八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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はちよ

 

 

 

違和感。

 

 

 

 

 

1204年4月。

 

リィン・シュバルツァーはトールズ士官学院に入学するために、トリスタに向かっていた。

故郷ユミルを離れて、ひとりでの列車旅だ。

 

 

───ひとりで?

 

 

間違いない。自分はひとりでユミルを旅立ちトリスタに移動している。

リィンは胸に生じた違和感を望郷の念が見せた幻だと仕舞い込んで列車を降りた。

 

 

 

トリスタ駅を出ると、ライノの花が咲き乱れている。その見事な咲っぷりに見惚れていると金髪の少女──アリサとぶつかってしまった。いくつかの言葉を交わすと別れる。

 

 

 

──“「名前聞いとけばよかったなー、とか考えてるんですよね?わかりますぅ。駅前でぶつかるってどういうこと?テンプレ過ぎて死ねよって感じなんだが」

 

 

 

なんだかとんでもない罵詈雑言が聞こえた気がする。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

違和感。

 

 

──“「クラスメイトと仲良くなりたかったから……とか?」

 

 

ユーシス・アルバレアは嘆息した。馬鹿みたいな男がいて、馬鹿みたいな態度でこちらを慮るそんな言葉が。そんなやつとの会話があった。そんな気がする。

 

かぶりを振って幻想を霧散させた。オリエンテーリングと称された旧校舎の攻略において1人で進む事に不安でも抱いたのだろう、とユーシスは自己分析した。

 

道化のような振る舞いで己について来た者などいない。

貴族という身分でも、あるいはユーシスの剣の腕を頼みにしたわけでもなく、ただ仲良くなりたいと言った男なんて。

 

 

 

☆★

 

 

 

違和感。

 

 

──“「よう、フィー。昼寝か?」

 

 

 

誰かが来た気がして、フィー・クラウゼルは目を開ける。

午後の陽気にベンチでうとうとしていたら、そんな気配を感じたのだ。

 

しかしそこには誰もいない。

少しだけ父親に似ている気がするクラスメイトなんていないのだ。

 

 

小首を傾げるフィーは猟兵生活を離れて鈍ったか、と自戒する。

そんな事言ったら笑い飛ばすであろう同級生は、やはりいないのだ。

 

 

 

☆★

 

 

 

違和感。

 

 

 

──“「“重心”の“重心”ですか。いや…これはもはや“重心”の重臣と言えるかもしれない…!」

 

 

なんだか今、とてもつまらないギャグを聞いた気がする。

サラ・バレスタインは教官室でそんなくだらない事を考えた。今はⅦ組の重心の話をリィンにするために待っている段階だ。

彼もどこか不安定な部分があるため、それの補佐をできるような誰かがいた気がするが──気のせいだ。そんな人物はいない。

 

サラは書類の山を片付ける作業を再開した。

 

 

 

☆★

 

 

 

違和感。

 

 

 

──“「お喋りは、これにてお仕舞い」

 

 

 

東ケルディック街道に出たラウラ・S・アルゼイドは、いないはずの同行者の雰囲気が一変した事に戦慄した───

 

否、そんな人物はいない。自分がどうして街道に出たのかも、これから驚くべき事実が起こる予感も、すべては幻想だ。

 

いるはずの同級生がいない事も、その彼がとんでもない実力を隠し持っている事も。すべては幻のはずなのだ。

 

 

 

☆★

 

 

 

違和感。

 

 

 

──“「俺はお前を友達だと思ってるよ」

 

 

マキアス・レーグニッツは夜の自室で、誰かにとてもひどい事を言った気がして振り返る。そこには誰もいない。いるはずがない。犬猿なるユーシスとマキアスの仲を取り持とうと、不器用ながらも頑張る男はいないはずだ。

 

いないのに、どうしてこうも心がざわつくのだろう。自分の考え方を改めた方が良いと思うほどに。

 

 

 

☆★

 

 

違和感。

 

 

 

──“「アリサ・RのRってラインフォルトのR?」

 

 

不意に自分の秘密を指摘されて「ふぇ!?」と声が出たのはアリサ・ラインフォルト。

旧校舎攻略中にいきなり話しかけてきたのは、いつもスケベな顔をした同級生────?

いや、そんな人物はいない。話しかけられてもいないし、そもそもⅦ組にそんなやつはいない。

 

ほんの少しの寂寥感を覚えながらアリサは旧校舎攻略に戻る。

 

 

 

☆★

 

 

 

違和感。

 

 

 

──“「大丈夫だよ。戦争は起こらない。俺たちが起こさせない」

 

 

ガイウス・ウォーゼルは誰かにそう言われた気がして、ほんの少し安堵感を抱いた。

ノルド高原での特別実習中に起こった共和国軍基地と帝国監視塔への攻撃。それにより両国が一触即発の状態へとなり、故郷であるノルドが戦場になるかもしれない、そんな一幕で。

誰かがそう言ってくれた気がした。

 

風の声にしては明瞭で、仲間の言葉にしては確信に満ちていた。

 

ガイウスは決意を深める。ここにはいない誰かが背中を守ってくれる気がしたから。

 

 

 

☆★

 

 

違和感。

 

 

──“「はっは。まあ一応人の技の範疇ですぜ」

 

 

五度目の特別実習、1日目が終わり、エマ・ミルスティンはアルゼイド子爵邸のテラスにて使い魔セリーヌと会話していた。

この場に誰かが乱入してきているはずだった。

 

 

「ねえエマ……」

 

「そうね、セリーヌ。私も感じてるわ」

 

 

そんな感覚をセリーヌも抱いているようで、エマはトールズに入学してからたびたび覚える違和感の正体を考察する。

 

 

「まるで見えない誰かが私たちを監視してるみたいね」

 

 

「まさか…姉さん?」

 

 

セリーヌは「かもしれないわね」とやんわりと肯定?

しかしエマはいるはずの誰かが、いないはずの誰かが、ここにはいない。それについての違和感を拭えないのだ。

 

 

 

☆★

 

 

 

違和感。

 

 

──“「気のせいならいいんだが……たぶん、2人のうち1人は《帝国解放戦線》の《S》だ」

 

 

ミリアム・オライオンははっとして顔を上げる。人がごった返す海都オルディスにおいてミリアムの身長は低く視界は確保できない。

 

しかしわざわざアガートラムを出してまで確認すべき感覚ではないと断じた。

 

 

「んー?」と小首を傾げるミリアムにB班の面々は特別実習の課題を片付けるべく動き出し、ミリアムもそれに追従する。

 

見逃してはならない何かを見過ごした気がしてミリアムは振り返るが、やはりそこには誰もいなかった。

 

 

 

☆★

 

 

違和感。

 

 

自分は何者なのだろう、とリヴァルはふと思った。

運命的というものを信じるとするなら、自分のそれは大きく歪められている。たったひとりの男の存在 / 不在によって。

 

 

 

──“「いや──、逆だな。偽りだから虚ろなのか」

 

 

自分の芯を言い当てた彼の。未だリヴァル・アルヴァンスになり切れていない中途半端な復讐者の自分を完成させてくれた彼の。

 

 

いつか友になるあいつを。

 

 

 

ナギト

 

 

口は勝手に彼の名を呼んでいた気がする。彼の名はわからないはずなのに。

 

 

 

「いつかきっと」

 

 

 

☆★

 

 

違和感。

 

 

──“「どうだクロウ───俺をスカウトしてみないか」

 

 

何か今とんでもない発言を受けた気がする。

 

クロウ・アームブラストは騎神の核の中で表情が固まった。

とんでもない事を言う、とんでもないやつがいた。そんな気がしてならない。

 

思い返せば、リィンたちが入学してからこんな違和感を──否。それより前にほんのわずかな違和感を覚えた事もあった。

 

そこにいるはずの誰かがいない。そんな違和感が。

学院生クロウ・アームブラストとしての自分も、《帝国解放戦線》リーダー《C》としての自分も、変わらず接するような大馬鹿が、いた気がするのだ。

 

 

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