八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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莫迦のような探り合い

 

 

 

森を抜けて街道に戻る。ロレントへはもう少しだった。

 

 

「ナギトくん、さっきの話なんやけど……」

 

 

同道しているケビンが声をかけてくる。「なんです?」と促すとケビンは言った。

 

 

 

「君は《外の理》の存在……そういう認識でええんやね?」

 

 

「違いますねぇ」

 

 

「あれぇ?」

 

 

即答するとケビンはずっこけた。

 

 

「ホンマかいな?めっちゃドヤ顔で言うたんやけど今!」

 

 

ギャグ調。流されないように注意する。

 

 

「はは、面白かったですよケビンさん。……そういやトマス教官──ライサンダー卿が連絡がつかないって言ってましたけど……今まで何してたんです?」

 

 

トマス・ライサンダー星杯騎士団副長。ナギトにとってはトールズの教官だった人物でケビンにとっては上司だ。その彼の名前を引き合いに出して話題を逸らそうと試みる。

 

 

「あー、それな……ちょっとカシウスさんの要請で動いててな、その途中で通信機を壊されてしもうて……」

 

 

「ほう、将軍の要請で……もしかして四輪の塔ですか?」

 

 

 

「察するの早過ぎやろ……マジで《剣聖》クラスやんか……」

 

 

 

ケビンとカシウスはリベールの異変の際に知り合っていたはずだ。カシウスはケビンが星杯騎士であることを知っている。ならば超常関係の仕事を任せたいはずで、リベールでその類のものと言ったら……というただの連想ゲームじみた発想だった。

 

 

「ま、お察しの通りや。あの人はただの保険て言うてたけどな。四輪の塔にちょいと仕掛けをさせてもらったわ」

 

 

「で、その最中にあのアーティファクトが壊された…と。……誰に?」

 

 

「結社の執行者。……No.Ⅶの《幻想使い》ってやつや。知っとるか?」

 

 

「いやあ……面識ないですね」

 

 

結社にも数人(殺伐とした)知り合いがいるが、むしろ知らない顔の方が多い。一応執行者No.Ⅱという肩書きをもらってはいるが、真の仲間ではないという事だろう。

 

これもケビンの探り…と思うのは考え過ぎではない。ヴァルターと運悪く邂逅したばっかりに内通の疑いをかけられてしまっている。根も葉もあるのが厄介なところだ。

 

 

「軽くバトってな、そん時の余波でやられてしまったってわけやね」

 

 

「なるほど」と頷いておく。ナギトもケビンを疑っているというポーズをとった。疑いをかける事で自分から疑いを逸らすなんて手法が元《外法狩り》に通用するかはわからないが、やらないよりはマシだろう。

 

 

「ナギトくんは今、アレ持ってる?もし持ってたら貸してほしいんやけど」

 

 

「どーぞ」

 

 

ナギトは懐から教会から貸与されたアーティファクトを取り出すとケビンにそれを手渡した。ケビンはARCUSとそれを接触させるようにして通信を始めた。しばらくするとケビンは通信を終えてナギトにアーティファクトを返す。

 

 

「ありがとう、助かったわ。副長に連絡したんやけど、しばらくは独断で動けって言われたわ」

 

 

「信頼されてるんですね」

 

 

「いやあ、あの人コワいからなあ……試されとるみたいや」

 

 

独断、と銘打たれてはいるが実際はカシウスの指揮で動けというニュアンスとナギトは受け取った。

このリベールに味方する以上、あの天才的な戦略眼をもつ智将に従えば安牌に思える。

 

ナギトも《理》の地平から物事を見る事ができるが、カシウスのそれはナギトより上だ。元々の知力、地頭の良さが違う。

 

 

「……さっきの話に戻すんやけど…………改めて君は──“特異点”って何者か説明してもらえるか?」

 

 

歩きながら、ケビンの問いに答えていく。

 

 

「それについては先ほど語った通りですよ。運命への反逆者。……《外の理》とは関係ありません。…そうですね………むしろ、それより外からの使者ですよ」

 

 

「《外の理》の外………上位次元とも違うようやね?」

 

 

「ええ、まったく。……というか考えるだけ無駄ですよ。字面通りですから。俺の存在について、この世界は全くの想定外のはずです。教会が閲覧できるあらゆる書物にも“特異点”については記載されてないはずだ」

 

 

「うーん、俺は若輩者やからな……もっと詳しい人なら何か知ってるかもしれんけど……、そこまで言うなら信じてみよか」

 

 

一息つく。思考するケビンを相手にナギトはため息をついた。こういったやり取りは楽しくはあるものの、少し心臓に悪い。

 

 

「……君は“ある人物”を救うために生まれたって言ったな。それは誰や?」

 

 

「………言えませんね。因果律云々とか言われたら面倒ですし」

 

 

七曜教会は世界の秩序を守るための存在だ。その秩序──予定調和に“クロウの死”まで入っているとは思いたくないが、危ない橋を渡りたくはない。

 

 

「………君が思ってるほど俺らは悪辣な組織やないで。誰かの命を救う──それは紛れもない善行や。言いたくないんやったら探ろうとは思わん」

 

 

顔に出ていたのだろうか。ナギトは場合によっては七曜教会は《身喰らう蛇》以上に警戒すべき相手だと思っていたが、やはり根っこは正義の組織なのだろう。

 

 

「顔色読まないでくださいよ」

 

 

「悪い、つい癖でな」

 

 

ケビンの観察眼はさすがの一言につきる。ナギトが警戒しているのなんてお見通しで、敵にはなり得ないと釘を刺したのだ。

 

 

「んー、このまま質問しとっても重要な事は明かしてくれそうにないなあ」

 

 

「さーせん」

 

 

「ほんなら別の事聞こか」

 

 

ケビンは話題を転換させる事にした。ナギトを味方と定めた以上、これ以上軋轢を生みかねないやり取りは無用と判断したのだ。

 

 

「君はさっきヴァルターに、世界を砕く拳が手に入るかも…なんて言うてたけど、あれってどういう意味なんや?」

 

 

「あれも割とそのままの意味ですよ。武を極めた先に行き着くポイントの話です。………物事には源流があります、万物に。我々が普段使っているもの、触れているもの…それらは言わば源流から分たれた小川……。それゆえに窮まった強さはある。しかし源流……そのはじまりの一は後に生まれる全を内容している。だから何物にも上回るパワーがある」

 

 

「…………ちょっとわからん」

 

 

でしょうね、と内心で首肯する。これを一目で看破したのは今のところアリアンロードのみだ。あとは老師ユンもわかってはいそうだが、狙って放てるのはナギトのみ。だから内心でナギトは自分が世界一の剣士だと調子に乗っている。

 

 

「俺はこのはじまりの一に剣を通じて至った。これは別に剣限定の境地というわけではない。槍でも良いし弓でもいい。なんなら武術じゃなくてもいい。はじまりの一は後に生まれる全を内包するなら、後に生まれる全てははじまりの一に通じているのだから。……ヴァルターが至るとするなら拳でしょうからそう言ったまでです」

 

 

「……………《理》か?」

 

 

絞り出すようにケビンは言った。聞き齧ったワードのようでもあるが、おそらくその本質はわかっている。

 

 

「厳密には違いますが、そんなもんです。《理》を剣に宿す……すると、それは一でありながら全の剣となり、世界をぶった斬れる。……そんな理屈です」

 

 

「………さっぱりわからんが……、それがワジの聖痕を破った理屈ってわけやな?」

 

 

「いや……確かに聖痕は強力だけど、それを使うほどの格では…あるけど。彼の“アカシックアーム”を破ったのはあくまで普通の戦技。鋭さと火力は聖痕の出力に劣らないですが、はじまりの一はそういった概念の介在する余地のないものです」

 

 

ワジの聖痕の力を破ったのは鬼炎を宿した魔剣レーヴァテインによるものだった。確かにあの一撃は戦技として極まった強さではある。しかしはじまりの一、すなわちそれを体現する“八葉一閃”は文字通り次元が違う。

 

やはりわからないのか「?」を続行するケビン。説明を続けるのも面倒になってきたため結論を語った。

 

 

「つまり、それはあらゆるものを何の抵抗もなく切断できる斬撃、という事です」

 

 

これは剣の話。拳なら、あらゆるものを何の抵抗もなく貫けるようになるだろう。

 

 

「それってめっちゃチートやない?」

 

 

反則技(チート)なもんですか。俺のこれは誰もが至れる可能性のある始点。聖痕の方がよっぽどチートだ」

 

 

極論ではあるが、はじまりの一は誰しもが到達できる可能性がある。なにせ全ては一から始まっているからだ。その先の十でも百でも千でも元々は同じ一なのだから。

 

 

「………君のそれは全ての始まりとか言うたな。後に生まれる全てを内包すると。…なら聖痕もそれに入ってるんか?」

 

 

「鋭い。確かにはじまりの一は聖痕に発展する未来を内包してます。けど自在に引き出すなんてのは無理ですよ、人の身には余ります」

 

 

「君は特異点やろ。人の身とは違うんやないか?」

 

 

「これまた鋭い。確かに特異点としての本質を解放すれば聖痕も扱えるでしょうが……諸事情により多用できないんですよ」

 

 

「諸事情?」

 

 

「使い過ぎると俺が死にます」

 

 

正確に言うなら消える、だがさして意味も変わらない。死体が残るか否かの違いくらいしかない。

 

 

「なるほどな………」

 

 

ケビンはナギトの言葉を受けて思考を巡らせる。果たして今の説明のどこまでが真実なのか。嘘をついているようには見えないが、決して侮れる相手ではない。加えて七曜教会に対して疑念を抱いている様をチラ見せしてくるのだから、余計判断に困る。

 

 

「すまんな、色々と質問して。単なる興味本位やったが……面白い話を聞けたわ」

 

 

「好奇心を満たせたなら良かったです」

 

 

話はこうして一段落した。すでに視界の先にはロレントの街並みが見えてきている。

 

 

「ケビンさんはこの後どうします?」

 

 

「せやな……とりあえずカシウスさんに連絡やな。頼まれてた件も終わったし」

 

 

「あ、それってどんなんです?四輪の塔に何か仕掛けたみたいですが」

 

 

「んー、ま……万が一の時のための保険やな。四輪の塔を励起させてリベールに結界を張るっちゅうもんやね」

 

 

「ほほう、興味深い。………それって戦争に使えないんですか?」

 

 

「難しいやろなあ。そもそも表の戦争に超常的な力を持ち込むのも違うやろし」

 

 

「そうですね」とナギトは返しておく。ケビンが言っているのは暗黙のルールのようなものだ。超常的な力を戦争に持ち込めば事は有利に運ぶだろうが、それは相手からも容赦を奪う。結果として超常vs超常なんて構図になれば、最悪の場合は文明が滅ぶ大崩壊の再来だ。

 

 

「君はどうするんや、ナギトくん」

 

 

「俺も今はカシウス将軍の命令で動いてるんで、それを全うするのみです。具体的には潜んでいるであろう暴動を煽る工作員の逮捕・拘束ですね」

 

 

「ははあ、これまた難儀な仕事やね。手伝おか?」

 

 

「結構ですよ。すでにボース市でもやりましたし、感覚は掴みました」

 

 

「うーん、またチートの気配………。ま、なら任せるわ」

 

 

意脈を読むのは確かにチートと言えるだろう。これも人の扱える可能性はあるものの、ナギトも騎神を通じて霊脈に干渉するまでそんな発想にも至らなかった。

 

嘆息するケビンに「たはは」と笑ってみせる。

ロレント市に到着した。

 

 

 

「お久しぶりです、ケビンさん。それにナギトさん」

 

 

そこで待っていたのはヨシュア・ブライト。予期せぬ再開は波乱を予感させるのだった。

 

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