八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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事件は踊り、進み続ける。

 

 

 

「まさかあなただったとは。てっきりオズボーン宰相の手駒が来るものかと思ってましたよ」

 

 

「そう思われても仕方ないだろうね。久しぶりだナギトくん、元気そうでなによりだよ」

 

 

王都グランセル。アルセイユでリベールに帰還したナギトは、帝国から新たに派遣された和睦の使者オリヴァルト・ライゼ・アルノールと対面していた。

 

 

「殿下こそ。……しかしそうなると、まんまと利用されたわけですね?」

 

 

「業腹な事にな。こちらの和睦の使者としての信用度を下げる目的もありそうだ」

 

 

ナギトの問いに答えたのはミュラー・ヴァンダール。オリヴァルトの護衛だ。

 

ナギトも帝国から新しく和平交渉の使者がやってくるという話を聞いた時はまたぞろオズボーンの手下がやってくると思っていた。使者のリベール入りと同時に《北の猟兵》により王都が襲撃を受けた事もその認識を後押しする。

しかし実際は本気でリベールとの戦争を止めたいオリヴァルトが出立し、オズボーンはそれを囮として《北の猟兵》を動かしたのだろう。

 

襲撃が成功すれば良し、失敗したとしても和睦を謳っておきながら《北の猟兵》と連動するような動きを見せたオリヴァルトの信頼も地に落ちるといった寸法だ。

 

 

だが、この程度で揺らぐような友誼を結ぶオリヴァルトではない。かつての至宝絡みの異変の際も解決に尽力したオリヴァルトのリベールでの評価は上々。賢王アリシアなら誤解もしないだろう。

 

 

「ミュラーさんもお久しぶりです。……オリヴァルト殿下がリベールに来たという事は、もう本格的に戦争は起こらないって事になりますかね?」

 

 

ナギトは聞いた。オリヴァルトが来た目的は和睦のためだけではなく、別の狙いがあるはずだと。

 

 

「そうだね……僕が来た事で帝国は戦争し辛くなったと思っているよ。ただでさえ急な開戦で各国や国民からの風当たりが強いんだ。その上に皇族がいるリベールに戦争を仕掛ける彼じゃないだろう。……ま、僕が暗殺されでもしたら話は別だろうけどね」

 

 

皇族であるオリヴァルトがリベールに和平交渉のために訪れた。この事実だけで帝国は動き難くなるだろう。皇位継承権を放棄したとは言え国民人気の高いオリヴァルトのいるリベールに争いを仕掛けてはオズボーンの宰相の地位すら危うい。

 

しかし落とし穴はある。それこそオリヴァルトの言った通り暗殺の危険性だ。リベールがオリヴァルトの暗殺なぞするはずもないが、もし暗殺されてしまえば帝国はそれをリベールの行いだとして戦争を継続するだろう。しかも今度は“オリヴァルトの仇討ち”という大義名分も立つのだから国も一致団結しやすい。

 

 

「それをさせんために俺がいるのだ」

 

 

ミュラーはそういったオリヴァルトを身の危険から守るための護衛だ。ヴァンダール流の彼がいれば大抵の暗殺者は仕事を達せられないだろう。

 

 

「うん、そうだねミュラー。信じているよ。………そして、そちらの彼は……」

 

 

オリヴァルトの視線がナギトの隣の男に注がれた。

 

 

「お久しぶりですオリヴァルト殿下。ジョン・ディーシー……此度はこちらのナギト殿との縁もありリベールに馳せ参じました」

 

 

傭兵組織《アナザーフォース》総司令ゼロ。本名をジョン・ディーシー。その彼は恭しく首を垂れて挨拶した。

 

 

「……ああ、やはり君だったか。こうして対面するのは初めてかな。オリヴァルト・ライゼ・アルノールだ。《虚無》の異名は聞いていたよ」

 

 

「お知り合いで?」

 

 

どうやら面識があるらしいオリヴァルトとゼロの関係性を尋ねる。

 

 

「うーむ…知り合いという程じゃないが……ある意味で恩人と言える人物だ。まだ僕が幼かった頃、当時住んでいたアルスター村に様子を見に来てくれていたんだ」

 

 

「ふふ、私が帝国を離れるまでですから……もう20年以上前になりますか。まさか覚えておいていただけるとは」

 

 

話を聞くに、まだゼロが帝国軍人だった頃の縁らしい。おそらくミュラー以前の非公式の護衛というところだろう。

 

 

「なんとまあ。縁ですねぇ」

 

 

ゆるりと言ったナギトにオリヴァルトは微笑みかけて、

 

 

「君が結んでくれた縁さ、ナギトくん。こんな機会でもなければ礼も言えなかった。……ジョン・ディーシー殿、僕を守ってくれてありがとう」

 

 

「礼には及びません。結局は国を捨てた身ですから」

 

 

「それでもさ」とオリヴァルトは言う。ゼロもまた微笑んで受け入れた。

そうして久闊を温めたところで、定刻だ。

 

 

「さて、それでは行くとしようか3人とも。リベールの女王、アリシアⅡ世陛下とのご対面だ」

 

 

謁見の間への扉が開かれる。ナギトら4人はオリヴァルトを筆頭にリベール女王との謁見をはじめるのだった。

 

 

☆★

 

 

 

グランセル城の謁見の間には数十人の兵士が詰めていて女王アリシアの隣には将軍カシウス・ブライトと王太女クローディア・フォン・アウスレーゼが侍っていた。

 

錚々たるこ顔ぶれにはナギトも緊張を禁じ得ない。

 

いや、何を緊張する必要があるのか。いざとなれば剣でどうとでもできる…などと自分に言い聞かせた。

 

 

やがて赤い絨毯の先の玉座に座す女王の前に辿り着いた。

 

 

「お久しぶりですねオリヴァルト皇子。長旅ご苦労様でした」

 

 

柔らかく言の葉を紡いだのはアリシアだった。オリヴァルトもまた同等の柔和さで返す。

 

 

「ありがとうございますアリシア女王。そして申し訳ない。まさか私の出発に合わせて猟兵が動くとは……」

 

 

「構いません。その件に関してあなたに非はありません。オリヴァルト皇子がそのような人物でない事を我々は良く知っています」

 

 

アリシアは隣のカシウスとクローディアに目配せする。2人はアリシアの意見に同意するように首肯した。

 

 

「それなら安心して明日からの和平交渉に臨めそうです。……紹介しましょう。一昨年の内戦でも活躍した我が国における若き英雄。カシウス殿と同じ八葉一刀流の使い手…ナギトくんです」

 

 

そうしてオリヴァルトはナギトをリベール勢に紹介した。猟兵の襲撃をワードに出した時点でこの流れは決めていたのだろう。面倒事は先に済ませるタイプのようだ。

 

 

「英雄とは面映いですが……。ご紹介に預かりました、ナギト・ウィル・カーファイです。はじめましてアリシア女王陛下、お会いできて光栄です」

 

 

ナギトは綺麗にお辞儀をした。普段はおちゃらけているとは言え、帝国貴族シュバルツァー家で作法を教わった身だ。

 

 

「はじめましてナギトさん。カシウス将軍からも話は聞いています。リベールのために尽力してくださり感謝します」

 

 

「過分なお言葉、痛み入ります」

 

 

「その上で、助けてもらっている身で言わせてもらいます」

 

 

低頭したナギトにアリシアは問いただす姿勢をとる。そらきたとナギトは思った。

 

 

「このリベールでは猟兵の運用は禁止されています。あなたはそれを知っていましたか?」

 

 

「もちろんです陛下」

 

 

慇懃に即答するナギト。穏やかな笑みさえ浮かべて。もはや緊張は消え去っていた。

 

リベールには猟兵の運用を禁じる法律がある。王都陥落の危機だったとは言え、それに助けられたとは言え、そこを問い詰めないわけにはいかないアリシア。

 

 

「では何故彼らをリベールの地に招き入れたのですか?」

 

 

アリシアの視線はゼロに注がれていた。

その言葉は舌鋒と呼ぶに充分で、しかし実を伴わぬ言葉遊びならナギトも負けてはいなかった。

 

 

「彼らは猟兵ではなく傭兵です。法には触れないのでは?」

 

 

「そのような屁理屈で誰が納得すると言うのです」

 

 

ナギトの論理は屁理屈も屁理屈だ。どうしてこの場でそんな発言ができるのか正気を疑うレベルの。

 

リベールは法治国家だ。今は危機に瀕しているとは言え、自らを守るために自国の法を破ったとなれば批判する者もいるだろう。

 

 

「屁理屈でも詭弁でも正論でも……如何様にも使い分けましょう。すべては大切なものを守るために」

 

 

アリシアの目が細められる。ナギトの論を認めるわけではないが、かつて《百日戦役》の折にハーメルの悲劇を黙秘した己の裁定を思い出していた。

 

 

「…………………」

 

 

アリシアの黙考にナギトは追撃する事にした。元から先の屁理屈のみで場を収められるとは思っていない。

 

 

「それにこの人物───ジョンでしたか」

 

 

今度はナギトがゼロを見た。その本名で呼ばれたゼロ──ジョン・ディーシーは肩を竦める。彼は謁見の間に入る前にナギトの屁理屈の行く末を聞かされている。

 

 

「おや?そういえばこの戦争で活躍した噂の特務兵とやらも同じ名前だったような?……まさか!」

 

 

三文芝居もいいところだ。

ナギトは特務兵ジョン・ドゥの活躍をジョン・ディーシーすなわちゼロになすりつけようとしている。

 

 

「おおっと、それにハーケン門やルーアン地方で獅子奮迅の活躍をしたという特殊な機甲兵も運用しているのでしたっけ?」

 

 

なんなら《緋の騎神》テスタ=ロッサの活躍すらも。

ゼロら《アナザーフォース》がオルディーネ・イミテーションを扱っているのは読めていたナギトは、はじめからこの絵図を描いていた。

 

 

「ウチに緋色の機甲兵はないぞ」

 

「緋く塗ればよろしい」

 

 

ゼロのうんざりするようなツッコミには突き放すように返答した。

 

 

「おやおや……アリシア陛下も強かなお方だ。帝国との戦争を見越して戦力を忍ばせておられたのですね。……………───って筋書きでどうです?」

 

 

つまりナギトはこう言っているのだ。

エレボニア帝国の乱心を読んでいたリベール女王アリシアは事前準備として密かに戦力を増強し、機甲兵の製造技術すら模倣してこの戦争に臨んだ。その結果、こうして早期に和平交渉の場が開かれる事になったのだと。

 

そういったカバーストーリーで国内外を騙くらかせと。

 

 

「…………」

 

 

ナギトの三文芝居もこれで終わり。なおも黙ったままのアリシアにナギトは内心で冷や汗をかいた。これ以上の屁理屈は用意していない。口から出まかせならいくらでも出てこようが、この賢王の慧眼を曇らせる事ができるかどうか。

 

 

「猟兵の運用はなかった。すべてはリベールが帝国の攻撃を読んで対応した。……ウィル、君はそれでいいんだな?」

 

 

これまで事態の推移を見守っていたカシウスがナギトに問いかけた。

 

 

「いいも何も俺からの提案です。これが一番丸く収まるんじゃないです?」

 

 

それに易々とナギトは答える。他のやり方もあったろうが、後手を踏んでいる今、ナギトの頭脳ではこれが最善手だ。

 

 

「陛下……認めてやって良いのでは。彼には私から話しておきますので」

 

 

ナギトの答えを受け取ったカシウスはアリシアに提言した。アリシアはひとつため息をついて「わかりました」と言った。

 

 

「ナギトさん、あなたの申し出はありがたく受け入れましょう。……しかし、本当に良いのですか?」

 

 

アリシアの抽象的な問いかけ。ナギトはその中身はわかっていながら「なにがでしょう?」と先を促した。

 

 

「緋き機甲兵に乗ってのあなたの活躍、特務兵としてのあなたの活躍……どれも賞賛されるべき功績です。我々としても褒賞の準備がありました。………しかしその功績をあなたはそちらの傭兵に譲ろうとしています。与えられるべき名誉と富がなくなるのですよ?」

 

 

「構いませんよ」とナギトは言う。本心は名誉も富も欲しい。《アナザーフォース》に依頼するのに全財産をはたいた所だ。

だが、そんなものは本当に大切なものと比べると優先順位は低い。だから即答できた。

 

 

「あなたは言いましたね……本当に大切なものを守るためならなんだって使い分けると。あなたの大切なものとはいったい何なのです?」

 

 

これはアリシアの値踏みだった。ナギト・ウィル・カーファイという人間に対しての。名誉も富もいらぬと言った男が真に何を欲しているのか。

返答によっては、多くの人間の今後に関わる密かなる大一番であった。

 

 

 

「安寧。俺と俺の大切なやつらが幸せに暮らせる世界」

 

 

 

誰もが求めるもの。一般的な幸福。ナギトの求めるものはそれだけだ。

 

だが、平穏に生きるにはこの世界は火種が多過ぎる。だからナギトは暴力を振るい、馬鹿みたいな屁理屈を並べる必要があるのだ。

 

 

「……意外ですか?」

 

 

しんと静まり返った謁見の間で、態度や行動からは考えられない小市民なアンサーをしたナギトはアリシアに聞いた。

 

 

「──いえ。いえ、素晴らしい回答でした。……ふふ、次に聞こうと思っていた事が頭から飛んでしまいましたよ」

 

 

否。本当に小市民的だったか?

ナギトの答えと今までの行動から、その目的のためなら世界すら相手取る気概を感じなかったか。この男の言う“大切なやつら”とは。いったいどこまでがその範囲なのか。その彼ら彼女らがつつがなく暮らせる“世界”とは。

その覚悟たるや。

アリシアは戦慄と同時に感動を禁じ得なかった。予想外の答えに忘我したのもあったが、それ以上に魅せられてしまった。言わば、世界──運命にすら諍うその意志に。

 

 

「それはそれは。お耳汚し失礼と言うべきですかね」

 

 

そうしてナギトは一旦事なきを得た。その後はアリシアとオリヴァルトで軽く言葉を交わしてナギトらは謁見の間を出る事になった。

 

 

☆★

 

 

「そういえば捕らえた《北の猟兵》の首領が面白い事を言っていたぞ」

 

 

謁見の間から出たナギトたち。オリヴァルトと護衛ミュラーは明日の和平交渉に当たりアリシアやカシウスと打ち合わせがあるという事で立ち去り、ナギトも市街に出ようとした所でゼロにそんな事を言われ、牢屋に向かう事にした。

 

 

《北の猟兵》首領グラーク・グロマッシュ。ゼロの言う面白い事とは、グラークがエレボニア帝国包囲網を構築していたという事実だった。

 

 

「よおグラーク。大人しくしてるな」

 

 

「ゼロ………今更なんの用だ」

 

 

《北の猟兵》は数グループに分けて牢屋にぶち込まれている。力を合わせての脱獄をさせないためだ。特にリーダー格であるグラークとローガンの牢は離されていた。鉄格子越しにグラークと対面する。

 

 

「少し話でも、と思ってな。……紹介しよう、こいつはナギト・ウィル・カーファイ。今回の依頼人だ」

 

 

「どうも《北の雷帝》さん」

 

 

ナギトは会釈してグラークを異名で呼んだ。雷のような行軍速度からそう呼ばれたらしいが、今は老獪が皺に刻まれたような面持ちの壮年の男がそこにいた。

 

 

「貴様が……!…噂の《刀神》とやらか。どうやら聞いていた以上に切れ者のようだな?」

 

 

「いえいえ若輩ですよ。《アナザーフォース》を呼び寄せたのだって保険──、本当に働いてもらうなんて考えてなかったですからね」

 

 

半分本当で半分嘘だ。《アナザーフォース》…すなわちゼロらにリベールで活動してもらっては、先にアリシアに突っ込まれたように猟兵禁止の法律に引っかかって面倒事が起きる。

ナギトの読めない何かに対処してもらうためにナギトはゼロたちをリベールに呼び寄せたのだ。だから今回の《北の猟兵》の襲撃に関しては予想外ではあったが想定内でもあった…といった感想に落ち着く。

 

 

「狸っぷりも板についている。これは将来オズボーンの対抗馬になり得るかな?」

 

 

政治に興味がないわけではないが、それより面倒だと思う気持ちが勝る。

ナギトは確認の意味を込めてグラークに問いかけた。

 

 

「そのオズボーンの命令でグランセルを襲撃したんですね?」

 

 

「いかにも。……奴はシラを切るだろうがな」

 

 

やはり猟兵によるグランセル襲撃はオズボーンの画策だった。だが、それを実行した《北の猟兵》グラークには襲撃とは別の意図があった。

 

 

「………あなたはエレボニア包囲網を築き、ノーザンブリアを中心とした対エレボニア同盟を結ぼうとしていたとか。なかなかに面白い話ですが……マジですか?」

 

 

本気と書いてマジと読む。正気と書いてマジと読む。グラークはそれを察したのか鷹揚に頷いた。

 

 

「大いにマジだとも。そうしなければいずれ世界が帝国に呑み込まれる。それがわからん君ではないだろう?」

 

 

「もちろん。俺もいずれ対エレボニア同盟は結ばれるものだとは思ってましたよ。でも同盟の主は共和国だと考えていました」

 

 

国家間のパワーバランスを考慮するとカルバード共和国が盟主をやるのが妥当だ。なによりあの共和国大統領サミュエル・ロックスミスがそう事を運ぶであろう。

 

 

「ノーザンブリア主導なんてとてもとても。……仮にノーザンブリアが主となるなら大胆なストーリーが必要です。例えば……《塩の杭》が帝国の兵器だった、とかね」

 

 

「怖い事を言う」

 

 

ナギトの描く物語にゼロはくつくつと笑う。それほどの大義がなければノーザンブリアが対エレボニア同盟を主導するなんて不可能だ。

 

 

「協力者のリストは見せてもらいました。北はノーザンブリアにレミフェリア。東はカルバード。そして今回は南のリベールへの同盟の打診……なかなかの面子だ」

 

 

グラークが捕えられた際に、各国高官の名簿は接収されている。

打診だけならばオレド自治州やレマン自治州、アルテリア法国にエルザイム公国などにも行っていた。

 

 

「仮にリベールから協力を得られたならどうするつもりだったんですか?……今後の展望はどうでした?」

 

 

「なに………?」

 

 

グラークは投げられた会話のキャッチボールを取りこぼしていた。今後の展望がなかったわけではない。しかしナギトが求めているのはグラークが思い描いていた以上の絵図だった。

それを理解してしまったグラークは歯噛みするしかない。

 

 

「奇しくも今、帝国はリベールと戦争中だ。その流れに乗せて各国を巻き込むつもりだったんでしょうが………詰めが甘い、どころかまるで作戦になってない」

 

 

混成軍の指揮官は?どう部隊を組んでどう展開するのか?そもそもノーザンブリアが主導だと認められているのか?それ以外にも問題は山積みだ。

 

グラーク・グロマッシュの底は見えた。

 

 

「これじゃオズボーンに良いように利用されていたと見るべきですね」

 

 

俯いたグラークの代わりにゼロが「ほう」と相槌を打つ。

 

 

「今回の襲撃はオズボーンの命令によるもの。《北の猟兵》はその裏でエレボニア包囲網を構築するために動いてましたが……これはおそらくオズボーンに読まれていたでしょう。失敗する事も含めて」

 

 

「だが、奴らは事実グランセルを占拠しかけていたぞ?」

 

 

「オズボーンが読みを外したのはそこです。《北の猟兵》がグランセルを襲撃した時に俺は共和国に行っていた」

 

 

ナギトの言葉にはゼロも面食らった。その発言はまるで、自分ひとりで王都を襲撃した《北の猟兵》を何とかできると言っているようではないか。

 

 

「……自信過剰だな」

 

 

「はは、ブーメランですよそれ」

 

 

グラークの力ないツッコミにナギトもまたやれやれと返答する。

 

ナギトは己の自信過剰に自覚がある。リィンらが度々指摘する傲慢癖でもあるそれは自身の特異性に由来する。普段の手抜きは“そうでもしないと面白くないから”といったプレイヤー的精神の表れだ。

 

対するグラークは自らの自意識過剰に気づいているだろうか。穏健派として知られる彼だが、裏ではこんな暗躍をしている野心家だった。その高揚感もわかるが、グラークのそれは身の丈に合わない。少なくともオズボーンがいる以上はその野心を果たせる可能性は無に等しかったろう。

 

 

「オズボーンにとって今回の襲撃は失敗前提───、問題はその裏で何を仕込んだかです」

 

 

失敗するのが前提なら、その裏で何かを仕掛けたはずだ。だがナギトにはそれが見通せない。開戦当時から続いている違和感はここでも存在感を発揮していた。

 

 

「……もうここには用はない。行きましょうゼロ」

 

 

ナギトはもうグラークと話す事で得られるものはないと確信。ゼロを引き連れて牢屋から引き上げていく。

 

 

「ああ、あなたの構築したエレボニア包囲網……もしかしたら使わせてもらうかもしれません。その時は……まあ、あなたが発起人だと証言しておきますよ」

 

 

数歩歩いたナギトは振り返り言った。どこまでもグラークをこけにした言い分に、彼のプライドは崩れ去る。

 

ナギトとゼロが去った牢屋にはグラークの慟哭が響き渡るのであった。

 

 

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