「これよりトールズ士官学院総力をもってナギト・シュバルツァーに挑ませてもらう!」
卒業式も終わり、いざトリスタを出立する日になってナギトはとんだサプライズを受けていた。
場所は街道で、目の前にはパトリックを含めた学院生(卒業生含む)が大勢いる。
しかも全員がそれぞれの得物を構えていてやる気満々だ。そしてなぜかリィンやラウラたちも一緒に戦意を滾らせている。ナギトとは対面して。
どうしてこうなったかというと。
トールズ士官学院を卒業し、第3学生寮を出た朝。担任教官だったサラに不意打ちの礼をかまして泣かせたあと、列車に乗ろうと駅に入る直前にパトリックが現れた。
「ナギト・シュバルツァー……このまま行かせはしないぞ」
「え、俺もう列車に乗らなきゃなんだけど」
リィンとクロウに両腕を掴まれた。「まあまあ」と笑顔で聞く耳無しのままナギトは連行される。
「え、え、え。なにこれこわい。どうなってんの、まあまあじゃなくて!みんな!ラウラ!」
ナギトが助けを求めたみんなもラウラも「まあまあ」の構えであった。
そして連れて来られたのが人けのない街道。しかも戦闘に充分な広さがあって周りの魔獣も排除済みのそこであった。
「はあはあはあ、なるほどなるほど。意図はわかったが?わざわざサプライズでやることかこれ?つーか全員グルだなクソったれ」
ナギトが“最後の実技テスト”と称して挑んだ卒業試験については全校生徒が知るところだ。あの大暴れで見せた圧巻と、その後ひとりで寂しくグラウンドを整地する惨めさを。
ここで大事なのはサラやヴァンダイク、ベアトリスといった強者を打ち破った事実であり、武を尊ぶエレボニアの士官学院生としては、そんなトールズ最強になったナギトを相手に血が滾るといったところだろう。
「すでに察しているだろうがナギト。ここに集ったのは皆、君に挑みたいと思っている者たちだ。トールズ最強……その称号を己がものにしようと剣を抜いた猛者たちだ。……だが、順番待ちしていては日が暮れるだろう?」
「パトリック……言いてえ事はわかるがな………」
つまるところ、ナギトvsトールズの猛者という構図でバトろうぜ!という事だ。
「あら、まさか逃げるのかしら」
まさしく逃げるつもりだったナギトの心境を言及したのはフリーデルだった。フェンシング部最強の名を欲しいままにしていた女傑。
「おいおい、俺たちの挑戦を受けてくれねぇのかよ!?」
ついでに同じくフェンシング部で鎬を削っていたロギンスまでもが挑発の構えだ。その背後では見覚えのあるフェンシング部の連中がうんうんと首を縦に振っていて。
「はあ………ったく。記念受験みてーなノリで集まりやがって」
買っていた列車の切符を破り捨てる。
「いいじゃねぇか!やってやるぜ!」
このイベントの真の意義はナギトとの思い出づくりだ。トールズ最強が云々とおべんちゃらを並べ立ててはいるが、パトリックたちの意図は明白だった。
内戦終結間際に現界したナギト・シュバルツァーという人間との思い出は、その瞬間にナギトと関わった者たちに甦った。だがそれでなかった事実があった事実にすり替わるのかと言えばそうではない。
この世界でなかった事はなかった事のままだし、思い出は妄想のままだ。
ナギトがトールズに復帰してから3ヶ月が経ったが、Ⅶ組の詰め込み授業のせいであまり絡めなかったのもある。パトリックら学院生はここでナギトとの思い出をつくっておきたいのだ。
そして、その熱は、想いはナギトにも伝播する。
ナギトにとってもなかった事になった世界の思い出は記憶にあるだけのなかった事だ。トールズ士官学院での思い出を、トールズ士官学院との思い出をここで新たに刻みたい。
そんな想いの前では切符の代金など端金だ。
「これよりトールズ士官学院総力をもってナギト・シュバルツァーに挑ませてもらう!」
ナギトの戦意の滾りを見てとったパトリックたちは抜剣する。それぞれの得物を用いてナギトを撃破するつもりだ。
「来いっ、トールズ士官学院!」
☆★
パトリック・T・ハイアームズはハイアームズ侯爵家に生まれた三男坊であった。
小さい頃から父兄に学ぶ貴族の義務と、周りの態度は違っていた。対等な友人なんて稀で、だいたいの人間はパトリックに傅いた。それはパトリックが何かを成し遂げたわけではなく、侯爵家に頭を垂れているのだとパトリックは気づいていた。
何も成し遂げていない自分が、それでも敬われる事実こそが貴族の特権なのだとパトリックは思い至る。
そんな思い上がりを、思い違いをぶち壊したのがナギト・シュバルツァー──引いてはⅦ組だ。
出会い方は、ある意味良かったのだろう。パトリックが申し出た決闘を部内の試合に格下げし、それでパトリックを瞬殺したナギトのやり方は伸び切ったパトリックの鼻っ柱を折るには充分だった。
それから幾度も試合を重ねて、ふたりは友人になっていた。軽薄でハッタリをかまし、そのくせ深遠を見通すような眼をした友人に勝つ事がいつしかパトリックの目標になっていた。
届かない、と。そう思ったのは先日だ。自分やリィンらで行ったトールズ最強を決める戦いがおままごとだったと思えるほどに、それは苛烈だった。学院長ヴァンダイクを含めた3人を蹂躙したナギトの実力は、極まった才能を惜しみなく開花させた者だけが辿り着ける境地だと思った。
だから人を集めたのだ。シンプルに多数で押し切るのがパトリックの作戦だ。極まった技量も地形を変える暴威も、物量の前に封殺する。
そのつもりで、それは途中まで通用していた。
「──超過式」
多人数で囲み、攻撃を絶やさず。ナギトは大技を放つ隙を見つけられず、技術で返そうにも多人数に詰められてはそれも十全には発揮できない。パトリックの作戦は半ば成功していた。
だが、つぶやいたナギトの太刀に封じられていた闘気が溢れ出す。それは溜めの必要のない絶技だ。
八卦、四象、両儀、太極。大仰な名前の付けられた技はオーバーキルに過ぎる。ナギトは太刀から放出した闘気で100人の分け身をつくりだした。
「──百鬼疾風」
ただ一度“疾風”を発動し、消えるだけの分け身。鍛えられた士官学院生を撃破するには至らない百体の分身。だがそれでも一瞬の隙をつくりだすには充分過ぎた。
そこから先は十把一絡げの蹂躙劇だった。これだけの人数を相手に、しかも殺さないという条件ではナギトも余裕がなく、ヴァンダイクら3人にやったように大技を連発する。
精強なトールズの生徒たちが、内戦を潜り抜けたⅦ組までもがなす術なく倒れていく。パトリックもそんな内のひとりだった。
トールズのほぼ全校生徒を相手にしてナギトは勝利を掴みかけていた。
残る生徒は十数名で、150人以上集まった有志たちは死屍累々とばかりに気絶させられては山のように積み重ねられていく。
その山からパトリックは這いずり出た。やられたふりをしていたのだ。今のナギトにとってパトリックは終わった人間。意識から外れているだろう。そこを突いてパトリックは勝利を手にするつもりだった。プライドなんか犬に食わせてしまえ。
どんなやり方でもいい。ナギトに勝って言ってやるのだ。“どうだ、僕は──トールズはすごいだろう”と。あの男に認めさせてやりたいのだ。
「ここ────!」
無防備なナギトの背中に切りかかる。
「───だよなパトリック」
だがそれはあまりにもあっさりと受け止められた。不敵な笑みを浮かべる彼はいつもの様子そのままで。パトリックのセリフを引き継ぐ余裕すら見せていて。まだ、また届かないと思わせてくる。
受け太刀のままパトリックを弾き返したナギトは返す刀で意識を奪う。
「──俺がお前を忘れるわけないだろ」
そんな、嬉しい勝利宣言を叩きつけてくれた。
☆★
「やあ、久しぶりだねナギトくん。こうして会える日を楽しみにしていたよ」
「お久しぶりですオリヴァルト殿下。まさかこんな仕込みをしてるなんて思いませんでしたよ」
ナギトはカレイジャスに乗艦していた。
パトリックらトールズ士官学院生らとの闘いの後、学院のグラウンドに行けと言われて来てみたら、その数分後にはなんとオリヴァルトを乗せたカレイジャスが着陸していた。
どうやらパトリックやリィンが根回ししていたらしい。それをオリヴァルトが飲んだのは言葉通りに再臨したナギトに会う事が目的だった。
「行き先はレグラムでいいのかな?他のメンバーとの兼ね合い上、まあまあ後回しになってしまうが」
カレイジャスには他のⅦ組卒業メンバーも乗っている。彼らもナギト同様にそれぞれの目的地に送り届けてもらう手筈になっていた。
「構いませんよ。その方が話す時間も取れるでしょう?」
「その通りだね。………記憶を取り戻したと聞いたが、君は何も変わっていないようだ。これなら安心というものかな?」
オリヴァルトはナギトが記憶にあるままの振る舞いである事に安堵していた。宿敵であるオズボーンが変心し、なにやら煌魔城でそのオズボーンとだけ話が通じていたらしいナギトにも心変わりが起きたかも、と危惧していたが杞憂だったようだ。
「俺は俺ですよ、殿下。……あの入試の面接の時から変わりません」
「フフ……先に答えを言われてしまったね。しかし本当かな?リィンくんたちが君に何か良い影響を与えたりはしなかったかい?」
──“「もし君がトールズに入学したとして、卒業する頃には色々な力を持つ事になるだろう。個人の武、軍事に関する知識、トールズ卒業生のコネクション……そういった力を、君はどう使う?」”
──“「自分の大切な人たちを守るために」”
トールズ士官学院の入試、それにまつわる一環として行われた面接。当時のナギトは《剣鬼》としての記憶を失っていたが、トールズ側はナギトの芯を探るべく理事長たるオリヴァルト自ら面接官に加わった。その一幕でのやり取りを思い出した。
あの頃からいろんなものが変わってしまった。しかし変わらないものもある。ナギトは「かっ」と笑った。
「良い意味での変化はありましたよ。……俺はたぶん、こいつらのせいで甘っちょろくなっちまった」
ナギトは甘くなったと己を評した。今や《剣鬼》の無慈悲な刃は喪失し、極点に至ったがゆえに強さへの渇望も失った。
だが、それでいいのだ。ナギトが“ナギト”として幸せに生きるために、そんなものは邪魔なだけ。いち個人の幸福を満たすには過ぎたるものだ。
ナギトはリィンたちと出会って変わった。はじまりの敗北と記憶喪失を経て、Ⅶ組と出会った。
日々の中で彼らと触れ合うにつれて本当の強さとはなにかを心から理解できた。
彼らの行動は主人公然としていて格好良くて正しい。それははじめ、ナギトの正しさと乖離していた。無理もない話だ、ナギトは“クロウの生還”という使命を帯びてこの世界に生まれ落ちた“特異点”。それ以外の優先度は落ちるし、本能的にシナリオを覚えていたのだからやるべき事、やらざるべき事がわかる。
だがリィンは、Ⅶ組はたとえ間違っていたとしてもそれを押し通す正義があった。
そんな彼らと共に過ごした日々によってナギトはそれに染まった。
それは猛毒だった。正しい判断を鈍らせる、甘い毒。そのせいでナギトは世界をリセットするはめになったというのに、改める気すら起きないそれは────。
「──きっとそれを、人々は正義と呼ぶのだろうね」
オリヴァルトは、易々と言ってのけた。
ナギトの内心を見通したかのような慧眼はさすがである。
「かっ」とナギトは大仰に笑う。浮かんだ涙を隠すために。自認だけではない。誰から見てもナギトはトールズⅦ組の一員だと言われた気がした。
その後、ナギトはオリヴァルトと情報共有をした。
☆★
カレイジャスはまず帝都に向かった。エリオットとマキアスの実家があり、加えてエマもここで降りる事になっていた。
カレイジャスから降りる3人をⅦ組総出で見送る。
「じゃあね、みんな。……トールズを卒業しちゃって離れ離れにはなるけど、手紙なんかは出せると思うから」
「ああ。例え離れていても僕たちは友達だ」
エリオットとマキアスの別れの言葉を受け取る。「フッ」とユーシスが鼻を鳴らした。
「あのマキアス・レーグニッツが、僕たちは友達だ。とはな……。入学当初の貴様からは考えられんセリフだ」
「ええいユーシス、君もそうだろう!?」
そんなやり取りは皆の笑いを誘う。
「あはは……相変わらず、ですね。でもⅦ組はこうでなくちゃ。……皆さん、お世話になりました。またどこかで会いましょう」
エマがいい感じに締める。カレイジャスが飛び立つ時間が迫っているブザーが鳴った。
「ナギト、君の傲慢癖はついぞ治らなかったと見える。………君は良く人を頼れと言っているな。こちらのセリフだ、と返しておこう。次に会う時までに治しておけよ」
「そうそう、ナギトってば平気な顔して無茶やらかすんだから。自分の言う通りにもっと周りを頼っていいんじゃない?」
「そうですね。…リィンさんもですが、ひとりで抱えようとする悪癖……それは時に仲間を傷つけます。私たちを友達と思うなら治してくださいね」
扉が閉まる間際に3人からの総攻撃を喰らうナギト。面食らったナギトに皆は呆れた表情だ。
「かっ、こりゃ敵わねーな。……だがそこまで言うなら覚悟しろよ。そのうちとんでもねー無茶振りしてやる」
冗談めかして笑みを交換し───3人と別れた。
艦内の遊戯室にてナギトはクロウとブレードに興じていた。次の行き先はジュライ特区。クロウの故郷である。その別れまでの間に2人はカードゲームをしているのだ。同室だった事もあり積もる話もあるだろうということで、他のメンツはこの場にはいない。
「そういやクロウ、お前これからどうすんの?」
カードを場に出しつつ尋ねた。
「んー」とクロウは出すカードに決めかねているのか、問いかけへの答えに窮しているのかわからない。
「ま、適当にやるさ。地元に残してきた後輩も気になるしな」
カードを出しながらクロウは答えた。
今度はこちらの手番だ。出すカードを決めつつ話を進める。
「地元にも後輩いるんだな。当然か。……そいつにも50ミラ借りてたり?」
「ばっか、ありえねーよ。一応地元じゃ市長の孫だぜ?」
「ほーん。しかし学院の後輩には借りると」
「ったく。リィンの野郎もいつまで利子を毟り取る気だっての」
「この前聞いたらもうちょい毟るって」
「マジかよ………、っとここでフォースだ!どうだ?」
すでに互いの手札は少なくなっている。クロウはフォースのカードで自身のカードの数値を倍にした。これが切り札なのだろう。
「ほいミラー。また俺の勝ちかな?」
「クッソォ!マジかよ、もうミラー2枚は切ってたろ。なんつー引きだよ!」
クロウの様にナギトは「かっかっかー」と大爆笑。どうやらまたナギトのブレードの連勝記録が伸びてしまったようだ。
そんな感じで他愛のないやり取りをして、いざ別れの時。それぞれが思い思いにクロウに言葉をかけていく。かつて先輩だった男、情けない理由でクラスメイトになった男、袂を分かったと思われた友に。
その最後にナギトの番だ。もうカレイジャスの扉は半ばまで閉まりつつあって、一言だけ投げかけるチャンスが与えられた。こんなセリフ、さっきの遊戯室で送っていれば良かったのに、どうしてか気恥ずかしさがあった。
「生きろよクロウ……お前は生きろ!それが俺の願いだ!!」
扉が閉まり切る直前、突き上げられたクロウの拳だけが見えた。
☆★
「で、なぜお前まで降りようとするミリアム」
続いてカレイジャスが立ち寄ったのはバリアハートだ。ジュライからとって返して東部までやってきていた。
そしてこの翡翠の都で艦を降りるのはユーシスとミリアムだ。
ユーシスはいわずもがなここが実家だからだがミリアムは──
「え、だってユーシスの家に遊びに行くからだよ?」
「遊びに行くからだよ、ではないわこの阿呆!」
いざ艦を降りる段になったユーシスとミリアムがきゃんきゃん騒ぎ出している。
「夫婦漫才やってる?」
「誰が夫婦だ!」
ナギトのボケにユーシスがツッコミを入れる。最近はユーシスにイジられてばっかりだったナギトのささやかな反抗だ。
「えー、ダメ?」
「…………〜っ、もてなしは期待するな」
ミリアムの純真な瞳に貫かれてユーシスは折れた。そんな様子を見て艦に残っているメンバーはそれぞれ笑った。
ユーシスにはこれから苦難が待ち受けているだろう。なにせ内戦によってアルバレア公爵だったヘルムートは逮捕され、兄であり次期当主だったルーファスはオズボーンの補佐とかで帝都にいる。これからユーシスにはアルバレアの暫定当主としての公務が山積みなのだ。
「まあ……なんだ。何かあったら呼べよユーシス。それなりには力になれると思うぜ」
「フン……、これからアルバレア領を治めようという男が外部に頼っていては示しがつかんだろうが」
「別にいいんじゃねーの?繋がりは大事だってさ、領主自ら領民に示してやれよ」
ナギトの尤もらしい意見にユーシスは鼻白らむ思いをした。どうやら自分が気負っていた事に気づかされる。
「………それもそうだな。しかし忘れるなよナギト……お前の傲慢はいつか人を傷つけるかもしれん」
「マキアスと言ってる事おんなじじゃね?」
先に帝都でカレイジャスから降りたマキアスと似た内容の言葉にナギトは反応する。そんな喧嘩友達との比較にユーシスは青筋を立てた。
「誰がレーグニッツと」
「あ、もう閉まるぞ。じゃあなユーシス、ミリアム」
「じゃーねー、みんな!」
「待て、まだ話は───!」
艦の扉が閉まる。
そんないつものようなやり取りであっけなく2人との別れは済んでしまったのだった。
お次はルーレだ。アリサの故郷。当然だが艦内で言葉は交わしており、あとは別れの挨拶だけとなっている。
「じゃあなアリサ。がんばれよ」
「なによ、普通ね」
重ねて言うが、すでに艦内で言葉は交わしている。残すは最後の挨拶だけというのに、アリサはそこにも何かしらを求めているようだ。
「は。……まあ、お前といると楽しかったよ。振り返ったら色んな思い出がある。リィンとアリサのえっちハプニングからはじまり──」
「掘り返さなくていいから!」
入学初日のオリエンテーリングで起こったリィンとアリサのファーストコンタクトを思い出す。あんなハプニングが今起これば揶揄いの嵐だが、当時はくすりともしない尖った連中が集まっていた。
「あとは……俺とリィンを比較してリィンの方が顔がいいとか言ったり」
「また懐かしい事を………、というかそれ言ったの私じゃなくてアナタでしょう!」
当時はナギトもクラスの雰囲気を良くしようと孤軍奮闘したものだ。その結果、なんかリィンがいいところを持って行ったが。
「ははは。ナイスツッコミ。これでいいんだよこれで」
「………はあ、まったく」
アリサは嘆息する。卒業して次に会うのがいつになるのかわからないと言うのに、ナギトがいるせいでいつもと同じノリでバイバイしそうだ。
「グッバイ、マイフレンド。また会おう」
「ええ、そうね……また会いましょうナギト。ラウラにフィー、ガイウス。それにもちろんサラ教官も!」
それぞれが返事をすると同時に艦の扉が閉まる。アリサとの別れが終わった。
次にカレイジャスを降りるのはガイウスだ。ルーレからはレグラムの方が近かったが、航路的にはこの周り方の方がいいとの事で先にノルドに向かう事になった。
ガイウスがカレイジャスから降りる。振り返ってこちらを見るガイウスの姿はこれまで降りたメンバーの誰よりも大人びて見えた。
「それではな、みんな。また会おう」
「またなガイウス。……お前ならきっと、何があっても大丈夫だ」
ナギトはⅦ組メンバーにおいて最も《理》に近いのはガイウスだと思っている(自身除く)。技術面ではなく精神性という意味で。
そのガイウスならどこにいっても通用する確信があったからこその発言だった。
「……そうか。ナギトにそう言ってもらえると嬉しいな。………俺も励むとしよう。ナギト……その行く道にいい風が吹く事を祈る」
「ありがとうガイウス。……忘れんなよ、Ⅶ組はいつでもお前の味方だ。何かあったら遠慮なく頼れ」
「ああ、もちろんだ。代わりと言ってはなんだが、俺の力が必要になったらいつでも呼んでくれ!」
ガイウスは艦に残るメンバーとも挨拶を交わす。こうして穏やかに別れは終わるのだった。
☆★
「ではねⅦ組の諸君、また会おうじゃないか!」
「ははははは!」と高笑いしながらオリヴァルトは艦からレグラムで降りたナギトらを見送った。
湖畔の町レグラム。ラウラの故郷である。
ここでカレイジャスを降りたのはナギトとラウラ、サラとフィーの4人。ラウラは実家があるからだが、サラとフィーは遊撃士協会支部が帝国で稼働しているのはここだけのためレグラムで降りたわけである。サラは遊撃士に復帰しフィーは遊撃士志望としてこのレグラム支部で働くらしい。
そしてナギトはラウラとの婚約をアルゼイド子爵──ラウラの実親ヴィクターに報告するためにこのレグラムに来ていた。
「ビビってるね、ナギト」
「あからさまにビビってるわね」
フィーとサラが武者震いしていたナギトを見て言った。
「び、ビビってねえやい!こんなの朝飯前なんだからねっ!」
「ほう、私との婚約が朝飯前だと?」
「地雷原かここ?発言裏目り過ぎかよ」
強がりの発言がラウラの琴線に触れたようで縮こまるナギト。ラウラは「冗談だ」と笑う。こんな冗談を言うようになったのはナギトの悪影響だろうか。
「それじゃ、私たちはこっちだから」
「ん、またねラウラ、ナギト」
と、遊撃士協会支部の前でサラとフィーの離脱が表明される。
「おう、またなフィー、サラ教官も。明日の朝くらいには顔出すつもり」
「そっか。ラウラは?」
「私も挨拶くらいは行くつもりだ」
「そう。たしか子爵閣下と修行する予定があるのよね?」
「そうですねサラ教官。卒業してから半年を目安に、という話だったので……父上の性格なら明日からでも始めるかと」
「《光の剣匠》の修行……大変そうだね」
「がんばってねラウラ。あなたならきっとやれるわ」
「ありがとうございますサラ教官。ではまた明日に」
明日朝の再会を約束して2人と別れる。ナギトは恐々とする度合いを高めながらアルゼイド子爵邸への道を登っていった。
「本日も良き日和で御座いますな。この度はご卒業、誠におめでとうございます」
そんなナギトとラウラを邸宅前で待っていたのは執事のクラウスだった。懐かしく思える言葉に再度感謝を伝える。
「うん、ありがとう。ところで父上はどこに?」
そこからはほとんど前回と同じ流れだった。
ヴィクターと剣比べをしてラウラに怒られて、その婚約が認められる。夜にはヴィクターに「ラウラを頼む」と言われて、その決意を深める。
翌朝。
ヴィクターとの修行に出るラウラを見送りにナギトとサラ、フィーが集った。
「……がんばれよラウラ。いつかお前の剣が俺の隣に能うと自覚を得るまで……励め」
「うん、がんばるよ。フィーもサラ教官も、見送りありがとう」
「ん、友達の旅立ちを見送るのは当然」
「いいのよ、教え子なんだし。……子爵閣下、どうぞよろしくお願いしますね」
「うむ、任されよう。……良き友に巡り会えたようだな、ラウラ」
「ええ、誇らしい私の友人たちです」
そんなやり取りがあって、そこから再会を約束して別れる。
ナギトはサラとフィーに連行される形でレグラム支部に入ると今後の展望を問われる。
「遊撃士には復帰しますよ。……でもその前に俺個人のけじめをつけなきゃいけない」
前の世界ではすでに果たした事でも、今の世界ではまだ起きていない事だ。ナギトの心はすっきりしていても相手方には関係ない。
ナギトが遊撃士に戻るのは、そういったアレコレを解決してからだ。
ひとまずレグラム支部の面々にはそれで納得してもらい、ナギトはユミルに向けて旅立つ事にした。
駅の改札を通り過ぎる。振り返って見送り2人にお別れの挨拶だ。
「サラ教官。改めてこの一年お世話になりました。……全部が全部あなたのおかげってわけじゃないですが……おかげで楽しかったですよ」
「……ふん、まったく。あなたはずっとふざけたガキのままだったわね。マキアスやユーシスから言われて耳タコでしょうけど、今後はもっと仲間を頼りなさい。いいわね?」
「了解です。……フィーも、ありがとな。遊撃士を目指すにあたり大変だろうが……がんばれよ、………お前の、フィー・クラウゼルの流儀を貫くために」
「ん、わかった。ナギトと一緒に働くの、楽しみにしてる」
そろそろ列車に乗る時刻だ。ナギトは腕時計を確認すると踵を返した。
「それじゃあまた、いつか」
未来での再会を約して、その足取りは次の目的地へと向かう。
ナギト・ウィル・カーファイの軌跡は始まったばかりだ。