八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

7 / 92
激動への狼煙

 

「ガイウス、馬の餌やりは終わったけど」

 

 

 

日の差し掛かる朝。暁の眩しさに目を細める時間。本来なら惰眠を貪っている時間帯にナギトは活動を始めていた。

 

 

 

ノルド高原に来て、早3週間。すでにナギトの体は完全昼型の早寝早起き健康体と化していた。

今朝も早起きしてガイウスの手伝いをしていた所だ。

 

 

 

 

「ありがとう。では、そろそろ朝餉にするとしよう」

 

 

ガイウスの柔らかな微笑みに「ご馳走になります」とナギトも笑みを返す。居候の身として、できるだけ集落に迷惑をかけないようにした結果が今である。

 

 

 

 

 

内戦終結後。

ルーファス・アルバレアの指揮の元、電撃作戦が発動しクロスベルは帝国の領土となった。

クロスベルを南に迎えるノルドの地は帝国と共和国に挟まれた場所にあり、いつ戦端が開かれるかわからない。

そのため、ノルドの民の住居は内戦時と変わらず高原の端。湖に面した所にあった。

 

 

 

 

 

 

共和国で実感した肉体面での衰えを回復するために、ナギトは日夜鍛錬に励んでいた。空気の澄んだノルド高原で修行は捗り、夜にはぐっすりと眠れるようになった。

 

 

 

今日も今日とて鍛錬に励む。ガイウスと実戦さながらの組手をしながら、かつての勘を取り戻す。

 

 

 

 

「───シッ!」

 

 

裂帛を噛み殺し肉薄するナギトを、ガイウスは槍を突き出して迎撃する。

 

しかし、少しだけ速かった。タイミングの合わないカウンターなぞ、強者にとり隙でしかない。無論、ガイウスがそんなミスを犯すわけはなく、すべては踏み込みを浅くしたナギトの策のためではあるのだが。

 

 

 

突き出された槍を太刀の柄尻にて弾き上げ、ガイウスの体勢が崩れたところに鋒を突きつける。

 

 

 

ぴたり、と止まる二人の動き。一瞬の緊迫の後、大きく息を吐き出したのはガイウスだった。

 

 

「俺の負けだな。さすがだナギト」

 

 

ガイウスに続き緊張を緩めたナギトも「ふっ」と笑う。

 

 

「ガイウスこそ、日に日に強くなってる」

 

 

ナギトの手を借りたガイウスは立ち上がり「そうか」と言う。

これまでの組手で勝てた試しはないが、確かに降参までの時間は長くなってきている気がする。それに、始めの頃は残像しか見えなかったナギトの速さを目で追えるまでにはなった。

 

 

「ナギトのおかげだ」

 

 

素直に感謝するガイウスにナギトは「いえいえ」と返す。

日はすでに頂点に達していた。

 

 

「そろそろ昼にするか」

 

 

ガイウスの提案に応じてゲルに戻る。

 

 

 

ウォーゼル家にて昼餉を食してのち一時間。

 

 

報は届けられた。

 

「大変だ!巨像の前に大型の魔獣が出た。内戦の時と同じやつだ!」

 

内戦時と同じ大型魔獣。魔煌兵だとあたりをつけたナギトとガイウス、ラカン。ラカンは座ったままナギトとガイウスに目をやった。

 

 

「ガイウス、ナギト、頼めるか」

 

 

ナギトは「任せて下さい」と頷き、ガイウスも立ち上がりながら表情を引き締める。

 

 

「ああ、行ってこよう」

 

 

☆★

 

 

集落から巨像前まで馬を走らせる。

 

 

 

「しかし、どうして今になって魔煌兵が……」

 

 

魔煌兵───暗黒時代に造られた魔導のゴーレムだ。騎神への対抗策として生み出された経歴を持つだけに、かなりの難敵らしいが霊脈が活発化している時にしか動かないという欠陥がある。

 

 

 

しかし内戦も終結し、活性化していた霊脈も安定化した。そんな現在にどうして魔煌兵が現れたのか。ガイウスの疑問はナギトも抱えていた。

 

 

「確か、内戦の時も巨像の前に現れたって話だったか」

 

 

その時はナギトは悪巧みのためにカレイジャスを降りていた。実際に見たのはガイウスらのみだ。

 

 

 

「ああ、内戦時は霊脈が活発化していたため……と説明する事ができるが……霊脈も静まってきた今、なぜこのタイミングで……?」

 

 

 

 

ふむ、とナギトは思考する。魔煌兵の出現について。

内戦時では、リィンの行く先々に表れたらしいが………

 

 

「さてな………ガイウス、本当に魔煌兵なら強敵だ。気を抜かずに行くぞ」

 

 

 

巨像の前。確かにそこに魔煌兵はいた。正しく“いた”という表現が正しかろう。ナギトとガイウスが巨像前に到着するのと同時に、まさしく魔煌兵は焼失したのだ。

 

 

魔煌兵を倒した人物の行動は、もちろん善意からではない。目障りだったから焼いただけ。

 

赤い服装に気怠げな表情のその男は、馬に乗って現れたナギトを見ると「お」と声をあげた。

 

 

 

 

「《剣鬼》にガイウス・ウォーゼルだったか。ハッ、奇遇じゃねえか。煌魔城以来か?」

 

 

 

「結社の執行者……」

 

 

ガイウスが苦い顔をする。煌魔城で見せつけられた力の差を思い出しているのだろうか。

 

 

 

「そうだな、マクバーン。どうしてここにいるのかな?」

 

 

 

《却炎》のマクバーン。

煌魔城では《光の剣匠》と互角以上の戦いをして見せた圧倒的な暴力の化身が、ノルドの地に現れている。

 

 

 

 

「あー、別にコイツを見に来ただけだ。仕事の関係じゃないから安心しな」

 

 

マクバーンは顎をしゃくって巨像を示す。

半ば地面に埋まった巨大な人型。大きさこそ違うが、騎神に似ているそれ。

 

 

「巨像見物か……、マクバーン、お前にはこれが何かわかるか?」

 

 

 

ナギトの問いかけにマクバーンはピクリと反応した後、大仰に「ハッ」と笑う。

 

 

 

「それを俺に問いかけるって事は、お前さんも答えは掴んでるんじゃねえのか?」

 

 

 

「……………」

 

 

ナギトは黙る。答えを掴んでるという問いにはノーと答えよう。しかし、少しだけ予想している。この巨像の正体についての。それに連なる事象に関しての。

 

 

ナギトは先程のガイウスからの問いかけと同じように「さてな」と回答を拒否する。

 

 

 

「まあ、なんだ。魔煌兵退治をしてくれた事はありがとう。俺たちは用もなくなったし、帰るわ」

 

 

とナギトが馬を返そうとして、マクバーンに呼び止められる。

 

 

「おいおい、ちょいと待ちな…《剣鬼》。つれねぇな。礼はいらねえからよ、やり合おうぜ?」

 

 

 

「………」

 

 

ナギト、再びの沈黙──もとい大きなため息。今度のは“勘弁してくれ”という気持ちを吐き出したものだ。

 

 

 

「……お断りします。お前と会うたびにバトルなんて命がいくつあっても足りないからな」

 

 

 

「何を言ってやがる。お前さん、また強くなっただろ。それを試してえとは思わないのか?」

 

 

間が抜けてそうでいて、どうしてこう本質を見抜くんだ、この男は。

 

 

 

 

暴の化身であるマクバーンと伍するには、同様に化身であらねばならぬ。すでに我が身は剣の化身へと至ったか、試すに不足なき相手である。

 

 

 

「3分だ」

 

 

 

ナギトは短く言い放つ。「3分だけ相手をしてやる」と。

 

マクバーンは目を見開き、両の掌に焔を握る。全身からは一切を焼却する黒き炎熱が立ち昇る。

 

 

 

 

「上等だァ!いくぞ《剣鬼》ィィイ!」

 

 

 

 

「ガイウス、3分測っとけ」

 

 

「ああ、任せろ!」

 

 

 

マクバーンが投げつける2つの炎。その後ろではすでに魔剣アングバールを抜いたマクバーンが距離を詰めて来ている。

 

刹那の判断ミスが死を招く。

 

 

「喝!」

 

 

裂帛の闘気はそれだけで炎を霧散させ、肉薄するマクバーンを迎撃する。大振りの一撃を上体だけで躱し──太刀を抜き放つ。

 

 

伍の型“残月”だ。躊躇いなく踏み込んでいたマクバーンの胸板を大きく斬り裂く。しかし、マクバーンは気にも止めずに魔剣を振るう。

 

魔剣の炎熱を闘気による防護でシャットアウトし、刃には刃を合わせて、勢いのままに弾き飛ばされる。

 

 

ナギトが吹き飛んだのはマクバーンにとり想定外だった。一刀の下に焼き切るつもりだった。ナギトはわざと弾き飛ばされたのだ、と思考が至ったのと、ナギトの着地は同時だった。

 

 

10アージュほどの距離。戦闘においてはロングレンジなはずの距離で、どうして姿を見失う?

 

 

マクバーンの視界からナギトが消えた。着地と同時に地面を蹴ったナギトは、すでにマクバーンを斬っている。

 

 

 

「六ノ太刀」

 

 

 

声に反応したマクバーンは背後を振り返る。

 

 

 

「炸裂しろ、閃行嵐舞」

 

 

 

 

ナギトが置いてきた斬撃は真空の中に風を走らせ、敵を断つ。一瞬の後に斬撃は嵐となり戦場をも木っ端微塵にする。

 

 

 

普通の相手であれば。およそヒトというものが相手であれば、これで終わっている。

刃の如き風は濃密に凝縮され、炸裂し嵐となりて敵を滅殺する。

まさしく、肉片しか残らぬであろう戦技だ。

 

 

しかし相手は人外のもの。術理でも合理でもなく暴力のみで刃の嵐を突破せしめるもの。

 

 

 

「お、おおおぉぉぉ………ォオオオオオオオ!!!」

 

 

 

吼える魔人。万物を燃やす黒き焔が球状に拡散し、刃の嵐そのものを焼き払った。

 

 

 

炎。紫電を纏って。

 

 

「灰燼雷」

 

 

 

雷速で踏み込むナギトは摩擦で発生した火を巻き上げてマクバーンに攻撃する。

 

が。マクバーンはそれを迎撃する。魔剣によって捕捉されたナギトだったがその姿は切られた瞬間に消え失せた。

 

 

 

「なんだと……」

 

 

 

確かに気配はあった。だからこそ接近していると読めたのだ。……しかしこの手応えのなさはなんだ。これではまるで幻影だ。

 

 

 

「舞い散る木の葉、遊覧すべし」

 

 

 

背後からの声。マクバーンは振り向きざまに剣を振るって。またそれが幻影であると知る。

 

 

 

希薄な気配は薄靄を思わせる。あるいは霧、蜃気楼か。

 

 

「落葉舞曲」と、マクバーンの周囲に現れた数多のナギトがそう唱えた。

 

 

 

「分け身のクラフトか?いいじゃねえか、あの阿呆を思い出す」

 

 

 

マクバーンが言うのは、《剣帝》レオンハルトの事だ。マクバーンとレオンハルトは執行者の中でも一、二を争う間柄だった。

レオンハルト亡き今、マクバーンが執行者最強───ひいては結社最強とまで言われているが、さて。

 

 

 

そいつの相手に、自分はなれているのだろうか。

 

まず、身体的な性能では負けているだろう。念じるだけで焔を生じさせる異能──その“あらゆるものを貫き燃やす”という特性も相まって身体的な性能だけで言えばマクバーンは世界最強と言っても過言ではない。

次に、武器についてだが、これについては良くて五分と言ったところか。こちらがゼムリアストーン製の太刀に対し、マクバーンは外の理により造られた魔剣。負けるとは言わないが、それ以上に勝てるとは言えない。

第3に、技術。得物を振るう技術、体捌き。これについては勝っていると断言しよう。八葉を極めたこちらからすれば、マクバーンの動きは素人同然だ。それでも勝てないのは、やはり身体的な性能差と言うほかない。

最後に、精神。心技体で言う心の部分。これについても、やはり勝っていると言おう。神に等しき存在の脚本を書き換えて、世界の運命を覆した / 覆すという願いの元に生まれたのだ、心が屈するという事はない。

 

 

 

そら、心技体の内に2つも勝っているのがあってどうして負けよう。

体の差など、心技をもって覆せ────!

 

 

 

 

 

 

 

“落葉舞曲”は、動ではなく静による簡易的な分け身だ。レオンハルトが使っていたような完璧な分け身ではない。それ故に耐久性は低く、また気配は希薄。

 

気配を頼りに闘う武辺者には有効だが、暴力によって戦場を蹂躙するマクバーンには相性が悪い。

マクバーンは剣の一振りで“落葉舞曲”よる分け身のすべてを焼失させる。

だが、その一瞬。剣を一振りする刹那の時間こそがナギトが求めていた集中のための瞬間だった。

 

 

 

「戦火を斬り裂く無明の一刀───」

 

 

 

これなるは八葉が極意《無》の極点。

 

 

 

「我が太刀は不動にして自由───」

 

 

リィンのそれとは比較にならない、完成した“終の太刀”。

 

 

 

「無念無想の境地より放たれる活殺自在の剣───その身に受けてみよ」

 

 

 

剣を振るい死に体となっていたマクバーンに避ける術はなく、日輪の威光を示す戦技は炸裂した。

 

 

 

「終の太刀────」

 

 

 

パチン、という納刀の音と共に夜明けを司るが如き斬撃が解放される。

 

 

 

「────暁」

 

 

 

 

 

 

 

 

マクバーンが膝をつく。魔剣を杖に立ち上がろうとするが、全身から血が噴き出し、それすらもままならない。

 

 

 

 

「ク、ハハ………やるじゃねえか、《剣鬼》……」

 

 

 

ナギトは黙してマクバーンを見つめる。如何に魔人と言えど、戦闘不能になるくらいのダメージは与えた。

 

 

 

「ったく、しゃらくせえ」

 

 

 

マクバーンは炎熱を一際大きく発すると、それで止血し、今度こそ立ち上がった。

 

 

 

 

「さぁ、第2ラウンドと洒落込もうぜェ!」

 

 

 

全身から発する、騎神をも凌駕する圧力。マクバーンのテンションはすでに有頂天、過去最高と言えるほどにアツくなっていた。

 

纏う炎熱は大地すら焼き焦がし、放つ火球は世界を穿つ。《火焔魔人》の本領が剥き出しにされる。

 

 

ナギトは舌打ちをすると再度抜刀する。

構える姿に隙は微塵もないが、マクバーンの焔は隙などなくとも敵を燃やし尽くす。

 

 

 

「こいつはちィとばかしアツいぜ!」

 

 

 

言いながら、マクバーンは魔剣を縦横無尽に振るう。放たれるは焔の斬撃。触れるだけで戦闘不能は必至だ。

 

 

「そら!」とマクバーンは敵をで焔をこねて犬を生み出す。“ヘルハウンド”。業火により型作られた魔犬たちは群れを成してナギトを取り囲む。

 

 

 

「こいつで………終いだァ!」

 

 

マクバーンは最後に極限まで濃縮された火球を打ち出した。“ジリオンハザード”と名付けられた焔の球体。

 

 

 

焔の斬撃に業火の魔犬、特大の火球とマクバーンは全開のようだ。

 

 

ここが踏ん張りどころだ、ナギト・ウィル・カーファイ。八葉を継ぐ者として、この窮地を覆してみせる。

 

 

「幻造」

 

 

ナギトが天に手を翳すと、そこに剣が出現した。その数は1本ではなく、魔犬と同じ数だ。

 

手を振り下ろすと“幻造”により発生した剣は業火の魔犬を刺し貫き消滅させる。

 

 

焔の斬撃を避けて、躱し。やがてそうできないほどに斬撃が敷き詰められた場面に至り、ナギトは太刀から闘気を解放する。超過式。

 

 

「八卦、四象、両儀、太極、」

 

 

太刀から解放されて宙をただようはずだった闘気は8つに凝縮し4つに凝縮し2つに凝縮しひとつに凝縮し、

 

 

 

「零」

 

 

 

最後にはナギトと一体になった。

 

 

極密度の闘気がナギトに纏われる。それはアルゼイドの“光の翼”のようにしてナギトの姿を輝かせて見せた。緋色の煌めきは紅耀石にも勝り。

 

パン、柏手を鳴らす。

 

 

それだけで力の波動が迸り、ノルド高原そのものに風が吹いたかのように錯覚させる。

 

 

 

「無空───破甲剣!」

 

 

 

振り下ろす。煌めく力を一点に乗せて、手刀を振り抜いた。

 

 

緋色に輝く斬撃は、その余波だけで焔の斬撃を霧散させ《外の理》で編まれた却炎“ジリオンハザード”と拮抗する。

 

 

 

 

やがて爆炎と極光が収束し。

 

 

 

 

 

両者、倒れず。

 

 

ニィ、と笑うマクバーン。ここまで戦えたのはいつぶりだ?レーヴェか、《鋼》の時か?あるいは煌魔城で《光の剣匠》らと見えた時か?

 

 

さあ、まだまだ俺をアツくさせてみろ!

 

 

 

 

同じようにナギトも笑う。マクバーンの眼差しが続きを渇望しているのがわかった。

こっちはすでに全力全開だ。だが、もっと先に行けるという確信があった。

 

 

 

さあ、俺にもっと先を見せてくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の剣が合するかと思われた瞬間、その中央を槍が裂いた。投げ放たれた十字槍は流星の如き気勢を以ってナギトとマクバーンの激突を防ぐ。地面を割った槍の主人に二人は目をやった。

 

 

 

 

「そこまでだ、二人とも。3分が経過した」

 

 

 

ガイウスは毅然と言い放つ。その姿にナギトは「フッ」と笑い太刀を納める。マクバーンも舌打ちして焔を収めた。

 

 

 

「そういや、そういう約束だったか。せっかくアツくなってた所だが……まあいいだろう。お前とはまたやり合えそうだからなあ、《剣鬼》?」

 

 

灰を思わせる白い髪は元の浅葱色に。鬼を思わせる瞳は理性を帯びたものへと変化する。

 

 

 

「そこは、機会があれば。という事にしとこうかな」

 

 

肩を竦めてナギトは言う。化け物の相手をするのも、たまにはいいかと呟くように。

 

 

 

「それじゃあな、《剣鬼》。またいつか会おうぜ」

 

 

マクバーンの全身を焔が包み込んでいく。内戦中に見せていた、転移用のものだ。

半ば姿を消しかけていたマクバーンに、ナギトは「おい」と声をかける。

 

 

 

「《剣鬼》って呼ぶの、やめてもらっていいかな」

 

 

マクバーンはその発言を鼻で笑い、去り際に「考えておこう」とらしくなく言って消えた。

 

 

 

ナギトとガイウスはそれを確認すると、2人して大きく息を吐く。嵐マクバーンは去った。魔煌兵退治のつもりが、とんだ怪物とのバトルになってしまった。

 

 

 

「……帰るとしようか。事の終始について父に話さねばな」

 

 

ナギトは「ああ」と答え、馬に跨がろうとして───崩れ落ちる。

 

 

 

膝が折れて土が服を汚す。「大丈夫か?」と近づいてくるガイウスの手を借りて立ち上がり、情け無さげに「はは」と笑う。

 

 

 

「いや、参った。自分でも思った以上に消耗してたらしい。ぶっつけ本番で試すような技じゃなかったわ」

 

 

「もう大丈夫だよ」とナギトはガイウスの手を離し、馬に跨がる。

ガイウスはなおも心配するが、消耗を自覚すればもう倒れるなんて事はない。

 

 

 

「よし、戻ろうか」

 

 

 

そうして、2人はノルドの集落へと元来た道に馬を走らせた。

 

 

 

☆★

 

 

 

 

「さて、まずは魔煌兵が現れた理由についてだけど」

 

 

夜。夕餉を食べ終えてゲルから出たナギトとガイウスは話をしていた。「湖面に映る星空を眺めながら男二人で寂しくお話しだ」と誘い出したナギトは、いつものおふざけモードではなくなっていた。

 

 

 

 

「十中八九、マクバーンが来たせいだろうな」

 

 

 

ナギトは語り始める。

 

 

 

「俺が前に“黒の史書”ってワード出したの覚えてるか?俺は内戦中にその黒の史書を見つけ出してトマス教官に解読を依頼してたんだよ。んで、その史書には魔煌兵の生まれた理由も綴ってあってだな、大部分は端折るが、魔煌兵は対騎神用に生み出された兵器で、性質として騎神の起動者をつけ狙うようになっているらしい。内戦中、リィンの前に魔煌兵が現れてたのはこのためだろう」

 

 

ナギトの言葉にガイウスは内戦中の出来事を思い出す。記憶とナギトの説明で乖離している点はない。

 

 

「それがどうしてマクバーンが来たせいで魔煌兵が現れたのか、という問いについてはこう答えよう」とナギトはもったいぶってから続けた。

 

 

「騎神とマクバーンは、本質的に同じものだからだ。もちろん推測だが、焔を刻まれた者という共通点があるわけで………まあ、難しい話はここまでにして、マクバーンみたいに強烈に焔を刻まれた者が来ない限りはもう魔煌兵は現れないはずだよ、内戦時みたいに霊脈が乱れたりしない限りは。だから安心していい」

 

 

 

 

話を聞いたガイウスは「そうか」と受け取る。ナギトの推測によれば、もう魔煌兵は現れないらしい。

と、気を抜いた瞬間にまた聞き捨てならないセリフが耳朶を打った。

 

 

「あ、俺、明日出て行くから」

 

 

 

 

軽く切り出された話は別離についてだった。

「なぜだ?」と聞き返すガイウスに、ナギトはまたもあっけらかんと言い放つ。

 

 

 

「俺も騎神の起動者だからさ、あんまり長くいるとまた魔煌兵が現れるかもだし。今回の事もマクバーンが引き金だったけど、原因は俺にあるかもだし」

 

 

 

ガイウスは驚きながら「そうなのか?」と問うと、ナギトは「言ってなかったっけ?」と首を傾げて自分がリィンと同じ《灰の騎神》の起動者であると告げる。

 

 

「まあ一回もらしい事はしてないし、ヴァリマールも俺が起動者って知らないんじゃないかなー?」

 

 

 

「まあ、そういうわけだから」と話を打ち切るナギト。「3週間も泊めてもらった礼ができないのは心苦しいけど」と言い笑って立ち上がる。

 

 

尻をぱんぱんと払って湖面から空に視線を向ける。湖面に鏡像として広がる偽物とは違う本物の星空。抱いた感想は湖面に映る星空を見た時とそう変わらない。

本物でも偽物でも、そんな事は些細な問題だ。偽物でも本物と同じなら価値は変わらない。

 

視線を星空からガイウスに移して笑みを向ける。

 

 

 

「じゃあ、今日は疲れたからもう寝るわ。おやすみガイウス、また明日」

 

 

定型の挨拶、また明日。一時の別れなど気にも留めない在り方はナギトらしいと言えた。

 

 

 

☆★

 

 

「すまんな、ガイウス。見送りなんて。……まあ、馬を借りた以上は必須なわけなんだが」

 

 

ナギトは苦笑して集落からゼンダー門まで見送りに来てくれたガイウスに礼を言う。

朝餉を食べた後に集落を出発したナギトだったが集落民の好意により馬を貸し与えられた。貸し与えられたならば、返すのが道理だが行き先までは片道なのだ。往復でない故に馬を集落に戻す引き手が必要だったのだ。

そして、その役目を引き受けたのがガイウスだった。

 

 

 

「いいさ、友の旅立ちだ。これくらいはな」

 

 

 

「それじゃあ、ありがとうだな。最後にいい写真も撮れたし、満足満足」

 

 

さぞご満悦、と言った様子でナギトは言う。

「写真?」とガイウスが聞き返すと、ナギトは「ああ」と説明をする。

 

 

「まだ学院で頑張ってるリィンへの土産にな、各地の仲間たちの写真を撮って持ってってやるつもりだ」

 

 

「それはいい考えだな、きっとリィンも喜ぶだろう」

 

 

 

「おうよ。それじゃあガイウス、また会おう」

 

 

 

別れの言葉は少なく。「今生の別れじゃあるまいし」と笑うナギトは、トールズを卒業した時と変わらない。

対するガイウスも同じだ。また会えると信じているから気楽に送り出せるのだ。

 

 

 

「ああ。それでは、また」

 

 

 

 

 

 

ナギトは貨物列車に乗り込む。次なる行き先は黒銀の鋼都ルーレ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。