八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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連動

 

 

 

「おー、久しぶりやなヨシュアくん」

 

 

「数日ぶりだなヨシュア。無事でなにより」

 

 

 

ロレントに着いたナギトとケビンを待っていたのはヨシュアだった。

ヨシュア・ブライト。カシウス・ブライトの養子で、開戦当日は少しの間ナギトと行動を共にした。ナギトがハーケン門に行く際に王都に行けとアドバイスしたが、その彼が今ロレントにいるのはどうしてだろうか。

 

 

「お二人こそご無事でなによりです。父さん──カシウス将軍から指示されて僕はここに。差し支えがなければうちで話をしたいのですが……」

 

 

疑問はすぐに解かれた。どうやらカシウスの指示らしい。しかも何やらナギトやケビンに追加の仕事がありそうだった。

ヨシュアは続いてブライト邸を今夜のホテル代わりに使って良いと言い、ナギトとケビンはそれに乗る事にした。

いつもヨシュアと一緒にいるエステルの姿がなかったが、今は別行動中らしい。ニコイチだと思っていたナギトは少し面食らった。

 

 

夕食を馳走になったナギトとケビンはヨシュアとテーブルを挟んで向かい合っていた。

 

 

「それで……話ってなにかな、ヨシュアくん」

 

 

ケビンがヨシュアに尋ねる。ヨシュアは真面目な表情で語り始めた。

 

 

「シェラザード・ハーヴェイ……リベール所属のA級遊撃士が帝国に行っていたのは知ってますか?」

 

 

「ああ、《銀閃》の。確か共和国経由で帰ってくるんだっけか?」

 

 

その話は聞いていたナギト。帝国に行っていたシェラザードだが、そのタイミングでリベールと帝国の戦争が開始。帰りたくても帰れない状況だったが共和国を通じてリベールに戻る手筈になっていた。

 

 

「そうなんやな。シェラザードさんが……、帝国の状況を知るためなんやろうけど…タイミングが悪かったな」

 

 

「ええ、そのシェラザードさんなんですが……共和国首都イーディスに到着したのはいいんですが………」

 

 

「トラブルか」とナギトは言い当てた。今のリベールの状況とすり合わせて考えると当然と言えた。

 

 

「はい。現在、共和国は首都だけでなく他の都市でも暴動が発生……その対応に追われてシェラザードさんはリベールに戻れなくなりました。共和国からリベールに派遣されるはずだった2名の遊撃士についても共和国を離れられる状況ではなくなったと」

 

 

共和国の暴動──リベール王都グランセルで起こったものと同じだろう。すなわちオズボーンの仕込みによるもの。移民を工作員に仕立て上げ、時に応じて行動を起こさせている。

 

 

「……そりゃまたずいぶん…きな臭いどころの話やないな」

 

 

「十中八九……というかほぼ確定でギリアス・オズボーンの指示でしょうね。タイミング的にも」

 

 

リベールと帝国が一時的に停戦し、和解交渉に入った途端に起こったグランセルでの暴動。交渉役──レクター特使はそれを受けて安全保障が行われるまで交渉の中断を宣言したという。

 

これは何らかの時間稼ぎと思われたが、この時間で共和国をはじめとする世界各国が戦争に介入する準備を整えるのは明白。それを阻害するためにオズボーンは各国に仕込んでいた移民工作員というカードを切ったのだ。

 

 

「帝国宰相ギリアス・オズボーン………《鉄血宰相》か。どうやらかなりの辣腕みたいやね?」

 

 

「辣腕っつーか剛腕っつーか……とんでもないお人ですよ、まったく。いやになるくらいに」

 

 

ナギトの既知にケビンは驚きつつも自らの知識と照合して状況を理解していく。

 

 

「父さんも同じ事を言ってました。……そこで本題なんですが」

 

 

どうやら共和国の暴動についてもカシウスとナギトは同じ意見のようで自信が持てる。そもそも2日前までは画面越しとは言え話し合っていたのだから然もありなん。

 

 

「共和国の首都イーディスにシェラザードさんを迎えに行く事になりました。リベール王国が誇る最速の艦──アルセイユで」

 

 

「アルセイユ…!」

 

 

反応したのはナギトだ。アルセイユは数年前に竣工した艦でありながら、未だ世界最速を誇るリベールの最精鋭艦。帝国の内戦中に世話になったカレイジャスもアルセイユⅡ番艦という事で多少は縁のあるものだ。

 

 

「察するに…それに俺とナギトくんも同行してくれって話かな?」

 

 

今度はケビンがヨシュアの考えを言い当てる。ヨシュアは「そうです」と首肯した。

 

 

「お願いできますか?……ナギトさんへの依頼はこちらも手伝いますので、明日……仕事が終わってからでも」

 

 

ロレントに潜む暴動を画策する工作員の拘束。それが終わった後に共和国へ。

 

 

「…………うん、問題ないかな。俺は大丈夫」

 

 

リベールを離れる事に若干の不安はあったが、カシウスの指示によるものだ。信じてヨシュアに同行しても良いだろう。

 

 

「俺もええで。……あの人は俺がこのタイミングでロレントに来るってわかってたみたいやね」

 

 

ケビンは相変わらずのカシウスの慧眼に嘆息しつつもナギトと同じ回答をした。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

そうして話はまとまり───翌日、ナギトらを乗せたアルセイユはロレントから共和国首都イーディスに向かって出発した。

 

 

☆★

 

 

 

ヨシュアと話した翌日、ナギト──もといマスク・ド・ジャックのロレントでの工作員拘束はスムーズに進んだ。

ボースより工作員の数が少なく、ケビンやヨシュアの観察眼に助けられた部分もあり、およそ3時間で事は終わり、ナギトらは停泊してあったアルセイユ号に乗り込む。

 

 

高速巡洋艦の名は伊達ではなく、アルセイユはナギトが予想していたよりずっと早く共和国首都イーディスに到着した。

 

7区・駅前通りに看板を掲げる遊撃士協会イーディス支部──共和国総支部とも呼ばれるそこに、今回の突撃共和国ツアーの目的であるシェラザードはいて、彼女と合流した後すみやかにリベールに戻る手筈となっている。

 

 

「……ちょっとピリついてんな」

 

 

空港から出てナギトは言った。雰囲気が悪い。暴動が起こったというのだから人もまばらだ。今のところ戒厳令なんかは出てないらしいが、民衆の不安は募っているものと見える。

 

 

「ま、さすがにな。……軍事大国であるエレボニア帝国が戦争を始めたんや。今のところ対岸の火事……やけどいつ火の粉が降りかかってくるかわからん状況じゃあ仕方ないやろ」

 

 

「……この戦争を早期に終わらせるためにも、シェラザードさんは必要な人です。早くギルドへ向かいましょう」

 

 

3人は会話しつつギルド総支部へと向かった。駅前通りにある建物への扉を開けると、そこには見慣れた顔があった。

 

 

「うおっ、アルジュナ先輩じゃないっすか」

 

 

《槍弓》の異名を取る共和国のB級遊撃士だ。ナギトがかつて世話になった恩人であり、尊敬する人は?と尋ねられたら一番初めに浮かぶ人物でもある。

 

 

「久しぶりだな、ウィル。活躍は聞いているぞ」

 

 

「お前さんが来たのか。……なんというか、因縁を感じるな」

 

 

アルジュナに続いて言葉を発したのはジン・ヴァセックだった。《不動》のジン。A級遊撃士。泰斗流の達人だ。

 

 

「お久しぶりです。ジンさんも。……あと過去の話はなしでお願いしますよ」

 

 

「さて、何の事だか。少なくとも遊撃士ウィル・カーファイはイーディスでの活動の記録はなかったはずだが」

 

 

「食えねーオッサン。まあ、わかりやすい分助かりますけどね」

 

 

ジンは変わらず、かつて《剣鬼》がイーディスで行った凶行を目こぼしするつもりのようだった。明確な証拠はないはずとは言えヒヤヒヤものだ。

 

 

 

「来たのねヨシュア。それにケビンさんも。……あなたはナギト・ウィル・カーファイね。シェラザード・ハーヴェイよ、よろしくね」

 

 

ナギトら3人が軽く久闊を暖めると、横でやり取りを見ていたシェラザードが挨拶をしてきた。褐色の肌に銀髪が映えるエキゾチックな女性だ。

 

 

「はじめましてシェラザードさん。《銀閃》のお噂はかねがね。……今回は災難でしたね」

 

 

「噂というならあなたの方でしょう。色々聞いてるわよ、主に遊撃士の仕事じゃない方の」

 

 

「耳が痛い。ある程度落ち着けば遊撃士として働くのが一番だと思ってますよ」

 

 

シェラザードもまたA級。ナギトの教官だったサラと同格だ。口八丁で煙に巻くのは難しいだろう。

 

 

「それに…災難というならむしろ共和国の方ね。リベールと帝国の戦争……その影響を受けて暴動が多発………正直、この状況でイーディスを離れるのは気が進まないわね」

 

 

シェラザードは遊撃士らしい正義感を燃やしていた。共和国各地で暴動は起こっており、それはイーディスも同じだ。話によると民間人に被害が出ているとか。

 

 

「ですがリベールも危機的状況です。総支部の皆さんには悪いですが、シェラザードさんは僕たちと一緒にリベールに帰ってもらいます」

 

 

ヨシュアは申し訳なさを感じさせつつもリベールのために動く。元々そのつもりでイーディスまでシェラザードを迎えに来たのだ。

 

 

「せやね……共和国にも数人ばかり守護騎士がおるから、そっちと連携してシェラザードさんの抜けた穴を補ってくれれば……と思いますが」

 

 

ケビンもまたシェラザードを問答無用で連れ帰る案に追従する。

アルジュナやジンは渋い顔だが納得済みのようで話が順調にまとまりかけたところでナギトは尋ねた。

 

 

「暴動が起きなかったら共和国からリベールに数人遊撃士を送ると聞いてたんですけど、それは誰なんです?」

 

 

「俺とアルジュナだな。共和国各地で暴動が起こっている現状、リベール行きは見送らざるを得なくなってしまったが……」

 

 

ジンが答える。高位遊撃士2名を派遣とは、それだけ遊撃士教会も事態に本気だという事だ。突然の宣戦布告で世界各国が浮き足立っている状況で、ジンとアルジュナの2人を共和国から出すのは英断だったろう。

 

 

「…………少し時間をもらえますか。首都だけですが暴動を煽る工作員を補足します。……それならシェラザードさんだけじゃなくて、ジンさんやアルジュナ先輩もリベールに行けますよね?」

 

 

「それはそうだが………首都だけとはいっても広大だぞ。何をするつもりだ?」

 

 

カルバード共和国首都イーディスは世界でも有数の都市だ。人口もそれに比例して、エレボニア帝国帝都ヘイムダルに次ぐ大人数。まともに暴徒を捕まえていくつもりならば、少なくとも数ヶ月単位の時間が必要だ。

 

まともにやったら、の話だが。

 

 

「ナギトさん……まさか」

 

「ロレントでやったみたいにやるつもりか。このイーディスで」

 

 

ヨシュアとケビンはすでにナギトの考えを読み取っている。

 

 

「ヨシュア。1日くらい遅れても大丈夫か?」

 

 

「……そうですね………例え1日遅れたとしても、シェラザードさんだけじゃなくジンさんたちもリベールに来てくれるなら、差し引きプラスでしょう」

 

 

 

「さっきから何を……お前さんが腕利きなのは知ってるが1日2日でどうにかなる数じゃ…」

 

 

「ジンさん。ウィルの力は俺が保障しよう。ここは信じてみても良いだろう。それに今は問答している時間すら惜しい……そうだな、ウィル?」

 

 

「さっすがアルジュナ先輩!……12時間で片をつけます。CIDや現地警察……他にいるなら協力者にも連絡を。こっからはマンパワーですよ!」

 

 

ヨシュアとケビンの理解、アルジュナの後押しもあって滞在が長くなる事になった一行。通信でカシウスの許可もとってから活動を始めた。

 

ジンやシェラザードはその後のナギトの活躍──そのデタラメ加減に嘆息しつつも手を惜しむ事はなかった。

 

 

そして12時間後。1012人の移民工作員を拘束した首都イーディスは暴動の危機から脱する事になった。

 

ナギトの意脈を読む力と広範囲に及ぶ気配感知能力の合わせ技による結果だった。

途中、同胞が拘束されていると知った工作員による暴動が2ヶ所で起こるものの、それも一行が協力する事で難なく鎮圧。イーディスの平和は保たれるのだった。

 

 

「あ〜、しんど」

 

 

「グランセルに着くまで眠るといい。お前はそれだけの活躍をした」

 

 

「そうさせてもらいます。……方々も夜を徹しての協力、ありがとうございました」

 

 

昨日、イーディスに着いた時点で夜になっていた。そこからぶっ通しで12時間、およそ千人の工作員の逮捕や拘束を行ったのだ。メインを張ったナギトだけでなくジンやシェラザードといったA級遊撃士も疲れは隠せていなかった。

 

 

アルジュナに礼を言ったナギトはアルセイユの休憩室に引っ込む前にCIDの指揮官──伶俐な印象の男に言った。

 

 

「重ねて言っておきますが、今回拘束したのは意図的に暴動を引き起こそうとした輩……おそらくギリアス・オズボーンの手先です。しかし暴動は本来“起きる”もの。ここから先、不安をもった市民が暴徒化しない保障はありません」

 

 

「ああ、わかっている。今回は遅れをとってしまったが、我々も暴動がまた起きないよう努めよう」

 

 

「ありがとう、頼む。えーと…キ、キンケ……?」

 

 

「自分はただの補佐官だ。今回の件の感謝はいずれ室長からでもあるだろう。これで失礼する」

 

 

伶俐な印象の男は、その印象のままに去っていった。いかにも優秀そうだがレクターの胡乱な動きと比較するとややわかりやすいか。

 

 

「こちらからも感謝させてもらう。君がいなければこの事件は解決まで時間がかかっただろう」

 

 

「いえ、こちらの都合によるものなので感謝は不要ですよ警部。CIDの補佐官殿にも言いましたが、まだ暴動は起きる可能性があるのでご注意を」

 

 

さらに警察の現場指揮をしていた黒人の警部にも礼を言われる。ナギトとしてはシェラザードに加えてジンやアルジュナをリベールに連れ帰りたいからやった事だ。結果的にイーディスのためになったとは言え、そう正面から感謝されると小恥ずかしい。

 

 

「ああ。それではな。こちらも事後処理が残っている。一晩で千人以上の検挙など前代未聞だからな。CIDも手伝ってくれるとは言っていたが……」

 

 

警部はぶつぶつ言いながら、やや頼りない警官を引き連れて雑踏の中に去っていった。

 

 

「色々あったけど……それじゃあ帰りましょうか、リベールへ」

 

 

シェラザードがそうして音頭を取り、一行はアルセイユに乗ってリベールに帰国する事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その帰り際だった。王都グランセルが猟兵に襲撃されていると報が入ってきたのは。

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