八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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激動のゼムリア
激動よ、覚悟せよ。ここからが英雄たちの軌跡である。


 

 

《リベル=アーク》が出現した。それを受けてナギトを含むリベールのメンバーはそれの攻略に乗り出す。白き翼アルセイユ号に搭乗し、いざ出発───の直前。

 

 

「よお、俺たちも乗せてくれねぇか」

 

 

「ヴァルター……!」

 

 

《身喰らう蛇》の者たちだ。ヴァルターの他に2人の男がいて、そのうちのひとりはブルブラン、もうひとりは目深に帽子をかぶった男だ。

当然のように全員が警戒する。得物に手をかけてこそいないが、すぐにでも戦闘態勢に入れる構えだ。

 

と、そこでナギトはこれまた己の思考不足に気がついた。《身喰らう蛇》の力を借りれば、転移でそのまま《リベル=アーク》に突入できたのではないか。

 

 

「また突然だな。……俺たちと協力しようって腹か?どういう風の吹き回しだ」

 

 

「リベールの空に再び現れた空中都市……《空の至宝》の写し身を前にかつての敵味方が手を取り合って挑む……!なんとも美しい展開だとは思わないかね?」

 

 

ブルブランの気取った言い回しだ。しかしながら、ナギトはこれで確信できた。やはり今の《リベル=アーク》はあくまでリベールの異変の際のコピー。《零の神子》は《空》、《時》、《幻》の至宝の力を扱えるという話だったが、さすがに至宝そのものを現界させる事は叶わず、あくまで複製という事なのだろう。

 

 

「信用できるわけないでしょ!あんたたち、自分がやってきた事を忘れたとは言わせないわよ!」

 

 

ブルブランの戯言に食ってかかったのはエステルだった。尤もな言い分だ。ナギトも、そうだそうだ!と後押ししたかったところだが。

 

 

「まあそう言わずに。状況が状況なんでね、我々《身喰らう蛇》としても見過ごすわけにはいかないんだよ」

 

 

帽子をかぶった男が諭すような声音で語りかけてくる。ナギトは《身喰らう蛇》との協力に対してメリットとリスクを天秤にかけた。

 

 

「おっと…そういえば、はじめましての人が多かったね。執行者No.Ⅶシメオンだ。よろしく頼むよ」

 

 

男は帽子を取って一礼した。ケビンに視線をやると首肯される。いつぞや話した《幻想使い》とやらが、このシメオンという男なのだろう。

 

 

「………新執行者No.Ⅱ《剣皇》殿は、特にね」

 

 

シメオンはナギトに目を向けると柔和に微笑んだ。食わせ者のようだ。周囲の視線が注がれる中、ナギトは「チッ」と舌打ちして疑惑を肯定。

 

 

「対ギリアス・オズボーンのために手を組んだんです。執行者の特権とやらを使って自由にやらせてもらってますよ。あちらさんもそれを察してか俺にオーダーを下すような事はしてない」

 

 

「ナギトくん……!」

 

「おいおい……そいつァ…………とんでもねぇコウモリ野郎だな」

 

 

ケビンは怒気を発しレクターは悪態と共に呆れている。その他のメンバーもナギトへの信用度を下げたようだ。こんな雰囲気になるのが嫌で黙っていたんだ。

 

 

「クク……黙ってやがったのか。当然の話ではあるわな、俺らみてぇなアウトローと組んだとなりゃ……周りはそんな反応するしな」

 

 

嗤うヴァルターの意見は正鵠だ。しかしいちいち納得していては話は進まない。

今度はオリヴァルトに視線を向けた。彼はひとつ深呼吸をしてから声を張り上げた。

 

 

「僕の意見を述べさせてもらうと、ここは彼らと協力すべきだと思うよ。戦力として頼りになるのもあるし……何より目的が明確だからね」

 

 

「目的?」と囁かれる声。執行者たちはにやにやと微笑むようにしてそれを見つめている。リベールの者たちの器とオリヴァルトの慧眼を。

 

 

「結社として、あの再び現れた《リベル=アーク》を放置するのはありえない。彼らの目的──七の至宝の行く末を観測する…というものに反するからね。あんなものを放っておいて、後の計画に支障が出ては困る──そうだろう?」

 

 

オリヴァルトもまたにやり、と笑って執行者3人に語りかけた。

 

 

「クク、大したタマじゃねえか…帝国の皇子だったな」

 

「ああ、かの《鉄血宰相》と伍する指し手という評判は間違いじゃないようだ」

 

 

ヴァルターとシメオンはオリヴァルトを褒め称え、ブルブランは大仰な身振りをした。

 

 

「いかにもその通りだとも、我が美の好敵手よ!我ら《身喰らう蛇》……その胎動を阻まんとする鉄血の策謀…ともに打破しようではないか!」

 

 

「……実際、こいつらと協力する事で得られるものは多いと思います。戦力としても、情報源としても」

 

 

ブルブランの口上を半ば無視してナギトは言った。《身喰らう蛇》の執行者である事がバレたためここまで黙っていたが、オリヴァルトのおかげで場の雰囲気は傾きつつある。

 

 

「確かに、結社の星辰のシステムなら導力停止現象が起こっているこのリベールにおいても他の地域への連絡は可能ね。……レンは賛成するわ」

 

 

いの一番にレンが執行者たちの同道に賛成した。古巣という事もあってか、彼らの利用価値を示すやり方はさすがと言うべきだった。

 

 

「僕も賛成します。この事態の一刻も早い解決のために彼らの力を借りるべきだ。ナギトさんたちの話では、この状況さえ帝国の宰相の思惑の前段階…だとするなら尚更です。教授もいない事だしね」

 

 

ヨシュアは冗談チックに締め括ったが、本気の意見だった。エステルは心配そうに「ヨシュア…」と名前を呼んでいる。教授──結社の元第三柱《白面》のワイスマンがいないと言ったが、この再現された《リベル=アーク》ではかつての強敵たちが待ち伏せている可能性は充分にあった。

先の会話であったオズボーンの真の目的についても信じてくれてもいるようだ。

 

 

「教会としては結社の連中と組むなんてのは話にもならん。……やけど、ゼムリアがこれ以上なくヤバいってんなら、多少は折れなあかんか。……幸いにも、こっちには頼れるメンツも揃ってる事やしな。ただしナギトくん、君とはあとでお話しせなあかんな」

 

 

次いでケビンも賛成した。その言葉の裏には執行者たちが牙を剥いたとしても制圧できる戦力がある事を示唆している。シメオンなんかはやれやれと肩をすくめ、ナギトは「はーい」と間延びした返事をする。

 

それからは賛成多数という事もあり、執行者たちを乗せてアルセイユは《リベル=アーク》に向けて出発した。

 

 

☆★

 

 

聞いた話によると、執行者たちがアルセイユへの搭乗を願ったのは転移による《リベル=アーク》への移動ができなかったのと、結社の誇るグロリアスなんかの飛行艦は急な出来事だったため発艦が遅れているらしい。

 

その他にも情報共有を行うとクロスベルやエレボニアの状況が知れる事となった。

クロスベルではいなくなったキーアを捜していたロイドらだったが、突然現れた《碧の大樹》にヒントがあると考え突入の準備を進めているそうだ。ちなみに《身喰らう蛇》からは使徒第三柱《根源の錬金術師》マリアベル・クロイス及び執行者No.ⅩⅧ《紅の戦鬼》シャーリィ・オルランドがそれに協力。

エレボニアでは帝都に出現した《煌魔城》から緋色の波動が放たれ、ヘイムダルは半ば死の都と化しているそうだが、有志の避難誘導により助かっている人命も多いらしい。異変の元凶と思われる《煌魔城》の攻略には内戦でそれを踏破したⅦ組に白羽の矢が立ち、現在は協力者たちと共に突入の準備中とのこと。こちらには結社から使徒第二柱《蒼の深淵》ヴィータ・クロチルダ、第七柱《鋼の聖女》アリアンロード及び麾下の《鉄機隊》が参戦。

 

ここからは事実と憶測が入り混じった情報になるが、エレボニア帝国帝都ヘイムダルを中心に円形の結界が広がっているらしい。その結界は内と外を隔てる壁であり、規模としてはエレボニアの版図の大半を飲み込んでいるそうだ。この結界は通常の手段はもちろん、神秘的なアプローチも弾く守護性能を持ち、連絡も星辰システムを使ってやっとだとか。ちなみにここにも転移による侵入は拒まれたらしい。

この結界を解除するには異変の核である《リベル=アーク》と《碧の大樹》を取り除くのが現状最も可能性のある手段だと執行者たちは語った。

 

 

 

「ナギトくん」

 

 

ケビンに呼び止められ、それに応じて甲板に出た。風が強い。エンジンの音も大きく、しかし2人の声はそれにかき消されないほどの強さがあった。

 

 

「まず確認なんやけど…君は結社《身喰らう蛇》の執行者なんやな?」

 

 

「形ばかりですが。彼らももう俺を引き入れた理由は失ってしますしね」

 

 

「なんで黙っとった?」

 

 

「こんなふうな問答があると時間を食いますからね」

 

 

「つまり面倒くさかったから、ってわけやな」

 

 

「有体に言うとそうです。でも、俺の本分はⅦ組……事を起こすのではなく、解決する側です。執行者なんて身分はおまけでしかない」

 

 

「ほう、《鉄血の子供達》でありながらか?」

 

 

「それを言われると痛いですね。……そっちはそっちで事情もあるんですが………」

 

 

「……察するに、お友達絡みか。あのルーファスさんもそうやけど、クロウ・アームブラストの扱いも妙だとは思ってたところや。内戦時、貴族連合の英雄だった彼が今では《灰色の騎士》と並ぶ扱いを受けている……」

 

 

「……まあ、そんなところです」

 

 

ケビンは賢く勘がいい。さすがは《千の護り手》と言ったところか。しかしその賢しさはナギトを味方につける方に天秤を傾ける。

 

 

「………そんなに教会は信用できんか?」

 

 

「ギルドもそうですけど、あなた方も結社とは犬猿でしょ。明かしたところで手間が増えるだけ……、それに俺はあなたが一番怖い」

 

 

敵に回したくないと言うべきか。七曜教会はこのゼムリアにおいての唯一神である空の女神エイドスを奉じる唯一の宗教だ。誰もがその実在を信じて疑わず、猟兵ですら軽口にその名を使う。

それを戴く宗教と事を構えるのは世界と事を構えるのにも等しい…というと過言ではあるが、ナギトが最も敵にしたくないのは七曜教会だ。

なんせ教会はアーティファクトの回収と管理も行っており、非常時にはそれを扱ってでも敵を排除する組織だからだ。

 

 

「ゲオルグ・ワイスマンを殺した《塩の杭》の矢……アレを持ち出されたら俺でも危ない。外法の《外法狩り》ケビン・グラハム」

 

 

特に結社の第三柱の前任を殺したケビンはその際にノーザンブリアを塩の大地にした《塩の杭》を使用した。この事からナギトは教会の非人道的な問題解決方法を理解し、また管理するアーティファクトの数も底を知れないため、その手札が読めない事から警戒を解く事ができない。

特に外法を狩るために、《塩の杭》を扱う覚悟には感服する。善人の面をして軽々に人を殺せる道具を使うなど、これを外法と呼ばずして何と呼ぼう。

 

 

「……今の俺は《千の護り手》。まあ、必要やったら汚い手も使うけども……信用しちゃくれんか?」

 

 

「信用してますよ。今の俺たちは敵対するより味方になる方の理由が多い。………ってか、こういう話、いつぞや街道でしましたよね?」

 

 

「………そうやったな。副長からも聞いてたけど、君の根っこは普通やね。当たり前の幸福を、当たり前に欲する等身大の人間……。隔絶した武と智が、君をそれから遠ざけるのは皮肉なもんやけど。……無駄な時間取らせて悪かったな、ナギトくん。少なくとも今は敵対する事がないってわかっただけでも充分や」

 

 

「今もこれからも、教会とは敵対したくないんですけどね」

 

 

ケビンは剣呑な雰囲気を閉じてエセ神父ふうの立ち振る舞いに戻る。その最後に、ナギトのセリフと対になる言葉を吐き出した。

 

 

「俺は君が一番怖いで、ナギト・カーファイ」

 

 

“特異点”たるナギトは、存在そのものが異質だ。今はゼムリアの味方だが、世界が彼の大切を侵そうものなら、世界そのものですら相手にしてしまいそうだ。

それに《理》に通じているからか、その視点が違い過ぎるのも怖い点だ。この世界にとって当然の事を異常と捉える眼を持っている。

 

「ほなな」と踵を返したケビンにナギトが名前を呼んで振り向かせる。

ナギトにとってはここからが本題だった。

 

 

「ケビンさん、ここから先の展開の話なんですが───」

 

 

 

☆★

 

 

 

空中都市《リベル=アーク》の、そのまた上空にアルセイユは到達していた。都市の中枢アクシスピラーが程近く、リベールの異変の際より事は易く進んでいた。

 

と言うのも、今回現れた《リベル=アーク》は異変の際に現れたものの焼き増しに過ぎず、かつて起きたアクシデントも事前に予測できたからだった。

 

メンバーの予測通り、《リベル=アーク》に近づいた際にはドラギオンを駆るレーヴェが現れ、アルセイユに痛打を与えようとしたが阻止。これでこの《リベル=アーク》再現体にはかつて立ち塞がった結社の猛者たちも再現されている事がわかった。

急襲に失敗したレーヴェは彼方へ逃げて行ったが、呼びかけた声に反応がなかった事と瞳と表情に生気がなかった事から、再現体は意識のないうつろだと思われる。

 

 

「下は任せてもらおうか。かつての俺自身との勝負………どれだけ俺の拳が磨かれたか試す良い機会だ」

 

 

「ヴァルター……もし無様を晒したなら俺がケリをつけてやろう」

 

 

「お目付け役ってか?……ウゼェが…いいだろう」

 

 

アクシスピラーの屋上から昇降機を使って降りた先に《空の至宝》オーリオールはある。その回収を邪魔させないために、アクシスピラー各階に配置された強敵たちの再現体を打倒、ないしは足止めしなければならない。

ヴァルターはかつての自分と対峙するために、ジンを伴って行く事になる。

 

 

 

「ふむ、己の影法師と踊るのも一興か。……我が好敵手よ、そして麗しの王太女殿下よ……この《怪盗紳士》の勇姿…どうか見届けてはくれまいか?」

 

 

「いえ、オリビエはこっちよ。ルシオラ姉さんとの決着……私以外には務まらない。オリビエはもちろん付き合ってくれるわよね?」

 

 

「というわけだ、《怪盗紳士》くん。レディのご指名とあらば付き合わないわけにはいかないからね」

 

 

《幻惑の鈴》ルシオラの再現体には、妹分だったシェラザードが立候補し、オリヴァルトを連行。護衛のミュラーも付き従う事となった。

 

 

「む……」

 

 

「では、《怪盗紳士》は私が行きましょう」

 

 

たじろいだブルブランに救いの手を差し伸べたのはオリヴァルトと同じく指名されたクローゼだった。これにはその護衛役のユリアも同行する事になった。

 

 

「レン、いいかな?」

 

 

「ええ、レンもそう思ってたところよ」

 

 

シメオンとレンの短い会話。それだけで再現体のレンの対処をするのはレンとシメオンに決定した。

 

 

 

「なら、屋上でスタンばってるあいつには俺が当たろうかな」

 

 

アクシスピラーより上空で浮かぶアルセイユ。それを無機質に見上げるのは《剣帝》レオンハルトの再現体だ。

 

 

「あん?…単独でやるつもりかよテメェ。俺も連れてけ」

 

 

アガットが同行を提案するがナギトは断った。

 

 

「譲ってくれよ。あいつとはもう5年ぶりくらいで、ありえねえと思ってたリベンジマッチだ」

 

 

ナギトは武者震いをした。かつて対峙し、《剣鬼》の道を閉ざしてくれた恩人でもあり、ナギトの心に深く敗北を刻みつけた宿敵でもある。

アガットは初めて見るナギトの滾りにレーヴェの相手を譲る事にした。

 

 

「それじゃあみんな、いくわよ!この戦いに勝ってリベールを混乱から救うためにも、世界の明日を守るためにも!」

 

 

エステルが張り切って喝を入れる。各員はそれに闘志を燃やして応える。

 

 

 

 

 

 

「そんじゃ、────作戦開始だ!」

 

 

最後は求められたナギトが号令を出し、アクシスピラーに接近したアルセイユからメンバーが飛び降りる。

 

 

リベール王国の《リベル=アーク》。

クロスベル自治州の《碧の大樹》。

エレボニア帝国の《煌魔城》。

 

激動のゼムリアの明日を懸けた一戦目がここに始まった。

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