八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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鉄血なる煌魔城

 

 

 

アルセイユは立ち往生していた。

帝都ヘイムダル──おそらくは《煌魔城》──を中心とした結界に阻まれているためである。

 

この結界は内と外を断絶するものであり、強度としては超一級。しかも破られたとしてもすぐに穴を修復する機能つきとなっているらしい。

当初は帝国の領土の大半を飲み込む大きさだった結界だが、今はその規模を縮小して帝都からおよそ半径30セルジュ程度のものになっている。おそらく結界の要石だった《リベル=アーク》と《碧の大樹》が消失したためと思われるが、それでも結界は消えずに残っているのだから厄介と言うしかない。

 

 

「これがクロスベルの独立国事件の時と同じなら……」

 

 

ロイドは顎に手を当てて考えている。ナギトも帝都を囲む結界はかつてのクロスベル独立国の時と同じく、それを構築していた要を押さえれば消滅すると思っていた。そしてそれはおそらく当たりだ。問題はその要と思われる《煌魔城》が結界の中にあるという話。

 

 

「こりゃ打つ手なしかァ…?《煌魔城》が消えるまで待つしかねえってのかよ……!?」

 

 

既出の情報から考えればそうだ。レクターの言う通りに打つ手がない。リィンたちがオズボーンを打倒して《煌魔城》が消滅するのを待つしかない。

 

 

「………いや、レクターさん。もう待ってらんない」

 

 

クロスベルで別れたマリアベルとシャーリィなどの《身喰らう蛇》の者たちからすでに情報は得ていた。

《煌魔城》の再出現という異変を前にギリアス・オズボーンといった中核を欠いた帝国政府は機能停止。帝国軍やTMP、情報局の機関が有志を募って帝都ヘイムダルへ出撃したのが今から2時間前。

 

リベールやクロスベルと違う巨大帝国ゆえの動きの遅さはナギトとしては幸か不幸か、というところだが。

 

……やはり、ちぐはぐだ。世界を混迷に陥れたオズボーンの作戦を早く破り、事態を解決しなければならないのに、リィンら仲間たちをそういった死地に送り出したくない気持ちもある。これだけの事をやらかしたオズボーンだ、勝算はあるのだろう。そのオズボーンが待ち構えているであろう《煌魔城》にリィンたちが突入したという報せはナギトの心を揺さぶった。

 

 

 

「来い、テスタ=ロッサ」

 

 

 

ハテナマークを浮かべたレクターを無視してナギトは《緋の騎神》テスタ=ロッサを転移召喚した。浮遊するアルセイユの横に緋き威容が現れた。

 

 

「うおっ、いきなりだな……。確かに騎神の力なら結界を破れる可能性もある、か……?」

 

 

一考するレクター。テスタ=ロッサの召喚を嗅ぎつけた艦の者たちが甲板に集ってきた。

リベール組やクロスベル組の言葉を聞き流してナギトは言い放つ。

 

 

「俺は今からこの結界を斬って《煌魔城》へ向かいます。オリヴァルト殿下、レクターさん…同行しますね?」

 

 

「あ、ああ……。だが、可能なのかい?この結界……かなりの強度と聞いたが」

 

 

「そうだぜ。いくら騎神っつっても限度ってもんがある」

 

 

「関係ないんですよ、そんなの。どれだけ強いとか、どれだけ硬いとか。……行くか行かないか、それを決めるだけです」

 

 

“八葉一閃”はどんな強度であれ、それを無視する。抗するものがあるとすればオーレリアくらいだ。彼女がアルセイユに同行出来ていればどれだけ心強かったか。

 

 

「………行こう。皇位継承権を放棄したとは言え僕はエレボニア帝国の皇子だ。このような変事を見過ごすわけにはいかない」

 

 

「……俺もここまで来たら行かねえ手はねぇな。クレアと連座だが騎神の起動者……決戦には参加したいとこだな」

 

 

ここでレクターが衝撃のカミングアウト。ナギトはクロスベルで聞かされていたため驚愕はなかったが、他の面々はレクターが《紫の騎神》ゼクトールの起動者だと知って大いに驚いた。

 

 

「ナギト、俺たちも連れて行ってくれないか」

 

 

レクターの衝撃発言の熱も冷めやらぬ中、言い出したのはロイドら特務支援課だった。

 

「悪いが無理だ」とナギトは取り付く島もなく断る。ナギトがレクターとオリヴァルトの2人を選出したのは、その2人が最も相応しいと思ったからだ。《煌魔城》という決戦場でギリアス・オズボーンと対峙する人物として。

 

ナギトはこの2人をテスタ=ロッサの核に乗せて共に行くつもりだった。あの狭苦しい場所には起動者であるナギトを含めて男3人が限界だ。

そういった説明をするとロイドは渋々引き下がった。オズボーンに囚われたキーアを救い出す役目を得られないと悟ったからだ。

 

 

「俺は今からこの結界を斬る。……それもすぐ修復するって話だけど、その間に通れるなら通ってもいいだろう。もし通れなかったとしても俺たちが《煌魔城》を攻略したらこの結界は消えるはずだ。…それからキーアを迎えに行ってやればいい」

 

 

ひとまずそれでロイドらは納得。続いてオリヴァルトの護衛であるミュラーの説得に取り掛かったが、こちらはさして反論もなく皇子をナギトに託した。

 

 

 

 

 

「行きますよ────!」

 

 

テスタ=ロッサに乗って“八葉一閃”。結界を斬り裂く。リベールでのオーレリアとの戦闘は得られるものが多く、ナギトは騎神を駆っての剣技にも熟達を得ていた。

 

核にオリヴァルトとレクターを同乗させ、テスタ=ロッサは帝都に向けて飛び立った。

 

 

 

☆★

 

 

 

 

帝都ヘイムダルはひどい有様であった。

幻獣、魔煌兵がいるのは当然で、さらには正規軍その他が攻め入った事で戦闘があったのだろう、街のあちこちがめちゃくちゃに破壊されていた。

さらには《煌魔城》から緋色の波動が出ていて人から生命力を奪うおまけつきだ。

 

 

「どうやら僕はここまでのようだね」

 

 

ドライケルス広場──正規軍が戦車や機甲兵まで持ち出して死守しているバルフレイム宮──《煌魔城》の前でオリヴァルトがそう言った。

 

 

「………わかりました。死なないでくださいよ?」

 

 

「ああ、君とミュラーが殺し合いをするのはごめんだからね」

 

 

帝都を囲う結界を抜ける際に引き下がったミュラー・ヴァンダールが突きつけた条件はたったのひとつ──なにがあってもオリヴァルトを死なせるな、だ。

 

ナギトとしても帝国の未来とも言える彼を失うつもりはなかったが、こんな状況で放逐しては命に関わるだろう。

しかし、それでもオリヴァルトとナギトの決断は早かった。迷う暇もなく出した結論はオリヴァルトを正規軍に合流させるというもの。

 

オリヴァルトも戦闘力は折り紙付きだが、本命はドライケルス広場を防衛する正規軍の士気向上のためだ。皇族であるオリヴァルトが前線に立てば軍人は大いに鼓舞されるだろう。

 

 

ナギト──テスタ=ロッサは行きがけ駄賃とばかりにドライケルス広場の敵を一掃した。が、幻獣や魔煌兵はものの数分でまた広場を席巻するだろう。ナギトが気配感知する限りでも今も敵はヘイムダル中で発生している。

 

正規軍に敵意がない事を示しつつ着地。核からオリヴァルトを降ろした。正規軍を指揮していたのは《紅毛のクレイグ》──級友エリオットの父親だった。彼の他にも正規軍の精鋭と謳われる者や《光の剣匠》の姿もあった。クレイグ中将とオリヴァルトが会話しているのを尻目にテスタ=ロッサは踵を返すと《煌魔城》へ向かう。

ここにも結界があったが、これも一刀両断し《煌魔城》内部へと侵入した。

 

 

 

 

「おーっとっと………」

 

 

《煌魔城》内部にも魔物は跋扈していた。かつてⅦ組が拠点とした入口広間に所狭しとひしめいている。

 

 

テスタ=ロッサで片付けるか?いや、レクターを核に乗せたままでは十全の力は発揮できない。かといってレクターを降ろせば魔物に圧殺されるだろう。

 

 

「ちょいと待っててくださいね」

 

 

ナギトはそう言うと単身で騎神の核から降りた。「おい!」とレクターが呼び止めるが聞かない。

 

迫り来る魔物の波に、ナギトは。

 

 

「まずは───」

 

 

剣鬼七式、二ノ太刀。

 

 

「────絶刃壁」

 

 

縦横無尽に振るわれる太刀が斬撃の壁を形成する。魔物の群れは突っ込んでは細切れにされてナギトに到達できない。

 

 

「からの〜……」

 

 

怯んだ群れを今度は圧し潰す。

 

 

「────破空!」

 

 

太刀から放たれた圧力はゆうに百を越す魔物の群れを弾き飛ばすに留まらず、その範囲を拡張して《煌魔城》内壁と“破空”でサンドイッチする事で魔物たちを潰し滅した。

 

 

「一丁あがり!……とはならんよなあ」

 

 

一掃された《煌魔城》入口広間だったが、みるみる内に魔物が発生して来ている。城が放つ緋色の波動で吸い込んだ人の生命力が魔物に変換されているのだ。

 

ナギトは迫り来る魔物を斬り払っていくが、これでは切りがない。騎神の霊力もナギトの闘気もこの先の天王山に向けて温存したいと言うのに。

 

 

 

「────お困りのようですね」

 

 

 

聞こえた声に見上げたナギトの目に映ったのは甲冑の戦神の姿。構えたランスに絶大な力と緻密な技術が渦巻いて。

 

 

 

「聖技───グランドクロス!」

 

 

 

魔物たちをまとめて絡みとる闘気の嵐。それごと貫く光の槍。再び魔物は一掃された。

 

 

すたっと着地したのは4人。魔物を撃滅した《鋼の聖女》アリアンロードと、その部下《鉄機隊》のデュバリィ、アイネス、エンネア。

 

 

 

「うはー、カックいー登場。……ですが聖女さん……ここは」

 

 

「マスター!敵が……」

 

 

声を上げるデュバリィ。視線の先ではわらわらと魔物が湧いてきていた。

ナギトの忠告も済まない内にこの有様だ、例え《鉄機隊》の面々がいたとしても殲滅は不可能だろう。

 

 

「わかっています。我々もここで足止めをしていましたから。……休憩は終わりです、デュバリィ、アイネス、エンネア。今しばらく時間を稼ぎますよ」

 

 

事前に聞いた情報通りということか、おそらく《鉄機隊》の者たちはⅦ組と一緒に《煌魔城》に突入し、この入口広間で足止め役を担っていたらしい。小休止していたようだが、およそ2時間もの間、押し寄せてくる魔物を撃退していたようだ。

 

さすがの《鉄機隊》と言えど疲労の色を隠せないデュバリィらだったが、マスターと仰ぐアリアンロードの号令で奮起するあたり気合いが入っている。

当のアリアンロードは未だ涼しげな表情を保っていて、やはりこの人も化け物染みた人物だと再確認できる。

 

 

「あなたもやれますね、ナギト・カーファイ?今は騎神は温存したい………もうしばらくの辛抱です」

 

 

「…………は、そういうことですか。了解です、張り切るとしましょう」

 

 

アリアンロードの意図を汲み取ったナギトもまた得物を構え直す。

 

それからしばらくはレクターも加えて6人で迫り来る魔物を相手にしていた。無限湧きとも思える相手に肉体より先に精神が磨耗する。

 

 

「相変わらず……とんでもないですわね」

 

 

そんな中で剣を振るいながら話しかけてきたのはデュバリィだった。こんな無駄口すらも精神の平衡を保つためには必要なことだった。

 

 

「お褒めいただきありがとう《神速》殿。そちらもちょいスピード上がったかな?」

 

 

デュバリィは敬愛するマスターことアリアンロードが側にいるおかげか調子が良い。それでもナギトには及ばないのだから悔しいが褒める事にした。

ナギトはそれを受け流してデュバリィを煽る。そうした方が彼女はもっと奮起してスピードが上がると思ったからだ。

 

デュバリィは「ぐぬぬ」と声を漏らしたが怒りを収めて魔物に剣を振り下ろす。

 

 

「ええ。……ですがあまりに調子に乗らない事です。まだまだマスターには及ばないのですから精進するように!」

 

 

「ふふ。しかし今でも面白い勝負が見れそうだな?」

 

 

「マスターも褒めてたくらいですものね」

 

 

「余裕かよ!ったく」

 

 

アイネス、エンネアと続きレクターが嘆息する。いくら倒せども魔物の数は減ったように思えない。《煌魔城》の生み出す魔物の補充のスピードはナギトらが倒す速度と拮抗していた。

 

 

「フフ……、頼れる娘たちでしょう?」

 

 

「こっちはこっちで親バカかよ!」

 

 

すっかりレクターがツッコミ役に回っている。アリアンロードの軽口も精神的な疲労に裏打ちされたものだ。変わり映えしない魔物の津波という景色に《鋼の聖女》も辟易している。

 

 

「……そろそろっすね」

 

 

「ええ、あちらは終わったようです」

 

 

ナギトとアリアンロードは同時に気配を感じ取り、背中を合わせた。デュバリィらに退避を命じる。

 

 

「荒ぶる神の雷よ───」

 

 

「剣鬼七式、三ノ太刀───」

 

 

《刀神》と《鋼の聖女》から同時に繰り出される範囲制圧の戦技。

 

 

「───戦場に来たれ!」

 

 

「───破空!」

 

 

 

“アングリアハンマー”と“破空”により一時的に《煌魔城》入口広間の魔物は殲滅された。

放っておかずとも、またぞろぞろと湧き出す魔物たちであるが、今この一瞬は魔物がいない隙間の時間をつくりたかった。

 

 

 

 

 

焔が、墜ちてきた。

 

 

 

それは発生しつつあった魔物たちを焼き払い、危うくナギトらにも被害を及さんばかりの火力を纏っている。

 

 

「ハッ、揃いも揃って俺を待ってたってツラだな?」

 

 

 

「なっ!?」と声をあげたのはレクターだった。彼にとっては予想外だろう、すでに盤面から落ちた駒だと思っていたがゆえに。

 

 

「………いや、ナギトが結社のやつらと組んだってならあり得る話だったか」

 

 

だが、聡明なレクターはすぐに答えに辿り着いた。

 

 

「ようマクバーン。身体の調子は悪くないみたいだな?」

 

 

「テメェがそれを言うかよ、特異点ナギト」

 

 

 

執行者No.Ⅰ《却炎》のマクバーン。

再臨した《煌魔城》の攻略のために助っ人として同行してくれていた《身喰らう蛇》のメンバーだった。

 

 

マクバーンはブリオニア島での《鉄血の子供達》との戦闘で目覚めぬ眠りに誘われていたが、先日ナギトがクロチルダと星辰システムの件で取引した際に、その呪いを解かれた。

オズボーンの狙いが読めない不気味さから、この火焔魔人を解き放つのが妙手になる事を祈っての業だった。

 

 

「いやはやまったくその通りで。………なんか最近多いわこの流れ」

 

 

マクバーンの言葉を軽口と受け流し、ナギトはアリアンロードに視線をやった。歴戦の聖女が待っていたのはマクバーンだ。彼の火力と体力ならこの場を任せても大丈夫という判断なのだろう。

 

 

「行けよ《剣皇》、それに《鋼》の。ここは俺が引き受けてやる」

 

 

マクバーンもどうやらその気のようで、入口広間に溢れ返る魔物の対処は彼に任せる事になった。

 

マクバーンはオズボーンにとってはおそらく特異点並に警戒すべき相手。彼は《焔の至宝》の化身でありその権能は“万物貫燃炎”──あらゆる干渉を無視してあらゆるものを燃やす事ができるというもの。強力に過ぎる異能だが、いかんせん場が悪い。ナギトとマクバーンの両輪でオズボーンに挑む事はできないようだった。

あるいはこれもナギトの一手を読んだオズボーンの策だろうかと思考が巡った。

 

 

 

 

「出でよ、アルグレオン!」

 

 

「行くぞ、テスタ=ロッサ!」

 

 

 

ナギトとアリアンロードはそれぞれ騎神に乗り込む。《銀の騎神》アルグレオンはデュバリィらを掌で包み、《緋の騎神》テスタ=ロッサはレクターを核に同乗させる。

 

 

 

そうして二騎は飛び立った。眼下には《却炎》が魔物を圧倒する景色が、頭上には赤く脈動する《煌魔城》の景色が広がっている。

 

 

しばらくの飛翔の後、彼らは決戦の場、緋の玉座へと辿り着いたのだった。

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