱちでも用意できてないってわけか?」

 

 

「そうなるな」とリィンは肯定した。

まだ4日間の戦闘だけとは言え、この戦争は世界各国が注目する大事業になっている。

それを大義名分もなくやるのはわけがわからない。かつて帝国がリベールに兵を送った“百日戦役”の時は自作自演とは言え“ハーメルの悲劇”という名文があった。“リベールの異変”の際にはそれを解決する名目で蒸気戦車を差し向けた話もある。

大義名分があるという点において、それは今回の侵攻よりはるかにマシだ。国内外の反発や非難に対する材料──それが大義名分だ。それもなく戦争を起こすのは為政者失格の愚行だが、オズボーンがそうするだけの理由がこのリベールにあるという事だろうか。

 

 

 

「んで、今このタイミングで停戦か」

 

 

4日目夜に帝国からリベールに打診された停戦。リベールはその申し入れを受諾し5日目の今日、帝国からリベールに使者が送られるという話だった。

 

 

「国の内外からバッシングを受けてんだ。無理もないと思うが……違和感バリバリだな」

 

 

クロウはナギトが言いたい事を先取りした。

 

 

「ああ。……あの人がリベールに攻め込むと決めたなら断行するはずだ。例えどこから非難されたとしても。そういう事だな?」

 

 

リィンまでもがナギトと同じ考えである。

 

それはこれまでに知り得たギリアス・オズボーンの人間性からの考察だった。

 

《鉄血宰相》と呼ばれる彼が開戦からわずか4日目で停戦を申し入れるか?

 

 

「お前たちの言う通りだ。あの《鉄血宰相》のイメージと合わない。ちぐはぐだ」

 

 

「停戦を提案してリベールを油断させた隙に……ってのは考えられねえか?」

 

 

「ありえる。……けどなあ………正直帝国の戦力ならこそこそ破壊工作仕掛けるより正面から武力で征服する方が話が早いと思う」

 

 

「でも、帝国軍はここ四日間で被害を受けた。クロウの言う線もあるんじゃないか?」

 

 

「あんまり現実的じゃないかな。帝国軍の被害云々ってのは絶対的な話だろ。相対的に言えば損耗率は王国軍の方が割合高いはず」

 

 

「国力の差ってやつか……」

 

 

ナギトのセリフにクロウが言葉尻を弱めながら納得し、そこからしばらく3人で「うーん」と唸る。

オズボーンの意図が読めない。ここまでなのは初めてかもしれなかった。

 

 

「ナギトを帝国に帰したがっているんじゃないか?」

 

 

思いついた、と言うようにリィンが提起した。ナギトは少し考えて、

 

 

「それはないんじゃねーの」

 

 

と否定した。

確かにナギトにはこれまで“帝国に戻る”という選択肢を取れる場面が何度もあった。

カシウスが自宅に不在だとわかった時。

エレボニア帝国とリベール王国の戦争が始まったと知った時。

オーレリアを降した時。

ハーケン門についた時。

それからも常にナギトの頭の片隅には帰還の選択肢があった。しかし“カシウスに挨拶する”という初志を貫徹できていない以上はありえない選択肢でもあった。

 

そもそもナギトをリベールから帝国に戻らせてオズボーンは何がしたい?むしろナギトの性格上、オズボーンの邪魔をするだろう事はわかっているだろうから、ナギトを帝国に戻らせるなんて考えはないはずだ。

 

 

「………いや、……そういう、ことか………?」

 

 

意味ありげにつぶやいたナギトにクロウが突っかかる。

 

 

「なにかわかったのか?」

 

 

ナギトは思考をまとめると話しながら整理する事にした。

 

 

「オズボーンは当初、俺が帝国の味方をすると思ってたのかもしれない。……けど俺がリベールに与して帝国軍とやり合ってるから、目論見を外したとして一旦帝国に戻らせようとしている……的な?」

 

 

言いながら自信を失う。

やはりナギトの性格上、正面からリベール王国に敵対せよ、と命じても従わない公算が大で、だからナギトがリベール旅行中に戦争を引き起こしてなし崩し的にリベールを征服させる手助けをさせたかったのではないか。

しかしナギトがリベールに味方した事で帝国軍は打撃を受けて、目論見を外したオズボーンがナギトを帝国に戻そうとしている。

 

 

「………あるか、それ?」

 

 

ナギトのトンデモ理論を受け止めたクロウは呆れている様子だ。

 

 

「……やっぱ、ないよな。うーん、リィンの考えを最大限に活用したんだけどなあ」

 

 

「人に押し付けるんじゃない」

 

 

さらっとリィンに的外れ推理の罪をなすりつけようとするが失敗。議論は前に進まず。

それからまた3人で「うんうん」唸る。

 

 

 

 

「あ、そういやお前ら、レクターさんに誑かされたって言ってたけど実際はなんて説得されたんだ?」

 

 

唸っていても始まらないため、ナギトは話題を転換した。それは昨日、2人がリベールに攻め込んできた理由についてだ。

 

 

「ああ、それについてだが妙な雰囲気でな……」

 

 

「確かに……あれは…………」

 

 

クロウとリィンは記憶を掘り起こす。レクター・アランドールとの会話。情報局特務准佐にして《鉄血の子供達》の一員たる《かかし男》との会話。

 

 

「妙、というと?」

 

 

ナギトは先を促した。

 

 

「俺とクロウに出撃を要請したのは政府で、レクターさんはその使者だった。レクターさんの仕事は俺たちに要請を届けるまでで終わりだ。だけど……」

 

 

「レクター・アランドール自身の言葉を残していきやがった。俺とリィンがリベールに行ったのはそれが理由だ」

 

 

 

 

「すべてが終わる……だったか?」

 

 

それがリィンらが帝国軍に随伴してまでナギトに伝えた言葉だった。

 

4日目にナギトと対峙したリィンとクロウはレクターにそう唆されて帝国軍に加わったと言っていた。

それはナギトを帝国に連れ戻すための手段に過ぎず、しかしてナギトはそれを拒否した。そんな曖昧過ぎる理屈で窮地のリベールを見捨てるなんて事はできなかったからだ。

 

 

「すべてが終わる──ってなんだよ?」

 

 

「んなもんわかるかよ」

 

 

にべもなくクロウは言った。ある意味当然だ。レクターのよく当たるカンには理屈がない。カンというものはこれまでの経験や予測から無意識に情報をキャッチしている場合もあるが、レクターのそれは別次元に精度が高い。

“すべてが終わる”───そんな予感の内訳でも覗ければ先手を打てたかもしれないものを。

 

 

「《かかし男》曰く、開戦が性急過ぎたそうだ。さっきも言ったがこの戦争を始めたのは鉄血───その意図はわからねえが、かなりやばい予感がするんだと」

 

 

「レクターさんのカンだ、馬鹿にはできない……けど、どういうことなんだ?」

 

 

リィンは思案するが答えは出ない。“すべてが終わる”なんて抽象的過ぎるものに輪郭を見出すにはヒントが少な過ぎた。

 

 

「俺が帝国に戻らなきゃすべてが終わる…ねぇ………、うーん……レクターさんがギリアス・オズボーンに言わされてる可能性は?」

 

 

「お前さっきの妄想まだ引きずってんのかよ」

 

 

普通の推理を披露したつもりだったが、先のトンデモ妄想と結びつけたクロウにツッコミを入れられる。

 

 

「はは……、でもあの雰囲気は本当だったと思う。オズボーン宰相との思惑とは別にレクターさんの本心のように思えた」

 

 

リィンはそんな2人のやり取りに苦笑しつつ所感を述べた。

 

 

「そうか……。うーん、手詰まりだな」

 

 

リィンとクロウの2人が言うのなら信じられるが、例えレクターの言葉が真だとしても今からどうこうする事はできない。

 

 

「そうだ、話を聞いて変に思うのが一点あってだな」

 

 

とナギトが切り出す。この議題に直接的に関係する話題ではないが切り口にくらいはなるかもしれない。

 

 

「オズボーンが戦争をこのタイミングで仕掛けたのはカシウス・ブライトの休暇って情報があったからだと思うんだよ」

 

 

「カシウス・ブライト……!」

 

 

「リベール王国の将軍だったな。《百日戦役》の影の英雄って聞いてるが……確か八葉一刀流を修めてるんだったか」

 

反応がいいのはリィンだ。クロウはかつて集めたであろうカシウスについての情報を確認した。

 

 

「そのカシウス・ブライト。俺とリィンにとっては兄弟子に当たるな。で、その人が休暇をとるってんで俺もリベールに来たんだけど、戦争が始まったのがちょうどそのタイミングでな……てっきりカシウス将軍不在の王国軍の隙を狙った侵攻だと思ってたわけだが………」

 

ナギトがそこまで言うと、通話口のリィンとクロウは察したようで続きを紡いだ。

 

 

「カシウス将軍の不在を狙うのはあくまで戦術……」

 

 

「戦略目標がリベールならその作戦を鉄血の胸の内だけに留めておくのはおかしい……って話だな?」

 

 

「そゆこと」とナギトは肯定する。偽報ではあったがカシウスの休暇という情報を契機として帝国(オズボーン)はリベールに侵攻したとナギトは考えていた。

だがそれは元から帝国がリベールに侵攻する計画を立てていた前提の話だ。

 

 

「ギリアス・オズボーンはハナからリベールを獲るつもりで、カシウス将軍の休暇──偽報だったわけだが──を狙って軍を動かしたならわかる。けどその場合では少なくとも帝国軍の将軍〜元帥クラスには話を通していて然るべきだ。軍部だけじゃなく政治的にも気をつける必要もあるしな」

 

 

大義名分のない戦──だからこそ国内の意志は統一しなければならない。他国から非難されようと戦争を続ける鉄の意志を国民で共有しなければならない。それを為すべきなのは政治家のトップでもあるオズボーンの役割だ。

 

それを怠っているという、ありえない状況。先程も聞いたが、ギリアス・オズボーンは本当に独断で戦争を始めたのだ。だから国内どころか軍部すら掌握しきれず5日目で停戦なんて醜態を晒している。

 

 

「ありえねえんだよな、今の状況が」

 

 

ナギトの言葉に、一呼吸の間を置いてクロウが続けた。

 

 

「普通なら、だな」

 

 

さらにリィンが引き継ぐ。

 

 

「───つまり、普通じゃない事が起こってるってわけだな」

 

 

☆★

 

 

そこからも議論は進まなかった。

普通ではないギリアス・オズボーンの思考。ありえない采配ぶりに彼の狙いがリベール王国の領土ではないと思えたが、ならば何が狙いなのか……という点がまったくの不明であり、やがて3人は通信を終えたのだった。

 

 

 

それからナギトはタイガ軍曹に連れられて王国軍の訓練に参加する事になった。

 

 

「というわけで稽古をつけてほしい」

 

 

ハーケン門にほど近い開けた場所でアンバーズ中佐から頼み込まれる。周囲には20人弱の兵士たちがいて、万が一に備えてハーケン門で待機している者以外のすべてが集まっていると聞かされた。

「いや休めよ」と思わず言ったナギトだったが、アンバーズ曰く「これも良い機会だから」と押し切られる形になる。

 

 

「うーん」

 

 

頭を掻く。ナギトとしてもここ数日は動きっぱなしで疲れはあった。それを理由に退散する事も可能だったが、集まっている兵士たちのひとり、ムタタユー軍曹がパクパク口を動かしているのが見えた。読み取ると「ことわって」と言っているようだ。

 

 

「受けましょう」

 

 

応えたナギトに「おおっ」と歓声があがる。ムタタユーは天を仰いでいた。

 

それからは模擬戦の流れとなり、まず軍人4人とナギトは立ち会う事になったのだった。

その4人というのが、アンバーズ中佐、ムタタユー軍曹、タイガ軍曹、オサカズナ軍曹だ。

 

 

「ナギト氏、胸をお借りする」

 

 

アンバーズはそう言うとサーベルを抜き放った。同じ様にムタタユーとタイガもサーベルを構える。オサカズナはアサルトライフルを取り出していた。

 

4人の間に戦術リンクが形成される。

 

 

「ARCUS……当然王国軍でも配備済みか」

 

 

元々はトールズⅦ組のお家芸だったARCUSの戦術リンクも今や一般化されている。それを誇らしく思うと共にどこか寂しい気持ちにもなった。

 

ナギトが感傷に浸っている間に「はじめ!」と合図があり、まずアンバーズとタイガが接近してきていた。

 

 

繰り出される斬撃を太刀で受け止める。数合交わしている間にムタタユーとオサカズナがナギトを挟み込むように展開。オサカズナはアサルトライフルで、ムタタユーはどこから取り出したのかハンドガンでナギトに火力を集中する。

 

被弾の刹那、銃撃範囲から逃れたアンバーズとタイガ。ナギトは「悪くないね」と上から目線で褒めてやる。

 

 

「まあ甘いんだけど」

 

 

銃弾が直撃する。しかしナギトにダメージは通らなかった。闘気による防護がその威力を上回っているからだ。

 

 

「ただの弾丸じゃ効かないのよね。闘気込めなさいな」

 

 

スナイパーライフルやら50口径ならまだ効果はあるが、普通の範囲の武器ではナギトには牽制にもならない。まして訓練用の模擬弾なら尚更だ。

 

 

「こっちからいくぞ」

 

 

宣言して、疾風。

刃の代わりに手刀を振るうが、アンバーズとタイガは高速の肉薄に目を剥きながらも防御し、ムタタユーは「うぉわ!?」と情けない声をあげながら躱す。オサカズナにはまともにヒットし、それで気絶してしまった。

 

 

「カズ!」

 

「あちゃー、書類任せ過ぎたかな?」

 

「情けない……」

 

 

それを見てタイガ、ムタタユー、アンバーズは早速ひとり減った事を嘆いている。

 

 

「ムタタユー軍曹、援護重視で立ち回れ!」

 

 

「アイサー!」

 

 

アンバーズは切り替えて指示を出す。ムタタユーは中衛から後衛にポジションチェンジし、模擬戦の流れはまた変わる。

 

 

アンバーズとタイガは変わらずサーベルでナギトに襲いかかるも、その刃がナギトを捉える事はなくムタタユーの援護射撃も、さっきのアドバイスを聞いて闘気を込めているためかタイムラグが発生して微妙に連携が噛み合わない。

 

 

「緋空十字斬」

 

 

十字の緋色の斬撃がアンバーズとタイガを弾き飛ばし、連携に大きな隙が生じる。

 

 

「お前がちょっと面倒だ」

 

 

迅雷。疾風を超えるスピードでムタタユーに肉薄する。しかし手刀はサーベルに受け止められている。ムタタユーの表情から一点読みのヤマカン防御だったようだ。

 

 

「やるな」

 

 

「でしょ?」

 

 

軽薄なやり取りで笑みを交換すると同時にムタタユーはサーベルを滑らせて柄尻をナギトに向けた。そこには穴が空いており──直後、発砲音。

 

ナギトの腹部に痛みが走る。

 

 

「ブレードライフルかよ。痛えじゃねーか」

 

 

まさかハンドガンを持っていて、且つサーベルにも銃撃の機構を隠しているとは思わなかった。文字通りムタタユーの隠し手なのだろう、その表情から余裕は消え失せ苦笑いしている。

 

 

「痛いで済ませるんすね、クソです」

 

「悪いな強くて」

 

 

先程の通信でリィンらに言ったのと同じ謝罪的自慢をするナギトに、ムタタユーは苦笑いを歪めた。

 

 

「本命は俺じゃないんだよな、これが」

 

 

視界の端でオサカズナが立ち上がりアサルトライフルを構えたのが見えた。

 

 

「読めてるんだよな、これが」

 

 

ムタタユーがアーツでオサカズナの気絶を解除したのはアンバーズとタイガを相手にしながら横目で見えていた。

 

だから、抱きついてナギトの動きを止めようとしたムタタユーの体をぐるりと回転させてオサカズナの射線に入れた。

 

 

アサルトライフルの模擬弾がムタタユーの背中にめり込む。数発ヒットしたところでオサカズナは慌てて引き金を引く指を戻したが、ムタタユーはすでに体力レッドゾーンといった様子だった。

 

 

「おつかれ」

 

 

そこにトドメの手刀を入れてムタタユーはリタイア。

 

距離を詰めていたアンバーズにムタタユーを投げて隙をつくり、同じく迫っていたタイガに後ろ蹴りを当てて体勢を崩したところに鉄山靠を決めてぶっ飛ばす。

 

 

ムタタユーを地面に置いたアンバーズが再び肉薄していたが、ナギトはそれを無視して疾駆。オサカズナに接近する。

オサカズナは銃口をナギトに合わせようとしたが、“疾風”の速度で懐に入られてはむしろ銃器を扱う方が不利だ。

 

 

「君はもっと身体能力を磨いた方がいいね」

 

 

腹部に拳が突き刺さる。これでオサカズナは今度こそK.O.だ。

 

 

振り返ると、アンバーズとタイガが距離をとってナギトを見ていた。

 

 

「タイガ軍曹、まだいけるか?」

 

「なんとか……」

 

 

タイガはすでにダメージで疲労困憊といった様子だった。アンバーズはそれを見てとって次がラストチャンスになると悟る。

 

 

アンバーズが「合わせてくれ」と言って2人は駆け出す。ナギトは受けの姿勢をとった。

ナギトを挟み込むように攻撃を仕掛ける2人。アンバーズのサーベルを避けてタイガの斬撃を受け流す。踏ん張る力もなかったタイガは体が流れ、そこにナギトのボディブローが入る。たまらずタイガは崩れ落ち、ナギトとアンバーズの一騎打ちとなった。

 

再び距離をとったアンバーズは油断なくサーベルを構えつつ言葉を投げかけた。

 

 

「さすがの強さだなナギト氏。剣術のみならず体術も一級品だ」

 

 

「はっは、お褒めいただきどうも。これでも手ぇ抜いてるんですよ。訓練って体裁もありますからね。──まぁ、それはあなたもでしょうけど」

 

 

アンバーズ・シードはムタタユー、タイガ、オサカズナら軍曹に囲まれた中でひとりだけ年齢も階級も違う王国軍中佐だ。

剣のキレも軍曹らと比べて数段上で指示も堅実なものだった。それがこうも遅れをとっているのは、ムタタユーら軍曹に合わせていたからだ。

 

 

「……見抜かれているのならば是非もない。ここからは本気でいかせてもらう」

 

 

そう言うとアンバーズは闘気を爆発させた。圧力が一気に増す。

 

 

「では口上を。……アンバーズ・シードよ、王国軍の意地を見せてみよ!」

 

 

ナギトの挑発に応えるようにアンバーズは疾駆した。先とはまるで異なるスピード。軽功あたりだろうとナギトは当たりをつける。

 

刃がぶつかる。火花が散った。しかしそれも一瞬でアンバーズは身を翻すとナギトの周囲をくるくる回り切り付けていく。さらに飛び上がると落下の勢いと同時にサーベルを振り下ろす。

 

ナギトは全部避けるつもりだったが、その鋭さを見誤り頬に一条の傷ができる。最後の振り下ろしを躱すと距離を取った。

 

 

赤く滲んだ一本線を指で拭う。手についた血を見てナギトは自らの慢心癖を再認識すると共に口角を歪める。

 

 

「はあああ!」

 

 

アンバーズは弧状の斬撃を纏い突撃してくる。息も吐かせぬ連撃に、さすがは精鋭とされる王国軍中佐だと内心で褒めちぎった。

ナギトは慢心癖を一瞬だけ引っ込める事にした。

 

 

「雷霆剣」

 

 

太刀が帯電する。のちにアンバーズと激突した。

 

はじめは劣勢。刹那、均衡。やがて弾き返した。

 

 

「悪いね、出力差だ」

 

 

アンバーズはこの一瞬で決められなかった。ナギトの慢心を突くというある種の常套手段を用いてなお、その本気の瞬間最大出力で押し負けたのだ。

 

言いながら、ナギトは雷の斬撃を飛ばす。アンバーズは辛くも避けるが、

 

 

「雷軀遠来」

 

 

その背後で雷の斬撃が分け身となって再度襲いかかる。当然峰打ち。しかし強力な一撃はアンバーズを地に叩き伏せた。

 

 

「幻造」

 

 

そして、宙空から放たれた剣がアンバーズの五体の隙間を縫うように地面に突き刺さり動きを封じる。そこに太刀を突きつけてゲームオーバーだ。

 

 

「………私の……いや、我々の負けだな」

 

 

「お疲れ様です、アンバーズ中佐。疲労もあるでしょうに、これだけ動ければ上出来でしょう」

 

 

「皮肉かね?疲労というなら君もだろう」

 

 

「はは、いやいや」

 

 

言葉を交わしつつ“幻造”の剣を消し去り、手を貸してアンバーズを立ち上がらせる。

 

そこからナギトは王国軍の稽古に付き合う事となる。たった半日の修行では劇的な成長など見込めるはずもないが、それでも王国軍人はこれを貴重な体験として甘受するのだった。

 

 

 

☆★

 

 

夜も更けた頃合い、休んでいたナギトはハーケン門の司令室に呼び出された。馴染みになりつつあるカシウスからのコールである。

 

モルガン将軍やアンバーズ中佐といった面子に囲まれてPCの画面に映るカシウスと対面する。

 

 

「まずは情報を共有しよう」

 

 

と言いカシウスは今日、王都グランセルで起きた出来事を話した。

 

エレボニア帝国から使者として送り込まれたのはレクター・アランドール特使を中心としたメンバーで、その彼らとアリシア女王をリベールの玉座に戴く大臣らとの交渉は上手くいかなかったという。

レクターらは軍事力を背景に無茶な要求をしたようで、リベールは回答に窮していると。受け入れればリベール王国の領土は切り取られ、反すれば戦争が再開される──平たく言うと、そのような様相を呈したらしい。

 

 

「交渉が長引き、本日はお開き──となりかけた所でグランセルで暴動が起きた」

 

 

「暴動───!?」

 

 

すでにモルガンらには説明してあったのだろう、驚愕を露わにしたのはナギトだけだった。

 

 

「現地にいた遊撃士や軍関係者によって暴徒は鎮圧されたが、市民の不安は煽られたままだ」

 

 

「突然戦争に巻き込まれたんだ、不安・不満で暴動を起こすのも無理はない───とは思いますが、ちょっと違和感ですね?」

 

 

カシウスはナギトの確認のような問いに鷹揚に頷いた。

 

 

「うむ。タイミングだけにな。部下に身元を洗わせたんだが……暴徒の大半、それに暴動を引き起こした主犯格──扇動者はここ数年の内にリベールに移住してきた人物だとわかった」

 

 

「移住者………ということは、この暴動はギリアス・オズボーンの仕掛け?」

 

 

ナギトはいくつか質問を飛ばして答えに辿り着いた。カシウスもまたわかっているのなら無駄な問答は回避したいようで、そのまま会話を続ける。

 

 

「そう考えるのが自然だな」

 

 

そうなるとあの《鉄血宰相》は入念な準備をしてリベール王国との戦争を開始したと見る事ができる。しかし、これはオズボーンが国内の意思を統一できていない事実と矛盾する。

“入念な準備”と“突然の開戦”──、これらの事象が示すものとは。

 

 

「ようやくあの《鉄血宰相》らしい姦計──ですが、これはあくまで氷山の一角でしょうね」

 

 

「俺も同じ考えだ。無数に張り巡らせた仕掛けのひとつがたまたま日の目を見る機会を得た……というところだろう」

 

 

おそらくオズボーンは世界各国に似たような仕込みをしているはずだ。それこそ数年単位の時間をかけて、有事の際に使えるように。

それらの仕込みはむしろ使われない場合の方が多いだろう。しかし今回のリベールとの戦争で、仕込んでいたカードを切る場面ができた。だから暴動は実行されたのだろう。

 

 

「この事態を受けて帝国のレクター・アランドール特使は交渉を中断した。今後も暴動の可能性がある限りは、身の安全も考えて講和の席にはつけない……と」

 

 

暴動を引き起こした側の人間が良く言ったものだ。レクターの性格ならすました顔で言いそうな気がする。なんならナギトも平気な顔して言う。

 

 

「時間稼ぎか?……いや…………」

 

 

そんな非人間の面の皮の厚さについてナギトは語る口をもたない。必要ならいくらでも突つくが、今の懸案はそこではない。

 

 

暴動を引き起こし、それを口実に交渉の中断など時間稼ぎ以外の何物でもない。

 

なんのために、そんな事をする?

 

時間稼ぎをして国内の意志を統一するというなら理解はできるが、この時間稼ぎで得をするのはむしろリベールの方だ。

エレボニア帝国の突然の宣戦布告と国境侵犯……そういった非道に世界各国が憤り動き出すまでの時間稼ぎとなる。

 

 

「……まさか」

 

 

前に話した時、オズボーンはいずれ組まれるであろう“対エレボニア同盟”連合軍との勝算は6割と言っていた。

エレボニア帝国内も混乱してるが、それは世界各国も同じ。今のままではろくに連携も取れないはずだ。その隙をついて、一気に世界を手にするつもりか。

このリベールの地で世界の行く末を懸けた一戦の口火を切り、その勢いのまま雌雄を決するつもりなのか。

 

 

「ウィル、君の考えはわかる……が、おそらく杞憂だ。ギリアス・オズボーン帝国宰相の狙いがわかったかもしれん」

 

 

が、思考の海からカシウスによって引き上げられる。さらにはオズボーンの狙いがわかったかも、なんて衝撃の発言をした。

 

 

「マジすか!?」

 

 

思わず食いついたナギトに、カシウスはひとつ息を吐いてから答える。

 

 

「突拍子もない推論だがな。しかしこう考えるとしっくりくる──そんなものだ」

 

 

カシウスはもったいつけている。微妙に自分と似ている気がしたナギトは、八葉の兄弟弟子という関係性を思い出していた。

 

 

「それはいったい…?」

 

 

「今はまだ話さない。君を混乱させるのも本意ではないしな」

 

 

“話さない”とカシウスは言った。“話せない”ではなく、だ。そこに何らかの作為がある事を暗喩している。

 

 

「………探偵みたいな事を言いますね?」

 

 

言いたい事を飲み込んで、ナギトは冗談を口にした。カシウスは「ふっ」と笑ってから、再び真剣に、されど少しだけ申し訳なさを滲ませながら言った。

 

 

「これもリベールのためだ。悪いが利用されてもらうぞ、ジョン・ドゥ──マスク・ド・ジャックよ」

 

 

それは、これからナギトが王国特務兵として動く事になる始まりの鐘であった。

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