リヴァル・アルヴァンスは半生を復讐に費やした男であった。
アルヴァンス男爵家は帝国サザーラント州南部、ハーメル村を含む一帯を統治する貴族であり、リヴァルはその家に生まれた男児である。
生家はハーメル村の後始末に巻き込まれて没落。肉親を失ったリヴァルは貴族としてのアルヴァンスの名を捨て、ただの復讐者リヴァルとなった。
復讐の過程でリヴァルが身を寄せたのは《帝国解放戦線》である。そこでリヴァルは《剣鬼》という役割を与えられた。
《剣鬼》とは数年前の共和国で行われた政治家暗殺事件の下手人とされる男であり、これにはオズボーンを牽制する意図があった。
《帝国解放戦線》が名乗りを上げたその場に本物の《剣鬼》──ウィル・カーファイがいた事は名状し難い偶然であった。奇しくも彼は記憶を失っており、今はナギトと名乗っていた。
リヴァルとナギトは《剣鬼》の本物偽物という間柄から敵対していたが、内戦勃発時にナギトが貴族連合にスカウトされた事で2人は同じ陣営に所属する仲間となった。
ナギトは貴族連合の首魁たるカイエン公爵の期待から機甲兵のプロトタイプとも言えるジークフリートを受領。一部隊を預かるポジションに着き、リヴァルはそれを補佐する役割をになった。
リヴァルにはナギトを監視する役目が与えられており、ナギトはそれを見抜きながらもリヴァルと友情を育んでいった。
やがてナギトが貴族連合から離反すると、2人が次に出会ったのはハーメル廃村での事だった。
ナギトはリヴァルの来歴を本人の口から確認すると、復讐者としての矛盾を指摘。虚ろなる復讐者は、貴き復讐者リヴァル・アルヴァンスへと変じた。刃を交えたナギトはリヴァルのすべてを受け切り、2人は友として完成した。
内戦が終結したその日、リヴァルは犠牲になった。
まだ帝都に煌魔城が現れるより前、Ⅶ組が囚われた皇族を解放するためにカレル離宮に入った。それを追撃するために現れたのがナギトと同じ機甲兵に乗るリヴァルで、それを迎撃したのはナギトだった。
2人は戦い、リヴァルは命を落とした。
それがリヴァルの狙いだったのだ。
貴族連合の英雄の一翼である己を撃破した勝者としての手柄をⅦ組、引いてはクロウに与え、内戦後のクロウの処遇を少しでも良くしようという考えだった。
かくしてリヴァル・アルヴァンスは永眠した。
───というのが、ナギトが辿った閃の軌跡の異聞史における事実。
閃の軌跡正史において、リヴァル・アルヴァンスという人物は存在しない。
あるいは存在していたかもしれないが、それはリィンらⅦ組と深く関わる事のない非ネームドキャラとしてのものだ。
正史において死ななかったリヴァルは、この時間軸においても生き延びていた。
それが、ナギトが最初の友人と再会できた奇跡である。
☆★
目を剥く。幻覚を疑った。この手で殺した友達の生還なんて奇跡を、信じていいのかと。
「生きて……?」
「おかげさまでな」
リヴァルの返答は二重の意味でひどいものだった。一度はナギトに討たれ、後にナギトが世界の時間を巻き戻したがゆえに生き延びた運命。リヴァルはそれを何となく理解していた。
しかしナギトはリヴァルの声を聞いて、友がそこにいる事に感謝した。涙が出そうになってそれを押し留める作業の間にリヴァルが生きているカラクリについて把握した。
「……はっ、いい運命が巡ったな。よしリヴァル、飲みに行くか」
「こんな昼間からか?上等だ」
そうして2人は酒場にしけ込む事にした。この奇跡に湿っぽい雰囲気は不釣り合いで、この再会でまた笑顔を交換したいから。
☆★
「そういう感じになってたのね〜」
ナギトはリヴァルから経緯を聞いていた。
この時間軸において存在しなかった《剣鬼》役としてリヴァルは抜擢されず、《帝国解放戦線》ではいちメンバーとして活動していたようだ。
その頃からリヴァルが感じていた違和感は過大なるもので、同じく違和感を覚えていたクロウから内戦が始まると同時に、その違和感の正体を突き止めろと暇を出されたらしい。
ナギトの不在、そこにいたはずの誰かがいないという違和感の影響を一番受けたのは、ある意味でリヴァルかもしれなかった。
リヴァル・アルヴァンスという人格に深く刻まれた意志は、違和感の壁をぶち破りこの世界に到達した。
「前の俺はな……満足したと思ってた……、今際の際までな」
語るリヴァルにナギトは浅く頷く。交錯する視線は静かに、真摯に先を促している。
「でも、この身に刃が食い込む瞬間に思ったんだ。この先も、友と一緒に歩んで行きたい……ってな。クロウのために命を差し出す決断をした事に後悔はなかったはずだ。俺の虚ろを言い当てた馬鹿がいて、俺の全部を受け止めた馬鹿がいて、運命に諍おうとしていた馬鹿がいて」
「馬鹿馬鹿言い過ぎじゃない?」
ナギトのツッコミは受け流された。さすがに3回も馬鹿と言われては抗議もするが、別にそれでいい。
「そんな馬鹿と一緒に、………こんなふうに、落ち着いて飲めたら最高だろうなってさ」
リヴァルはあの時、そんな事を思っていたのか。
ナギトはかつてリヴァルの命を奪った己が手を見やる。理想のために血に塗れたこの手を、ナギトは忌まわしく思った事はない。しかし、あの時こうしていたら、なんてIFを想像してしまうのが人間という生物のさがだ。
そしてナギトもまた、こうしてリヴァルと再び話せる事を望外の喜びとしていた。
「じゃあ今日は2人の夢が叶った日だな。こんなにめでたい日はないぜ。……おやっさん、もう一本追加で!」
声を張り上げて店主に酒を要求するナギトにリヴァルは苦笑する。貴族連合にいた時からボケ役の片鱗は感じていたが、こんなに下手な照れ隠しもないだろう。
やがて店主からボトルを受け取ると互いのグラスに注ぎ合い、2度目の乾杯とした。
それからも2人は言の葉を交わす。
リヴァル・アルヴァンスは復讐を棄てたと語る。
アルヴァンス男爵家の復興をしようとは思わず、気ままに生きていくと。
元から、貴族に復讐は似合わない…なんて思ってアルヴァンス姓を捨てていたような頭でっかちだ。虚ろなる復讐心は名と芯を取り戻した事で萎えかけていた。そこに、この世界ではクロウに頭を下げられて完全に復讐心は鎮火したと言う。
「なんかさ、人のためになるような事をしたいと思うんだ」
グラスを傾けてため息ひとつ、リヴァルはぽつりとこぼした。
「……やっぱ、お前の芯はそこなんだな」
“貴族の義務”とされる美徳がある。前の世界でのリヴァルの行動は、それと少し毛色は違っていても、やはり美徳に数えられるだろう。
「とは言っても遊撃士になんかなるつもりはない。命を張るのはもう懲り懲りだからな」
「はっ。良い歳の取り方しそうだな、リヴァル」
「からかうな。まあ…当面は資金稼ぎに切った張ったをしそうだが……、やばい案件の時は手伝ってもらうぞ?」
「おう、その時は連絡してくれ。……お前もけっこう強い部類にゃ入ると思うし、そこそこ頭も切れるからあんまりピンチになる場面はなさそうだけど」
「………褒め言葉、でいいんだよな?」
「まあどっちも俺の方が上という目線からではある」
バシン、と肩パンされるナギト。「かっかっか」と大笑いする。そうだ、こんな会話が楽しいのだ。
「………そういやリヴァル、お前…………レオンハルトとは血縁か?」
と、そこでナギトはとある疑問を投げかけた。《剣帝》レオンハルト。ナギトが《剣鬼》をやめるきっかけになった男だ。
「ん?……いや、そんな話は聞いた事がないな。家系図を遡ればわかるかもしれないが……」
「あー……いや、そこまではいいや」
ナギトは質問を引っ込める。気にならないと言えば嘘になるが、自分の中だけで片付ける事にしたのだ。髪の色や剣技が似ているからと言って親戚というのは突飛な発想だったかもしれない。
「で、お前は?」
唐突な質問返しにナギトは酒を飲みつつ「ん?」と聞き返す。
「この先、どうするつもりだ?」
ごくん、と嚥下した。喉が痺れる感覚がして、それが消えてからナギトは答える。
「俺は─────」
☆★
ナギト・シュバルツァーはトールズ士官学院に在籍している。これは特例である。
この時間軸においてナギトはトールズに入学していない。というか煌魔城で存在が確定するまでいなかったのだ。当然だが、トールズに入学するナギト・シュバルツァーという人物はおらず、故にナギトはトールズに在籍していないはずだった。
が、リィンやパトリックの強い要望があり、学院長であるヴァンダイクが無理をしてそれを通した。ナギトはトールズに入学していた事になったのだ。
「………これが、最後の実技テストというわけですか、サラ教官」
「そ。ある意味で最初で最後の、ね」
そしてナギトは前の世界でやった通りにリィンを除くⅦ組メンバーと同じく一年卒業組だ。詰め込み授業と、ベリルによるテスト範囲の占いというチートによりペーパーテストは突破したナギトだったが、現状では実技の単位が足りないような状況になっていた。
そこで担当教官であるサラがぶち上げたのが“最後の実技テスト”という名目の卒業試験である。
「改めて説明するわよ、ナギト。この実技テストのクリアの条件はたったひとつ………私たち3人の内の誰かを戦闘不能状態にすること。……本当は私ひとりで相手をするつもりだったんだけどね、煌魔城や旧校舎での活躍を考えると、これくらいが妥当だと思って」
てへ、と舌を出すサラに嘆息した。ナギトだけではない。サラの隣にいるヴァンダイクやベアトリスもだ。
帝国正規軍名誉元帥のヴァンダイクと、《死人返し》ベアトリス。そこに《紫電》のバレスタインを含めた3人がナギトの最後の実技テストの相手だった。
かなり鬼畜な難易度に思えるが、ナイトハルトやトマスがいないだけまだ有情か。
「望むところですよ。俺も今の身体でどこまでやれるか試したい」
「試したい、なんて余裕じゃない?」
「試すからこその試験でしょう?」
ナギトとサラの問答を聞いていたヴァンダイクが「道理じゃのう」と笑った。
「さて……では早速始めるとしよう。寄る年波が、その剣気に怖気付く前に」
ヴァンダイクは斬馬刀を取り出した。長身のヴァンダイクより更に長大な破壊兵器だ。そんなヴァンダイクの隣でベアトリスもまた得物を構えた。狙撃銃だ。
「怖気付くなんてガラじゃないでしょうに。……しかし、確かに彼の気はとんでもありませんね。……戦場を思わせます」
ヴァンダイクの冗談に応じるようにベアトリスが感想を漏らす。ナギトが身に纏う闘気は人の域を逸していて軍にも匹敵する。ナギトは未だ闘気を解放していないというのに、それを見抜くヴァンダイクやベアトリスはさすがと言える。
「騙されちゃいけませんよ、彼の真価はそんなものじゃない。………この布陣でも勝てるかどうか」
しかしナギトの戦いぶりを実際に見たサラは、その真髄を知っている。内戦を終わらせた煌魔城で再出現した《紅き終焉の魔王》を倒した時も、先日旧校舎に現れた夢幻回廊の最奥にいたロア=ルシファリアを倒した時も。恐るべきはその技の冴えだった。瀑布を思わせる闘気を用いた大技の数々も派手で威力はあったが、至高を確信する一閃の前にはすべてが霞む。
「じゃあ……はじめましょうか。あなたのための卒業試験──最後の実技テストを!」
ヴァンダイクではないが、それで怖じるわけにはいかないサラ。景気良く得物を抜き放ちナギトを見据える。ナギトも笑んで太刀を抜いた。
「ええ。《八葉を継ぐ者》ナギト・シュバルツァー………トールズ士官学院に挑ませていただきます!」
大仰なナギトの宣戦布告にヴァンダイクが戦士の笑みで応える。
「その意気や良し!……ゆくぞ、ふたりとも!」
面食らっていたサラとベアトリスも気を取り直し───最後の実技テストが始まった。
☆★
サラ、ヴァンダイク、ベアトリスの3人はもれなく戦術リンクを結んでいる。連携に穴はないと見るべきだ。
サラの忠告のおかげか3人は互いにカバーできる距離感を保っておりナギトは一息に攻める事ができない。パワーではヴァンダイクが、スピードではサラがナギトに勝る。ならば狙い目はベアトリスか、とちらりと見やるが、それは罠だ。《死人返し》とすら呼ばれる衛生兵のベアトリスは狙撃銃を構えていて近接戦は苦手に思えるが、そんな見え透いた落とし穴を見落とすサラとヴァンダイクではない。
「破空 : 円」
連携が強固で崩せないのなら、そんなものを踏み潰すくらいに雑にいくだけだ。
放たれた円形の圧力を3人は距離を取る。が、それが次の技を発動するための溜め動作であった事に気づいた時にはもう遅かった。
「空の型」
“狂嵐怒涛・雷影後哭”──ナギトが編み出した対人絶技。その一の段である嵐が顕現して3人の足を止める。
嵐の中心でナギトは分け身をつくりだすと、それにふたつめの絶技の準備をさせた。
霊脈から力を吸い上げる妙技は人の身には余るもの。絶大な力を引き出せばそれだけ身体に負担がかかる──が、ナギトはそれを分け身にやらせる事でデメリットを踏み倒していた。
嵐の外ではベアトリスから強化アーツを受けたサラとヴァンダイクが迫っている。サラの《紫電》と呼ばれる戦い方は雷嵐を解く可能性があり、ヴァンダイクの膂力はあの《闘神》に勝るとも劣らず、嵐を両断する危険性がある。一瞬の迷いが即座に敗北に直結する。
「迷いはない」
ナギトは己に才能があると思っていた。騎神にも並ぶ膨大な闘気の総量と出力。あらゆるものを斬る境地に辿り着いた剣の才能。だがそこに戦闘センスは含まれていない。
ナギトの長所は引き出しの多さであり、短所もまたそれである。選択肢が多過ぎる事は迷いを生む。戦闘における最適解を即座に導き出せない選択肢の多さこそがナギトの短所である。
しかし、今のナギトに逡巡はない。
なぜならナギトはこの3人を相手にしても圧勝できるほどの強さを身につけなければならないからだ。
「零の型、龍脈凱旋・王剣真授──!」
ナギトの分け身が嵐の中から光を放つ。溜めも短く、本来の威力の2割にも満たないが、戦艦を墜とすそれの2割であれば人を戦闘不能にするには充分過ぎる。
薙ぎ払うように振るわれた光の柱。
ナギトはこれで勝利を確信しているわけではない。だからこそ試験運用も兼ねて分け身に技を撃たせたのだ。
「──我が足元に裏返れ。周天・緋浴連理の陣」
嵐の中での完全詠唱。光の柱が嵐の壁を破ると同時に緋色の結界がナギトを包み込む。
「ノーザンライトニング!」
サラの急襲。“龍脈凱旋・王剣真授”を跳躍して回避していた彼女はそのままSクラフトを発動させた。
紫電の稲妻が迸る。
「超過式──八卦覇掌」
太刀から解放された闘気が8つの掌となって、その内の半分がサラの大技を打ち消した。
「むうんんんん!」
その矢先に脇からヴァンダイクが斬馬刀を振り下ろしてきた。
“周天・緋浴連理の陣”の結界内に侵入した刃は、陣に組まれたプログラム──対象に斬撃を浴びせ続ける、というそれに威力を減衰させられるが、ヴァンダイクは構わず斬馬刀を振り抜く───事もできず。
シンプルな攻撃はそれゆえに威力が高く、それゆえに流し易い。斬馬頭を螺旋の技術で受け流したナギトはそのまま“破甲拳”でヴァンダイクの腹筋を打ち抜いた。
喀血しつつたたらを踏んだヴァンダイクを庇うようにサラが前に立ち、ベアトリスは回復アーツを施す。
「……まったく。先程の光の柱といい、老体には堪えるのう」
「アレを耐えてて言いますか学院長。普通の人なら蒸発してますよ」
光の柱──“龍脈凱旋・王剣真授”をヴァンダイクは防いでいた。ダメージは大きかったもののベアトリスによるバフと回復によってアクションに支障はない。それに耐えうる頑健なる肉体はナギトにとって恐ろしく、また羨ましくもある。
一段落──否。これで一攻防がようやく終わったのだ。
どうやら一息に踏み潰せるほど安い相手ではなかったらしい。もちろんそんな事は最初から承知の上で、しかしナギトには圧勝しなければならない決意があった。
「神威残月」
先日、旧校舎に出現した夢幻回廊。時を同じくしてナギトはトマスの《匣》に招待された。守護騎士第二位《匣使い》ライサンダー。七曜教会からの使者だ。
「鬼炎斬」
その彼にナギトは、オズボーンがすでに脅威ではなくなった事を告げた。
「雷神烈破」
そしてナギトは教会と協力体制を結ぶ事になったのだ。
「摩天紅葉・一振重」
《鉄血宰相》ギリアス・オズボーンという脅威が去ったところでゼムリアには未だ厄ネタだらけ。
「──生死流転・剣全一如」
ゆえに、来るべき脅威に備える意味でもナギトは強さを堅持しなければならない。
「これで、文句はないですね?」
未来のために。
サラはナギトの一撃に吹き飛び、ヴァンダイクは大の字に倒れ、ベアトリスに鋒を突きつける。
「ええ。負けを認めましょう」
ベアトリスの敗北宣言に復帰してきたサラが目を剥き、ヴァンダイクが大笑いする。ナギトはこの3人を相手に圧勝していた。
「ああもう!ほんとに勝っちゃうなんて…とんでもないわね、あんた」
「大技連発してなんとか、ですよ。めっちゃひやひやしました」
サラの迅速にもヴァンダイクの剛力にもだ。特にベアトリスのサポートなんか、決まったと思った場面でもすぐに2人を復帰させていた。危うい場面はいくつもあった。ナギトはそれを紙一重で躱し、叩き伏せたのだ。
「……あんたって子は、まったく……。いいでしょう、ではここに宣言します。ナギト・シュバルツァーの最後の実技テストは合格!……やったわね、これでみんなと一緒に卒業できるわよ」
「一安心ですよ。……まあ、リィンやパトリックと一緒にもう一年過ごすのも悪くはなさそうですがね」
「あら、なら留年する?」
「勘弁してくださいよ。やり直さないいけないこと、やり残したこと……かなりあるんで」
ナギトの発言にサラたちは「?」である。ナギトにとって、言わば2回目であるこの時空では未だユンとの再会も果たしていないし、カルバードの先輩遊撃士アルジュナに詫びも入れていない。
「そう。………でもそれだけじゃなさそうね。私もあなたたちの卒業を見届けたら遊撃士に復帰するし…何かと力になれると思うわ。……ナギト、あなたが抱えているものを話してみる気はない?」
サラはさすがの慧眼だ。ナギトとトマス──七曜教会との間に結ばれた密約、来るべき脅威に備える決意をしたナギトに何かを感じ取っている。
サラの提案は渡りに船と言えた。この場には正規軍名誉元帥であるヴァンダイクもいる。事情を共有しておけば後に有利に働くだろう。
「俺は何も知りませんよ、サラ教官。申し出はありがたいですがね」
「………本当に?」
「本当に。マジで」
ナギトは「ふっ」とはにかんで言った。
「未来は無限の可能性が広がってますから」