「気味が悪いほど、あいつの言う通りやな……」
ケビンはそう、誰にも聞こえない音量でつぶやく。
アルセイユから降下した一行はレーヴェを足止めするナギトを横目に昇降機に飛び乗ると、そのままアクシスピラーの中枢部へと入った。
そこでヨシュアとワイスマンの再現体と対決、これを打ち破るが再現ワイスマンの展開した《空の至宝》
「至宝の再現──!コピーと言っても性能が落ちてるわけじゃないのか!」
「ああもうっ!こんなとこまで再現するなんて!」
ヨシュアとエステルは絶対障壁に阻まれながらも勝機を見失ってはいない。その勝算を引き上げるのがこの場におけるケビンの役割だ。
「エステルくん、ヨシュアくん……ちょっとどいてくれるか。……ここは俺が決めたるわ。なんもかんもナギトくんの掌の上みたいで気に入らんけどなあ!」
言いつつ構えるボーガン。セットされた鏃には金色の光があった。
──“「ここから先の展開の話なんですが」”
そう言って語り始めたナギトの顔を思い出す。彼が差し出したのは鈍く黄金に輝く刃片だった。
──“「これは俺が結社の盟主から授かった魔剣……その残り滓みたいなもんです」”
ナギトが下賜された魔剣“レーヴァテイン”。それは太刀“明星村正”と融合し“神魔調伏刀・緋葉村正”と成った。その際に生じた余りこそが、ケビンに渡された刃の欠片であった。
──“「おそらく《零の神子》の再現は“輝く環”にまで及ぶ。あの絶対障壁を破るには《外の理》による攻撃が有効です」”
ナギトはさらにアクシスピラー下層への対応メンバーが主に《身喰らう蛇》が勤める事を予言した。
──“「あともうひとつ。あなたの聖痕には聖と邪の両面が備わっていると聞きました。であるなら───」”
「我が深淵にて煌めく蒼の刻印よ───」
ケビンの背に現れる蒼き聖痕。
「千の棘をもってその身に絶望を刻み──」
それに重なる緋の聖痕。
「
ウルとロアの両側面の聖痕、その表裏を一度に発現させる裏技。
いずれケビンも独力で到達していただろうが、ナギトの助言はそれを早めていた。
「聖痕の力はこの世の中でも絶対のひとつ──、そっちの絶対障壁とどっちが上か比べてみたい気持ちもあるけど……、さすがに言うてられへんよなあ──!」
撃ち放つ“聖魔槍ウル&ロア”。蒼と緋の彗星が金色の鏃の尾を引き、絶対障壁と衝突する。
「ナギトくんに渡された《外の理》の鏃や!ごっつう効くでぇ───!」
そして、わずかの拮抗の後に絶対障壁は粉々に砕け散った。
それからは《空の至宝》を使い怪物と化したワイスマンだったが意気軒高なるメンバーたちに敵うはずもなく。なにより二重聖痕により2倍どころか2乗の力を得た、三味線を引く必要のないケビンの前に破れ去る事になるのだった。
☆★
眼を開けると、そこは既知の風景だった。
「ここは……アクシスピラーか?」
《剣帝》レオンハルトの目覚めであった。
「よう《剣帝》。……気分はどうだ?」
目の前にいたのはかつての面影がありつつも《剣鬼》らしさを脱ぎ去った男の姿だった。
「《剣鬼》──ウィル・カーファイか?……これはいったいどういう状況だ?」
「今はナギト・ウィル・カーファイ。……まあ、ちょっとした裏技でお前を甦らせたってとこだな。都合良く器もあったし」
ナギトは《剣帝》レオンハルトとのリベンジマッチをしたいのだ。空の器が相手などお話にもならない。
そのためナギトは“特異点”としての己を使い、その身を削ってレーヴェの魂を器の中に降臨させた。正確には影の国までのレーヴェの情報を眼前にあった空の器にインストールしただけだ。使った容量としては僅か──いつかマクバーンに睡眠の状態異常を永続付与した時くらいのものだ。
「うーむ……良くわからんな。説明する気がないのか?」
「まあな。剣士2人、こんな絶好のロケーションで一戦交えないなんて嘘だろう!?」
「…………………いいだろう」
レーヴェは言いたい事をまるっと飲み込むと魔剣ケルンバイターを構えた。ナギトも同じように神魔調伏刀・緋葉村正を構える。
その名刀の異質にレーヴェは息を呑んだが、すぐに平静を取り戻して続けた。
「──執行者No.Ⅱ《剣帝》レオンハルト」
名乗り上げ。それに応じる。ああ、こう名乗るのは初めてかもしれない。本当にそうと認められてからは。
「──執行者No.Ⅱ《剣皇》ナギト・ウィル・カーファイ」
目を剥くレーヴェにナギトは口角を上げて返答とした。ナギトのテンションは最高潮に達している。実現しないと思っていた雪辱戦。二度と取り返せないと思っていた負け星。レーヴェが格上であるという意識を払拭する良い機会だ。このままでは世界最強になったとしても心にしこりが残る。
「いざ、いざ。いざいざいざ───!」
待ちきれない様子のナギトに笑みが溢れたレーヴェだったが、気持ちを切り替えて剣者の対話に応える事にした。
「いざ尋常に───」
「─────勝負!」
☆★
鬼炎斬────《剣帝》レオンハルトの十八番であり、《剣皇》ナギトの“剣鬼七式、四ノ太刀”。
それが開幕の一撃だった。
「なっ──!?」
「本物に通用するとは嬉しいねえ!」
ナギトのそれはあくまでレーヴェの剣技のコピー。偽物だからといって本物に劣る道理はない、と強がってはいても本当にそうかはわからなかった。
しかし、互角。その結果がナギトをひとつ満足させる。
「その出で立ち……20歳前後か?相当修練を積んだと見える」
「前と一緒にしてもらっちゃ困る。早々に決着がついちまうからなぁ!」
刃を交わしながら言葉も交わす。鋭い斬撃はひとつも無視できない致命を狙ったもの。互いに油断は厳禁だと気を引き締めた。
剣の技量ではナギトが上回っている。しかし戦闘センスではレーヴェが上だった。剣速も僅差だがナギトが速いというのに交換する斬撃は一度も当たらない。
「愉しいねぇ、レオンハルト!」
「フッ、子供のように目を輝かせて……。その余裕がいつまで保つかな?」
魔剣ケルンバイターによる一撃がナギトを弾き飛ばした。それをナギトが良しとしたのは、シンプルな斬撃の応酬では勝負が進まないと思ったからだ。
「受けてみよ────」
「剣鬼七式、二ノ太刀改メ──」
互いに戦技の構えを取る。
「───鬼炎斬!」
鬼炎なる刃が放たれる初撃の倍する威力と規模。相手がなにをしようと焼き払う力を込めて。
「螺旋流壁」
しかしそれはナギトの展開した螺旋の性質を秘めた斬撃の壁に散らされてしまう。
力押しでは分が悪いと見たレオンハルトだったが、螺旋の壁の向こう側でナギトの闘気が高まっているのを感じ取って遅きに失した事を理解した。
「八葉刀神流、空の型」
螺旋の壁が消え去ると同時に嵐が顕現した。風の刃、螺旋の暴風、雷の槍。それが組み合わさった超絶技巧だ。
「──狂嵐怒涛・雷影後哭」
その嵐は軽々に破れるものではないはずだとレオンハルトは直観した。これを突破するには嵐をかき消す超火力か、嵐を解きほぐす超技術が必要だと看破し、それが己の持ち得ぬ領域だという事も理解した。
「見事だ。───だが!」
だが、嵐という形をとっているならば、突くべき穴はある。
「荒れ狂う嵐であろうと砕き散らすのみ──!」
レオンハルトを中心に冷気が渦巻いた。そしてそれは刹那の後に解放される。
「───冥皇剣!!」
放たれた極度の冷気は嵐さえもを停止させた。凍結するのは一瞬で、しかしこの瞬間にレーヴェはナギトの思惑を上回っている。
凍りついて物質化した嵐をケルンバイターで切り崩す。その中で待っていたのは驚愕と狂喜を笑みとして貼り付けたナギト。
「さすがは《剣帝》!」
想像を超えてくる。
「だが」と叫ぶのはナギトも同じだ。想像を超えても想定は超えていない。ナギトも己の絶技が打ち破られる可能性を万に一つと捉えており、レーヴェは万一の可能性を引き当てた。想定通りだ。だから準備はできている。
納刀されていた太刀が神速をもって抜き放たれた。
「神威残月」
飛ぶ斬撃はレーヴェを直撃した。否、防がれていたが、その身を弾き飛ばした。
「───無縫真気統一」
レーヴェが体勢を立て直す隙にナギトは自己強化の絶招を用いていた。一分どころか一厘の無駄すらない闘気運用は、容易く人の域を超えた力を発揮する。
「雷軀来々」
呼び出した分け身たちが縦横無尽にレーヴェに襲いかかる。しかしレーヴェも負けてはいない。一拍遅れて分け身を生み出すと迫る“迅雷”と“緋空斬”に対処する。
砕け散ったナギトの分け身──その残滓が一箇所に吸い寄せられているのをレーヴェは見た。
バヂバヂと弾ける雷鳴が耳朶を灼く。
「緋技・雷神轟破」
“摩天紅葉・一振重”と“雷神烈破”の合技。“迅雷”と“緋空斬”を発動した己が分け身もろとも太刀に集約する荒技にして神技。
百の雷鳴を束ねたが如き爆音と共に雷撃は放たれ、レーヴェをその分け身ごと薙ぎ払った。
土煙があがる。その中でナギトはレーヴェの気配がより強くなっている事を確認した。
想定通りだ。この程度で《剣帝》を倒せはしない。だが、わかる。今は俺が強い。負ける道理がない。《リベル=アーク》で死んだ時点でレーヴェは止まっている。それからも成長を続けてきた自分が負けるはずがないと。
想定通り。想定通り。想定通り─────本当に?
「やはりやるな、《剣皇》ナギト。今再び俺にアーツを使わせるとは」
“アースガード”。ナギトが扱うARCUSの数代前の戦術オーブメントにて発動できたアーツ。その効果は付与者に一度限りの無敵を授けるというもの。
アーツの扱いにも長けているレーヴェは、しかしナギトの想定通りだ。なのになんだ、この嫌な予感は。
何かを見落としている。見落とすべきでない何かを。軌跡ファンの集合とも言える“特異点”がわかっていて然るべきの事を、見落としている─────
ナギトの才能のモデルとなったのは《剣帝》レオンハルトだった。数多のプレイヤーが“クロウを救いたい”と願い、運命を変える力を求めて、その才覚を“レオンハルト相当”のものに設定された。作中で激強でありつつ、まだ成長の余地のある逸材として。《剣仙》ユン・カーファイに拾われるという設定にしたせいで、多方面に伸びる才能を剣にのみ特化させるという形にはなったが、結果として願いは果たされた。
そして、ナギトの能力は今やレーヴェを上回っている。修羅に堕ち、正道を歩まなかったレーヴェと違いナギトは仲間に恵まれてその才能を遺憾無く開花させる事ができた。負ける道理がない──とナギトが思ってもそれは妥当な分析だった。
しかし、同時に知っているはずだった。レーヴェは才能を開花しきる事ができなかった存在───、その才能の底が未だ知れぬ男であると。
「随分と型落ちの戦術オーブメントを使っちゃってまあ……。イキるのも程々にしねえと恥かくぞ!」
再度飛びかかるナギトに「フッ」と笑うレーヴェ。その周囲で消えていた気配が立ち上がった。
「忠告感謝する。自分に言い聞かせるといい」
分け身。“雷神轟破”によって消滅させたはずのそれは未だに生きていて、ナギトの隙を狙っていた。
「遅いぞ、ナギト・カーファイ」
“零ストーム”。闘気の奔流が空中のナギトを打ち払った。
これはかつての戦いの際にも見た。だが、それ以降にも見た覚えがある。
ナギトは不十分ながらも対応できたのはその戦技に見覚えがあったからだ。
「……そうか。そういう事もあり得るか。………くそったれ、なんで俺はあいつを殺しちまったんだ」
剣舞を舞いながら、刃の向こうのレーヴェの“?”を無視して、脳裏に浮かんだ友の顔を振り払った。
数合の後、再び距離をとる2人。互いに絶技の準備に入っていた。
レーヴェが冷気を振り撒く。“冥皇剣”だろう。
「芸のない………」
むしろそれだけでレーヴェには充分なのだ。ナギトの引き出しの多さは長所であるが、同時に短所でもある。
「大刀錬、衝刀練、剣妙斂───三明一結!」
剣鬼七式、五ノ太刀はナギト曰く殺意しかない戦技だ。そのため対人戦ではかなりの度合いで封印していたが、レーヴェは死人。今でこそ復活しているが、この生にしがみつく人物ではないだろう。
「冥皇───」
迫る斬撃にレーヴェは死を予感している。すでに一度──影の国での事を含めると二度──死んだ身。今更恐れるものではない。これは“冥皇剣”でも破れないと剣士として理解していた。そんな敗北を悟ったレーヴェの脳裏に浮かんだのは弟分の言葉。
──“「人は──人の間にある限りただ無力なだけの存在じゃない!」”
《剣帝》レオンハルト──否、ただのレーヴェの心に勇気の火が灯る。それは─────
極度の冷気が放たれ、それは直後に極度の高温に変じた。
「───鬼炎斬!」
万物を凍てつかせる“冥皇剣”と炎の斬撃ですべてを断つ“鬼炎斬”の合わせ技。コンセプトとしては聖女の“グランドクロス”と同じく相手の動きを封じてから必殺の一撃を叩き込むもの。
ナギトにとって幸いだったのは、それが“三明一結”と相殺した事だ。まともに受けていればやられていたかもしれない。
嫌な予感の正体をナギトは理解した。レーヴェを見誤っていたのだ。レーヴェはアクシスピラーで死んだ。そのため、そこからの成長はない。それが俺たちの観測の結果だ。
“空の軌跡”という物語において、レーヴェはここまでの剣士ではなかった。しかし、こうも強くなっている理由には見当がつく。
《リベル=アーク》では改心した途端にワイスマンの襲撃を受けて剣を十全に振るえなかった。
影の国では《黒騎士》という役目を羽織っていた。
いずれも、レーヴェの実力を発揮するのに不十分な条件が揃っていたのだ。
故郷を失い、剣を高め、修羅に堕ち、弟分の言葉で改心した。修羅の道から正道に反転したレーヴェの剣はとっくに剣聖クラスに至っている。
シンプルに言うと、レーヴェは覚醒期に入っていた。
正しきのために剣を振るうこと。その意識は精神に影響を及ぼし、現実にフィードバックされる。身体が軽く、剣が軽く、心が軽く。振るう刃は重く。
今のレーヴェは自由だった。あらゆるしがらみから解放され、ただ剣を振るう事のみに耽溺する。かつてハーメル村で木剣を握っていた年頃のように、ただその理合いの心地良さのままに。
「いいね。それでこそ《剣帝》レオンハルト!我が宿願の剣士よ」
ナギトはレーヴェの覚醒を理解し、さらに愉悦を深めた。かつての《剣帝》を相手にするのでも良かったが、それを超えるただの剣士レーヴェとの戦いの方が胸が高鳴るものだ。
「宿願とはな……お前ほどの剣士にそう言われては、こちらもそうと証明せねばなるまい……!」
相対するレーヴェもまたナギトの実力が見えてきたところだ。
かつて戦った時と、おそらく身体的なスペックはあまり変わらない。しかし気の持ちようが変わったのか、研ぎ澄まされた剣技はレーヴェの知る最強の女に並ぶ練達。
そんな強者と剣を高め合える幸運にレーヴェはただ喜んだ。剣を高める少年の心のままに、凍りついていた歯車が回り出すように。止まっていた時間が動き始めるように───、魂が燃える。
「いくぞレオンハルト!」
「来るがいいナギト!」
そうして2人の剣は再び交わる。
旧友との会話を楽しむように。家族との時間を懐かしむように。あるいは、子供が野原を駆け回るように。
☆★
戦闘は終わった。
互いにぼろぼろで、もう立っている事すら億劫だ。しかし、目の前の相手に敬意を払ってふるえる膝を叱咤して立ち続ける。
「………悪くない時間だった。ナギト・ウィル・カーファイ」
「こちらこそ、レオンハルト。…………一応聞くが、この世に残るつもりはないよな?」
レーヴェの肉体は《零の神子》の奇蹟により再現されたもの。そこにレーヴェの情報をインストールして、ただの人形だったそれは《剣帝》レオンハルトとしてこの世に復活した。
「わかってるだろうけど、今は世界がやばい。お前ほどの男が力を貸してくれればありがたいんだけどな」
ナギトはそれからこのアクシスピラーにヨシュアが来ている事など、レーヴェがこの世に残るべき理由を列挙していく。
しかしレーヴェはゆるゆると首を横に振った。
「すまないが力にはなれない。俺は死んでいる人間だ、本来この場にいる事すらイレギュラーにすぎない。………それに俺は信じている───人間の力を。俺などに頼らなくても、今を生きる者たちで未来を勝ち取れる事を」
「─────……お前は、強いな…………」
自分がいなくても大丈夫だという確信。仲間に任せる覚悟。それがレーヴェにはあった。
「フッ……。それに、カリンがあの世で待っているからな」
「───はっ。そっちが本音だろ。……わかったよ、無理な頼みをして悪かった。どうかゆっくり休め、レオンハルト」
「伝言はあるか?」と微笑むレーヴェに語りかけるナギト。主にヨシュアに向けてのそれを預かってもいいという気持ちになっていた。
「……伝えたい事は山ほどあるさ。だがなナギト……そんな後悔があるからこそ、後悔がないと俺は言い切れる」
たくさんの未練を抱えて。あれもしたいこれもしたいという欲望を叶えられず。しかし、そんなものを望めた人生だからこそ後悔はないとレーヴェは言う。
「つくづく…………」
敵わないと思わされる。
修羅に生き、正道に戻った男の強さ。
「…………じゃあな、レーヴェ」
「ああ。………今回の件はいい土産話になる。………ありがとう、ナギト・ウィル・カーファイ」
レーヴェはそうして光の粒子となって消えていった。ナギトが再戦を夢見た男との最後の時間は、意外なほど穏やかに過ぎ去っていったのだった。
☆★
レーヴェの姿が消えてすぐ、昇降機が仲間たちを運んできた。
「激闘……だったみたいですね」
アクシスピラー最上層とナギトの傷を見てヨシュアが言った。
「ああ………強かったよ、レオンハルトは」
ここでのレーヴェとの対決はナギトだけのもの。ヨシュアたちに彼の三度目の最期を伝える気はなかった。
「そっちも終わったみたいだな」
「せやね。君に渡された刃片が役に立ったわ」
「そりゃ良かった。……どうやら下も片付いたようです」
ケビンの皮肉気味の感謝に肩をすくめて、それから階下から登ってくるヴァルターらに言及した。
「お?なんだ……もう終わっちまったのかよ?」
ヴァルターを先頭に下層の再現された執行者たちの対処に行った猛者たちが集ってくる。
ヴァルターもナギト同様ボロボロで、過去の己との激闘を制したようだ。ヴァルターは《剣帝》の影法師や、あるいは《空の至宝》を操るワイスマンとも戦いたかった様子だが、そちらはもう終わっている。
「終わったよ。これでおそらく、この《リベル=アーク》は消滅する。とっととアルセイユに乗り込もう」
また減らず口を叩いても良かったが、ヴァルターへ向けたそれが、再び親しい者との別れを告げてきたであろうレンやシェラザードにも刺さる可能性を危惧してやめておく。
というか、そんな時間すら惜しいのが現状だった。
「いや……我々はここまでだ」
時間が惜しいというのに、シメオンは悠長に会話を始めようとしている。
「私たち執行者はこれにて離脱させてもらおう」
「………そう、転移を使えるようになったのね?」
シメオンの言葉でレンはそう言った理由に察しがついたらしい。
「そうだとも、今再びパテル=マテルに別れを告げてきた仔猫よ。……転移が使えれば我ら執行者がわざわざアルセイユに乗艦する必要もあるまい」
「馴れ合うのも違ぇしな……。俺たちは
ヴァルターが言うといまいち信用できない。ジンも「本当か?」と念押ししている。
ついでにレンの心を抉ったブルブランにエステルとヨシュアが厳しい目線を向けていた。
「なら共同戦線はここまでだね。助かったよ結社の諸君。……願わくば、このまま仲良くなって君たちが活動をやめてくれればいいんだけどね」
そんなやり取りも時間が惜しいと、オリヴァルトが会話の締め括りにかかる。
「そりゃ無理な話だろうよ。盟主が何を考えてるのか知らねえが……至宝の行く末を見届けるとかいうオルフェウス最終計画が終わるまではな」
ヴァルターがオリヴァルトの軽口に応える。既知の情報であったが、《身喰らう蛇》の基本的なスタンスは確認できた。
「………ではアルセイユに乗り込みましょう。前と同じならもうすぐこの空中都市は崩れ始めるはずです」
クローディアが会話を終わらせてアルセイユ搭乗の流れをつくる。ナギトやレクター、リベール組を乗せてアルセイユは崩れ始めた《リベル=アーク》を離れるのだった。
次なる行き先はクロスベル自治州《碧の大樹》。